遠い遠い過去の記憶。
まだ、メルが彼女の体内にいた頃のその記憶が、ふとした拍子に蘇る。
「私の夫を返して頂戴·····愚かな人間ども」
聖地マリージョアの中心地。
世界政府の本部があるその場所には、誰も
天竜人を束ねるあの五大老も、その玉座まで伸びる
しかし、この日、その階に畏れ多くも足を掛ける女人がいた。
体のラインが浮き上がる黒い襟詰めのドレスを纏った妖艶なその女は、腰ほどもあるウェーブの掛かった黒髪を背中で揺らし、十センチはありそうなピンヒールで階を踏み締め、高らかにヒール音を鳴らして上っていく。
スリットの入ったドレスから覗く艶かしい脚が、女が上る度に姿を現し、階の袂では、五大老達があわあわと忙しなく動き回っていた。
「ま、魔女よ·····! 貴様ッ、己がとんでもない罪を犯していると分かっているのか!?」
「ああ、あんな者を通してしまうなんて·····私達も無事では済まされないぞ!」
「降りてこい! そこは、お前のような下賎の者が足を付けて良い場所ではないのだ」
五大老達は血の気が引き切って、顔面蒼白になっている。
今にも血液の循環が滞って気絶してしまいそうな彼等であるが、諌めている相手が全く聞き耳を持っていない。
魔女と呼ばれたその女は、この世界の頂点に近い五大老達を取るに足らない存在だとでも言いたげに、歩みを止めずに前進していく。
「
魔女の熟れた林檎のような赤さを誇る唇が、ニヒルげに歪む。
紡がれる声は蜜に塗れたような甘さを持っており、それは
虚の玉座まであと数段という所で魔女は歩みを漸く止め、足元よりもずっと下にいるこの世界の権威である五大老達を、不遜にも見下ろした。
魔女に見下ろされている五大老達は、揃って彼女の美貌に当てられたように惚けた顔を浮かべる。
だが、一瞬にして魔女の魔性から抜け出した彼等は、気を取り直すように奥歯を噛み締める。二人程、気まずそうに咳払いもした。
「さぁ、返しておくれ、妾の
パチンと指を鳴らした魔女の手元には、何故かガラス棒が握られていた。
ガラス棒とは、一般的に液体をかき回す時に用いられる化学器具だ。他の器具に液体を移す時も活躍する。
しかし、五大老達は知っている。
このガラス棒が、ただの化学器具では無いことを。
一瞬にして、また血の巡りを悪くした五大老達の背中を走り抜けるのは悪寒だ。本能的に、彼等は生命の危機を感じ取ったのだ。
だが、魔女の独壇場はここで終焉を迎える。
いつの間にか虚の玉座に腰掛けていた、仮面を付けた男によって、彼女は主導権を手放さざるを得なかったのだ。
「ようこそ、原始の魔女よ」
誰も腰掛けることの出来ない筈の虚の玉座に深く腰掛け、鷹揚に両手を広げて魔女を歓迎するその男は、人間とは思えないほどに無機質な声を出した。
魔女は、五大老達を見下ろすことを止めて、その仮面の男と向き合った。ワノ国のオペラとして親しまれている歌舞伎で使われるその面は、般若の形をしている。見る物に威圧を掛ける、憤怒の形相を浮かべた般若の仮面を前にしても、魔女は動じることすらしなかった。
「ようやっと、お出ましなのね。この世が自分の物だと勘違いしている大うつけ者が」
「随分な言い様だな。それは、お前もだろう……? ヒュパティア」
まるで、この男こそが本命だとでも言うように。
ヒュパティアは、イレギュラーな登場を果たした仮面男に憎まれ口ばかりを叩く。
「ええ、そうよ。この世界は妾のもの。そう思える程の力だって持ってるわ。違いなくて?」
「傲慢な魔女だ。お主が、
「ふふふ、ふふふ。妾を茶に誘うと……? 面白い冗談を言うのね。死んでもゴメンですわ」
「それは、残念だ」
刹那、魔女───ヒュパティアの胸元から夥しいほどの鮮血が飛び出した。
目に見えぬ何かがヒュパティアの胸元を抉ったのだろうが、彼女は心臓を損傷したにも関わらず「ふふふふふふ」と不気味な笑いを響かせるだけだ。
痛みに怒号を上げたり、胸元を抑えたりなど、普通の人間ならばとって当たり前のアクションを彼女は全くしない。痛みなどを感じてもいないように振る舞うヒュパティアの足元は、彼女の血で濡れていた。
それどころか、彼女は真っ赤な唇から鮮血を溢れ出させ始めていた。
ごふっと血塊を吐き出しながらも、これは幻覚なのだとでも言うように飄々と口を動かすヒュパティアは、正しく魔女の名にふさわしき禍々しさを纏っている。
「ねぇ、夫を返して。妾の番、妾の片割れ……。嗚呼、コンラート。妾のコンラート、今、何処にいるのかしら」
そんな狂気じみたヒュパティアに、すっかり傍観者と成り果てた五大老達は、己の血で赤くなっていてもなお、笑い狂いながら、自分の夫を返せと言い募る彼女に恐怖を植え付けられていた。
あれは、狂気に取り憑かれた女だ。
───番である夫が殺されていることを、あの女は知っているのに。
もうこの世に、コンラートが居ないことも分かっているはずなのに、マジョーリアにまで乗り込んできた気狂いが、甘い甘い笑い声を四方八方に反響させる。
「あれは……魔女なんてものじゃない……! この世に顕現した悪魔だ……!!」
一人の五大老の決死な声に、ヒュパティアの血で仮面を汚した男が溜息を吐く。
「そんなこと、とうに分かっていたことだろう」
☆☆☆
小雨ほどになった雨が、屋根にパラパラと当たるその音には、程よい心地良さがある。
ふと、まだ夜中にも関わらずに目をぱちくりと開けたエースは、四方から聞こえてくる多種多様な鼾と寝息を耳にしながら身を起こす。
一緒に寝ているルフィが、エースの分の毛布まで奪っていたらしく、道理で体が冷えている訳だと察する。
少し腹いせにルフィのほっぺたを指で弾いてみたが、ゴムの弾力に阻まれてあまり威力が出なかった。
ルフィとは逆の位置で眠っているサボは、お行儀よく毛布に包まって眠っていた。乳歯の欠けた歯を見せて、気持ちよさそうに寝息を立てるサボの頭上には、お気に入りのシルクハットが置かれている。
───少し、あの女の様子でも見てくるか。
折角、目が覚めたのだしと誰かに言い訳しながら立ち上がったエースは、その辺に転がっている山賊の足を時に踏んだり、腹を無意識に蹴ったりして、どうにか雑魚寝部屋を後にする。
エースが向かったのは、物置だ。
ぺたぺたと音を立てて、物置へと向かうエースを見咎める者はおらず、難なくメルが眠るその場所へと入ることが出来た。
だが、その部屋にいたのは、熱に魘されているメルだけではなかった。
「誰だ、お前ェ」
警戒するように、強ばった声で誰何するエースに、その女はニコリと微笑む。
「そなた、
エースの短いこの人生でもお目にかかったことの無いほどの美人が、蠱惑的な赤い唇を手で隠して、上品に笑う。
体の線がくっきりと浮き出るほどのタイトなドレスを身に纏い、ウェーブの掛かった長い黒髪は座り込んでいることもあって、床にまで届いている。
エースを見つめ返すその目は、メルと同じ見事な碧眼であった。
海を溜めたようなその瞳は、キラキラと不思議な光を湛えている。
そんな女のすぐ側には、顔を熱で真っ赤にして、鼻をグスグスと鳴らすメルが寝苦しそうに顔を歪めていた。これは、完全に雨に濡れて風邪を引いている。
一体、メルの傍に侍って、この女は何をするつもりなのだろうか。
「誤魔化すんじゃねェよ。お前は誰だっておれは聞いてる」
「せっかちな男は嫌われますわよ〜? ああ、そんな今にも殺しそうな顔で見ないでちょうだい。ゾクゾクしちゃいますの」
あ、これ完全にヤバい
エースの殺意に塗れた鋭い眼差しを受けて、体を怪しくクネらせるその女に、二歩ほど足が後ろに下がる。
ドン引きしているそんなエースを全く気にも留めていないその女は、そろそろ遊ぶのも程々にしないとでも思ったらしく、漸く己の名を口にした。
「妾はヒュパティア。ふふふ、そなたは妾の姿が見えるようだから、特別に“ティア”と呼んでも良いわ。さぁ、今度はそちの番よ」
「おれはエースだ……ヒュパティアは、なんでこんな所にいる? 」
愛称で呼ぶ気が一切無いエースに、ヒュパティアがまた体を怪しくクネらせる。やはり、あまり良い性根をしていないようだ。
「なんでこんな所に? そうですわね、妾はこんな所
ヒュパティアと名乗ったその女は、質問しているエースをそっちのけにして何やらブツブツ呟いていたが、気を取り直すように一度口を閉じた。
そして、彼女は蜜を落とし込んだような甘いその声音で告げる。
「この子を癒すためですわ。元々体が弱いのに、命を削ってまで魔力を生み出しているせいで、更に免疫が弱っているの。だから、雨に打たれたぐらいで風邪を引いてしまうのね。嗚呼、可哀想な
あやす様にメルの柔らかな髪を梳いて、囁き歌うように紡ぐヒュパティアの顔は、どこからどう見ても母親のものだ。
今のエースには毒にしかならないその母親の顔に、彼はヒュッと息を呑む。
「ふふふ、怖がらなくて良いのよ、人の子よ。そなたの運命も、とても可哀想ね。世界の悪意に良いように弄ばれて───鬼の子だなんて、大違い。そちは、哀れな人の子なのに」
「……知ったような口を利くんじゃねェよ! テメェ、どこでそれを……!?」
まさか初対面の女に秘密がバレているとは思わず、理性の箍が外れたエースは大声で威嚇する。
しかし、ヒュパティアは手元で眠っているメルを慮るように、口を大きく開けるエースに「しっ」と諌めた。
「大声を出さないでちょうだい。この子が起きてしまうでしょう? 妾は原始の魔女よ。そちの運命を読むなんて簡単なこと」
「おれの、運命を読むだって……!?」
有り得ない事を飄々と口にするヒュパティアのせいで、張っていた緊張の糸が緩んでいくのをエースは感じる。ぱかりと大口を開けたまま固まったエースにヒュパティアは、肯定するように「ええ」と頷いた。
普通ならば、気狂いが馬鹿なことを騒いでいると一蹴するようなレベルの戯言だ。
しかし、それもヒュパティアが言えば、何故か真に受けてしまう。
この女には、理に外れたこともやってしまえるような、そんな人外じみた説得力があるのだ。
「そなた、己の運命の行く末を知っていますのね。父親が残した因果が、その身に引き継がれてしまったことを理解しているだけあって、利発ですわね」
目を伏せて、エースの運命についてヒュパティアは語る。
ぐっと、またエースの喉が鳴った。
「やっぱり、おれは、あんな奴のせいで……」
どんなに我武者羅に足掻いても、あの男が敷いたレールの上からは抜け出せないのだと察して、エースは自分の身が底無しの奈落へと落ちていくような感覚に陥った。
『鬼の子だよ!!? 万が一、政府が嗅ぎつけてみなよ。あたしらは一体どんな目にあうと思う!!?』
『ゴールド・ロジャーにもし子供がいたらァ? そりゃあ“打ち首”だ!!!』
『世界中の人間の恨みの数だけ針を刺すってのはどうだ?』
数え切れないほどに海賊王の息子と言うだけで降り掛かる悪意は、まだ十年しか生きていないエースが背負うにはあまりにも重すぎた。
どうして、この世に生まれて、息を吸っているだけで、こんなにも世界から嫌われなければいけないのか。
何度も何度も子供ながらに繰り返した自問自答に、結局満足のいく答えが出るわけが無く、神経を無駄にすり減らすだけであった。
養い親の山賊は、犯してきた罪に目を瞑ってもらうためにエースを引き取っただけで、エースを受けて入れているとは到底言い難い。
自分を生かしているガープとてそうだ。
エースを愛しているのではなく、何かしらの利益があって、彼を育てているに決まっている。
もしかしたら、自分が成人を迎えた日に、ギロチン台のある広場へと引き摺り出して、皆の憂さを晴らそうと企んでいるのかもしれない。
考えれば考える程に疑心暗鬼になっていくエースの心を世界の悪意が蝕み、立派な人間嫌いとして彼を成長させていく。
「まぁ、そう悲観することもありませんわ。そちには、妾の愛子がついていますもの」
「え?」
「それに対人運は良好ですのよ、そなた。幸運値はびっくりする程、下に振り切れているけども」
急にエースを励ますような言葉を投げかけて来たヒュパティアに、エースはひっくり返ったような声しか出せなかった。
しかし、そんなエースの反応をびた一文も気にしていないらしい彼女はその後も淡々と言の葉を紡いでいく。
「この場所は、やがてそちにとって、なくてはならない生家になるようよ。それに、血の繋がらない兄弟が出来るという暗示もありますわ。成人後には、もっと多くの家族を得られるでしょう」
「全然意味が一つも分かんねェんだけども!?」
「今は意味が分からなくとも、覚えておいて損はなくてよ。なんてたって、妾の占いは百発百中。そこらの紛い物とは質が違うのですわ」
どこまでもゴーイングマイウェイなヒュパティアに、ずっと調子を狂わされまくっているエースは悔しさに地団駄を踏むが、踏む前に件の人物から「メルが起きてしまいますわ」と注意を受ける。
素直にヒュパティアの注意を聞きいれた限定的に良い子になっているエースは、怒りの矛先が何処にも向けられずに臍を噛む。
そんな彼はこの激しい葛藤をこれから先、かなり長いこと胸に抱えて生きていくことになるのだが、それはまだ未来の話だ。
「ということで、占い料として、そちの狂気を少し分けてもらえないかしら?」
「何が、『ということで』なのかが、おれにはさっぱり分かんねェよ!? 意味わかんねェことばっかり好き放題に言いやがって……!」
「妾は何にも悪くなくてよ? 理解力のないそちが悪いの」
ヒュパティアのペースに巻き込まれ過ぎて、段々と彼女の言うように、理解力のない自分が本当に悪いのではと思えてくるのだが、エースは寸でのところで首を振って正気を保つ。
ペースを乱されるのはまだいいが、自分の心まで奴に明け渡す訳には行かない。
そこでエースは、己の身を守る為にも潔く匙を投げることにした。
「もう好きにやればいい。おれは疲れた」
どうせ何を言ってもこの女は、自分のしたいように振る舞うのだ。
ならば、それに反抗する方が骨折り損というもの。
この短い時間で、エースはヒュパティアとの付き合い方の極意を掴みかけていた。
エースから匙を投げられたヒュパティアは、「殊勝な心掛けよ。メルの友人にしては、及第点」とこれまた言いたい放題である。
その場にどかりと胡座をかいて、ヒュパティアとメルを眺めることにしたエースは、この女が帰ってから寝に戻ろうと決意していた。
一応、自分の住処に得体の知れない女が居座っているというのは、気持ち良くないことだ。こやつが帰るところを見るまでは、眠ることすら出来なさそうだとまで考えて、重たい溜息を吐く。胡座の上で頬杖をつくと、少しだけざわついていた心が落ち着くようだった。
そうやって彼が一服をついていると、何を思ったのか、ヒュパティアがその場から立ち上がって、エースに近付いてくる。
好きにしていいと言った瞬間に、妙な動きを見せたヒュパティアにエースは身構えるが、彼女の姿が一瞬にしてたち消える。
どこに行った……? とエースが目を配る前に、ヒュパティアはエースの目前に姿を現した。
艶やかな笑みを浮かべて、かがみ込むことでエースの顔がある位置と同じ位置に顔を据えたヒュパティアは、目元を引きつかせるエースの口元へと何の断りもなく指を伸ばした。
とんと、エースの薄い唇に彼女の白魚の如くしなやかな指が触れる。
いきなりのヒュパティアの行動に、エースの瞳が驚きで伸縮を繰り返した。
刹那、彼の中で燻っていた負の感情が質量を無くしたように消えていくのを感じる。
その負の感情が消えた場所に、代わりとして埋められたのは、陽だまりのような温かさを持った何かだ。
真冬に白湯を流し込んだ時に感じる喉元の熱さと似たそれに、エースはまた目を白黒させる。
「あら、あらあら。なんて素敵な絶望なのかしら。この歳にしては、上等ね」
「お前、おれに何をした……?」
驚き固まるエースと対をなすように、ヒュパティアはかなり嬉しそうだ。彼女の話していることの半分は、要領の得ない意味不明な事柄であるが、流石に自分の身に起きたことまでさらりと流す訳にはいかない。
ヒュパティアは、片頬に手を当ててうっとりと微笑む。
妖魔が捕食対象に浮かべるような魔性のその笑みは、まだ幼いエースには効かなかったが、彼とて美しいものに心惹かれないはずはない。
つい、ヒュパティアに目が奪われていると、彼女の血のように赤い唇が可愛らしく動き始めた。
「そちから、少しだけ絶望を貰いましたの。魔力を低コストで作るのに一番手っ取り早い方法が、絶望を魔力変換すること。メルはこれが下手くそなのよねぇ。大食いさんだから、必要以上に絶望を引きずり出してしまうの」
「可哀想なメル。でも、そんな所が愛しいわ」と親バカなことばかり口にしているヒュパティアの言は、最早エースの耳に入ってなかった。
彼は、先程彼女が述べた説明を噛み砕くので精一杯だったからだ。
彼女がエースの唇に触れて取り出したのは、彼の中で燻っていた絶望の一部だと言う。
かれこれ何年も無造作に転がっていたそれを、いとも簡単に取り出してみせたヒュパティアの異常な行為に、エースの脳は最早プスプスとエントスを起こし始めていた。
───この親子のことを考えていたら、こっちが参っちまう。もうやめるか。詮索したって、おれの頭じゃ理解出来ねェさ。
そして、エースは考えることを放棄した。
野生児の割には、なかなかの英断を下したと言えよう。
天竜人が束になって考えても思い及ばなかった事象が、ヒュパティアなのである。
学もない、経験値もない、まだほんの十年しか生きていないエースが彼女を把握することなど土台無理な話なのだ。
そんな散々な言われ様のヒュパティアと言えば、エースにしたようにメルの口元にもその指を当てていた。
「元気になって、また世界を駆けてちょうだい。愛子の行き先に、幸があらんことを」
そして、ヒュパティアの手元が淡く緑色に光ったかと思えば───瞬きをする程の時間で彼女の姿は消え去っていた。
エースは、惚けたような顔をして、さっきまでヒュパティアが座り込んでいたその場所を凝視する。
ほんのさっきまで、愛娘の幸せを祈っていた母親が、そこには居たはずなのに。
一秒にも満たない時間の合間に、姿をたちまちにして消え去せたヒュパティアに、エースは信じられないと目を腕でゴシゴシと擦る。
だが、何度見たって、そこにはもうヒュパティアの姿は無かった。
「おれは、夢でも見ていたのか……」
狐につままれたような、拍子が抜けたような虚空をエースは抱える。
そのため、暫くその場からエースは動けなかった。
とうとう出ました、狂気じみたお母様。
最早、『魔女の宅急便』のお母様の原型は、薬術を得意としているという一点しかない。
お母様はちゃんと死んでいます。
ですが、何故現れたのでしょう……?
不思議ですね。
そして、この人はイム様と同等にやり合うほどには、力があります。
魔女として迫害されてるので、権力とかはありませんが、魔法を使って天竜人を成敗(大コケ)にしていたので、政府にもかなり恐れられていました。
メルのお父さんについては、またいつか書きます。
ヒュパティアは、古代エジプトの女性学者から借りています。
なかなか凄い人なので、興味を持った方は調べてみてください。
エースが盛大に振り回されていますが、恐らくヒュパティアならあのフッフッフ桃鳥お兄様も手玉に取れるので致し方無いのです。