2022追記:最初にフタコブにあげたオリジナル作品かな?まだミステリが書けると思ってた頃の話。
「ゆーうきくん、帰りましょ」
スポーツバッグを抱えて校門を出たところで、もはやお馴染みになった可愛い声がした。
ため息とともに俺の下校は始まる。部活がある日もない日も、学校を出るといつもこの声とともに、彼女が待っている。
「俺、今日部活遅くなるって言いましたっけ?」
蒸し暑い真夏にも関わらず汗ひとつかいていない彼女を見て、俺は言う。
「ううん、でも何となくそんな気がして喫茶店で待ってた」
彼女はニコッと笑うと、おもむろに俺の右手に指を絡めてくる。
外から見ればバカップル、にでも見えるのだろうか。もちろん、だとしたら俺はこんなに浮かない顔はしていない。
彼女の何となくそんな気がして、というのは、つまり綿密なリサーチと分析によって、という意味だ。彼女がコーチやキャプテンに熱心に何かを質問しているのを俺は幾度となく目撃している。
彼女は俺と同じ高校の二年生、大空遥。人呼んで、メンヘラ先輩だ。
「結城くんはさ、私のことすき?」
繋いだ手をぶんぶん振りながら、先輩は本日三回目の台詞を発する。
いい加減にうんざりしてくるが、一度でも適当に答えると機嫌が悪くなるから困りものだ。彼女の機嫌が悪くなると、道端だろうが公園だろうが熱いキスを交わすまでその場に座り込んで動かない。その間、世界は生き地獄だ。
羨ましい、と友人からはよく言われる。俺はその言葉が世界で一番嫌いだ。
確かに彼女はルックスとプロポーションは抜群だが、面倒臭さはそれ以上に抜群だ。しかも最初に甘い言葉でメロメロにして、逃げられなくしてから本性をあらわにするから質が悪い。
「もちろん、大好きだよ」
「ほんと?私も結城くんのこと、だーいすき」
この関係を断ち切る努力はしている。一度だけだが、別れを切り出したこともある。だが、赤ん坊のように泣きじゃくる先輩を見ると急激に別れたい気持ちは冷め、結局俺が謝るはめになった。
今日もまるきり逆方向にも関わらず、先輩は俺の家の前までついてくる。
「じゃあ、また明日ねー!」
「......明日は土曜日ですけど」
「ん?それがどうかしたの?」
きょとんとした顔の先輩。再びため息が漏れる俺。
何でもない、と濁して、満面の笑みで手を振る先輩を尻目にドアを閉めた。
そういえば、と部屋に入ったところで気づく。今日はあの髪留め着けてなかったな。
去年のクリスマスプレゼントに俺が贈った、ピンクの花の髪留め。あれ以来、毎日たまに触っては笑みを浮かべていたというのに。
いい兆候かも、と思った。彼女の中の俺の存在が、少しずつ小さくなっているのかもしれない。
僕は知らない。それが、悪夢のような明日の予兆であることを――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
チャイコフスキー《クルミ割り人形》で目が覚めた。顧問からの電話だ。
一瞬、遅刻かと思って飛び起きるが、今日は土曜で部活も休みなことを思い出し、俺は不機嫌になる。時計を見ると、まだ朝の8時だ。
「もしもし、今日は部活ないですよね?」
「あっ、結城か?よかった、繋がった......とにかく、早く学校に来い。事情は後で話す」
まくし立てる顧問の声からただならぬ気配を感じとり、俺は眉をひそめる。
「何があったって言うんです?」
「とにかく来い!......宇崎が落ちたんだよ!」
宇崎神音は、俺が所属する野球部の女子マネージャーだ。
元気で快活、誰にでも優しくがモットーで、先輩に対してもにこやかに対応してくれる数少ない人間。
そんな彼女が、昨日の夜に校舎から転落したというのだ。
急いで着替えて高校に着いた俺を迎えたのは、複雑な顔をした顧問と二人の刑事だった。
「結城夏樹くんだね」
彼らが見せる警察手帳に動揺しながら、俺は頷く。
「......実は、現場からこんなものが見つかって」
厳しい表情のまま顧問が見せたのは、先輩のピンクの髪留めだった。
「これ......」
「大空遥さん、よく知ってるよね。彼女に話が聞きたくてね、家にも向かったんだが行方がわからないんだよ。君のところにはどうだい?」
用件はどうやらそういうことらしい。俺はとにかく携帯を覗く。
【おはよう、結城くん。
今日はどこに遊びに行こう?早めに返事してね
遥】
いつものおはようメールが二十分前に届いていて、俺は拍子抜けする。刑事たちもそれは同じなようで、苦笑しながら俺に電話を掛けるよう促す。
一度目のコール音が鳴り終わる前に、電話は繋がった。
「もしもし、先輩?今どこですか」
「......結城くーん、メールの返事遅すぎ。私、心配して結城くんの家まで行っちゃったよ?」
「遅いって、たった二十分でしょう?......そんなことより、すぐに学校に来て!」
俺は状況を説明する。
先輩は携帯の向こうで何かを考えているようで、暫く無言が続く。
「......ねぇ、これってスピーカー?」
「違うけど、それがどうしたの?」
「じゃあ、私は結城くんを探しに結城くんのおばあちゃん家まで行っちゃったって言って。私ならやりかねないってみんな思うでしょ」
「何でそんなこと......?」
「とにかく言って。お願い、結城くん」
先輩に頼まれ、俺はひとまず電話を切る。
刑事に嘘をつくことに躊躇しながらも、俺は先輩に言われた通り話した。俺の祖母の家は、ここから電車で二時間かかる。しかも電車は一時間に一本だから、4~5時間は帰ってこられない。
刑事たちは口をあんぐりと開ける。が、顧問から事前に先輩の人となりは聞かされていたのだろう、深くは聞かずに去っていった。
「......結城、ちょっと来い」
顧問が俺に手招きする。嘘がバレたのかと一瞬ビクッとしたが、どうやら違うらしい。深刻そうな顔には違いないが、その目は俺ではない誰かに向けられているようだ。
彼が声を潜めて話すには、
「実はな、宇崎の奴、お前に伝えたいことがあるって周りに話してたらしいんだよ」
「俺に?何なんです」
「わからん。だがそいつらによると、あれは告白だったんじゃないかって噂らしい」
「告白って......」
思わぬ言葉に俺は思わずのけぞる。そんな様子、俺の前ではまったく見せなかった。
「まぁ、俺も眉唾だとは思ってる。だけどもしお前の彼女がそれを聞いたとして、いい気はしないかもしれない」
「......」
彼が何を言いたいのかがようやく分かった。彼もまた、先輩が犯人なのではないかと疑っているのだ。
「覚悟はしといた方が、良いかもしれないぜ?」
肩をぽんと叩かれた俺は、その場に立ちすくむしかなかった。
「......それで、結城くんも私を疑ってるの?」
高校の近くにある唯一の喫茶店「ほのか」。見つけづらい場所にあることで有名なここを、先輩は待ち合わせ場所に指定してきた。
「まさか。宇崎さんは命に別状はないらしいし、意識が戻れば全て話してくれると思います。......だから、警察に行きません?」
さっきから何度もこの話をしている。先輩の髪留めが現場に落ちていた以上、やましいことがないなら尚更、警察から身を隠すことは悪手でしかない。この店は冷房の効きが悪く、全身に汗がにじむ。
しかし、先輩は頬をぷくっと膨らませる。
「いや。行きたくない」
「......じゃあせめて、何で先輩の髪留めがあそこに落ちていたのか教えてくださいって」
「だーかーら、言いたくないって言ってるでしょ?」
俺は頭を抱える。
俺だって、先輩が人を殺そうとしたなんて思いたくない。だから、先輩に会って安心したかったのに。
「ねぇ、結城くん。宇崎ちゃんが目を覚ましたとして、彼女は犯人の顔を見ていないかもしれない。......そしたら結城くんは、私と警察、どちらを信じるの?」
まっすぐな目で、先輩は俺を見つめる。
「はぐらかさないでください。俺が聞いてるのは先輩が犯人かどうかじゃなくて、どうしてあそこに先輩の髪留めが落ちていたかです」
「同じことでしょ?」
首をかしげる先輩は、間違いなく俺を試している。
良い方に解釈すれば、彼女は俺が先輩を犯人じゃないと信じ切れるかどうかを試している。だが、先輩が殺人犯だと知っても俺が先輩の味方なのかを測っているという考え方もできる。
「......懐かしいね、こんなやり取り」
先輩は急に、ぽつりと呟いた。
「俺たちが初めて出会った時のことですか?」
俺が高校に入学したばかりのこと。
その日は急な大雨で部活がなくなり、俺は手持ちの折り畳み傘で大丈夫かな、と心配しながら靴を履いていた。
スクールバッグをごそごそとまさぐる。分かりやすい所に入れてあったはずなのに、なかなか見つからない。
「あれ?どこにやったかな」
仕方なく中身を全てひっくり返す。一つずつ丁寧に点検していくが、傘だけがどうしても見つからない。
六時間目の体育で体育館に行くときには確かにあったんだが。
いつの間にか学校から人は消えていき、雨の勢いが強くなる一方の外を見て俺は舌打ちする。
「......傘、ないの?」
その時、後ろから声がしたのだ。聴く者を掴んで離さない、綺麗な声が。
振り返ると、そこにはその声にぴったりの人が立っていた。
若干幼い顔立ちだが、制服の襟元のクラス章を見なくても、自分より年上であることはわかる。
「私もないんだ。どうしようか」
彼女の唇に目が吸い込まれる。彼女がそうしたのにつられて、俺はその場にぺたんと座り込んだ。
「......なるほど、確かに入ってたはずの傘がなくなっちゃった、と」
「お、俺の勘違いだとは思うんですけど」
慣れない状況に顔を赤く染めて呂律が回らなくなった俺を、彼女は微笑ましげに見つめる。
「それ、もしかしたら盗まれたのかも」
「えっ?」
「分からないけど、今日は急に雨降ったし、バッグをずっと見ていた訳じゃないんでしょ?」
「まぁ、そりゃ......」
俺はごにょごにょ呟きながら、そんなことをするのは誰か考え始める。
「いっそ私たちも、あそこにある傘盗んで帰っちゃう?」
先輩が指差す先には、玄関前にある傘置き場だ。もう学校には二人の他には誰もいないし、こんな天気だというのに、ビニール傘が一本残っている。
「......それは駄目ですよ。それに、一本しかないじゃないですか」
「何か問題ある?」
それは傘を盗むことに対してなのか、一本しかないことに対してなのか。後者だとしたら、つまりどういうことなのか。
俺の頭の中が桃色の絵の具でぐちゃぐちゃになり始める。
「私、そろそろホントに帰らなきゃ。職員室で傘借りよ?」
彼女は時計を見てそう呟き、おもむろに立ち上がる。
俺はその手をぎゅっと掴んだ。
「......?」
「じゃあ俺の傘、返してくださいよ。貴方が盗んだんでしょ?」
俺は赤い顔のまま、精一杯冷たい声でそう言った。
「......どういうこと?」
俺は驚いた様子の彼女の、制服のクラス章を指差した。
「2年B組。六時間目、体育ですよね?僕のクラスもそうだったんで、覚えてます」
「それが?」
「この学校、体育館が別館なんですよね。いったん外に出ないと行けないから、傘がないと困るでしょ。傘に入れてくれる友達がいたのなら、その人といっしょに帰ればいいし」
彼女は険しい顔で黙り込む。
「それに、単に傘がないのなら玄関の適当な傘を持って行けばいい。わざわざバッグの中の折り畳み傘を狙ったのは、目的が俺への嫌がらせだからです。......だったら、俺のあたふたする姿をどこかで見ているはず。そして、ここには俺と貴方しかいない」
そんなことは、かなり前から分かっていた。
それでも今まで言わなかったのは、それでも彼女と話していたかったからだ。それほどの魔力を、彼女は持っていた。
「......急に」
饒舌になったね、と彼女は寂しげに笑った。
「あの時も、結城くんは私を疑ってた」
記憶を呼び起こし、俺は懐かしい気持ちになる。あの時は、先輩がこんな人だなんて想像もしなかった。
「あの時も、先輩は隠し事をしてました。連れがいたなんて、一言も言わなかった」
あの直後、トイレから金髪ピアスの見るからに馬鹿そうな男が出てきたのだ。しかも俺の傘を持って。
「まさか彼が、私を体育館まで送るためだけに人の傘を盗むような人だとは思わなかったもん」
彼は俺が傘について聞くと、悪びれる様子もなくほらよ、と言った。
彼女を折り畳み傘に入れてやると言った後で、自分も傘を忘れたことに気づいた。今更正直には言えないが、折り畳み傘と言った以上玄関から傘を「パクる」ことはできない。
それでたまたま見かけた俺のバッグを物色し、すぐ返すつもりで持って行ったというのだ。
「......で、お腹が痛くなって傘を持ったままトイレに入ったと」
今から思い出しても腹が立つ話だ。あまりに非常識すぎて、思いつく訳がなかった。
とにかく、それが俺と先輩の出会いだった。一目見ただけで俺に惹かれたという先輩は、そのあとすぐ金髪ピアスとは別れ、俺にアプローチを仕掛けてきたのだ。
「あの頃の先輩は、もっと素直でしたよ」
「今は違う?」
「少なくとも、こんな風にあからさまに誤魔化したりはしなかった」
それを聞いて彼女はまた不機嫌になる。
「結城くんは、私のこと嫌いになったの?」
「そういうことじゃないですよ......なんで分かんないんですか」
「分かんないよ」
先輩がため息をつく姿を、俺は初めて見た。おかしいのは彼女の方だと分かっていても、罪悪感を覚える自分に嫌気がさす。
その時、携帯からチャイコフスキーが鳴り響いた。顧問からの電話だ。
先輩に静かに、というジェスチャーをした後、俺は電話に出る。
「もしもし」
「おう、結城。......お前、彼女と今一緒にいるのか?」
虚を突かれて、一瞬俺の息が止まった。
「......まさか。先輩はまだ帰りの電車の中ですよ」
少しの間の後、顧問のくたびれたような声が聞こえた。
「......そうか。いや、歩いていく結城と彼女を見たって奴がいたから、一応な。まったく、何でこんなことに」
自分の部活のマネージャーがこんなことになり、顧問も対応に追われているのだろう。疲れの色が電話越しにでも伝わってくる。
「そうだ。警察にはまだ言ってないんだが、屋上には彼女の髪留めだけじゃなく、手袋も落ちてた。しかもところどころ破れてる」
「え?」
「悪いが、犯人は彼女で決まりだと思う。まずはお前に伝えようと思って」
俺が何かを言う前に、電話は切れた。
俺は呆然として、さっきからスマホをいじっている先輩を見つめる。
「......私の手袋が屋上に落ちてたって、そう言ったでしょ」
彼女はスマホから眼を離さないまま、そう言った。
「何で、分かるんですか?」
「ねぇ結城くん、今日って何日だっけ」
もう先輩は、俺の話を聞く気もないようだ。
気まぐれな彼女に、俺はずっと振り回されてきた。それが幸せだと感じていた時期もあった。
「......11日です。7月の」
「そう。7月11日って、真珠記念日なんだって。1983年のこの日に、真珠の養殖に初めて成功したの」
先輩は、まだ笑っている。俺が先輩のせいで気が気でない間も、彼女はずっと笑っている。
「いいかげんにしろよ」
気がつけば、口に出ていた。俺は立ち上がる。彼女の笑顔が、ようやく止んだ。
そして、彼女はゆっくりと口を開く。失望した顔で、ため息をつきながら。
「それは、こっちの台詞。ここまでヒント出してるのに、なんで気づかないかなぁ」
「ヒント?どこがだよ!先輩はさっきから、はぐらかすばっかりじゃないか!」
俺の激昂にも、先輩はやれやれ、と首を振った。
「私と結城くんが初めて会った時の話。今日は7月11日。ここは高校の近くにあるただひとつの喫茶店。全部、ヒントだよ」
「えっ......?」
「推理してよ。あの時みたいに」
不機嫌な表情のまま促す先輩に、俺はもう一度冷静に考え始める。
先輩が犯人だと示す証拠はいったん無視して、先輩のことだけを考える。俺は彼女の、何を見落としてる?
「......あ」
ねじれにねじれた迷路は、ついにゴールに突き当たった。
「汗。かいてなかった」
この店は冷房の効きが悪い。もし先輩があの日ここで待っていたのなら、汗ひとつかいていない、なんてことはなかったはずだ。
なら、先輩は俺を待つ間どこにいたのか。
決まっている。学校だ。
すっかり忘れていた。7月11日は、俺の誕生日。
「......今日」
俺はゆっくり口を開く。
「今日、本当はどこに連れてくつもりだったんですか」
「決まってるじゃない。学校よ」
先輩は、ようやく気づいたか、と言わんばかりに笑う。
「先輩は、俺の誕生日のために、教室を飾り付けてた。髪留めを落とすくらい、夢中で」
「そう。宇崎さんにも手伝ってもらってね」
宇崎と先輩は、俺の知らないところで仲良くなっていた。
その繋がりを知らなかったことが、ここまで事件をややこしくした要因だ。
「先輩が去った後、犯人は教室の飾りを始末して、髪留めを屋上に持っていった。そして、宇崎を落とした」
「順番は逆かもしれないけど、きっとそう」
一拍おいて、先輩は話した。
「すぐ本当のことを言ってもよかった。でも、電話越しの結城くんの声が、私を疑ってるみたいだったから」
「......紛らわしいことを」
「あの時のことを思い出して欲しかった。最近、結城くんに疎ましがられてるのは、わかってるから」
俺は言葉が出てこない。
なぜなら、俺は安堵していたからだ。彼女が犯人でなくて、本当によかった。
彼女を面倒臭く思う気持ちなんて、どこかに吹っ飛んでしまっていた。
「......それで、犯人は誰なんだ?」
「あら、私はちゃんと担任の先生に話して教室を使わせてもらったのよ。それに、手袋もちょっと前に教室でなくしたの」
「それって、つまり?」
それからしばらくして、犯人......先輩のクラスの担任であり、野球部の顧問でもあった男は逮捕された。
決め手は、目を覚ました宇崎がすべて証言したことだ。
顧問のマネージャー達への悪質なセクハラ......というより、暴行。俺も含めて部員は誰一人、そんなことは知らなかった。
それを宇崎は、俺に告発しようとしていた。
困った顧問はそれを逆手にとり、先輩に偽の動機と証拠を用意して、宇崎を殺そうとしたのだ。
そして宇崎を殺し損ねたと知った後も、往生際が悪く俺にいろいろ吹き込んで、宇崎が何も覚えていない可能性に賭けていた。
「......結局、誕生日祝い何もできなかった」
「別に気にしなくていいですよ」
肩を落とす先輩を慰める。
すると、先輩は突然立ち止まった。
「......そうだ、キスしてあげるよ」
「えぇっ!?」
「ほらほら、遠慮しないで」
先輩は薄桃の唇をこちらに向ける。
こんな道端で、とか、いろいろ言いたいことはある。
でも、言ったところでどうにもならないことくらい、わかってるから。
「しょうがないなぁ」
俺は何も考えず、目を閉じた。
fin.