ラブは 思い詰めたような顔をしている
マルコ「どうしたよい?」
ラブ「あ、マルコ……マルコはさ、どんな一発芸を見せた?」
マルコ「(またイゾウの奴か……)オレは、フェニックス一本釣りだよい」
ラブは あまりの衝撃に 言葉が出ない
ラブ「(あのマルコがそこまで体を張ってんのか!?)」
ビスタは ニヤニヤしているマルコを見て 珈琲を飲んでいる
ビスタ「(マルコもあれで質が悪いからな)」
メルの怒りをエネルギーに加速するデッキブラシの飛行に、コビーも振り落とされまいと必死にメルの腰に縋り付く。
そして、やってきたガープの軍艦上。
船首に仁王立ちして一等偉そうに腕を組み、犬の顔を模したような被り物を付けているのはどっからどう見ても見慣れたガープの姿である。
そんなご機嫌なガープの姿に、なんであんな浮かれた格好をしているんだろうとついメルも小首を傾げてしまう。
ガープはメルの到着を分かっていたようで、手を振ると振り返してくれた。隣に控えているボガードはいつもの如くポーカーフェイスで、メルがこんな所に居たとしても全く動じる様子がない。
メルとコビーがガープ達の前まで来ると、やおらガープは口を開いた。
「もしや、わしにまた荷物が届いたのか?」
ガープはメルが荷物を配達しに来たのだと勘違いしているらしい。
いつもメルがガープの下に現れるのが仕事の時ぐらいなので、彼がそう思い込んだとしても仕方が無いことであった。
「違いますよー! 今日は、友達と海軍の凱旋を見に来たんです」
「ほほぉ、殊勝な心掛けじゃな。流石、メルじゃ。どうじゃ、煎餅でも食べるか?」
メルが友達と遊びに来たと知って、一層嬉しそうな顔つきになったガープは、徐に胸元から『お得用煎餅』と書かれた袋を取り出すや、ほれとデッキブラシに乗って浮いているメルに向かって袋の口を向けてくる。
「あ、ありがとうございます。良かったね、煎餅貰えたよ、コビー」
「……いやいやッ!? これ、どう考えても可笑しいジョーキョーですよ!?」
「コビーってバリッ、子供なのに頭でっかちだよね。あと、そのバリッ、坊ちゃん刈り似合ってないから止めた方がバリッ、いいよ。それと、運動もね。海軍ってバリッ、超体力仕事だから」
「メルちゃん、さらっと毒づきますね……。せめて食べるか喋るかどっちかにしましょうよ」
ガープからいそいそと煎餅を貰って盛大にツッコミを入れてくるコビーを貶すメルに、コビーが堪らずにボヤく。
そんな二人のやり取りに、ガープはガッハッハッと笑い声を上げた。
「そこの小僧はバリッ、海兵になりたいのか」
「奇特なことにバリッ、そうらしいです。頑張れ、コビー。君の上司がマグマ人間か氷人間だったらご愁傷さまー」
どうしても、メルはこの期に及んであの大将二人への愚痴が止まらないようだ。
どんどん目が死んでいくメルを幸いなことに、背後に乗っていることもあってその姿を見ることが出来ないコビーはメルの目を見ずに済んでいる。
そんなメルとは打って変わって、ガープはと言えばよしと齧りかけの煎餅をコビーに向けた。
「その心意気や良し! バリッ、海軍に来たらわしが指導してやろう」
そして、まさかのあの英雄からの直々のご指名である。
たとえ、ガープが単細胞で孫馬鹿で脳筋主義だとしても、コビーにしてみれば、彼は天上の人。
コビーはあまりの光栄さに顎を外して、再度その意味を問うた。
「ガ、がががガープ中将自らですか!?」
「そうじゃ。小僧を立派な海兵にしてやる」
そして、ガープからしっかりとした返事を貰ったコビーは急な展開についてこない頭をどうにか働かせて、何度もガープの言葉たちを胸中で反芻する。
これぞ、棚からぼたもちと言うべきか。
いや、ガープ中将がくれようとしているのは煎餅だけども。
いきなり開けた海兵への道に、コビーは喉を詰まらせた。
今日、あの壊れた自転車に振り回された時は、なんて最悪な日だろうと気分を落としたりした。
だが今日この日は、最悪な日でありながらも最高の日という面も持ち合わせていた。
だって、あのガープ中将と縁が結べた記念する日でもあるのだから。
ガープの隣でボガードは、海軍の手先にされながらも大将二人にトラウマを持つ少女と、そんな少女にツッコミを入れながらもガープや自分に尊敬の念を飛ばしてき、純粋に海軍に憧れている少年をそれぞれに見比べていた。
死んだ目をした少女と興奮に目を煌めかせている少年が不思議な縁で繋がって、空を飛ぶデッキブラシに乗ってこの軍艦にまでやってきた。
こういう不思議なこともあるんだなと超常現象の塊であるガープの横に立ちながら、ボガードは思うのである。ちなみに、ガープ中将が調子のいいことをまた言っているが、これももう織り込み済みだ。
───どうせこの人は、この少年が入隊する頃には、この約束を忘れている。
ガープの忘れっぽさをよくよく思い知っているボガードは、コビーに僅かの同情を抱いた。
「ぼく、頑張って海兵になります!その時は、どうぞ宜しくお願いしますね」
コビーが拳を作り、ガープに頭を下げているのがボガードには不憫でならない。
そして、コビーはさっきから八つ当たり気味に煎餅をバリボリ食べているメルヘと話相手を変えた。しかし、コビー少年はメルの背後にいるので、やさぐれている彼女には気付いていない。
それどころか、このコビー。
彼は、メルに対してとんでもない勘違いをしていたのだ。
「メルちゃんって、海軍に凄く詳しいですよね。ガープ中将とも知り合いみたいだし。もしかして、メルちゃんも海軍志望なんですか?」
「ぐはッ!」
「なんじゃ、メル? そうじゃったのか。道理でよくわしの仕事を引き受けてくれるとは思っとったが、そうか。メルは海兵になりたかったんじゃな。よし、直ぐに手配してやろう」
「ちょっ!? それ、誤解! 私、海兵ノーセンキュー!! なる気なんてさらさらありません!!」
コビー少年による純粋な誤った推測に、メルはもう少しで煎餅を喉に詰まらせるかと思った。
しかも、その誤ちを本当だと真に受けた大人が一名、早くも暴走し始めている。
電伝虫を持ってこいとボガードに命令しているガープに、メルは慌てて割って入って顔の前で大きなバツを作った。
「私は、世界一の配達屋さんになるっていう夢があるんです。そりゃ、公務員職の海兵に憧れがないって言ったら嘘になりますけども。いや、やっぱり奴らが上司になるとか思ったら全然耐えられない……」
殉職と世界規模の転勤さえ許容できれば、安泰したお給金を貰える海軍はとても魅力的だ。
ジジィよりかはまだマシだとしても、お金に執着しているメルにしてみればその魅力に流されそうになったことは一回や二回どころじゃない。
だが、その度にトラウマ達を思い浮かべて我に返るのだ。
海兵なんかになったが最後、アイツらに扱き使われる羽目になるのだと。
死ぬよりも酷い目に遭わされそうだと無意識的に察しているメルは、寸でところでいつも海兵入りを思い止まるのである。
そんなメルの様子を見てガープは少々物言いたげだが、孫のように海賊になりたいと宣わなければいいやと思ったらしく大人しく口は噤み続ける。
それに、ガープは配達屋の彼女にかなりお世話になっている身だ。
だからこそ、その職を辞めろとも言い難く、彼はメルを海兵にすることは無理であると珍しく諦めようとしていた。
だが、今日のガープは一味違うのだとでも言うように、ピシャリと彼の脳内にある天啓が思い浮かぶ。やはり、この男に『諦める』なんて三文字はそもそも辞書に記されていないようだ。
「そうじゃ。メル、お主、海軍専属の配達屋になれば良いんじゃ」
さも良いことを思いついたと言わんばかりに、ガープは人差し指を立てる。
そう、メルの配達業を邪魔出来ないのであれば、その職を尊重した上で海軍と結びつけたらいい。
メルが海兵の帽子を被り、カモメ印のデッキブラシに乗っている様はなんて愛らしいのだろうか。
そうすれば、メルに黙って色々とやばいものを運ばせていることにも罪悪感を感じなくとも済むとまで考えてガープはホクホク顔だ。
そうやって一人悦に入っているガープに、メルはと言えばあからさまに口の端を引き攣らせていた。
───いつか、そんな末恐ろしい提案をされるだろうとは思っていたが、まさかよりにもよってこんな時に言い出すか、このお爺ちゃん。
ガープがガープたる所以を目の当たりにして、メルは思い知るのだ。
───やっぱり海軍上層部には自己至上主義しかないんだ、と。
何故か、ついでにと目前に開きかけている海兵への道に唖然としているメルを前にして、当のガープとボガードと言えば、それはそれは愉快そうに話をしている所だ。
「のう、ボガード。良案じゃろ」
「ええ。センゴクさんも泣いて喜ぶことでしょう」
「そうかそうか───ん? センゴク?」
ガープがメルを丸め込めるとは露にも思っていないセンゴクは、メルをどうにか海軍に引き入れてくれとボガードの方に頼んでいた。流石、元帥にまで成り上がったセンゴクと言うべきか。最もな采配と言えるだろう。
そして、その任務を快く引き受けていたボガードは、漸くその約束を果たせる時が来たかと両腕を組む。
彼とて、ガープに引き目を感じずに対等に会話し、それどころかたまに彼を利用しようと上手にガープを扱うメルは欲しい人材だ。
それに八歳にして、彼処まで頭が回るのなら上々。
万年人材不足と言われている海軍にとって選り好みしている余裕などないが、それでも優秀な人材を手に入れたいと思うのが上司としての性。
最早獲物にさえなっているメルは、味方の陣地に飛び込んだかと思えば、そこは敵の陣地だったのかと今更ながらに察して冷や汗を垂らす。
───あのボガードさんですら、今回は敵だよ……皆、私のことを買い被りすぎなんだよね。正直、戦闘になったら私なんて全然使い物にならないし。
「すごいですよ! メルちゃん! 海軍からの直接オファーですよ」
しかも、背後ではしゃいでいる少年でさえ、今や敵も同然。
いつの間に背水の陣なんか敷いていたんだろうとメルが眉根を垂らす暇もなく、ガープがさぁと言わんばかりに手を差し伸べてくる。
「海軍も悪くは無いぞ!」
ガープの、その差し伸べた手を振り払われるとは思っていない傲岸さは、感服ものだ。
メルは、ガープから差し出された手を勿論掴むことなく、デッキブラシを上昇させた。
「ごめんなさい、ガープさん! 私、まだ誰のものになる気は無いの!」
お断りの言葉は、正々堂々と。そして、相手に期待を持たせないほどに完膚なきまでに叩きのめすのみ。
天晴と空を仰ぎたくなるほどにコテンパンに八歳児に振られたガープは、あまりの衝撃的な事実に頭が追いついてないらしい。
暫くガープは地蔵のように固まっていたが、メルとわーわー騒いでいるコビーの去りゆく後ろ姿を見て、彼は漸く我を取り戻した。
「わし、もしかして断られた?」
「物の見事に振られてました。現役の時でさえもあんな振られ方してないんじゃないですか」
「……ガッハッハッ! いやぁ、振られたわい。まだまだわしもいけると思ったんじゃがなァ」
いや、一応事実の把握はしているようだ。
それでもってなお、此処まで開き直れるのが彼の長所の一つでもある。
振られた振られたと笑っているガープ中将とそんな彼を呆れたように見ているボガードの下に慌ただしい足音が近づいてきた。
その足音の持ち主はこの軍艦に乗り込んでいるクルーの一人で、手馴れた手つきで二人に敬礼してみせると要件を述べた。
「中将! モーガン殿からあの少女について問い合わせが来ております!」
「手出しするなと伝えておけ。あれは本部も容認している子じゃ」
「はっ!」
それは本日の主役である、モーガン大佐からの問い合わせだったようだ。
昨日付でイーストブルーにある支部を受け持つことになった彼を祝うための華々しい凱旋には、もちろんそれ以外の理由が存在する。
「赤髪の奴ァ、まだいるじゃろうか」
「どうでしょう」
「わしの可愛い可愛いルフィを悪の道に引きずり込みおって、見つけたらただじゃおかんからのォ」
平和の象徴であるイーストブルーにて存在が確認されたその海賊は、元海賊王であるゴール・D・ロジャーの海賊船に乗船していたクルーだと言う。
賞金額もかなりの大台に乗り込んでいるし、何より見た目通りの優男じゃないことをガープは持ち前の野生の勘で見抜いていた。
「待っておれよ、赤髪。わしが捕まえるまで、下手な真似をすんじゃねェぞ」
そう言って歯を剥き出しにして笑うガープには、既に子供達と喋っていた時のような好々爺さはない。
可愛らしい被り物が気にならないほどの獰猛さを目に宿す様こそが、ゴール・D・ロジャーと何度も衝突したという英雄ガープの真の姿である。
赤髪シャンクス、後の四皇にまで上り詰めたその男は、早くも厄介なことに生きる英雄に目をつけられていた。
前書き連載は、扉絵連載好きの作者による趣味の塊です。
そのため、表記もゲーマーの性でちょいドラクエ風。
扉絵ばかりを集めた冊子『ONE PIECE DOORS』も刊行されていますから、私のようなファンはかなり居るはずです。
特に扉絵連載で気に入っているのは、『ミーツバロック』と『CP9の任務外報告』です。どちらもヴィランサイドのアットホームなお話なのでとても好き。
BWの社長もラジオ出演なさったかは不明ですが、もう名前だけ出しましたね。
CP9はまだちょっと出す予定ないです。え? それっぽい動物が登場してる? きっと見間違いですよー。
なんとか砂野郎さんとか、なんとか鳩野郎さんが絡む話って絶対陰謀絡みだから構想を練るのが難しいんですよね。