届けさせてください!   作:賀楽多屋

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ゲーマー、とうとう漫画にまで手を出す。

久しぶりにONE PIECE読んで、再燃してしまったのが悪いんです。


序章 届け先には虎とマグマとフラミンゴ
prologue


 最近は、洗濯日和が続いているのでメルの仕事は上々であった。

 

 順風満帆な仕事の始まりに、つい覚えたばかりの歌を口にしてしまう。

 

「よほほほ〜よほほ〜ほ〜」

 

 一週間前にとある海賊に教えて貰った海賊の歌。

 

 口が寂しくなると、メルは呑気な調子で紡がれるメロディと海賊の喜びを綴った歌詞が合わさったこの歌をついつい何気なしに歌ってしまうのだ。

 

 それ程、この歌をメルは気に入っていた。

 

 

「ビンクスの酒を〜届けに行くよ〜」

 

 メルの眼下に広がるは、穏やかな海一面。

 

 彼女は何故か宙を浮くデッキブラシに跨って、悠々と空を駆けてゆく。

 

 その姿は、正に寝物語で聞くような魔女そのもの。

 

 例え、彼女が跨っているものが箒で無く、デッキブラシだったとしても、黒のワンピースの裾を翻し、長く結った三つ編みを潮風に任せているその様は非日常の象徴とさえ言えるだろう。

 

 そんなメルは、ブラシに近い柄の先に小包を4つ程ぶら下げていた。

 

 そして、柄を握っている手の傍にぶら下がっているのは年季の入ったラジオで、そこからは大音量で流行りの歌謡曲が流れてきている。

 

 メルの口から響く呑気な海賊の歌とラジオの音楽がミックスされて無音な海上に響いていたのだが、番組がいつの間にか進行していたらしい。

 

 いつの間にやらラジオからは、壮年の男達の声ばかりが響いていた。

 

 

『我々は、市民の平和を守るために存在しているのです。近頃は、何も知らない若者が海賊に憧れ、犯罪に巻き込まれる事件が多発しています。皆さんには、どうか今一度海賊という悪を見直してもらいたい』

 

『センゴクさんの仰る通りです。我々の生活に海賊という存在が身近になって、もうどれくらいの年月が経つことか。その慣れが可笑しいことを、私達は今一度再確認せねばなりません。本日は海軍設立記念日ということで、海軍大将のセンゴクさんにお越しいただきました。それでは皆さん、明日もこの時間にお会いしましょー! あでゅー!』

 

 司会者らしき男の別れの声を最後に、ラジオは三秒ほど音を途絶えさせた。

 

 そして、少しの間を置くと今度は時報を告げた。

 

 

『午前、九時です。天気は晴れ、風は東向き』

 

 いつの間にか、メルは海賊の歌を口ずさむことを止めていた。

 

 今日はまだ初めてになる時報を聴きながら、メルは先程のラジオの内容に思いを馳せていたのだ。

 

「そっか、今日は海軍設立記念日かー。今度配達に行ったら、何周年になるのか聞いとこー」

 

 何を隠そう、この幼い彼女の超お得意先は、天下に名高い海軍である。

 

 海軍とはメルの足元に広がるこの海をメインに、世界に蔓延る海賊という悪を殲滅せんと日夜検挙に明け暮れる言わば、この世界のヒーローだ。

 

 そのため、お給金もこの世界で考えれば、公務員級。

 旦那にしたい職業ランキングは常に上位で、信用度も抜群だ。

 

 但し、これ程にも安泰とした職であるのにも関わらずランキングの一位に輝けないのには、殉死者が多く出ることや世界を股にかけた転勤職であるという大きな理由があった。

 

 

 しかし、ただの顧客である海軍のそんな涙ぐましい事情などメルにとってみればどうでもいい。

 

 「さぁ、今日も頑張らないと。荷物を皆、待ってくれてるんだもの」

 

 両手で拳を作り気合を入れ直す彼女に応えるように、少し離れたところで飛んでいる海猫がみゃうと鳴いた。

 

 

 

 

 メルの住むこの世界は、海軍なんかが取り締まっているのが分かるようにとっても物騒な世界だ。

 

 毎日毎日、街中では鉄砲の打つ音が聞こえ、刃物同士が鳴り合う音が日夜問わず反響している。

 

 力のない者は淘汰されていき、強き者だけが生き残る弱肉強食なのが、この世界。

 

 だが、近年。

 

 その弱肉強食な世界に拍車をかけた人間が居た。

 

 

 その者の名を、大海賊ゴール・D・ロジャーと言う。

 

 世界を船で一周し、名声と権威、それから誰よりも強い力を手に入れたその海賊は、数年前に処刑された。

 

 その出来事は、誰にとっても青天の霹靂で、世界は一時そのセンシティブなニュースで湧く事になった。

 

 だが、ロジャーというこの男。

 

 処刑台に登り、自分の首が切り落とされるその瞬間まで不敵な笑みを浮かべていたという。

 

 そして、問題なのは彼の今際の台詞であった。

 

 今や語り草となっているそれは、正に大航海時代を告げる鬨の声。

 

『おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやるぜ・・・。探してみろ! この世の全てをそこに置いてきた』

 

 鬨の声は、世界中に向けて発信された。

 万民が万感の思いを抱いたのをロジャーが処刑台からしっかりと確認してから、彼の首は呆気なく切り落とされたのだ。

 

 

 そう、世界は正に、一人の男によって動き始める。

 

 

 市民は震撼する───今以上の乱世が訪れると。

 

 海軍は焦燥する───今以上に秩序が崩れると。

 

 海賊は歓喜する───海賊の最盛期が幕を上げたのだと。

 

 

 

 数多の人間が、ロジャーに促されるようにして海に出た。

 

 そして、死んでも尚災いしか齎さないロジャーによって一層増えた海賊を、海軍は年中無休で追いかけ回す羽目に陥った。

 

 

 彼の置き土産によって世界は再び荒れ狂い、幾つもの街が滅び、そして両手では数えられないほどのドラマがこの世界の住民によって紡がれる。

 

 

 

 しかしそんな乱世に生きるメルにとっては、海賊と海軍のいざこざも、世界政府の企みも、ましてや海底で起こっている暴動も関係ない。

 

 今日も愛用しているデッキブラシに跨って、ジョブである運送業をこなしていくだけである。

 

 

 そう、これは。

 

 ただの運送屋が仕事をするだけの話。

 

 

 

 

 

 

 

 





PS
センゴク氏の位をワンランクアップさせました。
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