届けさせてください!   作:賀楽多屋

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ハートパンツ以外も履いてよね!

 白ひげとメルの取引が無事取り交わされたあと、二人はラブ(本人)そっちのけで細々とした話を詰めた。

 

 ·····白ひげがやけに楽しそうだが、恐らく見間違いだろうとラブは一蹴する。

 

 何故だか、祖父が孫に構っているような光景に見えてしまってラブは気の所為だろうと目をしょぼつかせる。

 

 電伝虫の番号の交換、ラブの滞在中に発生する生活費は保護者(メル)がどれぐらい負担すれば良いのか、ラブの好みや苦手なものはどういうものがあるのかなどなど。

 

 ラブの挟む口が無いまま淡々と二人の間で話は煮詰められていき、いつの間にかその取引は正式な誓文書にまでなっており、気付けばラブは言われるがままに血判を捺していた。

 

「よし、これで完璧!」

 

「おれ、なんかメルの将来が怖い·····」

 

「グララララ。ラブ、お前ェも男だったら、んな小せェこと言うな。男なら、泰然と構えておけ」

 

 誓文書の控えを持つのはメルらしく、それを手に取ってムフムフと不気味な笑い声を響かせている彼女は、どう見てもヤバい奴にしか見えない。

 

 先程の白ひげ相手の交渉やその後の後処理も傍で見ていたラブは、このメルの子供離れした辣腕ぶりに相当恐れを抱いたようだ。

 

 道を違えたら立派な詐欺師になりそうなメルにラブが身震いしていると、そんな心配症な彼に白ひげが空気を震わせて笑う。

 

 

 メルがそんな白ひげを見て「男の中の男って、白ひげさんみたいな人のことを言うんだなー」と珍しく賞賛している。

 

 メルが人のことを手放しで褒めることはそうそうないので、ラブはつい口を開けっ放しにして驚いてしまった。

 

 確かにラブから見ても、白ひげは人格者だ。

 こんなにも器の大きな人間を見るのは、センゴクを入れて二人目だとラブも思う。

 

 だけど、ラブはメルにすごく言いたかった。

 メルが見習うべきは、『男の中の男』ではなく、『お淑やかな女性』なのだと。

 

 取り敢えず、空を飛ぶ時はワンピースの下に短パンぐらいは履いてくれとラブは密かに懇願しているのだが、未だにメルにその思いが届く兆しが見受けられない。

 

 何度か本人に直接伝えてみようかとラブも思ったことがあったのだが、如何せん相手は子供といえども女の子なのだ。

 

 注意してメルから虫けらを見るような目で見られたら、きっとラブの中の何かが死ぬ───男としての誇りとか、大人としての倫理とかその他エトセトラが。

 

 因みに、彼のこの葛藤は、かれこれもう二年ほど続いているので、ある意味積年の思いと言えるだろう。

 

 恐らくは、彼が決意を固めてメルに申告するまで、彼女がワンピースの下に短パンをはくことはない。

 

 ───まぁ、もう一人、極東でその事について呆れていた人物がいたが、さぁどうなるだろうか。

 

 あまり長居するのも良くないし、用件を終えたのだからさっさと出ていこうとメルは白ひげに暇を告げ、これからもラブのことをよくよく頼みますと頭を下げる。

 

 常識人らしい気遣いを見せたメルによってラブは手を引かれ、白ひげの自室を後にした。

 

 何か深刻な顔をして物思いをしているらしいラブにメルが不審そうな目をむけているが、彼は気付くことなく思考に耽っている。

 

 まぁ、ラブのことはいいやとあっさり彼について考えることをやめたメルは、ワンピースのポケットの中へ戦利品である誓文書の控えを折り畳んで入れる。

 

 そんな二人の前方でマルコとサッチ、それからあと何人かのクルーが洗濯物の籠を入れて歩いているのが見えた。

 

 むさ苦しい男所帯とは言え、衛生には気を使っているらしく、籠に詰まれている洗濯物はかなりの量だ。

 

「おっ、オヤジとの話は終わったのか?」

 

「はい。無事、恙無く終わりました」

 

 メルとラブが白ひげの部屋に行っていたことは筒抜けのようだ。

 そう言えば船長と話をしていたのに、白ひげの部屋には他のクルーはいなかったなとメルは唐突に気が付く。

 

 確かにメルとラブはまだ子供だし、相手があの白ひげなのだから無体を働くことなんて出来るはずがないが、それでも船長一人と客人二人が狭い部屋の中で話すことなど本来ならば実現しないことだ。

 

 ───もしかしたら、白ひげさんが事前に何か達しを出していたのかもしれない。

 

 脳裏に浮かんだ『もしも』に、メルは背筋が凍る。

 

 その憶測が本当だとすれば、メルが話を持ちかけることを白ひげは予想していたことになるのだ。

 

 そうなると、メルが取引に勝つことすら彼に仕組まれていた可能性もある。

 

 お膳立てされた試合に勝って、肝心な所はただただ踊らされていただけなんてことが真相であったら。

 

 ───ううん、ラブをスーパー安全な託児所に預けられたのだと思っておこう。これ以上勘繰ってたら、正気が削れてきそうだよ。

 

 そうやってメルがウンウンと唸っていると、前方から呆れが含まれたマルコの声が聞こえてきた。

 

「おい、ラブ。もしかして、ズボンがずってるのかよい」

 

 マルコの声にのせられて、メルの顔もラブの方へと向く。

 

 そして、メルは「あ」と零しそうになった。

 

 そう言えば、このドジっ子。

 あの場で、派手にベルトを壊してくれていたのだということをメルはすっかり忘れていたのである。

 

 ラブは未だに片手でずりそうになっているズボンを押し上げている。

 

 ラブが履いているこのズボンはジジィのお下がりなのだが、食が細くて腰周りも細いラブにはどうも大きかったらしい。

 

 ジジィがラブの腰周りを試しに測ってみたら、「ニャァアアアッ! ラブ、お前細すぎるよォ!」と騒いでいたので、もしかしたら奴はメルよりも腰が括れている可能性がある。

 

「さっきベルトが壊れちまって·····」

 

 眉根を垂らして無念そうにそう言うラブを、実は世話焼きなマルコは見逃せなかったらしい。

 

「あとで、昔使ってたベルトを貸してやるよい」と慈悲をラブに差し出していた。

 

 これにラブは、何とかこの情けない状況から脱せられると喜び、マルコにキラキラな笑顔を見せてお礼を言っていた。

 

 子供の純粋なお礼に対して免疫が無いらしいマルコが首筋を赤くして照れている様を見て、周りでやり取りを見ていたサッチや他のクルー達がニヤニヤと厭らしい笑みを口元に浮かべていた。

 

 恐らくは、これで当分からかい倒してやろうと算段をつけているのだろう。

 

 そんな意地汚い大人達を見ながら、メルはそう言えばとふと思い付いたらしい疑問を口にする。

 

「あの、皆さん。皆さんってどんなパンツ履いてますか?」

 

 そう、それはさっきのあの思い出したくもない間抜けな騒動の争点となったパンツ問題に纏わる疑問だ。

 

 メルとしては、ラブにはハート柄以外のパンツを履いて欲しい。

 

 だが、何度言ってもハート柄のトランクスばかり買ってくるのがラブだ。

 

 同じことを延々と繰り返していても無駄だと分かっているだけに、歯痒い気持ちを抱いていたメルは、ここでふと凄くくだらない天啓を獲得してしまったのだ。

 

 まぁ、他の男の人がどんな柄のパンツを履いてるのかもメルは個人的に興味があるのも事実であるが───。

 

 だが、それとは別にもう一つの思惑がメルにはあった。

 

 女のメルが勧めるからこれまでは効果がなかったのではないか。

 

 ってことはもしかしたら、他の男の人からハート柄以外を勧められたら、他の柄のパンツもラブは履いてくれるのでは?

 

 そんなメルの計算もあって、巻き込まれたのがこの男達だ。

 

 問題の核でもあるラブも含めて、皆が一様に固まっている。

 

 あの飄々とした風貌のサッチでさえ、ヒエヒエの実で凍らされたように硬直しているのであった。

 

 先ず不幸なことに、一番乗りで我を取り戻したのがマルコである。

 

「ぱ、パンツ?」

 

「そうです。パンツです」

 

 聞き間違えではないかと一縷の望みを抱いてマルコが聞き返すも、メルは至極真面目な顔をして頷く。

 

 マルコは更に頭が混乱した。

 

「分かった。パンツだな、マルコは縦縞───うおっ!」

 

 次に硬直から解けたのはサッチであったが、彼は躊躇なく隣にいた同僚を売ることにしたらしい。

 

 混乱していながらも自分のパンツを公表されるという脅威的な未来を防ぐために、マルコからは俊敏な蹴りがサッチに向かって繰り出された。

 

 それを危機察知能力でもって回避したサッチは、珍しく口の端を引き攣らせた顔でマルコを見返す。

 

 あと少し遅ければ、肋の一本は持っていかれていた。

 パンツ如きで、サッチはそこそこの重症を負いそうになったのだ。

 

 そのことを理解して、サッチのこめかみに珍しく青筋が立った。

 

 どう考えてもお門違いな怒りなのだが、頭に血が上っているサッチには最早、まともな判断を求めることが出来そうにもない。

 

 そんな二人のやり取りを見て、海軍相手でもマルコはあんな早い蹴りを繰り出すことは無かったよなとクルー達が目配せし合う。

 

 どうやら、唯一まともな思考が残っているのは彼らだけのようであった。

 

「おい、リーゼント。手前ェ、覚悟は出来てんだろォな」

 

「なに、ちょっとしたジョークじゃねェか」

 

「コイツの勝負下着は、無地の黒よい」

 

「おまっ!? 純粋な子供たちを前に何言ってくれてんだ!!?」

 

「サッチさんは、無地の黒っと·····ん? ショーブシタギ?」

 

 ラブとしては、メルの前でなんてことを言ってくれるんだ!と大変遺憾な気持ちであるのだが、メルの不思議そうな口振りにとてつもなく嫌な予感がした。

 

「ねぇ、ラブ。ショーブシタギって何か知ってる?」

 

 そして、ラブの嫌な予感は外れることなく見事的中した。

 どうして、こんな訳の分からない飛び火が自分の所に向かってきたんだろうかとラブは一瞬遠い目をした。

 

 しかし、なにそれ?と純粋そうに首を傾げて、メルはラブのアンサーを待っている。

 

 そんな子供の無垢な眼差しを受け、記憶を取り戻して、大人のあれこれもしっかり思い出しているラブの目は、挙動不審なくらいキョロキョロと泳いでいた。

 

 その反応を見て、他の大人なクルー達は察した。

 

 ───あの餓鬼、一丁前に色事に通じてやがると。

 

「お、おれもまだ知らねェよ」

 

 そして、洋々と無難にシラを切るラブにクルー達の冷たい視線が降り掛かる。ラブにしてみれば、奴らからそんな目で見られる筋合いは全くもってないのだが、今はメルを誤魔化すので精一杯なのでそこまで彼は気が回らない。

 

「んー、ショーブって勝負のことだよねーきっと。まぁ験担ぎみたいなものかな·····ラブ、その勝負下着くらいはマジでハートパンツは止めてよね」

 

 どうにかうまい具合に誤魔化せたと思っていたら、何故かとんでもないボールがラブのもとに返ってきた。

 

 ラブはもう半泣きである。

 何が悲しくて八歳の女児に勝負下着のことまで言われなければならないのだろうか。

 

 そんな風にラブがメルから一方的に男としてのあれこれを抉られているそばでどうしようもない大人二人(マルコとサッチ)は最早、子供の前だということも忘れて戦いをヒートアップさせていた。

 

「このっ、縦縞! お前のはいっつも思ってたんだけどな、オヤジくせェんだ!! 女の前で履く機会もないからあんな枯れたセンスなんだろうな!!」

 

「煩ェよい、この万年発情期が。俺には手前ェと違って節度があるよい」

 

「ハッ! 何が節度だ、笑かしやがるぜ。お前の好みはこの前にバッチリ把握してんだからな。意外とオーソドックスな趣味しやがって、このスケコマシが」

 

「·····女ならば、何でもいいお前とは違うだけよい」

 

 会話内容はとてつもなくくだらないが、彼らはこの阿呆丸出しな話をしながらも器用に殴ったり蹴ったり、躱したり受け流したりと動き回っていた。

 

 隊長というリーダー職に就いているだけあって、その身のこなしは実に洗練とされているのだが、会話内容があまりに残念すぎて、クルー達はなんだか悲しくなってきた。

 

「·····マルコさんもサッチさんも、もうそもそもの話を忘れているよな」

 

「あの二人もよくやるよ。あんな風に喧嘩するくせに、どうせあと少ししたらまた連んでるんだろうぜ」

 

「多分、あれも二人にとったら一種のコミュニケーションなんだろうよ」

 

 置いてきぼりの洗濯籠をちゃんとまだ抱えているクルー達は口々にマルコとサッチの複雑なようで、案外単純な仲について語らう。

 

 因みに、マルコとサッチが抱えていた籠はとっくのとうに壁の方へと置いてかれていた。案外、奴らもちゃっかりしている。

 

「あの、皆さんはどんなパンツ履いてますか?」

 

 ラブがこれ以上メルに変な知恵を付けさすまいと、メルの両耳を塞ぎにかかるが鬱陶しいとピシャリと跳ね除けられてしまい、彼は今、廊下の端っこでのの字を書いている。

 

 なんだか最近、メルが冷たいような気がするとラブは思う。

 もしや、早めの反抗期なのだろうか。

 

 いや、そう言えば、ローだってラブを邪険に扱っていた時期があった。

 

 子供というものは、とても心が移ろいやすいものだとラブはちょっと袖を濡らしそうになっている。

 

 場は混沌としているがクルー達は既にもう平常心を取り戻しており、たかだかパンツ云々で取り乱したさっきの自分たちの方がそもそも可笑しかったのだと思い直していた。

 

 よくよく考えれば、暑い気候が海上で続いた時はどいつもこいつもパンツ一丁で彷徨いていることもある。男所帯なことに甘えて、結構ラフな格好をしている輩も規律がしっかりと敷かれているこのモビールディック号にはいる。

 

 そういう事情も踏まえて彼らは、実に素直にメルに自分たちが今履いているパンツの柄について教えてくれた。

 

「オレは肉球柄」

 

「迷彩」

 

「海月だなぁ、今日は」

 

 そもそも、下半身事情には開けっぴろげなのが海賊である。

 わざわざズボンのゴムを引っ張って、パンツの柄を見せてくれたクルーもおり、メルは大層勉強になると喜んだ。

 

 大人のパンツを見て喜ぶ女の子というのも大層奇妙な光景である。

 しかし、ここは新世界。

 そういうこともたまにはあるのかもしれない。

 

「で、メルちゃん。これは普通に疑問なんだけどよ、なんで急にパンツの柄なんか聞いてきたんだ?」

 

 何故こんな質問をメルがするのだろうと、至極真っ当に気になったクルー達に、メルはまだ隅っこでのの字を書いているラブを指さす。

 

「ラブってハートパンツしか買ってこないんですよ。この二年間、大小色違い実に様々なハート柄を見せられて、飽きを通して何故か嫌気がさしてきたんですよねー」

 

「嗚呼。だから、オレ達に柄を聞いて、あわよくばラブにその柄を勧めてくれと」

 

「その読み通りです」

 

 クルー達はこの珍妙な事態の真相を聞いて、とても納得した。

 どうしてメルがラブのパンツに拘るほどに彼のパンツを見ているのかは分からないが、二人は実の兄妹のように仲が良いからまぁそういうこともあるだろうと流す。

 

 彼らは、それよりもとメル達から視線を離して、まだ互いに猛攻を繰り出しているどうしようもない大人達を見やる。

 

「大体、口説く時に料理を使う癖はそろそろ治したらどうだよい」

 

「お前も落とす時に、女の子の髪を触る癖を直した方がいいんじゃねェのか」

 

 まだまだ続きそうな終わりのないしょうもない戦いは、もう見るに見かねないとクルー達は判断を下して放っとくことにした。

 

「まだ、マルコさん達喧嘩するのかな。マルコさんだけ聞けてないんだけど」

 

「アイツは、縦縞だよ。基本シンプルなもんしか履かねぇから、マルコは」

 

「あー、それっぽい·····」

 

 そして、サラッとクルー達によってマルコは己のパンツの柄をメルに暴露されていた。

 

 当初はこれをバラされたくないがために喧嘩をおっぱじめた筈なのだが、既にあの泥仕合に守りたい大義などあるはずも無い。

 

「洗濯するなら、手伝いますよー」というメルの有難い申し出を受けて、クルー達は二人が放り出した籠をメルとラブそれぞれに任せることにした。

 

 ラブはまだ心の傷が塞がっていないようだが、これからお世話になるのだからと気力を振り絞ってメルと共に洗濯のお手伝いをすることになったのである。

 

 ───その日、マルコとサッチのパンツはメルの手によって仲良く横並びで干されることになった。

 

 




この話の一番恐ろしいところは深夜テンションではなく、朝のテンションで閃いてしまったところです。賀楽多屋、吃驚。

オヤジの次に包容力のあるマルコさんですが、多分30代前半はくだらない争いだってしていたはず。同じくサッチもそうだったはず。

ですが、久しぶりにここまでくだらない話を書けて楽しかったです。

マルコは絶対在り来りなパンツを履いてます。
サッチはトランクスっていうよりボクサーな気もしますね。
ビスタは腰巻って感じがするんですよね。案外、ヌーディストじゃないかと彼にとっては傍迷惑な印象を押し付けています。
あと、イゾウは褌だと信じてます。

白ひげにはステテコを履いていて欲しいです。
だって親父だもの。ステテコ姿でお酒を飲んでいたとしても、きっと格好良い·····はず!

今回だけで、何回パンツって打ったんだろ·····。

サッチとマルコファン、それから尾田先生には深く謝罪させていただきます。



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