届けさせてください!   作:賀楽多屋

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No.1突発的(不定期)前書き連載【新人の洗礼】

イゾウ「そう言えば、ラブ。お前、歓迎会のあれ考えたか?」

ラブ「……あれ?」

イゾウ「あれだ、あれ。一発芸」

ラブ「……一発芸?」

イゾウ「おう。歓迎会っつーのはお前らみたいな新人共のためにやるるからな。俺らが手前の個性を知るために毎回やって貰ってんだ。これが案外毎回盛り上がってな。親父も結構、楽しみにしてんだぜ」

ラブは 冷や汗が 止まらなくなってきた

イゾウ「だから、変なもん見せんじゃねぇぞ」

イゾウは ニヤニヤ 笑っている

クルー1「(あ、またイゾウさんが新人に歓迎会の無茶振りしてる)」

クルー2「(歓迎会の一発芸ってイゾウさんが言い始めたんだよな。故郷だと定番だったからつって)」

ハルタ「(俺も昔、やらされたな)」


今に見てろよ、海軍大将ども!

 突如、メルとジジィの前に現れた爆走自転車。

 その自転車を既のところで人々が躱していることは、奇跡以外の何物でもない。

 

 そのトンデモ自転車の乗り手である男の子は号泣状態で、ハンドルにどうにかすがりついている様な有様だ。

 

 ブレーキは引っ張ったままのようだから、もしかしたら壊れているのかもしれない。

 

 あの様子では、自力で自転車を止めることも出来なさそうだ。

 

 ペダルから足を離していても、坂道のせいで減速することの無い自転車が向かう先は、爆走自転車に気づいていない人の群れである。

 

 どうしようと、完全に休日気分で頭が回らないメルの片手からジジィの手が離れる。

 

 あっと離れた手を惜しむようにメルがジジィに手を伸ばそうとしている合間に、ジジィはデッキブラシを地面に置いて、自転車の前へと立ちはだかった。

 

 ジジィは両手を前に突き出して、完全に自転車を止める構えを取っている。

 

 そして、爆走自転車がジジィのすぐ目の前まで来るや、ジジィは自転車の籠を両手で支え、足元は不協和音を響かせながら勢いよく自転車の反動を受けて下がっていく。

 

 歯を食いしばって自転車を止めようとするジジィの口からは猫特有の唸り声が響いており、乗り手の少年はそんなジジィを見て泣き腫らした目を見開いている。

 

 その刹那、ジジィの両腕から炎が上がったように見えたが、今や誰もそんな些細なことに目を取られておらず、ジジィと自転車の攻防を固唾を飲んで見守っていた。

 

 そして───人混みから数メートルという所で、爆走自転車が動きを止めた。

 

 子供用の小さな自転車の割には、良くもこれ程の力で道を爆走していたものだと実際に留めおいたジジィは冷や汗を拭う。

 

 靴が若干すり減っているような気がすると、靴の裏をジジィが確認していると例の乗り手である少年が、足元おぼつかなく自転車を降りてくるや、ジジィに勢いよく頭を下げた。

 

「と、止めてくださり、ありがとうございましたッ!!!」

 

 綺麗な九十度のお礼に、何故かジジィがたじろぐ。

 

「う、うん。平気そうで良かったよ」

 

 そのジジィの言葉を受けて、なにか感銘でも受けたのか少年は目と鼻から大量の汁を流した顔で、またうううと泣き始める。

 

 これ以上、目前で泣かれては構わないとジジィはポケットからハンカチを取り出し、少年の顔を拭ってやった。

 

 ジジィがそうやって少年を宥めていると、メルがふんすとご立腹顔で二人に近づいてくる。勿論、途中でデッキブラシを拾うことも忘れない。

 

「ジジィ! 例え、子供の乗った自転車といえどもね、あんなにスピード出てたら轢かれ兼ねないんだよ!」

 

 もうっと、地団駄踏んでまで怒っているメルに、ジジィが「そうだねェ」と気のない返事をするものだから、更に彼女の怒りが煽られる。

 

 ジジィからしてみれば、今すぐにメルの力を借りてこの少年を泣き止ませたいところであるのだが、如何せんそのメルが今は自分を必死に説教しているところだ。

 

 とんでもない八方塞がりだなとジジィは思いながらも、そのメルの怒りを無碍にするのもなんだか忍びない。

 

 それから、少年が泣きやんで落ち着いたのと、メルが我を取り戻して説教をやめるのはほぼ同じぐらいのタイミングであった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ぼく、コビーっていいます。きょうはたまたまおばあちゃんの家に来てて、それで海軍のぐんかんが凱旋するっていうのをさっき聞いたから慌てて自転車にのって。そしたら、ブレーキが壊れてたみたいで全然とまらなくて」

 

「私はメルだよ」

 

「ボクはジジィ」

 

「え? ジジィって本名なんですか!?」

 

「そうそう、ちょっと変わってるよねー」

 

「変わってるところじゃないと思いますけど……」

 

 ピンク色の頭が可愛らしい、ふくふく顔のその少年は、コビーという名前だと言う。

 

 拙いながらもどうしてこんなことになってしまったのかを説明する少年によって、漸くメルとジジィはこの人混みの先にあるものを知った。

 

「それにしても海軍の凱旋かー。何かめでたいことでもあったのかな」

 

「ボクはそれを聞いて、一気に見る気が失せたよ」

 

 海軍を超お得意様にしているメルは、呑気に海軍ならこんな派手なことをしても可笑しくないと考え。

 

 色々と海軍に思うことがあるジジィは、うんざりとした顔で目元を覆っている。

 

 そんな二者二葉の反応にも構わず、コビー少年は夢見るように両手を組む。

 

「ぼく、将来は海軍しょうこーになることが夢なんです。なので、どうしてもそれが見たくて」

 

 コビーのその微笑ましくも子供らしい将来の夢は応援したくなるような無垢さで溢れている。

 

 だが、この場にいるのは海軍の酸いも甘いも見知っているメルと海軍を毛嫌いしているジジィだ。

 

 そんな少年の夢は、儚くも盛大に水を差されてしまう。

 

「海軍なんて止めた方がいいよ。海賊よりも悪魔みたいな人もいるし、直ぐに暴力で解決しようとする脳筋ばかりだし。彼処で成り上がれる人間は、かなりの根性曲がりだけだよ」

 

「そうだよ。止めた方がいいよ。世界政府とか海軍とか、真っ暗でドロドロした所じゃなくて、配達屋さんとかパン屋さんにした方が絶対いいと思うな」

 

「……あっ!! ね、猫がしゃべってる!!?」

 

「今更驚かないでよ!!?」

 

 コビーはかなり天然気質なのか、漸くジジィが猫のミンク族であることに気がついたらしい。

 

 目を見開いて、顎を落とし驚くコビーの様にジジィが間髪入れずにツッコんでいる。

 

 こういう驚かれ方はジジィよりもメルの方が慣れているらしく、「こういうことも世の中にはあるんだよ」と謎の諭し方をしていた。

 

「で、コビー。海軍の凱旋見たいの? 見たいなら連れてってあげるよ」

 

 あまりミンク族のことを引っ張られるとジジィの心が荒んでしまうので、手っ取り早く話の流れを変えようと彼の本命について尋ねてみるとあっさりと「そうだった!」と人混みの方へとコビーは顔を向ける。

 

 しかし、花火も多方上がり切ってしまっている今。

 これから、人ごみを掻き分けて海の方へと急いだところで間に合うだろうか。

 

 コビーの脳裏にそんな不安が一瞬にして過ぎる。

 

 そんな彼の葛藤を見て取ったメルがニヤリとイタズラ気な顔をした。完全にしょうもないことを思いついたような顔をしているが、まだメルと付き合いが浅いコビーにはそれが不幸なことに分からない。

 

「コビー君。私が海軍の所まで連れて行ってあげるよ」

 

 そして、立て続けにメルはデッキブラシに颯爽と跨って、コビーに「乗って」と声を掛けた。

 

 勿論、何故そんなことを言われたのかが分からないコビーは不思議そうに首を傾げる。普通の人間ならば、至極当たり前の反応だ。普通、デッキブラシに乗って空を飛ぶことが出来るなどとは思わない。

 

 どういうことなんだろうと思いながらも、此処はメルの言う通りにした方がいいのだろうかと目に見えて彼は悩み始める。

 

 そうやって、オロオロしているコビーに『時は金なり』と教育されているメルの目付きが段々と穏やかじゃなくなってくる。

 

 そして、全体的にノロノロと行動しているコビーに業を煮やしたメルは、とうとう声にドスを利かせて「乗って」と催促した。

 

 この八歳児の脅迫じみた声も五歳児には効くらしく、コビーは慌ててデッキブラシへと跨る。

 

「じゃあ、腰に手を回してよく掴まっててね」

 

「え、それはどういう……」

 

 メルの言葉の真意が分からなくて、聞き返すコビーの両足がふわりと地面から浮かび上がる。

 

 コビーの頭上に一瞬にして大量のクエッションマークが浮かび上がった。

 

「……へ?」

 

 コビーがモタモタしている間に風を呼び込んでいたメルは、柄の先に買ったばかりの紙袋を揺らして、デッキブラシを空へと旅立たせる。

 

 ぶわりと毛羽立つブラシの部分を下にして、その場から弾丸のように飛び出したデッキブラシに驚く暇もなくコビーはメルの腰元に縋り付く。

 

「え? え? メルちゃん!? 空を飛んでるんですか!?」

 

 恐る恐る開いた視界に映るのは豆粒となった人の群れで、前方には広大な海が広がっている。

 

 まさかこの角度から水平線を臨むことになるとは思わなかったとコビーが肝をキンキンに冷やしていると、更にメルが遊ぶように空飛ぶデッキブラシを蛇行させる。

 

「ウワァァアアアッ! し、死にます! 死んじゃいますよー!!」

 

「大丈夫だいじょーぶ。人間、こんなことじゃ死なないよ」

 

 一応、花火に当たらないように気をつけながらメルは運転しているのだが、半分ほど錯乱しているコビーは近くで鳴る花火に気が気じゃないらしい。

 

 メルの腰をぎゅうぎゅう締め付けながら、ギャーギャー喚いているさまがこれまた、あの静かに酔っているジジィと違って面白くて、メルはつい笑い声を上げた。

 

「わ、笑い事じゃないですよー!」

 

 そんなメルを見て、コビーが冗談じゃないと訴えてくるのまた面白くて。

 

 こんなにからかいがあるのは、ラブ以来だなとメルは遠くの海に置いてきた使い魔についつい馳せてしまった。

 

「ほら、彼処に海軍の軍艦があるよ───あの舳先に犬の顔を掲げた艦隊ってどっかで見たような」

 

 楽しい思いをさせてもらったからと、目的地である海軍の軍艦の方をほらと指さしてみれば、どうも見覚えのある軍艦も同時に見つけてしまった。

 

 しかし、そんなメルの思考を遮るようにコビーの嬉しそうな声が背後で上がる。

 

「本当だ! うわぁ、地上から見ても大きいとは思ってましたけど、空から見ても海軍のぐんかんって大きいんですね! あの先頭を行くぐんかんの帆にはなんて名前が書いてあるんでしょう? おそらく、あそこに乗っている人のがいせんだと思うんですけど」

 

 海軍の将校になりたいだけあって、色々と詳しいらしいコビーにメルはへぇと声を上げる。

 

 もしかしたらこの少年、そもそも海軍オタクなのかもしれない。海軍が市民のヒーローであることを殆ど忘れているメルからしてみれば、奇特な趣味である。

 

 コビーの詳しさに感嘆の声を上げながらも、あまり目が良くないらしい彼の代わりに、メルは読み上げてやることにした。

 

「モーガン、かな? 知らない人だ」

 

「ぼくも知らないです。あ、でも彼処の犬の顔を舳先に掲げたぐんかんなら誰のものか分かりますよ。あれはゴール・D・ロジャーと幾度も戦ったほまれたかき英雄、ガープ中将のものです」

 

「……あのおじいちゃん、流石に今回は普通に任務があって出歩いているんだよね」

 

 どこかで見た事のある軍艦だと思っていたら、ガープ(金蔓)のものだった。

 

 マリンフォードから此処まで来ているということは、また暫くはあちこちを流離う予定なのだろう。

 

 当分は荷物を届けに行っても居ないようだから、ガープ宛の依頼が無かったら良いんだけども。

 

「あ、あの。メルちゃん。かいぐんの人達がすっごくボク達を見て騒いでいるみたいです」

 

 メルが思考の海に潜っていると、水上では大きな動きがあったらしい。

 

 甲板上にいる雑用と書かれた服を着た海兵全員が、メル達を見上げては口々に何やら騒いでいるようだ。

 

 肩をコビーに叩かれて漸くその動きを把握したメルは、あの見慣れたスピーカーを構えた正義のコートを羽織った人物を見て、進路変更を余儀なくさせる。

 

『そこのデッキブラシの少女と少年。今すぐに此処まで降りてきなさい。これは、公務執行妨害に成り得る』

 

「なるほど、今回は凱旋だから公務執行妨害になり得るのか」

 

「メルちゃん! そんなにのんびりしてる場合じゃないですよ!」

 

 久しぶりに海軍の勧告を受けたと思えば、今回は少し質が違うようだ。

 

 確かに今日は海軍イベントの頭上を飛び回っているのだから、公務執行妨害とかいう長ったらしい罪状がついても仕方がないかとメルが納得している傍らで、背後のコビーが大変なことになってる!? と大騒ぎだ。

 

「まぁ、慌てない慌てない。今から、助けてくれそうな人の所にいるんだからさ」

 

「助けてくれそうな、人ですか?」

 

 しかしメルにもちゃんと策があるのだと宥められてしまえば、コビーもこれ以上言葉を連ねることも出来ない。

 

 本当にそれらしき当てがあるのかと穿った目を向けるも、前に居るメルは至って飄々としていた。

 

 コビーは、メルのその余裕綽々とした態度を信じることにして、彼女の肩口からこれから向かう先へと目を凝らした。

 

「……メルちゃん。もしかして、あそこに向かってるんですか?」

 

 コビーが平坦な声で指した先にあるのは、舌を出したブルドッグがでんと構える伝説の英雄が乗り込んでいる軍艦だ。

 

 そのコビーの言に、メルが「そうだよ」となんてことないように首肯した。

 

 どうやら、メルが当てにしているらしいその人はあの軍艦に居るようだ。

 確かにガープの軍艦に乗れるような人ならば、この絶体絶命の状況も助けてくれるだろう。

 

 これなら安心安心───と長いこと、現実逃避をしたコビーが待ったの声を上げた。

 

「め、めめめめメルちゃん!! あれ、ガープ中将のぐんかんですよ?」

 

「ちょっと強面だけど、どっかの独身貴族共と違って話の分かる人だからそんなに心配しなくともいいよ」

 

 やっぱり、信じちゃ駄目だったかもー!とまた一人祭り状態のコビーを置いて、メルはと言えば強面の上に根性曲がりな独身貴族共を思い浮かべてしまい、歯をギシリと鳴らしていた。

 

 ───いつか、絶対ギャフンって言わせてやるもんね。

 

 あのトラウマ達も、ここまで彼女から恨みを買ってるとは思うまい。

 

 今頃、自室で盆栽と戯れているか、それとも仕事をほっぽり出して水上自転車の旅を決行しているのかは定かではないが、二人は近年、くしゃみをする回数が増えたのだと零していたと言う。

 

 

 

 




本当はこの話で箸休め回は終わる予定だったのですが、無駄に長くなってしまいました。

さて、魔女宅成分にほんの少しだけワンピース成分を混ぜるためにコビー少年の登場です。まだ五歳だからトレードマークの眼鏡はしてないかなーってことで掛けさせてませんが。

トンボ少年の役をコビーにしてもらったのですが、完全に雰囲気と勘で選抜させてもらいました。


最近はそこそこ良い男になって、大佐にまで上り詰めたみたいですけど。

そう考えると本当に海軍って出世早すぎませんか?
だって、まだコビー君18歳だよ? 高校三年生だよ?

いや、年齢やら身長やら気になり始めたらキリがありませんね。

出世して強くなっても、感動屋で甘ちゃんなコビーが好きです。
お願いだから、現元帥に毒されないでくれと思いつつ。
ただ、あの元帥も私は好きです。早々に話の中にぶちこむくらいには好きですよ。

自転車繋がりでもうおひとり方も考えましたが、メルに会わせるとまた錯乱しかねないので止めました。


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