「おはようございます、白ひげさん」
客室の近くにいた見た目の性別と中身の性別がちぐはぐな色っぽい男性に白ひげの自室を尋ね、案内まで知ってもらったメルとラブは白ひげの部屋に朝の挨拶をしながら入室する。
白ひげは、小さな来客達を歓迎しているらしく身の丈にあった椅子の上で朝っぱらから酒瓶を煽りながも「よォ」と声を上げる。
「確かにこの様子じゃあ、禁酒は無理そうだよね」
「マルコ達も案外苦労してるんだな」
先程、「親父が健康に気を使ってくれない」と息子兼かかりつけ医が項垂れていた所だが、この白ひげの様子を見るに確かに禁酒なんて無理そうだ。
一応、身体を診てもらった恩もあるからと、マルコのために一肌脱ごうと腕を捲ったラブは白ひげに近づこうと歩いた瞬間に床に敷いてある絨毯に足を引っ掛けて派手にすっ転んだ。
しかも、ラブの無体なドジの仕打ちの数々にとうとう巻いていたズボンのベルトがお陀仏となったようで、転けた衝撃を受けてズボンがずり下がり、ハート柄のトランクスがおはようと姿を見せる。
一日だけ部屋を貸しくれる関係となったあの白ひげ相手に、ここまで体を張った間抜け者が果たしてこれまでに何人いただろうか。
確実にメルの使い魔がマイノリティ派であることは確実で、彼女は慌ててラブのだらしないズボンを引っ張りあげる。
「ラブ! アンタ、人様にそのセンスの欠けらも無いパンツ見せちゃ駄目だっていつも言ってるでしょ!!」
「わ、悪ィ·····! でもな、メル。少しぐらい男の下着を見て、動揺の一つはしといた方がいいと思うぜ」
「余計なお世話だっつーの! 誰がアンタの穴が空いたパンツを繕ってると思うの!! そんな口を叩く余裕があるなら裁縫ぐらい出来るようになってってば!!」
まさかの白ひげの前で、メルはラブのパンツ事情を大暴露である。
もう人前であることすらラブはこの時忘れていたが、それでも一人前に羞恥心はあったので顔が茹で蛸のように真っ赤になっている。
実際、ベルトと同じ理由でパンツに穴を空けるラブなのだが、破く度にパンツを買っていては、金が出ていく一方だと突然裁縫道具をメルから渡されたことがあった。
自分のドジは自分で拭えと言外に物申すメルの威圧に押し負けて、第二の人生にして初めて己のパンツを縫うということにラブはトライしてみたのだが、彼の
流石に、手に幾つもの血の玉を流すラブにこれ以上頑張れと鬼になる事も出来ず、結局は上司であるメルがラブのパンツの始末をつけることになったのである。
「ってか、本当に毎回毎回言おうと思ってたけど、ハート柄のステテコばっかり買ってこないでよ! そろそろ星柄とか縦縞が私は恋しいんだけど」
「一応、これでもメルが言うから他の柄にも挑戦しようと色々店では見てるつもりなんだぜ·····でも、レジに行ったらいつの間にか籠の中にはハート柄のパンツしか入ってねェんだよ」
「どんだけハートに執着してんの·····! 私、買うまではしたくないからね! そこまでやったらもう君と私の関係は完全にオカンだよオカン!!」
「·····面目ねェ」
なんとかずり下がるズボンを引っ張ってパンツを見えなくし、その場から立ち上がることが出来たラブであるが、彼の上司は何かハート柄のパンツに恨みでもあるのかわーわー文句を言っている。
ラブの名前の由来にもなってるらしいから、もう正直、一生ハート柄パンツでラブはいいんじゃないかと思っているのだが、メルにとっては深刻な問題であるらしいのだ。
「グララララ。お前ェら、人の部屋にまできたかと思えば漫才しに来たのか」
そして、漸く部屋の主が二人の阿呆なやり取りに割って入った。
この海賊団の頭でもある白ひげの御前にまで来て、とんでもないことをやらかしていたと我に返ったメルが、ハッと己の口を抑える。
ラブのドジにつられて自分まで馬鹿をやらかしてしまったと後悔をし始めるメルだが、どちらかと言えば今回はメルもこの漫才の首謀者であるために、ラブばかりに責任があるとは言えない。
「ご、ごめんなさい。ここに来たのは、本当に全然違う別の用があってなんです」
ラブのパンツ事情など最早、どうでもいいことである。
今は、そんなことよりもラブの身の安全を確保するため、白ひげに直談判しに来たのだから。
何をこの小娘は言いに来たのかと、楽しげにメルを見下ろす白ひげは、用を言ってみろと片手で誘うような仕草を取る。
───よし、私! 女は度胸! 前進あるのみ!
片拳を作って、ラブのドジのせいで消えかけていたやる気をもう一度メルは取り戻す。
「白ひげさん、部屋まで貸して頂いて厚かましいお願いだと思うのですが、どうかラブを此処のクルーとして雇ってくれませんか!?」
そうメルが口にした瞬間、部屋には冬が到来したかのように部屋内の温度が急速に下がり始める。
体全身の毛穴が開いたかと思うほどの圧を放ち、部屋の気温まで下げている人物は、正しく今、メル達の前で酒瓶を弄んでいる白ひげで、彼は怖気が走るような目でメルを射抜いていた。
「生半可な気持ちなら止めておけ」
刹那の間に場の空気を入れ替えてしまった白ひげに、やっぱりそう簡単にはいかないかと作った片拳を更に握り締める。
歯の根が噛み合わなくてカチカチと音を鳴らしそうだが、そんな無様な態度を晒したら一瞬で、交渉が決裂してしまうことは目に見えている。
これは、ラブの大切な人生の岐路の一つだ。
使い魔の身の安全は、使役者である自分が確保しなければならないのだ。
白ひげは己の特殊な覇気を受けても、目の光を無くさないメルにほうと内心で感嘆の声を上げていた。
───覇王色の覇気を受けてもまだ、突っ立ってんのか。
正直、子供を乗せるほど白ひげ海賊団は人手に困っていない。
寧ろ、身の危険と常に隣合わせであるから、子供をこんな所に留めおく気など白ひげにはサラサラないのだ。
だが、しかし。
目を逸らさず、如何にして白ひげを説得させようかと知略を練り上げるメルは、大した肝を持っていると言えるだろう。
件のラブとて白ひげの覇気に怯むことなく、メルと白ひげの交渉の行方を静かに見守っている。
「ラブは、こう見えてある海賊団の船長の実の弟です。今は仲違いをしてその人とは一緒に暮らしていませんが、つい先日、その兄である海賊がラブを攫うという事件が発生しました」
メルは、どうにか声を震わせずに交渉を持ちかける。
白ひげの視線がまだ自分に向いているならば勝機はあると踏んで、果敢にメルは言葉を投げかけていく。
「そのラブの兄の名前はドンキホーテ・ドフラミンゴ。正直、今回は無事にラブを救出出来ましたが、次回からは出来る予感がしません」
「·····詰まりは、助けれてくれってオレに手を伸ばしてんのか、メル」
「はい、その通りです。でも、ただで助けてくれとは勿論、海賊相手には言いませんよ」
笑みも浮かべられていない白ひげの無の表情が、何を考えているのか分からなくて恐ろしい。
それでも、仕掛けてしまった交渉を取り消すことなんて出来ないわけで、メルはハッタリのふてぶてしい笑みを繕わないといけない。
乾いた唇を湿らせるように舐めて、畳み掛けるべきポイントを見極める。
この方、この世に生を受けて約八年。
六十年は生きると言われている人間の一生の中で八年など、目を瞬く間の短い時間と同じくらいの価値しか無い。
それでも、その八年間、メルは己の命を担保に言葉でいつも戦ってきた。
配達先の厄介な顧客、自分の理解者でもある養い親、命を頂戴と虎視眈々と狙っている世界の悪意·····色んな人間が幾人も別々の思惑を抱いてメルの前に立ちはだかってきた。
───ラブの預け先くらい、華麗に勝ち取ってみせる!
さぁ、やる気は底無し。気合いは十分。
ぶちかまして見せろ、ラブを守るというのなら。
「先ず、これから確実に驚異になり得るドフラミンゴに切れる最高のカードにラブはなります。あんな狂人でも、ドフラミンゴはラブに弟としての執着があるみたいなので、ラブを使えば大抵の欲求は通るかと」
「フン、あんな小僧ども。そう回りくどい真似をしなくとも抑えられる」
「ええ、白ひげ海賊団として海賊であるドンキホーテ・ファミリーを取り押さえることは出来るかもしれません·····ですが、彼の別の顔となれば、話は変わってきます」
「·····何が言いたい」
「ドフラミンゴは海賊でありながらも、闇のブローカーです。人身売買を手始めとして、武器の横流しやフェイク情報の取り扱いまで実に様々なヤバいブツに手を出しています。海賊ではなく、商人としてのドフラミンゴは白ひげさんと言えども抑えることは厳しいのではないですか」
一気に捲し立てるように続けたが、白ひげの態度はまだ崩れていない。
だが少しずつでは有るが、彼の中で天秤は傾きつつあるはずだ。
「それにラブは能力者です。暗殺や隠密を得意とする能力を持っており、確かにドジが多い彼ですが、腕は確かです」
チラッと何かアクションをしてくれないかとラブに視線をやると、メルに頼られたことがそんなに嬉しいのか、ラブは目をキラキラとさせている。
そして、今回は披露用だとでも言うように指をパチンと弾いて、ラブは「
ラブは所謂、無音人間。
ナギナギの実の能力者で、音の有無を自在に操ることが出来る。
試しにとラブがその場で手を叩いたりジャンプしたりして見る。
しかし、そのまま無事に終えることなくノルマのように足元を滑らせて転んでしまったが、その派手な一連の流れがあったとしても一切彼からは音が聞こえない。
白ひげはそんなラブの愉快な様子を、じっと見極めるように見つめていた。
「白ひげさん達は縄張りを持っていると聞いています。ドフラミンゴが新世界で幅を利かせ始めた今、貴方達の縄張りだって何時狙われてもおかしくはありません。ただ、ラブならばそれらに対して秘密裏に処理をすることができます───この人、子供みたいな成りをしていますが、実際はもういい大人なので難しい任務もこなせるでしょう」
そこで、ラブがメルの片腕を掴んできた。
促されるようにしてラブの方を見てみると、ラブはそれ以上は言うなと言わんばかりに首を横に振っている。
これからメルが話そうとしていることは、この世界では受理出来ないトップシークレット。
世界政府が存在を抹消しようと躍起になっているほどの厄介事だ。
言ってしまったら、白ひげ達をも巻き込んでしまうかもしれない。
それでもと、メルは覚悟を決める。
ラブと白ひげ達の身の安全を天秤に掛けてみれば、そんなことは一瞬にして判断が下せるのだ。
「ラブはこの世の人間じゃありません。彼は、私の使い魔です。悪霊となりかけていたラブをこの世に留めおくために私は自分の力を使いました」
ラブが掴んでいるメルの腕に更に力を加えたらしく、腕が悲鳴をあげている。
見かけによらず馬鹿力なのだから、少しは加減をして欲しいと思いつつも、メルは口を動かし続けた。
「私は魔女です。だからデッキブラシに乗って空を飛ぶことも、人間の魂を蘇らせることも可能です」
自分が出せる最大のカードを見せることになってしまうが厭うもんか。
メルと白ひげでは、持っているものに大きな差が有りすぎる。
メルが持てるもので彼を落とすには、このカードを切らなくては始まらないのだと、彼女は交渉を持掛ける前から分かっていた。
どれだけ抜群なハッタリをかましたとしても。
ラブの宣伝が上手く行ったとしても。
この男は、そんなことくらいでは首を縦に振るまい。
そして、メルはこれが最後だと言わんばかりに白ひげに艶然と笑いかけた。とても八歳が浮かべるとは思えられない程の、毒が滴るようなその笑みに、後のラブは「あれは駄目だ」と語ったらしい。
「もし、ラブをこの船に置いてくれるというのならば───私はこの力を貴方達にも貸しましょう」
魔女の誘惑に、海の覇者は凄絶な笑みを見せる。
白ひげとて、こんな顔をまさかメル達相手に見せることになるとは思わなかったのだが、引き出されてしまっては仕方ない。
───マセ餓鬼は、間に合っているんだがな。
だが、マセ餓鬼の相手は白ひげの得意分野の一つだ。
「面白ェ。子供と取引はする気は無ェが、魔女ならば良いだろう」
こうして、ラブが白ひげ海賊団に在留することが決定した。
ONE PIECEってBGMやOP、ED、挿入歌のどれをとっても素敵なものが多いですよね。
今回執筆をするにあたって流しているのは『Share the World』、『エターナルポーズ』、『ADVENTUREWORLD』、『怒りをくれよ』、『BRAND NEW WORLD』などです。
他の曲も捨て難いのですが、私自身曲に心が引っ張られる質なので明るい曲調をメインに流しています。
因みにONE PIECE関連外の曲であれば、aikoさんやずっと真夜中でいいのにさん、星野源さんなどを聞いています。
ただ、aikoさんを聞いているとどうしてもしっとりラブロマを書きたくなるので自重がとても大変。
一応拙作は、恋愛に関してのオチは決めておりません。
まだメルが子供ですし、恋愛に興味が無いような気がするのでその辺は放置しています。
そういう流れになるまでは、ただただメルが配達屋さんとして奔走するお仕事ノベルとして書いていくつもりです。