届けさせてください!   作:賀楽多屋

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早くも評価をありがとうございます。

宴を用意しなきゃ。


今度会ったら、丸焼きだッ!

 グランドラインを越えて、イーストブルーへと渡ってきたメルは、あともう少しでお届け先に着くと、口角を上げる。

 

「この海は海賊船が少なくていいなー。あの人達、何でもかんでも飛行物体は大砲でガンガン打ってくるし」

 

 海賊も立派な顧客なのだが、奴らは障害物になることがしょっちゅうある。

 

 そんなにもブラシデッキで空を飛ぶメルが珍しいのか、彼等はメルを発見するや毎度毎度飽きもせずに目を飛び出させて、物は試しにと言わんばかりに大砲を打ってくるのである。

 

 

 こういう所は、海軍の方がまだ幾分か紳士的だ。

 

 何故ならば奴らは大砲を打つのではなくスピーカーで、

 

『そこのブラシデッキの少女、今すぐに降りてきなさい』

 

 と勧告するだけなのだから。

 

 

 ───まぁ、最近はメルの情報も出回ったようで、海軍から勧告を受けることも少なくなってきたため、海軍からの被害は減ってきている。

 

 

 以前に、海軍本部内でこれみよがしに愚痴ったのが功を奏したのかもしれない。

 

 やっぱり、泣き寝入りは駄目なんだなぁとつい遠い目をするメルの視線の先には、立派な城壁に囲まれた国を背負うドーン島。小さな港を抱えたあの閑静そうな村が確か目的地のフーシャ村だった筈だ。

 

 風車が立ち並ぶ平原は、正に平和そのもの。

 風車を回している風が平原を駆け、野花が花弁を揺らしている。

 

 時間とは、こんなにもゆっくりとしたものだったかとメルが穏やかな気持ちになっていると、フーシャ村の背景に鬱蒼と広がる山の裾が見えてきた。

 

 高くも険しいその山は、確かこの島のランドマークにもなっていたコルボ山だったか。

 

 メルが頭の中に入っている地図を引っ張り出して、ウンウン唸っていると段々と島の輪郭が鮮明になっていく。

 

 

「うわぁ·····今まで訪れた村の中でも住みたい村ランキングナンバーワンに輝けるほどの長閑そうな場所。ああ、とっとと隠居したいィィイイ」

 

 つい要らぬあれこれも思い出して、齢八歳にして隠居したい等と宣うメルにツッコミを入れるように傍で飛んでいたニュース・クーが鳴き喚く。

 

 カモメの癖に洒脱な帽子を生意気にも被り、首から新聞の入った袋を下げているニュース・クーはメルの同業者だ。

 

 

「なによー、文句ある? ってかアンタ、お昼前だって言うのにまだ配達してるの?」

 

 彼(?)の鞄の中に入っている新聞の数を確認して、意地悪くメルは失笑してみせる。

 

 今し方、絶賛心がささくれ立っているメルにツッコミなど入れたせいで、散々に言われているニュース・クーだが、反論出来ないのか円な目でメルを見つめ続ける。

 

 女の子らしく、メルも小動物の眼差しには弱いようで一瞬怯むように彼女は顎を引き、吃ったような声で新聞は買わないと首を振る。

 

「な、何? 言っとくけど、私はコレがあるから新聞なんか取らないよ」

 

 それから新聞の代わりだと言うように、手元でぶらぶらしているラジオをメルはニュース・クーに見せつけるが、このカモメは知らぬ顔をしてメルを見続ける。

 

 メルの海を閉じ込めたような見事な碧眼とニュース・クーの庇護欲唆る円な目がガチンと交わること一分。

 

 

 白旗を上げたのは────。

 

 

「言っとくけど、今日だけだからね。新聞は購読するなってジジィに言われてるの。なんかセイジテキシソーを植え付けられるとかナントカカントカで」

 

 肩から下げているショルダーバッグから掌サイズの財布を取り出し、ベリーを取り出したメルは、ニュース・クーの鞄に入れてやる。

 

 そして、新聞を一部貰って、ハァと息を吐いた。

 

『買ってくれてありがとう』とでも言いたいのか、ニュース・クーは翼で敬礼する。

 

 それを見やって、メルはハイハイと適当に手で返事をし、ニュース・クーに早く別の所に行ってと促した。

 

 ニュース・クーが自分から離れていくのを見やって、メルは新聞片手に前を向く。

 

 

 目前に広がるのは、大きな大きな山。

 

 メルの眼下に広がるのは密林達で、いつの間にやら目先からあの長閑な村が消え去っていた。

 

 山っていうかこれ、ジャングルじゃねとツッコみながらもメルは、慌てて後ろを振り向く。

 

 振り向いた先にあるのは、小さくなったフーシャ村。

 

 今から係留しようと錨を下ろし始めた1隻の船を目尻に、メルは「通り過ぎたー!」と足をばたつかせて喚く。

 

「あのニュース・クー! 次見たら丸焼きにしてやるー!!」

 

 お門違いなことでプンスカメルは怒ってみせるが、そんなことをしている暇はないと思い直して、直ぐにブラシデッキを旋回させようとした。

 

 刹那ゴンッと鈍い音がして、柄から振動が伝わってきたことに驚いたのがいけない───メルは、つい柄から両手を離してしまったのだ。

 

 ちらとブラシデッキが何にぶつかったのかと確認すれば、かなり大きな針葉樹がすぐ側で聳え立っていた。恐らくは、これの幹にでもブラシデッキが当たったのだろう。

 

「って、そうじゃなくて!」

 

 腰元には既に、ブラシデッキの感覚などない。

 頼りを失ったメルを引き寄せるのは重力だ。

 

「え? へ? ギャァァアアッッ!!!」

 

 自分の視界いっぱいに広がっているのは、海とはまた違う青が広がる空。

 

 臓器がふわりと浮いて落下していくこの感覚は、まだあのブラシデッキに振り回されていた時に感じたものとそっくりで。

 

 ───ああ、やっぱり振り落とされたんだと自覚する間も、落ちていく体。

 

 

 メルは体に何回も衝撃を受けながら、最後はボフッと音を立てて奇跡的に落ち葉の山に落下した。

 

 次いで落ち葉が何十枚と宙を舞うその光景はなんとも滑稽で、遠くでブラシデッキと小包がガタンと落ちた音が聞こえてくる。

 

 流れるような失態の連続になんだか笑けてきそうだが、全身の痛みに呻くことしか今のメルには出来そうにもない。

 

「くっ·····私としたことが目的地を通り過ぎ、しかもデッキブラシから落下するとか。ジジィにバレたら殺される」

 

 イタタタタと一番被害を受けたらしい腰を摩りながら、メルは落ち葉の山から起き上がった。

 

 生理的涙が目尻を伝って落ちていくが、それに構っている暇はない。

 

 荷物の状態を確認せねばと鈍痛を我慢して、デッキブラシと小包の元へ足を動かす。

 

 分単位の時間を捧げて、覚束無い足で漸く目的地へと辿り着いたメルは宛先と送り人の名前が書かれた小包を触って、状態を確認する。

 

 この小包の中身は食料品と手紙だと聞いていた。

 

 食料品は小瓶に入ったものではなく、ただの干物らしいので多分大丈夫だと思う。

 

「ハァ、無事っぽいね───良かったァ。誰も悲しまずに済む」

 

 小包を胸に抱えて、良かった良かったと頻りにメルは呟く。

 

 そんなふうにメルが小包の無事を喜んでいた時、彼女の背後で枯葉を踏みしめるような音がした。

 

 その音を聞き逃すような真似をメルはしない。

 

 安堵の次に嫌な予感を胸に抱える羽目になったが、ゆっくりと背後を振り返ってみせる───どうか、この予感が的中しませんようにと祈りながらだが。

 

 振り返り、その踏みしめたモノを確認しようと目を凝らすメルに、目を瞬かせたのは大人程の体長を持つ大きな虎だ。

 

 大きな口の周りに生やした髭をピクピク動かして、こちらの様子を虎は窺っているらしい。

 

 

 ───うわぁ、超危機的展開。

 

 あまりの急な展開に一瞬にして顔面が蒼白になる。そもそもなんでこんな山に虎がいるんだという疑問を八つ当たり気味に思い浮かべて。

 

 メルはやけっぱちな笑みを、虎に向かって浮かべて見せる。

 

「ハァイ! 虎さん。私食べても美味しくないよ」

 

 この世は乱世。

 

 武力が物言う時代に生まれたメルだが、言葉だって立派な武器だ。

 

 運送業って思ったよか危ない職業で、これまでにメルは海賊に捕まったこともあるし、よく分からない秘密組織に追いかけられたこともある。

 

 今や超お得意様である海軍にだって、マグマで殺されそうになったこともあるし、氷漬け1歩手前までにされたこともあるのだ。

 

 ───あれ、海軍って市民の味方じゃなかったけ? 殺意のレベルが海賊より高い気がするんだけど。

 

 

 

 

 まぁ、そんなことは気にせずに。そういう危機的状況で、メルがぶっ放した武器というのが言葉だ。

 

 この幼い体を使って同情を誘い、時には挑発的に煽り、敵の上司を抱き込んだり、たまたま見つけた弱みを精一杯突いたり。

 

 ───あれ、やっぱりこんな世界クソッタレだッ!! なんで市民の味方相手に私はあんなに頭を使わなきゃいけないんだろう!!

 

 

 しかし、虎には言葉が通じない。だって畜生なんだから、人語を理解することなど出来るはずがないのだ。

 

 

「どいつもこいつも·····子供に優しくしやがれやァァアアアア! 私はこんなに精一杯生きてるって言うのに、あの人達ときたら。うう、泣きそう」

 

 懇親のメルの叫びは、最早虎だけに向けられたものでは無い。

 

 その次にボソボソと続いた愚痴など、完全に宛先はイーストブルーより向こう側にいる人間だ。

 

 ───だが、その八つ当たりじみた叫びはメルに救いを齎した。

 

 

「おりャァァアアアッッ!!!」

 

 勇ましい叫び声が上から降ってきたかと思えば、虎の脳天に鉄パイプが必中していた。

 

 そして、息つく暇もなく振り下ろされる鉄パイプの雨は、的確に虎の急所ばかりを狙い打ちする。

 

 その手馴れた鉄パイプの妙技にメルはぱちぱちと間抜けに目を瞬かせるが、それ以上にメルには受け入れ難い事実がその光景にはあった。

 

 うねるような黒髪の鉄パイプの彼は、自分と歳の変わらない少年だったのだ。

 

 ソバカスを散らした顔はどう見たってあどけない少年のもの。

 けれど、その殺意は今までメルが対峙してきた海賊や海軍にも遅れを取らない。

 

 華麗にステップを踏んで、留めだと言わんばかりに虎の腹を打ち上げた少年は、虎が白目を向いて命を手放したことを確認してから、ふぅと息を吐いた。

 

 まるで、良い運動をしたとばかりに鉄パイプ片手に汗を拭うその姿はあまりにも日常的な動作で、虎を殺した少年という非日常じみた事実と合わさって頭の奥が痛くなってくる。

 

「おい、こんな所で何やってる」

 

 そして、口調鋭く詰問してくるこの少年に、メルは大人達に接する時と同じ対応をとることに決めた。

 

 メルはヘラっとやるせなく笑って、空を指さす。

 

 

「空から、落っこちてきた」

 

 少年の眉根が、ピクリと上へ動いた。

 

 

 

 

 

 

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