カルトくん大好き娘の奮闘記 作:カルトくん至上者
目の前に迫る刀を全力で避けると、息つく暇も無く迫ってくる蹴りを腕を交差させた上に堅を使ってダメージを軽くする。
それでも腕は軋み、そのまま数メートル吹っ飛ばされる。
(軽くしてもこれか!)
心の中で悪態つくが、バク転してすぐに態勢を立て直すが相手は手練中の手練。
一瞬で距離を詰めてきており、刀が無慈悲に振り下ろされる。
私が腕で防ぐ前に刀は頭に激突し、私はカナヅチで殴られたような衝撃を受けて一瞬動きを止める。
そこへ容赦ないみぞおちへのトゥーキック。
「がっ……」
息が出来なくなり、思わず前かがみになった所で蹴り上げ。
「そこまで」
それがヒットする前に模擬試合が終了した。
「確かに、この年のガキにしてはよく出来てるな」
「だろ?」
刀を持った相手……ノブナガが刀を納めながら感想を言うとウボォーギンがにぃっと笑みを浮かべる。
「それで、この子があたしたちの予備ってのは本当なの?」
「あぁ。あのウボォーが目をかけた奴だ。中々だろ」
「本当に強くなるかわからないね」
「私たちが育てればそこそこいけるんじゃないかな」
「ボクもそう思うよ♠」
「俺もだ」
「要らなくなったら殺すんでしょ、なら別にいいんじゃない?」
「まぁね」
危険度Aクラスの賞金首集団の幻影旅団。
最強最悪の盗賊たちで、熟練のハンターですらうかつに手が出せない実力者たち。
そのメンバー全員がここに集まっていた。
その前で、サリアはノブナガと実力を知るための模擬試合をしていたのだ。
「反対の奴は居ないな?」
クロロが全員を見回すと、とりあえずはという顔の団員も居るが全員が頷く。
こうして、私は幻影旅団の予備要員として彼らに育てられる事となった。
要らなくなったら殺されるが、その時になったら逃げ……られないだろうけど頑張って逃げる。
本拠地を知ったメンバーじゃない奴を生かしとくほど優しくないだろうけど。
「サリアの特訓方法だが、お前らの意見は?」
クロロの問いに全員が一斉に考え出す。
「流が得意じゃないみたいだけど、まずはオーラ量と出せる量を上げないとね」
「となると堅がいいか。サリア、俺がいいと言うまで堅をしろ」
「……けん?」
「おい、誰かこいつに念について教えてやれ」
面倒くさく思ったクロロが匙を投げ、匙を受け取ったパクノダが念について懇切丁寧に教えてくれた。
オーラが拡散しないようにするのが纏、オーラを絶つのが絶、体内で練って通常以上にオーラを生み出すのが練、オーラを自在に操るのが発。
纏の応用で物にオーラを纏わせるのが周で、絶の応用で自分のオーラを見えにくくするのが隠。
練の応用でオーラを体の一部に集めて増幅させるのが凝。
纏と練の応用で、練で増幅したオーラを維持するのが堅。
次も纏と練の応用で、オーラを自分を中心に半径2メートル以上広げて1分以上維持するのが円。
纏、絶、練、発、凝の複合で凝と同じように特定部位に集めるが、絶を使う事で集中量を増大させたのが硬。
凝をさらに応用し、オーラを移動させて集中する行為を素早く行い、かつ集中する量を意識的にコントロールするのが流。
これが念の全てだという。
「分かったら、とっとと堅をしろ」
「はぁい」
返事をすると、クロロが近づいてきて拳骨を振り下ろした。
「はい、だ」
「はい゛」
流石に硬はしていなかったが、堅を解いていた私にはそれでも十分に痛い。
もう一度ぶたれ、はいとちゃんと言ってから堅をする。
3年間の修行で、持続時間は33分。
ビスケのそれなりの実力者を相手にするのには十分だが、クモが求めているのは最低でも一流。
「同じ女でパクとマチとシズク……後は連れてきた責任でウボォー。堅以外にも色々と面倒を見てやれ。堅が1時間ほど持続出来るようになったら水見式をしてみよう」
その内容に私は当然だなとは思うが、こちとらまだ1桁(恐らく)だ。
絶対に幼児虐待に当てはまるだろう。
なので、知ってはいるが私のパクノダさんに尋ねる。
「……ぱくおねーちゃん、あーいうひとってなんていうの?」
「そうね……鬼、かしら」
「おにー、はげー」
「いい度胸だガキ。覚悟しろ」
ちょっと追加で言っただけなのにこの有様だよ。
いつも冷静沈着のクロロさんはどうした。
逃げたがすぐに捕まり、堅をしなければ顔が潰れるぞと言われて硬をした拳で顔を何度も殴られた。
仕返しに硬をやった足で金的をお見舞いしてやった。防がれたけど。
とにかく幼児虐待反対!
30発ほどの拳を顔に叩き込まれた辺りでパクノダさんに他の修行もしないとと言われてようやく抜け出すことが出来た。
パクノダさんありがとう。
でも、もうちょっと早く助け舟出してくれたらもっと嬉しかったよ。
「そいつの世話は任せたぞ」
「えぇ」
クロロはそう言うとシャルナークとフランクリンを連れてどこかへ行ってしまう。
それに続いてヒソカも出ていき、ボノレノフとコルトピも出て行く。
残ったのはマチ、パクノダさん、フェイタン、ウボォーギンにシズクとフィンクスとノブナガ。
およそ半分だ。
マチとパクノダさんとシズクにウボォーギンはクロロから言われたから、フィンクスはお風呂入ってから歓迎ムードだったから分かる。
でも、ノブナガはともかくフェイタンが残ったのは驚きだった。
てっきり、さっさと出ていくと思っていたのに。
「殺す時は言うね。ワタシが拷問して殺すよ。いつでも準備出来てるね」
「まだ始めたばかりでしょ……」
それで残ったのかぁ!
パクノダも同じことを思ったのか頭を抱えている。
マチは応急処置と言って傷口を縫ってくれた。
シズクは何かの本を読んでいてこちらに関心すら寄せてくれない。
ウボォーギンはノブナガと一緒に酒盛りをし始めた。
おいこらウボォーギン。
「それじゃ流の修行に入りましょうか。全身にオーラを残しつつ出来るだけ早くオーラを一箇所に移動させるのよ」
「はーい」
パクノダの指示で流の修行を始める。
堅から拳を伸ばしながら少しずつ手へとオーラを集めていく。
これをゴンは初めてやって13秒だったが、私は1分かそこらだ。
つくづく凄まじい才能だと思い知らされる。
「上出来じゃない。次は蹴りを放ちながらよ」
これらを何度も繰り返す反復練習。
そこからは本当に地獄のような毎日だった。
基本は優しいパクノダだが、ちょっと厳しいけど優しいマチの時もある。
この2人ならまだ大丈夫だが、シズクは天然で加減知らず。
諸悪の根源ウボォーギンに至ってはここでこうとか抽象的。
ノブナガは念ではなく実戦形式で稽古を付けてくれる。
フェイタンは嬉々として嬲り痛めつけてきて、その度にマチにお世話になっている。
クロロは帰ってきても本ばかりを読んでいるし、フランクリンはシャルナークとコルトピの3人でトランプやチェスをして時間を潰していた。
たまにこっちを手伝ってくれるけど、あくまで暇潰しなようで軽くである。
毎日ぐったりで眠りにつき、そして途中で団員の誰かに急襲されて危機感知能力を高められたり。
とても大変だったが、メキメキと上達していくのが分かるので感謝しかない。
ただしフェイタン、テメーは駄目だ。
乙女の柔肌を傷つけやがって……カルトくんに会う前にキズモノにする気か!
マチが居なければ跡が残ってたぞ!
結果、ウボォーギンに拉致られて3年経ったくらいで全員から「相性の問題もあるが、1対1ならメンバーの誰が全力で戦っても1分くらいは持つ」というお墨付きをもらえる程にはなった。
あ、ちなみに水見式で調べた系統は変化系だった。
水が何も変化せずに驚いたが、舐めようと指を突っ込んだら焼けた。
指が真っ赤になり、悶えているとフェイタンが私にそれをぶっかけてきた。
目だけは防いだが、顔全体はもちろん鼻や口に入って燃えるような痛さで悶絶し、マチが指にとって舐めて辛いと言ったので変化系だと確定した。
系統が分かってからは、同じ変化系のフェイタンと帰ってきたヒソカも師匠に加わった。
私としてはノーサンキューだったけど。
フェイタンとヒソカには変化系の特殊技について教えてもらった。
とはいってもこれは全系統に通ずるもので、フィーリングが大事で「自分に合ってる」という認識があるのなら最高なのだという。
「わたしにあってる……」
「そう♣ オーラゆえの流動性を生かした能力が多いよね♦」
「お前と同じ意見なのはしゃくよ。でもそういうことね」
「りゅーどーせー……かぜもりゅーどーせー?」
「そうだね♠」
変化系は自分のオーラの性質や形状を変える能力。
変化系と分かった時、私は何故か頭に風がイメージされていた。
「かぜがいい」
「風か。なるほどな……そいつはいいな。内容を詳しく詰めろ。実戦レベルで使えるようにするには制約と誓約が必要だろうからな」
クロロに言われ、修行をしながら数日間私は精一杯考え、色々と制約と誓約を付けて能力は完成した。
オーラを風に変えて、自由自在に操るだけの能力だ。
だが、風を全身に纏わせれば銃弾を弾くくらいの防御力を得る事が出来るし、オーラが続くまでだが飛行することも出来るし、背中から噴射させれば高速移動も出来る。
相手を動けないようにすることも出来るし、窒息させることも出来る。
汎用性が高い能力だ。
それを発表すると、クロロがいきなりほざいた。
「ウボォー、少し本気でサリアを殴ってみろ」
「殺す気でか?」
「あぁ。だが
「え」
「りょーかい」
驚く私を他所にウボォーギンは拳に力を貯めていく。
「何をしている。お前は能力と堅で防御だ。両立させないと恐らく死ぬぞ」
「こ、このおにー!」
「行くぜオラァ!」
「ウギャー!」
出来てすぐの能力を使ってオーラを風にして全身に纏わせ、さらに堅も使う。
そしてウボォーギンの巨大な拳が飛んできた。
気付けば、私は宙を待っていた。
そのまま床に落ち、何度かバウンドしてから壁に叩きつけられる。
全員が私を見る中、私は何事もなかったように立ち上がる。
衝撃らしい衝撃はほとんど感じなかった。
せいぜいが肩ポン程度だ。
「殴った感触はどうだ?」
「サンドバックを殴った感じだな」
「殴られた方はどうだ」
「ぜんぜんいたくない」
「なるほどな。衝撃も全く感じていないようだ……となると、今のサリアは堅の上にエアベッドがあるようなものなのかもな」
汎用性が高い能力だと呟き、同時に欲しいとも言う。
あげないよ、私の能力。誰がやるもんか。
「まぁ合格でいいんじゃないの?」
「ワタシも賛成よ。予備でなら使えるようにはなたよ」
「俺も賛成だ」
「私も」
次々と賛成の声が上がり、クロロも賛成のようで頷いた。
「良いだろう。サリア、お前を予備要員として認めてやろう」
「ありがとーございます」
こうして、私は幻影旅団団員(予備)となった。
最後に身元証明の為にハンター試験を受けて来いと言われ、私は保護者をパクノダにしてハンター試験を受験しに行くことになった。
その前にクモのルールを叩き込まれる。
そして出発日には連絡用として携帯を持たされ、マチからは前から強請っていた白いミニスカドレスとコルセットにブローチ……はい、とある魔術結社のボスであるドS美少女の服です。
こういう服に憧れてたんだよねー。
前世ではコスプレにしか見られない服装だが、この世界では普通に服として見られるので気兼ねせずに着れる。
しかも、今は幼女なのでちょっと背伸びした幼女だと思われるだけだ。
「ありがと、まちおねーちゃん!」
マチにお礼を言い、隣の部屋に行ってから着替える。
見た目は幼女でも、心は女性!
マチが作ってくれた服はサイズピッタリで、スカートも絶対領域がちゃんと成されている。
グッジョブ、マチさん。
全員にお披露目をし、似合ってるじゃんと言われて少し照れてしまった。
だが、フェイタンとクロロ。
お前ら「馬子にも衣装」って言ったな。覚えてろよ。
怒りを飲み込み、子供らしい笑顔を浮かべて出発の言葉を告げた。
「いってきまーす!」