もうすぐで、ブルーノ、カリファ、ペンギンの誕生日なので二本続けてお送りします。
あと、海軍ターンが予想以上に長かったですしね。
ルフィは暇だった。
朝からずっと降り続けている大雨のせいで外に出ることも出来ず、兄のエースが鼻ちょうちんを高くして寝ているのを観察することしかすることが無い。
「暇だぞ〜。高町に行ってラーメン食べたいし、試合もやりたいぞ。暇だ、おれは暇だー! 暇だー! エース!!」
最終的にエースに相手してもらうことにしたらしいルフィは、グーグーイビキをかいて寝ているエースのほっぺたを引っ張り始める。
暇潰しの相手として、ルフィはエースを選んだようだ。
しかし、幾らルフィがほっぺたを捻りあげようが、甲高いボーイソプラノでエースの耳元で喚こうが、終いには脇腹をこそばせても、彼は一向に起きる気配がない。
一度眠り込んだら、象に踏まれても起きないと養い親である山賊達が評するように彼の眠りはとんでもなく深かった。
「ルフィ、暇ならオセロやろうぜ。海賊は、腕力だけじゃなくて、此処も必要だからな」
ギシギシと床を軋ませて、ルフィとエースの元へとやってきたのは、シルクハットを被った金髪の男児で、彼は人差し指でこめかみを突いている。ルフィに頭の体操も必要だと告げているのだ。
そんな彼は、首元でクラバットを締めており、品の良い白シャツと短パンを履いているが、そのどれもに穴が空いていたり、すす汚れていたりするせいで、没落寸前の貴族の子供といった風貌だ。
「えー、オセロォ〜? サボとやるとぜってぇ勝てねェから嫌なんだよな」
猪突猛進、単純明快に一家言あるルフィは、サボとの頭脳比べは大の苦手であった。
策略を張りめぐらせることが苦手なルフィは、腕力で押し通らないボードゲームが殊の外、苦手なのだ。
口元を尖らせて、そんな目に見えた勝負はしたくないと駄々を捏ねるルフィに、サボはあからさまな溜息を吐く。
「んな事言ってるから、おれやエースに試合でも勝てねェんだ。このコルボ山ならまだしも、おれらが繰り出す
「おれは船長になるんだ! だから、そいつらには敗けねェ!!」
「だったら、オセロでもおれに勝たねェとな」
とうとう口元を尖らせるだけに飽き足らず、ルフィは頬を風船のように膨らませる。
まだ七歳であるのだから、子供のような振る舞いをしても可笑しくないのだが、此奴は何歳になってもガキっぽいんだろうなァとサボは彼の行方末を見抜いていた。
「わーわー、人が寝ている傍で騒ぐなよ。くわぁ、起きちまっただろうが」
上体をムクリと起こして、背伸びをしながら特大の欠伸をかましたのは、ルフィがどうしても起こしたかったエースである。
『暴力』と書かれたハイセンスなタンクトップを着込み、ただでさえ、うねりの酷い天パが、寝癖で更に酷いことになっている。
「エース、お前ェ、髪がワカメみたいになってるぞ」
「いや、これは古より聞くメデゥーサだな。人や物を石化する化け物の挿絵がこんな感じだったはずだから」
「テメェら、寝起きの人間捕まえて、何失礼なことばっか抜かしてくれとるんじゃ!?」
神妙な顔を並べて、ワカメ、メデューサと散々に言うルフィ達には、温厚で通っているエースも怒りを爆発させる。因みに、エースの温厚という評価は、勿論自称であるので悪しからず。
結局、大雨で外に出られずとも家の中で三人は暴れ回るのだから、普段とやることは違わない。
掘っ建て小屋とも言えそうなこの家が、更に子供達の喧嘩によって荒らされていく様を、元の住人である山賊達が涙を浮かべて見ているが、それに三人が気づくはずもなく。
「ただめし食らいが家壊すんじゃねェよッ!! ガキがもう一匹増えてから、こちとら更に迷惑被ってんだ!! ったく、あのクソジジイの血縁にゃあロクなのがいねェっての·····」
最終的に三人に怒鳴り声を響かせたのは、この家の持ち主である山賊のリーダー、ダダンであった。しかも、ダダンの怒りの声と共に、何処か近くで雷も落ちた。
小さな窓から差し込んだ雷の明かりに映し出されたのは、横にも縦にも大きい朱色の巻き髪が特徴的な女性である。
簡素な綿シャツとズボンを履いた妙齢のこの女性こそが、掘っ建て小屋の大黒柱。
エースとルフィという、二匹の問題児をガープに押し付けられた悲劇の女性と言っても過言ではない。
世話らしい世話は焼いていないが、必要最低限の生活は保証しているため、なんだかんだと気の良いおばさんである。
そんな風に、ギャースカ騒いでいると玄関の扉がノックされる音が響いてきた。
ドンドンと扉が何度も叩かれるのを聞いたのは、ダダンの愚痴が一通り終わってからだ。
こんな天候の中、一体誰が、どんな用で山賊のアジトにやってきたというのだろうかと、山賊達がそれぞれの顔を見合わせる。
夜も更けて来た時間に、大雨の中で響く一定のノック音は多少不気味だ。
ゴクリと誰かが生唾を飲んだ音すら、今は鮮明に聞こえる。
ダダンを始めとする山賊達に緊張感が迸る中、子供達も子供達で犯してきた悪行の数々を思い返して気を張り始める。
「ブルージャムの奴等か?」
「もしかしたら、食い逃げの方かもしれねェぞ」
「端街の不良共かもな」
エース、サボは今年で十歳。
ルフィは漸く七歳になったところである。
まだ人生の酸いも甘いも見知らないはずの子供達であるのに、犯してきた罪は窃盗、傷害、不法侵入エトセトラエトセトラと数え始めたらキリがない。
ヒソヒソと自分達に用がありそうな連中達をピックアップしている間にも、扉は連続的にノックされ続ける。
そして、ガチャっと扉が開く音がした。
全員が床につく頃くらいにしか閂を差さないので、今回はそれが裏目に出たのである。
蝶番がさび切っているせいか不協和音が鳴り響き、何でこんな大雨の夜に扉を開けっ放しにしてたんだとお怒りであるダダンに、他の山賊達がヒーヒー言いながら謝罪する。
しかし、そんな謝罪も後の祭りだ───扉の向こう側から現れたのは、彼等が最も恐れている
「ルフィくーん! 荷物をお持ちしましたー!!」
水滴ばかりが目立つケープと、その下から伸びる真っ黒なワンピースは、絞ったらかなりの雨水が出てきそうだ。
海面のように光り輝く碧眼の上にあるおでこは、水を吸った前髪がぺたりと張り付いており。
肩から提げているデッキブラシも、今日は力を無くしているようにブラシの毛先には艶がない。
「·····お前ェ、誰だっけ?」
「おまっ!? あん時のデッキブラシ女!?」
同じ日に遭遇したのにも関わらず、正反対な声を上げる兄弟には、メルもおやと目を見開いた。
「あれ、ルフィ君、この人達は? ってか、なんでエース君がここに?」
掘っ建て小屋の中へとずんずん入ってきたメルは、フードをぺいっと外しながら、ルフィ達の周りで怖い顔をしている山賊たちを見渡す。
「ん·····? ってか、さっき、ルフィ君。私の事、誰って言わなかった·····?」
「おう。言った。で、誰だ? お前ェ?」
考える間もなく即答するルフィに、ニシンのパイとクッキーが入った保温機を両手にしていたメルが、脱力したように両肩を落とす。
「こ、これだから、子供の記憶力ってアテにならないんだよねー。確かに一年近く会わなかったかもしれないけど、こんなに簡単に忘れられるものなの·····」
「おい、デッキブラシ女。ルフィに荷物ってどういうことだ?」
ずーんと沈み込み始めたメルのことなど知らないとばかりに、ルフィの代わりにエースが用件を聞く。
エースに声を掛けられて、ちらりと目線をメルは上げるが、その目はかなり疲弊しきっていた。
「エース君も、全然私の名前なんて覚えてないみたいだし·····。はァ、ルフィ君にガープさんからお届け物があるの。中身は保温機開けたら分かるよ」
はいと両手にしていた保温機をメルがエースに渡すと、ルフィは「飯か!?」と黒の双眸をキラキラとさせて、保温機の蓋を開ける。
食欲に関する嗅覚が凄いらしい彼は、保温機の中に入っているニシンのパイとクッキーを見つけて「うっひょー!」と嬉しそうな声を上げた。
「見ろよ、エース、サボ! 大きなパイだ!!」
「·····久しぶりにこの家で、手の凝った料理を見たな」
「家の飯に文句があんなら、とっとと出ていきゃいい! ってか、出てっておくれよ!!」
「パイとクッキーか。いい匂いがするな」
保温機を囲んで、嬉しそうな顔をしている三人を見ていると運んだかいがあったというものである───因みにダダンの決死な願望は、残念ながら三人の耳を素通りしている。
これ以上、心労を掛けないであげてよと、したまつ毛の濃い男が涙を拭いながら言っているが、それすらも子供達はスルーである。
しかし、ルフィ達に聞く耳を持たれないのは何も今に始まったことではない。
早々に気を取り直したダダンは標的を客に変えて、じろりとその細い目でメルを見下ろす。
「お嬢ちゃん。アレはクソジジイからの届け物だって聞いたが、なにか他に伝言とかはねェのか。例えば、ダダンって奴に礼があるとかさ」
ルフィを迎えて半年以上、エースに至っては十年も養い続けている。
そろそろ一言あってもいいんじゃないだろうかと思っていた矢先に現れたのは、パイとか言う洒落たものを運んできたメルという少女であった。
これまで、あのクソジジイが孫の為にと何かを送ってきたことなど無かったために、もしやこのパイはカモフラージュで、漸くダダン達に褒美を与える気になったのではないか、とダダンは甘い妄想を抱いた。
十年だ───苗木だって、立派な木の実を付けるほどの年月を山賊達は、エースに注いできた。
真正面からは礼を言うのも恥ずかしいからと、パイの配達というカモフラージュをしてまで、ダダン達にお礼をしようと奴は考えているに違いない。嗚呼、そうだとも。あの偏屈ジジィも、流石にそういうことを考えるはずだ。
だが、しかし───。
「そんなことは一言も聞いてないよ。ダダンの家にルフィが居るってことは聞いたけども」
「あんのクソジジイッ!! 相変わらず、舐め腐った真似しやがる!!」
孫にお菓子を寄越すくらいならば、教育諸々押し付けられているダダン達にも何かお礼のような物があって当然なのだが、常識に唾を吐いて生きているような人間であるガープがそこまで頭が回るはずがやっぱり無かったようだ。
甘い幻想はすっかりと有耶無耶になり、腹立たしいだけの現実がダダンの両肩に伸し掛る。
「彼奴こそ、死んだら地獄行きだ! ロクな死に方しねェからな、あのクソジジイ!!」とダダンが喚き散らしている傍らで、彼女の部下である山賊達も頻りに頷いている。
───何なんだろ·····ここ。
ガープから一切の説明を受けていないメルは、この家の不可思議な有様に首を傾げる。
そんなメルの目前では、ニシンのパイを巡って、食い意地の張った子供達による熾烈な争奪戦が行われていた。
フォークを持ってくるのもタイムロスになると、両手でパイを掴んでは口に放り込むという作業を繰り返す子供達は、淑女としての教育をジジィから受けていることもあって、メルにはとても汚い食事風景に見える。
「おれの魚ー!」
「んなもん、食べたもん勝ちだ!」
「クッキーもしっとりしてて美味ェな!」
「それもおれのクッキーだぞ!」
でも、必死に口元を汚しながらパイとクッキーを奪い合うように食べる彼らを見ていると、少し前の自分達の懐事情も思い出した。
ミンク族のジジィがなかなか職にあり付けず、メルもまだ配達業をしておらず、収入が皆無に等しかったあの頃。
そこら辺に生えている草や木の根さえも食べて、どうにか生き長らえていたあの頃を思い出せば、まぁまだこの食事風景も見れないことは無い。
「はァ。頭がグルグルしてきたな」
ジジィと身を寄せあって生きていた過去と、目の前で必死にニシンのパイを食べているルフィとエース、サボの三人組の光景が混じり合う。
ズキズキと頭の端が痛んできたのは、長い間雨風に晒されて、風邪でも患ったからだろうか。
熱くなってきた体に、喉が乾きを訴える。
でも、それ以前に。
どさりと物が倒れるような音がしたので、流石の三人も、一旦食べる手を止めた。
音がした方に促されるままに見てみると、そこには両手足を投げ出して、床に伏しているメルの姿があった。
「お、おい·····!」
一目散に駆け寄ったのは、エースだった。
続いて、ルフィとサボもメルの傍へと走り寄ってくる。
エースがメルの体を揺さぶるも、彼女は両目を固く閉じて、うんうんと唸るだけである。
そんなエースとメルのやり取りを見ていたサボが、もしやと思い至り、メルの小さな額に片手を当ててみると、そこは温石のように熱かった。
「エース! この子、熱があるぞ!!」
「んだと·····!? ったく、こんな雨の日に空なんか飛ぶからだ·····!」
エースは意識のないメルを背負い、取り敢えずは寝室の方へと足を向けた。このまま、床に寝かしておくよりかは茣蓙の上の方がまだマシだろうと判断したのだ。
「おれ、ダダンに話してくるよ。ルフィは氷水の用意を頼む!」
「分かった!」
オロオロと狼狽えているルフィにも、サボは仕事を与える。
テンパったまま、ウロウロされても邪魔なので、サボのこの采配は的確であったと言えるだろう。
本当だったら、オセロをして、あとは寝るだけとも言えるような退屈な一日なるはずだった今日。
しかし、そんな今日は雨雲の向こうからやってきた配達屋によって、ニシンのパイと共に騒々しさも舞い込んだようであった。
ようやっと出せました!
ダダン!と盃兄弟!!
三国志好きとしては、盃交わしたら、このまんま黄巾党と一戦させて、虎牢関とかにぶち込みたいのですが、我慢我慢。
となると、劉備はエース、関羽はサボ、張飛がルフィになるのかな(生まれてきた月順になると)。
ドーン島は、マキノさんといい、ダダンといい、母性溢れる女性が多くて良かですね。
牢屋にぶち込むぞ!とガープに脅されながらも、エースとルフィを育て上げたんだから、ダダン一家は本当に良い人ばかりだなと思います。
普通の子供ならともかく、札付きの不良二人を世に送り出してるんですから立派なものです。