お兄様のご来店!
トムズワーカーズへの配達が終わってから二週間が過ぎた。
イベントの時期が過ぎたこともあって、閑古鳥が鳴いている『デッキブラシの宅急便』は、今日も今日とて客足の一つも聞こえてこない。
普段はオーナーである黒猫のミンク族が陣取っているカウンターの席では、珍しく主戦力である少女が退屈そうな表情を浮かべながら新聞を広げている。
しかも、カウンターの上には年季の入ったラジオが据え置かれていた。新聞とラジオに囲まれた少女というチグハグな図はしかし、様になっているせいか違和感を見ている者に抱かせない。
『今日のべッティの星占い~。先ずは一日ハッピーマンな獅子座の貴方。今日は好きな人とラブなハプニングが起こるかも。告白するにはうってつけの一日になるでしょう。ラッキーアイテムは牛丼です。続いて、二位は天秤座の貴方。今日は、気になっていた人の気持ちが分かるかも。でも、がっつき過ぎには注意が必要ですよ。ラッキーアイテムはぬいぐるみ───』
ラジオから流れてくる今日の運勢に、メルの耳がピクピクと動く。
漸く、メルも若者らしいものに興味を持てたようで、熱い視線を送っていた経済欄から目を離してラジオへと向ける。
三月生まれのメルは魚座だ。
よって、早く魚座が出てこないかなーと心持ちワクワクしながら、メルはラジオに耳を傾ける。
昼下がりの店内は陽気な日差しが窓から差し込んでおり、長閑な様子である。
とても二週間前まではやれCPだ、やれプルトンの設計図だとてんてこ舞いであったのが嘘のようで、こんな穏やかな日々を待っていたのだとメルは束の間の幸せを噛み締める。
W7へ配達に行くまでは今日のような穏やかさに揺蕩たって居たはずなのだが、何処かのドジっ子長官と同じように都合の悪いことは脳内から消去しているようだ。
『七位は水瓶座の貴方。今日はお疲れ気味な気分を癒すために、リラックス出来る場所に行くと良いことあるかも。ラッキーアイテムは藁人形です』
しかし、メルが穏やかな一時を過ごしているにも関わらず、ラジオからは全く『魚座』という言葉が出てこない。
八位から下はあんまり聞きたくないとは思いつつも、悪いこと程耳にしたくなるのが人間の不憫な性である。
少しラジオから意識を逸らそうと漫画の欄を探して新聞をバッサバッサと捲るのだが、こんな時に限ってお目当ての欄が見つからない。
九位、十位と次々に星座が発表されていく中、メルの魚座だけが一言も出てこずに、運命の十一位が満を持して発表される───。
『十一位は射手座の貴方。今日は調子が良くない日かも~。早めに帰って休息を取ることをお勧めします。ラッキーアイテムは数珠です』
その瞬間、バタンとカウンターに額をぶつけて、メルはそのままちーんと沈み込み続けた。
たまたま星座占いを聞いた日に限って、十二位とか酷過ぎないかと既にお通夜モードに突入のメルを更に深淵へと沈めるべく、ラジオのお姉さんが畳み掛けてくる。
『ごめんなさーい、十二位は魚座の貴方。今日は、じっとしていも災いが貴方の元に舞い込んでくるようです。生き残るために踏ん張れば、輝かしい明日が見えるはず。ラッキーアイテムはフラミンゴです』
「この星座占い、とんでもなく不吉な予言を投下してくるんですけど·····ッ!?」
十二位になったからには、それなりにツイてない日なのだろうなとは思っていたが、災いが向こう側からやってくるとか、生き残るために踏ん張ればとか、とてつもなく恐ろしいことばかりをお姉さんは言ってくる。
メルはうへぇと蛙が潰れたような声を出して、たまたま近くにあったラッキーアイテムになるような気がするいわく付きのフラミンゴ人形を抱き締める。
『デッキブラシの宅急便』のマスコットになってから日が経つこのフラミンゴ人形も、大分カウンター上にいることが様になってきた。
たまに訪れる常連客にも好評で、寧ろ従業員からは不憫な目(ジジィの八つ当たり)にしか遇っていないこの人形は、今日も今日とて長い首からウェルカムボードをぶら下げている。
しかし例え、この人形があの男の形代だったとしても、今日だけはメルのラッキーアイテムだ。
どうか降り掛かってくる災いから自分を助けてくれ! 調子のいいことを想いながらメルがギュウギュウフラミンゴ人形を抱きしめていると、早速効果が出たのか来店を知らせる鈴が鳴った。
「早速、ラッキーアイテムの効果が·····!」と色めき経つメルは、顔を綻ばせて抱きしめていたフラミンゴ人形から顔を上げるや、とびっきりの笑顔でその人物を出迎えた。
「いらっしゃいま·····せー」
しかし、その人物を目にした途端にメルの目からは生気が失われる。
語尾もすっかり気の抜けたものになって、最早口からは魂さえ飛んでいきそうな有様だ。
そこまでメルを一瞬にして追い詰めた人物は、扉の向こう側から軽く片手を上げる。
「久しぶりだな」
金の短髪を柔らかな陽光が照り返し、色付きのサングラスがキラリと煌めく。
前回見た時は搭乗口に居たこともあって本来の大きさを実感することはなかったが、数メートルの距離しかなければ否応無くこの男のデカさを思い知る。
ジジィサイズの玄関を狭そうに潜り抜けて、尊大な足取り───ヤンキーステップとでも名付けられそうな歩みでメルの目前にまでやってきたその来客───ドフラミンゴは、呆然としているメルを見おろす。
「なかなか、良い人形で遊んでんじゃねェか」
確かにあの星座占いはペテンじゃないらしい。
これからは毎日、あの番組をチェックしようとメルが頭の片隅で決意している傍らで、ドフラミンゴはカウンターにその大きな上体で寄り掛かった。
今迄で一番近い距離でドフラミンゴのご尊顔を眺めることになったメルは、思ったよりも疲労の色が濃いその顔にぐっと息を呑む。
───と、とうとうご来店しちまったよ、ラブのお兄様·····。
いつか来る。絶対来るとは思っていた。
ただ、ラブを白ひげに預けてからそこそこ経っても来ないから、実はただの取り越し苦労だったのではないかと一縷の光を見出していた今日この頃。
しかし、その光はあっという間に握り潰されることになった。
流石、あくどい事に片っ端から手を出している海賊団の船長と言うべきか。
八歳児を絶望に突き落とすことはお手の物ということか。
メルは十分前に買い出しに言ったジジィの顔を思い浮かべて、心中で盛大に歯軋りする。
ジジィはルンルンと「今日はししゃもを焼くんだ」と張り切って買い出しに行ったため、あと小一時間は確実に帰ってこない。
新鮮なししゃもを求めて商店街を冒険しているジジィが容易に想像出来てしまった。
───なんで、自分の家にいるのに死ぬ三秒前みたいな状況になってるんだか·····。
トホホと両肩を落としたくても、この男の前でそんな隙なんか見せたら、分も掛けずに食べられてしまうことだろう。
「ほ、本日はどんなご入用で?」
取り敢えずは用件を聞こう。
メルは自分のペースを整えるための時間稼ぎとして、ドフラミンゴに来店の理由を尋ねる。
そう、もしかしたら純粋に配達を依頼しに来たのかもしれない。
ラブを探して態々、新世界から来ることも無いだろうとドレスローザからこの島の間に広がっている距離を思い出してメルは僅かな希望を見出すが───。
「コラソンを迎えに来た。そろそろ、奴もウチに帰りたくなった頃合いだろう?」
そんなメルの希望をまたしても握り潰すドフラミンゴ。
二度も崖から突き落とされるような心地を味わって、またしてもメルの目からは生気が失われていく。
───ですよねー。貴方がこんな辺鄙な何にもない島に来る理由なんて最愛(?)のラブ以外に有り得ませんよねー。本当にラブも、もうちょっと規格内のお兄様を持ってよ·····!
それ以外の理由があるとでも? と言いたげなドフラミンゴの様子に、メルは胸中で滂沱の涙を流して「ですよねー」と肯定する。
ところが、遠路遥々新世界から来てもらったところ大変恐縮であるが、現在この店にラブは居ない。
今頃当の弟と言えば、グランドラインの何処かの海洋を流離っているだろうモビーディック号の中で、白ひげ海賊団達に構われていることだろう。
決して海軍には追われていないと固く信じているメルは、カウンターをトントンと催促するように叩いて返事を待っているドフラミンゴに事実を話した。
「その、こんな所まで来てもらったのにすっごく申し訳ないのですが·····ラブは今っていうか、お宅にお邪魔して直ぐにまた居なくなっちゃって。この家にラブは居ないんだよね」
人差し指と人差し指を合わせながら、いや本当に悪いんだけどと躊躇いがちにメルはそう述べる。
すると、余裕綽々と強者の微笑を貼り付けていたドフラミンゴの様子が様変わりした。
「ああん?」メルの話をイマイチ理解出来ないと、迫力ある無表情で聞き返すドフラミンゴにメルは本当の話なのだと繰り返す。
「マジで此処には、もうラブは居ません。あの子がドジっ子で、迷子になりやすいのはお兄様だって知ってるよね」
確実に此方の話を一から十まで分かっているはずなのに、物分りの悪い振りをされては敵わない。
メルが話を進めようと、多少強引にドフラミンゴに同意を求める。
だが、そこで彼女は彼の数ある地雷のうちの一つを無意識に踏み抜いてしまったようだ。
刹那、ドフラミンゴの手がメルの喉元に伸びた。
メルには目指出来ない速さで飛んできたドフラミンゴの手がしっかりとメルの喉元を掴むと、そのままキリキリ絞り上げる。
「·····お前ェに、お兄様って言われる謂れはねェよ。いいか、もう一度聞く。コラソンを何処にやった?」
への字に引き結ばれた不愉快そうなドフラミンゴの口元を見上げて、メルは己の仕出かした失態を悟った。
サングラスに阻まれて、見ることが敵わない彼の目が最早、笑っていないことは確実だろう。
「どっか、の、グラン、はァ、ドライン、か、ンなぁ」
子供相手にも容赦しないドフラミンゴは、メルの気道を遠慮なく狭めていく。そのせいで、彼女は満足に喋ることも出来ない。
どうにか喉元に回っているドフラミンゴの手を外したくて、両手で彼の手の甲を引っ掻く。
だが、ドフラミンゴにとってメルのその僅かな抵抗は子猫がじゃれてくるようなものだ。傷一つ付けられないメルの手を煩わしくも思えない。
霞が掛かっていく頭を自覚しながらもメルは必死に息を吸おうと喘ぐが、ドフラミンゴはそんな行為も許さないとばかりに更に手に力を込めた。
「フッフッフッ。随分と手こずらせてくれるガキだな。利口なのは結構だが、己の力量を見誤っちゃアいけないな」
ぎらりと色の付いたサングラスを窓から溢れ出る陽光が照らし返しているが、その光は異様な程に鋭い。
軽薄な笑みをまた携えて、メルに早く降参しろと告げてくるドフラミンゴだが、メルとてモビーディック号が何処を泳いでいるのかは分からない。
───これは、ラブのビブルカードを持たなくって正解だったかも·····。下手したら、この人に奪われていた。
視界が段々と暗くなってきて、飛蚊症まで発症し始めたメルの意識の繋がりは悪くなってきている。
必死に動かしていた両手も徐々に上がらなくなってきており、メルは己の終わりの近さを否応なく思い知る。
そこで、とうとうメルの脳裏には究極の二択が提示され始めていた。
───また、命を削って活路を見出すなんてことはしたくないんだけどなー·····。心臓も、連続で掛かる負荷に耐えきれなくなってるのに。
起死回生を狙い、生命力をチップに魔力を生み出して、魔法をブッ放すか───それとも、自分の幸運に賭け、気絶だけで済む未来を手に入れるか。
後者の確率は一分あるか、無いかだ。
失敗に終われば、メルの人生はこのままジ・エンド。
使い魔の兄上の手に掛かって、生を終えるというなんとも奇妙な終わりをメルは迎えることになる。
───本当にクソ喰らえ過ぎっしょ·····! 海賊なんて、やっぱり碌な奴がいない·····!
だけども意識があるうちに、どちらかを決断しなければならない。
気絶してしまえば、強制的に幸運の女神様に運命を委ねることになるのだから。
だが───案外、メルの幸運値も捨てたものじゃなかったらしい。
ドフラミンゴとの根比べはこの時をもって終焉を迎えたのだ。
どさりと落とされる自分の身が椅子の上に用意なく着地して、お尻が衝撃を吸収しきれなかったと悲鳴を上げている。
「ゲホッ───ゲホッホッ」
ヒューヒューと喉の奥から隙間風が差し込むような音が響いている。圧迫されていた喉周りが痛くて、メルはその部分を抑えながら勢いよく何度も咳き込んだ。
チカチカと視界が点滅している。
まるで、昼間に上がった星が瞬いているような視界に堪らず、メルはギュッと目を瞑り込む。
ドフラミンゴは、そんなメルの満身創痍な有様に酷く不愉快気であった。
彼は元天竜人ということもあって、魔女が何者であるかをよくよく知っている。
だからこそ、魔女が持つ力を期待してメルをここまで追い詰めてみたのだ。
しかし、結果はドフラミンゴが望んだものとは全く違った。
寧ろ、大ハズレもいい所である。
あのハリケーンのような強風に乗ってラブを連れ去った時とは比べようにない程に、この少女は無力であった。
あの時のメルが、本当にこの少女と同一人物であるのかも疑いたくなるほどに、ドフラミンゴの目前で息を荒くして藻掻いている少女は無様な有様だ。
まさか、空を飛ぶことしか能がある訳じゃあるまい。
魔女というのは薬術や占星術に精通し、この広大な世界を飛び回った偉大な種族なのだ。
悪魔の実で得られる能力より遥かに強力な力を使う筈の魔女が、ドフラミンゴのあんな柔い拷問で音を上げるはずがない。
「何故、力を使わない。魔女は魔法を使うんだろう」
ドンと威嚇するようにカウンターを拳で叩き、こめかみに青筋まで立てて聞いてくるドフラミンゴの様子は明らかに尋常ではなかった。
これではまるで───メルの力を試しに来て、予想通りの結果を得られなかったと駄々を捏ねているようだ。
そんなドフラミンゴの理不尽な怒りを受けて、メルはピンと閃くものがあった。
それは───ドフラミンゴにはコラソンを迎えに来る以外の理由があったのではというもの。
「言ったでしょ。魔女家業は休業しているの。だから、今の私には空を飛ぶことしか出来ないよ」
この男、ドフラミンゴはオマケと言うように、実は魔女の実力も見に来ていたのだ。
そこまで考え及んだメルは、つい顔を天井に向けて目元を覆う。
本当に厄介過ぎる。
ドンキホーテ・ドフラミンゴという派手派手しいこの男は。
魔女を見定めに来るだなんて、それこそ狂人じゃなければ出来ない所業だ。
───いや、この人はそもそも狂人だった·····。出会った時から、ずっとお腹が減りそうなぐらいの気狂いの男。
「·····フッフッフッ。どうやら、そう簡単に魔女は取り合ってくれねェみたいだな」
己の顎をさらりと撫でて、さっきまでの不満そうな雰囲気は何処へやら。
今度は至極愉しそうに口元を緩めて、舌舐めずりしている気分屋のドフラミンゴに、メルは心底精神的な疲れを感じていた。
驚く程に、彼は会話の主導権を手放さない。
たとえ、想定外のことが起こったとしても、怒りに飲まれて我を忘れそうになったとしても、絶対にペースだけは相手にくれてやらないのだ。
闇のブローカーなんて、とんでもない仕事をしなさってるだけはあるとメルは舌を巻く。見た目的に油断されやすいメル相手にも、最低限の警戒をしているドフラミンゴには、感心する程に付け入る隙が見つからない。
「まァ、良い。焦らされるのも悪かねェさ。今日こそ、コラソンを許してやろうと思ってきたんだが·····」
あの独特的な笑いを響かせて、何故か背広の胸元からお気に入りの
そして、美味しくもないだろうに銃口にその長い舌を伸ばした。
恐らく、あのサングラスの向こう側は恍惚に滲んでいることだろう。
ドフラミンゴの行動の意味が分からず、メルはその奇妙な光景を只管に見ることしか出来ずにいた。
出来るだけ今の状態のドフラミンゴに姿を認識されたくなくて息を殺していたメルだが、ドフラミンゴが交渉相手を忘れるはずが無くて。
「あァ、そうだ。その人形をえらく気に入ってるみてェだが?」
急に言葉を落とされて、ビクリと怯えるように震えたメルを気にせず、彼はカウンターの上に倒れているフラミンゴ人形を指さした。
ウェルカムボードが長い首から外れかかっているそれは、ラブの部屋にある箪笥の隅っこから出てきたぬいぐるみである。
それこそ、まだ此処に来て間もない頃のラブの極わずからな所持品の一つであったそれは、毎夜毎夜ラブに抱きしめられていたものだ。
「·····この店の看板ぬいぐるみなの·····だけども、この子は本当はラブの持ち物なんだよね。丁度いい大きさだったから、今は店の方に飾ってみたら、お客さんの評判が良くて」
メルは縮こまる指を叱咤して伸ばし、どうにかフラミンゴ人形を起こしてやる。それから、ウェルカムボードもちゃんといつもの様に長い首からぶら下げてあげた。
最近はジジィのストレス発散として使われていたりするが、流石に形代本人にその事も言えず、メルはそれ以上その人形の説明はしなかった。
すると、メルは妙に畏まったようにフラミンゴ人形を凝視するドフラミンゴの姿を目にすることになった。
色つきのサングラスのせいで、彼が今どんな形の目をしているのかは分からないが、思考の海に深く潜り込んでしまっていることは分かる。
「これを、アイツが·····?」
口振りからして、メルの発言が信じられないらしい。
メルは、そんな様子の可笑しいドフラミンゴを怪訝に思いながら軽く首を縦に振るが───そこで、彼女は思い出した。
彼らの仲がそれはもう、海軍と海賊以上に拗れまくっていたことを。
そのことに気付いてしまったメルは、これが生き残るための岐路じゃないかと注意深く見定めてから更に言葉を紡ぐ。
「この子の名前ね、“ドフィ君”って言うの」
そうメルが言った瞬間に、ドフラミンゴの形相が形容し難い程に歪み切る。
フラミンゴ人形を射殺せんばかりにギリギリと睨み上げて、メルの口から飛び出た事実をゆっくり噛み砕いているらしいドフラミンゴ。
あのドフラミンゴが、やっとまともに動揺した。
彼とて、一心だけで生きているわけじゃないはずだ。
人間なのだから複雑な気持ちを持て余しながらも、ラブを歪に愛して、そして憎んで。
その気持ちの色が混ぜ合って出来たものが、ラブへの執着なのだとしたら───今日のラッキーアイテムは正しくフラミンゴ、だった訳だ。
「良ければ、お譲りしましょうか? このぬいぐるみは確かにラブのものだけど、ラブの今の保護者は使役者の私なんだもの」
本当はもうラブには愛想のないアザラシ人形があるのだけど、それを言うのも段々とドフラミンゴには酷なような気がしてきた。
どうして、こんなにもドフラミンゴが気持ちを空回りさせているのかが、まだ子供らしい思考回路をしているメルには分からない。
愛しているのなら、愛してると想いを重ねて告げればいいだけなのに、この男は、その努力さえも出来ないようなのだ。
そう、例えば「ありがとう」と言えば、「どういたしまして」が返せないように。
そこまでこじらせる程のよっぽどの理由が、この二人にはあるというのだろうか。
───駄目だ。なんか血が繋がっている家族の方が色々と面倒くさい気がしてきたよ。
「フッフッ。それで、今日は出直せってことか」
「配達の依頼が無いのであれば、是非に」
「·····使役者と使い魔、か。それは、思っていた以上に厄介な関係でもありそうだな」
もう在りし日にも思えてくる記憶の中で、ベビー5がこの男をやたらめったらに褒めちぎっていたが、確かに頭がキレることはどうにもならない事実だ。
ラブもドジさえ無ければそこそこにハイスペックなのだが───ドフラミンゴを見ながらメルは憂う。
彼はあのドジ成分だけで全てを無に還しているのだから、そう思えば不幸体質も凄い特質なのかもしれない。
ドフラミンゴは意外にも優しい手つきで、ウェルカムボードを首から掛けたフラミンゴ人形を胸元に抱えると踵を返した。
メルとしてはあの射殺せんばかりのドフラミンゴの眼差しから、乱暴にがっと引っ掴んで持って帰るものだとばかり思っていたのだが。
あれでは、まるで宝物を扱うような手付きだ。
そんなメルの幼い疑問を置き去りにして、怪しげに笑い去っていくドフラミンゴは、羽毛だらけのコートをその広い背中から揺らして最後に特大の爆弾を落としていった。
「また来るぜ。その時には魔女業、復業させといてくれよなァ」
───嗚呼、またラブを迎えに行く日程が伸びていく·····。
そろそろ、また使い魔が恋しくなってきていたメルはそのことに涙を流したくて仕方がなかったが、まだ
メルからはドフラミンゴが背を向けていることもあって見えないが、彼はかなりその人形を気に入ったらしく、小さな頭や長い首の輪郭をなぞるように撫で回っていてメルにまで気を配れていないのだが、知らないものはしょうがない。
そんなドフラミンゴのご機嫌な様子を伺えないメルは、心で涙を流しながら、彼から送られた面倒極まりない別れ台詞に口の端を戦慄かせるという器用な真似をして見せる。
「ゴヒーキー二ー·····魔女は、まだ準備中なので開店はいつになるかは分かんないけど」
メルのそんな投げやりな挨拶でも、その時のドフラミンゴには及第点であったらしい。フッフッフッとあの笑い声を店内に響かせ、そしてバタンと扉の向こう側へと彼は消えていった。
店の外へと予想以上にすんなり出ていったドフラミンゴに、メルは体全体の力が抜け切ったらしく、そのままデジャブ感が否めないがカウンターにちーんと突っ伏す。
「ラブ·····マジであのお兄様、どうにかしてくれないかな。私の手にも余るよ、あの狂人」
それから、数分経たずにスキップかまして帰ってきたジジィにメルが泣きついたのは言うまでもない。
なんで箸休め回の癖してこんなにも難産だったのか·····。
此処で、漸くラブことコラソンを探してモンペが店に突入かましてきました。そのモンペのSAN値が0なのは言うまでもない。
メルは疲労困憊です。私も何故か疲れ切ってますが。
そんなこんなですが、ジジィも完全に死亡フラグ立ってるけど、メルちゃんの受難はまだまだ続きます。
次回は、コルボ山with魔女宅成分補充回になると思います。
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