届けさせてください!   作:賀楽多屋

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ヤギさんじゃなかったら、キレていた

『実は、メルは海軍上層部の隠し子でした』という、天地がひっくり返っても有り得ないボルサリーノの誤解が解けるのには、少々の時間が必要であった。

 

「メルちゃんはガープさんが贔屓にしている配達屋で、今日もその仕事をこなすために此処に居るってことなんだねェ。わっしは、全くメルちゃんのことなんて知らなかったよォ」

 

 また一人、背の高い人間が卓を囲むことになったので、メルの周囲の密度が高くなった。

 

 まだ子供身長であるメルは、自分よりもずっと顔が高い所にある大人達を見渡すために、首を限界まで伸ばすようにして彼らの顔を見上げるが、そろそろ首が痛くなってきそうだ。

 

 しかし、見渡す限り一面の強面。

 皆、正義のコートを肩から羽織っているから海軍だと認識出来るが、逆に言えば、このコートが無ければ逆立ちしたって公務員には見えない。

 

 ───海賊のお宝会議って題名の方が、すんなりと受け入れられる光景だよね本当。

 

 メルがこの様に、失礼な感想を零すのも無理のないことであった。

 

「ボルサリーノ。おどれ、メルとガープさんのことは知っちょらんと言いよったが、じゃあ何処でコレのことを知ったんじゃ?」

 

「ん〜? ああ、メルちゃんとは今日、駄菓子屋で会ったんだよォ〜」

 

「駄菓子屋じゃとォ?」

 

 パイを炭に変えてしまったという、可愛らしい理由で不甲斐なさを嘆いていたサカズキが、メルとボルサリーノの接点に興味を抱いたのか、ジメジメすることをやめて、そのことを聞いている。

 

 “海の戦士ソラ”というバレたくない案件があるメルと違って、何の隠し事もないボルサリーノは易々と口を開いた。メルにしてみれば、いつその口で例のものをバラされてしまうのかと、肝を冷やすしかない流れができあがりつつある。

 

 これは良くない展開だと十分に自覚したメルは、なんとかボルサリーノに黙ってもらえないかと密かに小さく首を振ったり、アイコンタクトを取ろうとしたりと獅子奮迅したのだが、鈍いボルサリーノがそのことに気付くはずもなく。

 

 寧ろ、そういうことに目敏いクザンにサインが気付かれるという失態を彼女は犯していた。

 

「メルちゃんが駄菓子屋に居るって言うのも意外だな。君、そんなに散財するのは好きじゃない筈なのに」

 

 メルにこれ以上嫌われたくはない筈のクザンが、とうとう流れに加勢し始める。

 彼の中でメルが苦労してまで隠したい物が、好奇心を押し殺してまでスルーできるような案件じゃ無くなりつつあった。

 

 恐らくは、あの肥太ったリュックの中身と関係しているのだろうがとクザンはほぼアタリを付けていた。

 

 メルもメルで、クザンが正解にたどり着きかけていることを瞬時に悟っている。

 

 明らかにクザンの目が、メルの背負っているリュックの方へと向いているからだ。

 

 なんで、自分のリュックの中身にこうも彼が執着しているのかが分からない!とメルも半ギレしそうにもなっていると───。

 

「そうなのかい〜? わっしが会った時は、かなりの量のガムを買ってたけどねェ」

 

 とうとうボルサリーノが、例の物について語り始めていた。

 

「あ、あの!? ボルサリーノさんは何かおツルさんに言いたいことがあって此処に来たんじゃなかったけ!? 部下がどうたらこうたら〜って!!」

 

 刹那、白々しくも、メルは挙手までして急にボルサリーノがこの場に来た訳を尋ね始めた。

 

 突然のメルの行動に、ボルサリーノと会話していたサカズキから不審そうな目を向けられる。

 

 センゴクとガープは、ツルからクッキーを取り上げられていることもあって、ガープが常に懐に忍ばせている煎餅に舌鼓を売っている真っ最中であった。

 

 だが、彼等も彼等で、三大将とメルの会話の行き着く先が気になるようで、大人気なく目を緩ませて見守る体勢に入っていた。

 

 そんな馬鹿な男達に呆れた視線をやっているのは、この場においてはツル一人。

 

 こんな小さな子供に寄って集って、どいつもこいつも半世紀近くを生きているとは思えない幼稚さだと頭を振りたくなるが、それをどうこう言った所で思い直すような素直さなど、奴らにはない訳で。

 

 背水の陣を敷いた歴戦の武将の如く、孤立無援のまま息巻くメルの勢いに押されるようにしてボルサリーノが「ああ」と思い出したように顎を撫でる。

 

「そういや、その話をしに此処に来たんだっけねェ。確か、パイ専用保温機」

 

「ぱ、パイ専用保温機·····?」

 

「メルちゃんがガープさんの孫に運ぶっていうパイを、温かいまま届けさせたいっておツルさんがウチの部下に頼んだらしくてねェ。最近は、化学兵器しか作ってなかったと何故か泣いていたよォ」

 

 そう言って、一人でツボり始めたボルサリーノは「いやァ、やっぱり化学部の子達って変なのが多いねェ」と笑い混じりに頓珍漢な感想を述べている。

 

 そんなボルサリーノに二人の大将と二人の老人はドン引きしていた。

 

 因みにツルだけが「お前さん、文句を言いに来たのはいいが、肝心の物はどうしたんだい?」と冷静に手ぶらで現れたボルサリーノにツッコんでおり、ツッコまれた彼はといえば「ん〜? おや、忘れてしまったみたいだねェ」と呑気に頬を掻いていた。

 

 海軍って、ここまでマイペースじゃないと成り上がれないんだなと、メルはまた一つどうでもいいことを勉強した。

 

 

 

 一口に海軍と言っても、その内情は複雑に入り組んでおり、海兵は多種多様な部門ごとに配属されている。

 

 海軍は民営の企業ですら裸足で逃げ出すような縦社会である。

 そのため、階級、配属先、年功序列によって海軍内でのヒエラルキーが決まるので、実に色々と面倒臭い。

 

 ガープのような実力だけで中将に上り詰め、強い者が正義だと思えるような実力主義者の方がこの社会では逆に生きやすいらしく、実力もまあまあ、だけどもコネや贔屓で少尉や大佐にまで上り詰めたような半端な知恵者の方がヒーヒーと喘いでるのがこの業界の真実でもあった。

 

 そんな海軍の数ある部門の一つに化学部というものがあり、此処に所属する部隊の半分はボルサリーノを上司に持っていた。

 

 この部隊の直属の上司は、ベガパンクという天才科学者になるのだが、天竜人の護衛をよくこなすボルサリーノは、『彼等の警備は世界最高レベルで無ければならない』という世界政府からのお達しもあって、化学部隊を使うことの出来る権限を持たされていた。

 

 そんな故もあって、ボルサリーノの部下の半分が化学部(マッドサイエンティスト)なのだが、彼の部下の一人がツルに平和な家庭道具を作らされて、感涙を流したと言う。

 

 

 なんとか話を別の方角へ向けることに成功したと、メルは密かに流れていた冷や汗を拭う。

 

 しかし、此処はまだ敵陣。

 その油断が仇となった。

 

 ガムの箱でパンパンに膨らんでいるリュックを、ずり落とさないようにしっかりと背負っていたメルだが、冷や汗を拭う時にその手を僅かに離していた。

 

 刹那、リュックがギューッと後ろへと引っ張られるのをメルは感じる。

 

「あっ·····!」とメルがリュック紐を取り戻そうと手を伸ばすも、時すでに遅し。

 

 メルの背中から離れていったリュックは、床へと落ちるや盛大にガムの箱を中から撒き散らし、事態は最悪な結末を迎えることとなった。

 

 しかも、この大惨事には元凶が存在するらしく、()()は踊るような足付きでぴょこぴょこと飼い主の元へと戻っていく。

 

「メェ〜〜〜」

 

 センゴクの傍でよく侍っているヤギが、今回の戦犯であった。

 

 愛くるしい小動物の眼で、やってやったぜ!と言いたげな顔をしながら、小さなしっぽを振るその姿は正に小悪魔。

 

 ミンク族や新聞屋はともかく、小動物には滅法弱いメルは、偶に愛でていたヤギなだけあって怒るにも怒れず。

 

 複雑な心境を百面相で表現しているメルの周りでは、散らばっているメルの秘密に皆が皆(ボルサリーノ以外)、己が見ているものが信じられないと言った顔をしていた。

 

 ───これは、海の戦士ソラのシール入りガムか·····? 何故、こんなにも沢山の量をメルちゃんが·····。

 

 センゴクは思い悩む。

 何故、彼女はこれ程にこのお菓子を持っているのだろうか、と。

 

 ───この子も、そう言えば、まだ十歳にもなってなかったね。

 

 ツルはメルの年齢を再確認する。

 いっぱしに大人ぶった口調で、山千海千の海兵と渡り合っているが、まだこの子は働くのも難しい年頃であったと。

 

「メルちゃん、こんなにこのお菓子が欲しかったんなら、ワシが買ってやったのにのう」

 

 床で散らばる海の戦士ソラのシール入りガムを一つ手に取って、「今はこういうのが子供の内では流行っとるんか」と興味深そうにガープは眺めている。

 

「え·····!?」

 

「いつも世話になっとるんじゃから、当たり前じゃ」

 

 実際は、ボガードがまた商店街を走り回ることになるのだが、過程よりも結果重視派なので、その辺の細かいことは結局告げられることもない。頑張れ、ボガード。君の未来はきっと明るい。

 

「海の戦士ソラのォ。やはり、子供は子供。随分と愛らしい趣味をしとうことで」

 

「オレァ、別にいいと思うぜ。海の·····なんだったか。んー、まぁ、あれだあれ。オレはかっこいいと思うぜ。主役の飛んで、パンチする所とか超イカしてる」

 

 やっぱり、嫌な反応を取るのはトラウマの二人のようで、サカズキはニヤニヤと鼠を前にした猫のような顔をしており。

 

 なんとかメルの好感度を上げたいクザンは、海の戦士ソラを知らないのに適当なことを言っている。

 

 ───やっぱり、サカズキさんもクザンさんも大っ嫌い!!

 

 熱を持つ頬を自覚しながら、この大人気ない大将二人にメルはそう心中で吠えた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 分厚い雲が天を覆い、海がうねり、飛沫を上げ、海面は大荒れ状態。

 

 横なぶりの雨が絶え間なく降り続け、鉛色の雲からはゴロゴロと雷が発生する音が聞こえる。

 

 航海中の船であれば、この大嵐に「クソッタレ!」と舌を打ち、波に持っていかれる舵にてんてこ舞いなのだろうが、空上の飛行はまた勝手が違ってくる。

 

「やっぱり、大(シケ)だよねー。これは、完全にまた日帰り出来ない予感たっぷり!」

 

 横なぶりの雨と轟々と吹く向かい風に、メルの乗るデッキブラシが勢いに流されそうになっているが、どうにかそれを堪えて前進を続ける。

 

 パタパタと羽織っているケープの裾がめくれ上がり、すっぽりと被っているフードもこの向かい風によって、その意味を無くそうとしておりメルの頬を雨が打つ。

 

 靴なんて既に水浸しになっているのだから、これじゃあ履いていても履かなくても、変わらないようなものだ。

 

「ここ一年はずっと嵐を避けてこれたけど、やっぱりそろそろ遭遇する頃合かなーとは思ってた」

 

 因みに、我が身と同じくらいに大事な例の物が入ったリュックは、しっかりとケープの下に雨から隠されている。

 

 配達物であるパイとクッキーは、海軍本部化学部のお手製である保温機の中に入れられているので、雨が降ろうが風が吹こうが中身には全く影響がないことを確認済みである。

 

 寧ろ、今、この場で一番安穏とできる場所がその中かもしれないと、雨風に晒されているメルは思う。

 

 目的地を見通すように、水平線の一点をメルは見つめるが、所々に出てきた体調の不良に気付き、無意識に舌を打った。

 

 手先が濡れてかじかみ始めたのか、感覚が無くなってきていた。

 足先も濡れた靴を履いているせいで、冷え切ったあまりに指が動かしにくい。

 

 ───配達先である、コルボ山のダダンって人の家まではあと見積もって一時間は掛かるんだよね。

 

 デッキブラシの速度を上げることも考えたが、己の残りの体力のことも考慮すれば、あまり無理な賭けは出来そうにもない。

 

 デッキブラシに住む風の妖精シルフを使役するのには、そこそこの魔力が必要だ。

 

 現在、魔女稼業を休業中であるメルは、僅かの魔力だけで遣り繰り出来るからと、その身には必要最低限の魔力しか蓄えていなかった。

 

 ───せめて、成人するまでは魔力を身の内に溜めたくはないんだよね。私自身が、知識に振り回されるうちは·····!

 

「シャンディアに幸あれー!」

 

「盗人であるスカイピア人達に天罰をー!」

 

 雷の轟音と風の呻き声に紛れて、天から誰かの叫び声が聞こえたような気もするが、メル以外にこんな大嵐の中、空を飛んでいる物好きがいるはずもないかと、彼女は聞こえてきたものを空耳だと一蹴する。

 

 よもや、この分厚い雲の上では、めくるめく領土争いが巻き起こっているなどとはいざ知らず、メルは口元をより引き結んでこの最悪な天候の中、風にデッキブラシの軌道を取られないように器用に繰る。

 

 メルが、こんなにも頑張るのは、配達屋の意地を見せるためだ。

 

 世界一の配達屋になって、自分にも他人にも誇れるように在りたいから。

 

 

 だから、今はあの太陽のような笑顔を浮かべる脳天気な子供にニシンのパイとクッキーを届けようと、メルは濡れそぼった体に鞭を打ってデッキブラシを飛ばし続けた。




拙作は、作者の調理が雑な故に度々原作と矛盾を生じることがありますが、この前魚人編を見返して、また矛盾を突きつけられることになりました。

どうやら、海軍大将が大将になったタイミングは原作開始から早くとも七年前になるみたいですね·····。

ですが、拙作ではもう大将になっています!
ってことは、拙作ではきっとバタフライ・エフェクトによって、大将在任期間が長くなるような出来事がきっと起こったんですね!

というスタンスで、これからは生じてる矛盾と向き合おうと思っています。因果ですら、作り出してこその二次だと思いたい。

新世界に入ってからの、はっちゃけてるセンゴクさんが大好きです。
元帥って大変だろって他人事のセンゴクさん、ドレスローザに物見遊山で来たおかきジジイなセンゴクさん。

ゴールド・ロジャーと渡り合ったり、頂上決戦の指揮を執ったりしたりと、その心労を考えるとこれ以上無理しないでくださいと言いたくなります。

残りの余生は、ヤギと共に世界の行く末をのんびり眺めて欲しいなと思うばかりです。
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