ユニークアクセスも10,000を突破致しまして、私としては日に日に恐縮で小さくなっていくばかりです。
しおり、お気に入り、感想、誤字報告、評価など本当に沢山のものをありがとうございました。
このような形ですが、ONE PIECEファンの皆さんと繋がれたことが私としてはとても嬉しいです。
「メルちゃん、折角のお誘いを蹴って大丈夫だったんですか?」
「いいのいいの。確かに私の稼ぎの半分は海軍だけども、もう半分の諸々の顧客達の稼ぎだって必要だもの」
ガープの軍艦から逃げ出した時は、コビー少年がヤバいヤバいと姦しく騒ぎ立てていたが、何分経っても海軍からの追手がないと分かった途端、すんと落ち着いた。
そして、漸く静かにコビーと会話出来そうだと把握したメルは、それまでは彼の賑やかな慌てっぷりを静かに傍観していたが、そろそろ話しても大丈夫だろうと口を開く。
「それに、私嫌いなんだよね。一所に縛られるの」
その時の憂いを帯びたメルの声に、コビーは無性にドギマギとした。
心臓が不思議な程に暴れ回っていて、メルの腰元に回している手が熱くなってくる。
不自然な自分の状態をどうすることも出来ず、コビーはとりあえず潮風に当たって熱を冷まそうとメルから海の方へと紅潮した顔を背けた。
デッキブラシは街まで無事送り届けることが出来、子供達は地に両足をつける。
白昼夢を見ていたような浮き足立った気持ちを抱えながら、コビーは水平線の向こう側へと遠くなっていく海軍の軍隊を見詰める。
軍艦のマリンフォードの文字とカモメを掲げた帆が追い風を受けて膨らんでいる様を眺めるコビーの眼差しは西日を受けて揺らめいている。
また、あの軍艦に乗ろうと海兵になるための意気込みを新たにしているコビーはともかく、デッキブラシの持ち主は自分の養い親を探し回っていた。
「あれ、確かこの辺で別れたはずなんだけど……」
キョロキョロと周辺を見渡しても、二足歩行の猫の姿は一つも見えない。
ジジィの容姿はかなり目立つため、居たら直ぐに分かるんだけどなーとメルは首を傾げる。
そしてコビーの自転車もジジィと共に姿を消しているため、もう少し港の方面へ探しに行こうとコビーに声をかけようとして彼の方を振り向くと───どう見てもガラの悪いお兄ちゃん達に絡まれているコビーがそこにはいた。
「おい、少年。オレ達にぶつかってくるとはいい度胸してんじゃねェか」
「ママンは何処かな? お兄ちゃん、君が突っ込んできた足が痛ェんだよ。慰謝料払ってもらわねェとな」
「すすす、すみません!! ぼ、ぼくわざとじゃないんですッ!!」
───なんで、ちょっと目を離した隙にあの子はあんなことになってるのかな。
明らかに堅気には見えない男三人に囲まれているコビーは、滂沱の涙を流しながら許しを乞うている。
男達もコビーから慰謝料を貰えるとは思っていないようで、保護者は何処にいるんだと問うているが、意外とコビーも強情のようで謝罪以外の言葉は口にしない。
連れであるメルにも一切視線を寄越してこないし、五歳児でありながらメルを巻き込むまいと他人のフリをし通すつもりなのか。
そうやって、コビーが引き起こした厄介な騒動を見詰めていると、コビーに絡んでいた男の一人がメルの視線に気付いたのか、目を向けてきた。
メルがデッキブラシを持っているのに違和感を抱いたような表情をしたが、直ぐに企むようなニヤケ面へと様変わりし、「よぉ」と声を掛けてくる。
「なんだい、嬢ちゃん? もしや、これと友達かい」
メルにも絡み始めた男に、頭を何度も下げていたコビーが分かりやすく血の気を引かせた。
そして、男達から視線が外れたのをいいことにメルまで巻き込まれる必要は無いとばかりに首を小さく横に振っている。
だが、コビーのそんな慎ましい努力はメルが一瞬にして灰へと還した。
「うん、そう。その子は、私の友達なの」
メルの子供らしい返事を聞いて、男達が怪しげなアイコンタクトを交わしあった。メルに忠告を聞いてもらえなかったコビーが、呆気に取られたような顔をして突っ立っている。
「そうかそうか。嬢ちゃんは、この坊やの友達なのか。実は坊やにお兄ちゃんは怪我させられてしまってね」
「そうなんだ。大変だね」
「うん、大変なんだ。この怪我を治すためにはちょっとばかりお金が必要なんだけど……君だったら、お兄ちゃんの治療代を稼げるかもしれないね。嬢ちゃんはお友達を助けたくないかい?」
「うん、助けたい」
「じゃあ、オレ達と一緒に来てもらおうか」
そう言って差し出された男の手を躊躇なく握ったメルに、コビーは声を張り上げた。
「メルちゃん! 行っちゃ駄目だよ!!」
コビーよりもずっと頭が回るはずのメルが、明らかに危険な匂いのする男達の手を取ったことが、彼には信じられなかった。
───どうして、メルちゃんはあんな奴らの誘いに乗ったんだ……?
行き場のない疑問がコビーの脳内を占めるが、彼女はコビーの方を見る気配がない。
「お前は黙ってろ!」
男に連れられて何処かへ行ってしまおうとしているメルにあらん限りの声を上げて引き留めようとコビーは苦心するが、それを邪魔に思ったらしい三人のうちの一人に腹を蹴られ、転がされてしまう。
小さな体をひっくり返してその場に転がったコビーだが、海軍を目指すだけあって正義心は人一倍強いようであった。歯を食いしばって、蹴られた腹に走る痛みに知らないふりをして、伏していた地面から立ち上がる。
そして、コビーにはもう用はないとばかりに背を向けメルを連れ去ろうとしている自分を蹴ったその男の足元にコビーは縋り付くように抱き着いた。
「なッ!? このガキッ!?」
片足を死んでも離さないとばかりに抱き締めているコビーに、男は血相を変えて何度も足元にいるおじゃま虫の背中を蹴りつけるが、それでもそれは一向に自分の片足を離す気配がない。
コビーの執念を目の当たりにして、つい男は蹴ろうと振り上げた足を宙に迷わせた。
そんな仲間と子供の茶番劇に、メルの手を引いている男は嫌気が差したらしい。
「そのガキも引き摺って連れてこい。ったく、余計なことをしやがって」
はァと男が額に手を当てて、嘆息を吐いたその時。
男達の周り一円に炎が走った。
「な、なんじゃこりゃ!?」
メルの手を引いている男が、有り得ない光景に驚嘆の声を上げている。残りの男達も、何故自分達の周りを炎の筋が取り囲むように燃え盛っているのかが分からず、恐怖に顔を引き攣らせていた。
「何処にその子を連れていく気?」
ゆったりとした足取りで、着心地を重視した綿のシャツの袖を捲りながら五人の前に現れたのは、大人程の体長がある二足歩行の黒猫だ。
尻尾をゆらゆらと挑発するように揺らして、男達の前に立ちはだかったジジィは、己の両腕を炎へと変化させるやニヒルげに笑う。
「その子はボクの子だ。迷子を保護してくれたのであれば、とんだ手違いをしてしまって申し訳ないね」
ジジィが炎になってしまった両腕を振り払うと、彼らを取り巻く炎の円陣が跡形もなく消え去る。
ただ、舗装された道路の上には綺麗に彼らを囲むような焦げ跡が出来ており、先程の有り得ない光景が真であることを雄弁に語っている。
男の片足に抱きついていたコビーもこれには吃驚していた。
鼻水と涙塗れになっている顔を、口を開ききることでそれ以上に間抜けにさせてジジィを射抜くコビーの目は乾き切っていた。
「……あの馬鹿猫」
ポツリとジジィに毒を吐いているメルの言葉など、最早脅威の御前では聞くに値しないらしく、メルの手を引いていた男はメルの手をささとジジィに差し出し。
コビーに縋りつかれていた男は、コビーを丁寧にその場に立たせてからメルの横へと並ばせる。
呆れを通り越して、感心すら抱かせそうな程の手のひら返しを披露した男達はそのままジジィの顔を上目遣いで見ながら揉み手をしつつ、「いやぁ、良かった良かった」と芝居がかった声を出す。
「二人共、貴方が見つからなくて途方に暮れていたんですよ〜。だから、オレ達見るに見かねてしまって、なァ?」
「人助けが趣味ですから〜。いつもこうやって、迷子の子供たちを見つける度に一緒に親御さんを探してあげるんですよ〜」
「本当に見つかって良かったです〜。じゃあ、オレ達はこの辺で〜」
「さようなら〜」と畳み掛けるように別れの挨拶を口にするや、これ以上はもうこの場にいられないと逃げ去るように海の方へと走っていく三人組。
鮮やかな引き際に、ついメルもコビーも、ジジィでさえ見蕩れてしまい何の言葉も吐けないでいる。
それから、一分程経ったであろうか。
一番に我を取り戻したコビーが、体液で塗れた顔を拭っていたのでジジィがまたハンカチを取り出し、綺麗にするのを手伝った。
「ジジィさん、本当に今日はたくさんお世話になりました。ぼく、ジジィさんみたいに強くなりたいです」
ありがとうございます!と顔を拭われながらもお礼を言うコビーに、ジジィが気にするなと首を横に振る。
メルやラブの面倒を見ているので世話好きだとは思っていたが、まさかこんなにも世話好きな質だったんだなーと初めて知るジジィの一面をメルは伸びをしながら見つめる。
「コビー君って、多分自分が思っている以上に目が悪いと思うよ。眼鏡とか掛けた方が良いかもね」
「……ぼくも今回そう思いました」
「此処にまだ居る予定なら、いい眼鏡屋さん教えてあげるよ」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!!」
ただし、メルとてジジィのことをとやかくは言えない。
どうしてか、ドジっ子を見ると手を差し伸べてしまう困った性分を彼女も持ち合わせているらしく、ショルダーバッグから紙とペンを取り出すとメルの知り合いである眼鏡屋の住所と名前を書いてやった。
それをすっかり元通りになったコビーが受け取り、大事そうに手にするのだからメルはつい擽ったくなってしまって口元を緩める。
「また、此処に来てよ。私、あんまり友達いないから君が遊びに来てくれると嬉しいかも」
コビーの素直さに当てられて、ついそんなことをメルは口走ってしまった。
これには、言った本人よりもジジィの方が驚いている。
コビーもそんなことを言われるとは思っていなかったようで、目を見開いて固まっていた。
なかなかうんともすんとも言わないコビーに、やっぱりトロイと業を煮やしたメルが「返事は?」と催促する。
メルから催促を受け、漸く我に返ったらしいコビーがうんうんと大袈裟な程に首を振って頷く。
「も、勿論です!」
「ありがとう。ジジィ、私また友達出来たよ」
いえいとメルから小さなピースサインを向けられたジジィが、「良かったねェ」と後頭部を掻きむしって微笑む。
姿を晦ましていたジジィによると道のど真ん中にコビーの自転車を置いとくのもなんだからと、道端に自転車を置きに行っていたようだ。
「結構、早くに戻ってきたんだねェ」と髭を震わせながら、ジジィは自転車の持ち主のコビーに場所を案内するために、二人の前を歩いて自転車の所まで先導した。
ジジィに連れられて、あのブレーキの壊れた自転車の下に辿り着いたコビーは、今日発覚したそれの不調ぶりを思い出して眉根を下げる。
「この子とも、もうおさらばですね。おばあちゃんからのプレゼントだったから、もっと長くつかいたかったな……」
コビーが、この島に来れることなんて年に一度あるかないかのことで、彼はたまにしか会えない祖母をとても大事に思っていた。
そんなおばあちゃんから貰った自転車だって、もっともっと大事にしたかったのに───。
年に一度しか乗れないその自転車は、定期的に点検していないこともあったせいか今年で寿命を迎えようとしていた。
沈んだコビーの様子を見下ろしていたジジィが、彼から視線を外して口角を上げて不思議なことを呟く。
「───ブレーキ、もう一度確認してみたらどうかな?」
「……え?」とジジィの予想外な言を受けて、コビーが疑問の声を上げる。
だって、ジジィはこの自転車の壊れ具合をよくよく知っているはずなのだ。
体を張って、この自転車を止めたジジィの口から出た言葉には思えなくて、コビーは目を瞬かせる。
「でも、ブレーキはもう壊れてしまってて……」
「いいからいいから。もう一度握ってみなって」
しかし、ジジィはコビーをスルーして、彼の両手を取るや自転車のハンドルを握らせる。そして、ブレーキも握らせて前へと自転車を進ませようと力を加えた。
この自転車のブレーキは壊れているから、本来ならばスムーズに自転車は前進するはずだった。
だが、自転車はその場に踏んじばって一向に前進しない。
まるで、ちゃんとブレーキが利いてるかのように全く進む気配の無い自転車が信じられなくて、コビーは慌ててサドルに跨る。
コビーのやりたいことが分かったらしいジジィが彼と自転車から程よい距離を取った。すぐ近くから物言いたげな視線を感じて斜め背後を振り返ると、半目になったメルがジジィをずっと凝視している。
ジジィが何をしたのかを正確に察したらしいメルの目が言っていた。
───『このお人好し猫が』と。
一方、そんな配達屋親子の前で恐る恐るペダルを踏んで、自転車を漕ぎ始めていたコビーが一定の距離を進むとブレーキを思いっきり引いて自転車を難なく止めていた。
耳障りなブレーキ音を響き渡らせることもなく、静かにその場に留まった己の自転車がやはり信じられなくてコビーが何度も確かめるように自転車を前進させては、ブレーキを引く。その度に、自転車のブレーキはちゃんと作動した。
「 ブレーキが本当に、本当に治ってる……!」
「きっと、お節介な自転車屋さんでも居たんだろうねェ。よかったじゃん、コビー。これで、おさらばしなくとも済むね」
飄々とそう言ってのけるジジィは、既にコビーからは踵を返して帰路を歩み始めていた。立った耳をピコピコと揺らせて、いつの間にか指に挟んでいた煙草の紫煙を燻らせながら、メルと一緒に商店街の方に消えていくジジィにコビーはありったけの声で叫ぶ。
「また、この街に遊びに来ますから……! だから、その時はまた遊んでください!!」
この日、コビーが出会ったミンク族の黒猫と魔女は、彼にとって生涯忘れられない人達であった。
また近い未来で再会出来たらいいなと彼はまた詰まりかけてきた鼻を啜る。
それから息を再び吹き返した自転車を見下ろして、コビーはニコリと微笑んだ。
本来ならば、お別れをしなければならなかった自転車が彼等と出会った証拠だと思えば、更に思い入れが強くなる。
おばあちゃんとメルと───それから、ジジィとの大切な思い出の品になったこの自転車をもう二度と壊さないように、実家に持って帰ろうとコビーは決意した。
☆☆☆
「今日は、随分とお人好しだったね。自転車も直して、空へいつでも逃げることが出来る私のために能力まで使うなんて大盤振る舞いじゃん。こんな服も買ってくれるしさー」
「気紛れだよ。ボクだって、時には善行を積んどこうかなァて思っただけだよ」
「ふーん。善行ねー」
夕日に照らされて、黒猫と女の子の細長い影が持ち主からゆらりと伸びる。夕日を浴びながら、ゆっくりと帰路を行く二人は誰が見ても親子には見えないが、しかしその親しみのある雰囲気は家族以外の何者にも見えない。
黒猫と人間のチグハグな家族であり、はたまた雇用関係でもある大層複雑な仲である二人は、お互いに視線だけを絡ませて言葉を交わしていた。
ジジィはメルの目を見ながらも、口が寂しくなったようで指に挟んでいた煙草を咥える。
そして、息を吐くように紫煙を吐き出して、また煙草を吸うジジィの様子はやはりどう見てもいつも通りのもので───相変わらず、ポーカーフェイスがお得意なことでと胸中でメルは毒づいた。
「ジジィの能力って久しぶりに見たなー。滅多に使わないから、腕が鈍ってるんじゃないかって心配してたけど、そうでもなかったようで安心した」
「煙草の火を点ける以外は使いたくないんだけどねェ」
「……ラブも知ってると思うよ、ジジィの能力」
「別にラブに遠慮して、これを使わなかったわけじゃないよ」
この世界には、メルのような遺伝的に不思議な能力を引き継げる魔女以外にも、ある特殊な実を食べて超常現象を引き起こせる能力を身につけた『能力者』が存在する。
その実のことを、人々は畏怖を込めて“悪魔の実”という呼ぶ。
ジジィが使ったあの火の能力も、この悪魔の実を食べて身につけたものだ。
彼が食べたその実は“メラメラの実”。
メラメラの実と言うだけあって付与された能力は、自身を炎へと変化することであった。
ラブをメルが使い魔にしてまだ一年も経たない頃、彼は異様な程にジジィのこの能力を怖がった。
一度だけ、ジジィが能力を使った現場に居合わせてしまったラブは、当時錯乱したような断末魔を上げてその場で気絶してしまったのだ。
それ以来、ジジィは火を恐れるラブに配慮して、その能力を使えることをやめた。
気絶する程のショックを受けたこともあって、一連の出来事を忘れてしまったらしいラブは暫く、ジジィのその能力のことを本当に忘れていたのだが、最近は記憶が徐々に戻りつつあることもあって彼自身の観察力が増している。
そのため、思い出すのではなく、彼は己の観察眼を持ってしてジジィの能力の正体を暴いたのだ。
「ただ、これは目立つから使いたくないだけだよ。変な輩に絡まれたくないしねェ」
ジジィはメルのそんな憶測も知っていて、尚そう言い連ねる。
能力を使いたくないのは、別にラブのためじゃない。平凡ライフを望む小心者の自分の為なのだと。
素直じゃないジジィにメルはしょうがないなと両肩を竦めて、それ以上能力の話を振るのも面倒な気がしてきて、それ以上その話をするのは止めた。
ジジィに盛大にフラグが立ちました。おめでとう。
以上で、コビーとの四方山話は終わりです。
新世界編ぐらいまで進んだら多分コビーも金蔓に出来るよ、メルちゃん。
次回からはまたお仕事話を再開です。
ステージは水の都、キーパーソンはスーパー変態とンマーさんかな?
あとあの武装国家。