届けさせてください!   作:賀楽多屋

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あっという間に五月が終わろうとしています



ドッキリ大成功!

「うっひょー! すっげ────っ!!」

 

「潮風が気持ちいいな! お、見ろよ。海賊船だ」

 

「何処の海賊だ……? 赤っ鼻の海賊旗(ジョリーロジャー)か。変なデザインだな」

 

「君達、少しは遠慮ってものを覚えた方が良いよ……」

 

 メルのデッキブラシは現在、過去最大の定員を乗せて、海上を飛んでいた。

 

 空を飛んでからというもの、一向に落ち着きが見えないルフィはメルの前で、落ちないようにメルの腕に挟まれている。

 

 しかも、このルフィ。好き勝手に頭を動かすものだから、メルの顎を何度か襲撃しているのだ。なんでこの男を目の前に座らせたのだろうと、メルは遅い後悔をさっきからずっとしていた。

 

 そして、メルの腹前に腕を回しているのはエースである。

 彼は、ルフィに比べて比較的穏やかにこの海上の旅を楽しんでいる。

 

 そのエースの後ろにいるサボも、ルフィに比べたら全然落ち着いている。

 

 ───やっぱり、前にルフィ君を持ってくるのは間違ってたかなー。んー、でも後方ばっかり並べるのはバランス的にヤバいし。他の二人は私より背が高いから、そもそも前に座らせることが出来ないし。

 

「あ! 鴎だ! アイツら、焼いたら美味ェかな」

 

「空を飛んでる時は、自由行動厳禁って言ったよね?」

 

「鴎を取るのも駄目なのかー?」

 

「駄目ですー。これ以上、デッキブラシに掛かる重量が増えたら、落ちちゃうよ」

 

 流石に海に墜落するのは嫌らしく、ルフィは割かし簡単に鴎漁を諦めてくれた。若干、後ろに座っている二人も鴎に手を出したそうな雰囲気が出ていたので、特大の釘を刺しておくことにしたのだが、効果は抜群のようだ。

 

「なぁ、メル。グランドラインに向かうのはいいんだけどさ、何処かに降りたりってことは出来るのか」

 

 ワクワクとした気持ちを声に滲ませて、楽しそうにサボはそう問うてくる。

 

 やはり、グランドライン上を飛んだだけで「はい、終了」とはいかなかったかと、メルは己の先見の明に拍手を送って、片手で立てた親指をサボに見せる。

 

「勿論。だから、私は一旦帰って、漸く今日皆を迎えに来たんじゃないの。今日はちゃんとプランも考えてきてるから、楽しみにしてて!」

 

「へー、メルの割りには気が利くじゃねェか」

 

 ───ただし、そのプランが決して、君達が目指す()()に役立つかは分かんないけどね。まぁ、受け取り方次第かな。

 

 心中で、てへと舌を出すメルの思惑を知らず、彼等はまだ見ぬ地に思いを募らせて、デッキブラシはそんな子供達を乗せて悠々と空を駆けていく。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 この『グランドラインの旅行ツアー』をメルが計画することになった発端は、一週間前のルフィによるこの発言である。

 

「おれをグランドラインに連れて行ってくれ! 海賊になるための下見だ!」

 

 ルフィ達三人は、メルにとっては理解出来ないが、海賊を目指しているらしい。

 

 本気で海賊を目指している三人は、あまり大きな声では言えない方法で貯めた海賊貯金を使って、ゆくゆくはグランドラインへと出航するつもりのようだ。

 

 そのために日夜、修行と言って、険しいコルボ山を駆けずり回り、大自然を相手にその身一つで戦いを挑んでいるらしい。大人でもなかなかやり通せないことを、まだ日の浅いルフィは半年、エースやサボに至っては五年以上やっているというのだから、その執念や凄まじい。

 

 素直に彼らの海賊への思いにドン引きしたメルであるが、ルフィの首に引っかかっている麦わら帽子を見ていると、「海賊なんて、なったって一つも良いことは無いよ」と軽々しく否定も出来ない。

 

 あれが、彼の麦わら帽子であると断定はまだできていない。

 

 けれども、彼が腕を無くし、麦わら帽子を託した時間を考えると、ルフィが譲り受けていても可笑しくは無いのだ。

 

「新しい時代に懸けてきた……か。カッコつけちゃってさ」

 

「ん? なんか言ったか、メル?」

 

「なんでもないよー。ちょっと、勿体つけてるオジサンに文句言ってるだけ」

 

「お前って、結構変な奴だな」

 

「変人代表のルフィ君にだけは言われたくないよ……」

 

 本当は、こんなこと、メルにする資格はないのだろう。

 

 デッキブラシを握る手に、知らず力が入る。

 

 シャンクスが懸けたという男が、まだ幼いルフィっていうことが少しばかり不満だって言うのは、メルの我儘なのだから。

 

「さあて、もうすぐで目的地に着くよ。グランドラインは目と鼻の先!」

 

 だけど、少しだけでいいから、意地を見せて欲しい。

 シャンクスに認められたその所以を、欠けらだけでいいから、メルに提示して欲しいのだ。

 

 そんなメルが一週間かけて計画した『グランドラインツアー』。

 いよいよもって、開幕である。

 

 

 

 メル達が降り立ったのは、敷き詰められた白磁の煉瓦の上だ。

 

 依頼でもう何十回と訪れた───メルにとっては、通い慣れた場所。

 

 白いキャップと制服を着こなした海兵たちが隊列を作って巡回している傍をメルの繰るデッキブラシは通っていき、通い慣れた大きな玄関口を前で停止する。

 

 思いもよらない場所に連れて行かれて、あんぐりと大口を開けているコルボ山の三人は、白目さえ剥きそうな程に目もかっ開いている。

 

 どうやら、ドッキリは大成功みたいだとメルが一人ほくそ笑んでいると───いつもの門番兵が親しげな表情を浮かべて、メルに敬礼した。

 

「おはようございます。メル殿。今日は、お友達を連れているようですが、此処にどのような御用が?」

 

「あー、友達っちゃあ、友達なんだけども、()()でもあるんですよ」

 

「に、荷物ですか?」

 

 友達を荷物と言い切るメルについ海兵も狼狽えてしまうが、次のメルの発言で漸く要領を得る。

 

「ガープさんに伝えてもらえますか? お孫さんが届きましたよと」

 

 メルのあんまりな物言いに三人は反抗する間もなく、メル(元凶)と駐在している海兵に連れられるがままに、海軍本部の中へ踏み居ることになった。

 

 

 

 

 




今回はかなり短いですが、キリが良いので投稿しました。

幼少期に海軍本部に彼等を突っ込んでみたら、どんな化学反応が起きるでしょうか。
そんな阿呆な企みの上に出来たのが今回のお話でした。
ニシンのパイは、実はおまけ的な要素です。

この三人はバランスが良いので、とても書きやすい。
メルも盃兄弟とは年が近いのもあって、遠慮をしないのでよく絡んでくれます。





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