イゾウ「じゃあ、新歓も佳境に入ってきた頃合いで恒例のアレだ!」
マルコ「(結局、ラブの奴は何をすることにしたんだよい)」
サッチ「(さぁな? 最近、かなり切羽詰まった顔をしていたが、今日は妙に晴れやかな顔をしていたから、良いものが見つかったんじゃねェか)」
甲板に ティーチが ズルズルと 古びたオルガンを 押してくる
ビスタ「ほほぉ、アレは倉庫にずっと眠っていたオルガンか」
ティーチ「(ま、そう気を張るな。オレは楽しみにしてるぜ)」
ラブ「(ありがとう、ティーチ。今日は、お前も楽しんでくれ)」
ラブは オルガンに腰掛けると 巧みな指使いで 曲を奏でていく
マルコ「おっ!? これは……」
サッチ「いいねェ、宴にはピッタリだ」
白ひげ「グララララ、いい音色じゃねェか」
皆「ビンクスの酒を〜届けに行くよ〜」
ラブは 新人歓迎会の試練を クリアした!
漸く見つけたトムズワーカーズの造船工場。
外の作業場には赤いドラゴンの船首をしたガリオン船が係留してあり、作業服やタンクトップ、中にはアロハシャツ姿の男達が工具を片手に群がっていた。
あくせくと動き回っている彼らは、恐らくトムズワーカーズの従業員だろう。
船を修理しているところなんて初めて見るなと、メルがしげしげそのガリオン船を眺めていると、その帆柱に掲げられた
───うわー、まさかの海賊船の修理だ……。もしや、アウトローな会社じゃないよね?
過ぎる嫌な予感にデッキブラシの柄を握る手に力が入るが、いやいやと思い直す。
此処は、あのジジィのお墨付きがある。
結構人の好き嫌いがハッキリしている黒猫が悪い奴じゃないと言ったのだ。
たとえ海賊相手に商売していようとも、その当人もアウトローな質をしていると考えるのは浅はかだ。
───私だって、海賊相手に商売してるしね。金だけの関係って割り切ってることだってあるある!
よし、心は決まったとばかりにメルはいつもの到着を知らせる台詞を下にいる従業員達に向かって叫んだ。
「トムズワーカーズさんー! お届けものでーす!」
メルの叫び声に促されるように、地上にいる作業員達が何事だと謂わんばかりに作業している手や足を止めて、顔を上げる。
そして、ふよふよと自分達の上でデッキブラシに跨っている少女を見つけて、皆一様にして目玉と舌を飛び出させた。
「「「お、女の子が空を飛んでる──!!?」」」
しかも、指を差して騒いでいる従業員もいる始末だ。
つい最近では、あの白ひげ海賊団も似たような反応をしていたので、もしかしたらこの世界中の誰もが、空を飛ぶメルを見たら似たりよったりな反応をするのかもしれない。
今日は体調も万全で、W7の壮麗さに心奪われて機嫌のいいメルが皆の驚きに応えるように笑顔付きで片手を上げる。
「ハーイ、デッキブラシの宅急便です」
おまけとばかりにウインクまで付けるあたり、かなりメルは上機嫌だ。
きっと、W7に着くまでに読んだ世界経済新聞もメルの機嫌の良さに拍車をかけていることだろう───正確には、そこに連載されていた漫画なのだが。
「あーう! スーパーにイカした登場じゃねェか! 滾るねェ」
そしてえらく巻き舌が上手い男の声が、メルが危惧している海賊船の甲板の方から聞こえてきた。
空を飛べることをこんな風に褒めてもらえることなどあまりないので、メルはその人物に興味が出たらしい。
そちらの方へとデッキブラシを繰りながら下降していく彼女の前に、ひょっこりと現れたのは海パンを履き、アロハシャツを肌蹴させながら着用している特徴的な髪型をした男だ。
あのマルコとタメを張れるぐらいにすんごい髪型をしているとメルが思うのも束の間で、彼女は男の全身を認識するとキャッと可憐に悲鳴を上げて、顔を両手で覆った。
「こ、この人ッ! 全然服を着てないじゃん!?」
とても男に履いているパンツの柄を聞き廻り、挙句の果てにはパンツそのものを見せてもらった少女の言い分には思えないことをメルは言う。
野郎ばかりのトムズワーカーズで働いているフランキーは、あまりに初心なその反応に「あーん?」と首を傾げている。
どうもメルの反応に会得がいかないようで「モラルは守ってるぞ」と己の海パンを指さしているが、それは
そんな二人のやり取りを見て、アイスバーグはとても叫びたかった。
『そういうことじゃねェんだよ!!』と。
海パンを指さして、何の問題があるのだと下まつ毛の長い迫力ある目で問われたメルは、指の隙間から目を覗かせてはっきりと言ってやる。
「ジジィが言ってたの。肌色の多い男には気をつけろって! そういう奴らは総じて変態だから、あんまり近づいちゃだめなんだって!」
「あーう! 確かにオレは変態だな。ああ、オレは変態だとも!」
「……変態ってそんなに誇らしげなことだったっけ?」
何故か変態と言われて、自信満々に胸を張っているフランキーにメルの中の常識が崩壊しようとしている。
「え? 変態って実は凄いの? そもそも変態ってなんだっけ」とどツボにハマりつつあるメルを見て、アイスバーグは哀れみの目でしか見ることが出来なかった。
しかし、そんな憐憫抱くアイスバーグの目前で顔を見る見る間に赤くさせて、頬を膨らませている嫌な大人達がいる。
そうして、時間をかけずに「プッ」と空気が抜けるような音が続いたかと思えば、あの問題の海賊船の持ち主が眦に涙を浮かべて爆笑し始めた。
「だっはっはっ! いやー、相変わらず面白ェな、メルは。ルフィと同じくらいオレを楽しませる才能がある」
「お前ェの呼んだ娘っ子はえらく愉快な質じゃねェか、だっはっはっ!」
しかも、我らが社長トムまでシャンクスにつられて爆笑している。元々、笑い上戸であるが、顔を真っ赤にしてまで笑うのは滅多にないことだ。
子供相手に大人気ない、とアイスバーグ以外の従業員も思い始めた頃、ひゅんと彼等の前で風を切ったような音がして、次いでふわりと前髪が浮き立った。
まるで、隼が目前を飛んで行ったかのような風の軌跡を感じて、前を何かに横切られた男達が目を点にしていると「ぐわァアアア」とシャンクスの悲鳴が上がり、どさりと地に伏せるような音が続く。
何が起こったのかとそちらを見れば、おでこに真っ赤な小さな足跡を付けて床に仰向けで転がっているシャンクスが居た。
その姿は、とてもこの広大な海で名を馳せている海賊には見えない。もし、此処にシャンクスに憧れるイーストブルーの麦藁少年がいたら、やっぱりオレ海軍になろうかと前言撤回しそうな程に、無様な光景である。
「アー、ジメンニチャクチシヨートオモッタラ、ナンカブツカッチャッタ」
テヘペロと悪びれもなく、シャンクスを一向に見ずにトムにそう言ってのけたメルは、デッキブラシから件の荷物を外して「はい」と彼に差し出す。
「貴方が此処の社長さんですよね? じじ……オーナーから此処の社長さんは魚人だって伺っているので」
「あ、嗚呼。ご苦労だったな」
「いえいえ。これが私の仕事ですから」
きゅぴんと音がつきそうな程のサムズアップをトムにキメて見せて、やはりまだ地面に寝っ転がっているシャンクスには、一瞥もメルはくれてやらない。
───赤髪のシャンクスと言えば、あの海賊王のクルーだったと言われてるほどの傑物だぞ……。
従業員の胸中には皆同じような感想が去来しているのだが、如何せん海賊王に対しての感情が一般の市民よりも薄いメルにしてみれば、だからなんだと言うようなものだ。
確かに海賊王の偉業や彼が開幕させた大航海時代の余波をメルはそこそこ受けている。
しかし海賊よりも、魔女の血を引くメルには、恐れているものがこの世界には他にも山とあるのだ。
そう思えば、海賊なんて近寄らなければあまり害がないだけにまだマシと言える。
流石に白ひげクラスになれば話は違ってくるが、
懸賞金はかなりの額になっているが、メルはシャンクスの成した偉業も、それこそ実力とて耳にしていないので彼の扱いがかなり雑なものであった。
「イッテテテ……。おい、メル。オレはお前の足場じゃねェぞ」
「あら、ごめんなさい、シャンクスさん。悪気はなかったんだよ?」
実際は悪気しかないのだが、ジジィ譲りのポーカーフェイスでいけしゃあしゃあとメルは宣う。
流石に海賊相手にこんなことをしてのけたらタダじゃ済まないだろうと、外野にいるトムズワーカーズの従業員達は肝を冷やしているのだが、シャンクスはそんな彼らの考えを裏切るように柔和な笑みを浮かべて「次からは気をつけてくれよ」と注意するのみだ。
しかも、「メル、ちょっと背が伸びたんじゃねェか」と彼女のお下げ頭をわしゃわしゃと撫でている。
その二人の様子は、完全にイベントぐらいでしか会わない親族の伯父と姪のそれで、不覚にも和んでしまいそうな一場面であった。
シャンクスに撫でられて嫌そうな顔をしているメルが、より一層伯父に構われて嫌がる姪らしく、それっぽくなっている。
「なんでW7のトムズワーカーズさんから依頼が来たんだろうって思ってたけど、黒幕はシャンクスさんだったんだね」
「なんだ、黒幕って。オレはただ、仕事の早い配達屋がいないものかと頭を悩ませている友達にメルを紹介しただけだぜ」
「ウチの住所はルフィくんに渡した名刺から割れたとして……でも電伝虫の番号まで分かるはずが無いんだけどなー。どこから、嗅ぎとったの?」
「オレの仲間は優秀だからな」
ジト目でシャンクスに疑問に思っていたことを投げ掛けてみるも、いい具合いにはぐらかされてしまった。
なんで、W7に来てまでこの男と遭遇しなければならないのだと頭を振るメルの心中を察する気もない彼は「ちょっと女らしくもなったんじゃないか」とまだ親戚の伯父みたいなことを言い続けている。
デリカシーのなさも相変わらずみたいで、メルは近くに大きな裁判所もあるからセクハラで訴えてやろうかとも考えた。
「えらくそのメルだったか───その子を気に入ってんだな」
メルが弁護士をどうしようかとまで飛躍したことに思い悩んでいると、シャンクスの隣で二人のやり取りを興味深そうに見ていたトムが話に入ってきた。
メルにしてみれば「とんでもない事を言わないでください!」と叫びたいところなのだが、当のシャンクスが寸分の猶予もなく「ああ」と頷いたものだから彼女は頭を抱える。
───いつ! どのタイミングで! 私はこんな失礼の塊の海賊に気に入られたんだ!?
「コイツ、面白いだろ。デッキブラシで世界を飛び回ってるのも面白いが、何より中身がぶっ飛んでいる」
「それ、シャンクスさんにだけは言われたくないんですけど。私みたいな子供と本気で友達になりたがった貴方にだけは……」
「何でだ? オレはメルを面白いと思って友達にしただけだが」
それ以上にどんな理由が必要なんだ?───と本気で言ってるらしいシャンクスの真摯な眼差しで射抜かれて、メルはついぐぬぬと口を噤ませる。
メルはどうにもシャンクスのこの目が苦手だ。
冬の夜空みたいな真っ暗なあの目を見ていると、自分の意見が途端にあやふやと空中で分解しそうになるのだ。
トムは、メルの悔しそうにシャンクスを見上げている様に口角を上げた。
この子はとんでもない胆力を持った子だと、メルの竜骨よりも太いかもしれない図太い精神をトムは垣間見たのだ。
例えシャンクスがひょろひょろとした優男を気取っていたとしても、ここまで散々に彼をこき下ろせる少女は、世界ひろしといえども他にはいない。
それこそよっぽどの命知らずか、鈍感か───或いは世間知らずか。
トムが太い指で顎を撫でながら、口惜しそうにシャンクスを見上げているメルを観察していると、そこへいつの間にかシャンクスの船から下船していたフランキーがぬっとメル達の間に割って入っていた。
「なーなー、イカした嬢ちゃんよォ。手前の空を飛ぶのは悪魔の実の能力か?」
指を不自然にワキワキさせて、メルにずずいとその大きな顔で迫るフランキーは傍から見れば格好が格好だけに、ただの変質者にしか見えない。
メルもジジィの教育の賜物で、裸に近い格好をしている男には忌避感があるのか顔を遠慮なく逸らして、フランキーから適切な距離を取ろうと努力していた。
「それは企業秘密ですー。もしかしたら悪魔の実による能力かもしれないし、このデッキブラシがスーパーテクノロジーの塊なのかもしれないしー」
一部の察しのいい人間以外には、こうやってのらりくらりと魔女の能力のことを告げずに躱しているメルであるのだが、しかし今回は相手が悪かった。
やっべ、選んだ言葉が悪かったとメルが察した頃には、フランキーが「あーう! スーパーデッキブラシなのか!? 」と今にでもメルが肩に掛けているデッキブラシに触れたそうな手つきでまたまた迫ってくる。
三十六計逃げるに如かず───ってどっかの兵法書で読んだ気がするとメルは脱兎のごとく、フランキーから身を翻して逃げると、そのまま風を呼び込んで横着にもデッキブラシの柄に両手でぶら下がったまま空を飛ぶ。
ブラブラとラジオと一緒に揺られながら、どんどん上昇していくメルに「ンマー!? 危ない!!」とアイスバーグが悲鳴を上げ、メルに逃げられたフランキーは「スーパーイカしてるぜ!!」と益々顔周りに星を飛ばしている有様だ。
「あの変態も面白ェなァ。トムのところの従業員じゃなかったら仲間にしてェ所だ」
「いや、アイツはまだまだだ。まだ他所様に出せるほど腕が仕上がっちゃいねェ……ただ、ロマンを理解してる奴だから、良い船大工にはなるだろうが」
「そうか。それは楽しみだな」
シャンクスはフランキーまでもお気に召したようだが、師匠であるトムが苦笑いを浮かべて首を横に振る。
だが、将来は良い船大工になるだろうと告げるトムの横顔は親愛に溢れていて、シャンクスはそんなトムに胸の中が暖かくなるようであった。
そして、トムはそのままふよふよと帰ってしまいそうな気配のあるメルを呼び戻すために口の横に手を当てて叫ぶ。
「おーい、嬢ちゃん。そのまま帰ってもらってもいいんだが、支払いがまだだぞー!」
「ゲロゲロー!!」
ヨコヅナもトムと同じようなことを叫んでいるのか、メルに両手を振って戻ってこいというような仕草をしている。
そう言えば、今回の依頼は電伝虫からだったと思い出したメルは、代金を回収するために渡されていた継ぎ接ぎだらけの財布が入っているショルダーバッグに触れて、いそいそと下降を始める。
あの守銭奴のジジィに、代金を回収するのを忘れたなんて言ったら大目玉を食らわせられるだろう。
最近、幾ら妙に優しいとはいえこの失態だけは許されないに決まっている。
それに、せっかく良くなってきている我が家の食事事情を考えればそんな下手打つようなことは出来そうにもなかった。
思いもよらない再会は、シャンクスでした。
シャンクスは心の中に五歳児と三十路の自分を飼っているんじゃないかと思います。
私の中では、隠し子いるんじゃないか説第一位のシャンクスさんですが、はてさてその辺どうなんでしょう?
そう言えば、某ドラゴンさんはインペルダウンやそれこそW7で隠し子がいた事をバラされていましたね。いつかドラゴンの話も読んでみたいものです。