届けさせてください!   作:賀楽多屋

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思ったよりも沢山の方々の目に止まる作品になったようで、様々なアドバイスを頂いております。

この出会いに、やっぱり宴をしなければ。

マスター! 私、ジントニックね!!


今日は友達がよくできる日

「んー、ちょっとラジオがヤバげかも·····そう言えば、新聞を彼処に置いてきちゃったか」

 

 お昼と夕方の中間の時間帯。コルボ山から無事、五体満足で脱出できたメルはデッキブラシの上で難しそうな声を上げていた。

 

 どうやら彼女は、丸焼きにすると心に決めているニュース・クーから受け取った新聞を山に置いてきてしまったらしい。

 

 だが、わざわざ取りに戻る程のものでも無いなと思い直し、まぁいいやと首を振る。

 

 今はそのどうでもいい新聞よりも、柄からぶら下がり不気味なノイズを響かせるラジオの方が心配だったからだ。

 

『ウィン──であるからして─ウィン──世界政府はより一層魚人達を───ピガーゴゴゴゴ───』

 

 これは、完全に落ちた衝撃で中身に不具合が起きている。

 

 メルはデッキブラシの柄からラジオを吊っている紐を外して、耳元でシェイクしてみたがやっぱり何処がどう悪いのか全く分からない。

 

「ジジィか、ラブに聞いてみるしかないよねー。多分、ジジィはこういうの得意じゃないんだよね··········となったらラブしか居ないんだけど、あの人今どこほっつき歩いてるんだろ」

 

 メルを雇っているのは、彼女がジジィと呼んでいる人物である。

 

 オーナー兼大家さんであるジジィには全くもって頭が上がらない筈のメルだが、彼女は存外このジジィを適当に扱っている。

 

 そして、彼女の部下のようなラブはと言えば、持ち前のとある体質のせいで、仕事も満足にできないどうしようもない後輩だ。

 

 ただ、ラブは案外手先が器用に動く。もしかしたら、ラジオぐらいであれば直すことが出来るかもしれない。

 

 ───だが、それも彼が職場にいればの話だが。このラブという後輩は困ったことに放浪癖が少々ある。それも、本人のせいではなく環境要因での放浪癖というのだからやり切れない。

 

 正直、メルもあそこまでの不幸体質をあまり見たことがない。

 

 

「と、ラブのことを考えててもしょうがないや。はぁ、やっとフーシャ村だよ」

 

 つい遠くなってしまう目は、今日一日の濃厚な出来事を見据えているようだ。

 

 さぁ、もうひと踏ん張りだとメルは気合を入れ直す。

 

「住所は、PARTYS BARね。宛先は───モンキー・D・ルフィ。うん、オーケー」

 

 小さな村だから、酒場も直ぐに見つかるだろうと高を括ったメルの読み通り、PARTYS BARは直ぐに見つかった。

 

 ちょっとずつ下降していくメルに、牧場で牛の世話をしていた住人が何か叫んでいるみたいだが、どうせ「空を飛んでいる·····!?」云々の話なので無視。

 

 

 デッキブラシからふわりと降り、ウエスタンドアを押し開けて酒場内へと入っていく。

 

 むわりと立ち込める酒の匂いに若干クラクラとしながらも、腕にデッキブラシと小包を落とさないようにと抱え直す。

 

 どうやら、昼下がりから一杯引っ掛けている客が沢山いるようで、店内はかなり賑わっていた。

 

 ギャハハハハと品のない笑い声がそこかしこで木霊し、カチンとグラスがぶつかり合う音が耳朶を打つ。

 

 店内にいる客の人相はほぼ全員悪く、しかも服装は穴が空いてたり、すす切れていたりとあまり良い出で立ちではない。

 

 ───海賊だ。

 メルはそう結論を出すや、早々にこの場を回れ右したくなった。

 

 届け先が酒場という時点であんまりいい予感はしていなかったのだが、この小包の差出人はかなりVIPな顧客なのだ。

 

 ちょっと暴力的で、短絡的でもあり、人の話をあんまり聞いてくれないお爺さんだが金払いだけは一級なのである。

 

 そのため、喜んで!と一も二もなく受けてしまった依頼で、よく良く考えれば目に眩んだメルの自業自得なのだが、そこは既に棚上げしてしまっている。

 

「おい、嬢ちゃん。嬢ちゃんが来るには十年ほどは早くねェか?」

 

 すぐ近くで杯を交わしていた海賊達がとうとうメルに絡んできた。

 

 からかってやろうと顔にデカデカと書いた男達に、メルは吐きたくなった溜息を堪える。

 

 いつも浮かべている営業用のスマイルを口元を貼り付けて、メルは海賊に答えた。

 

「配達のお仕事なんです」

 

「んあ? 配達ゥ? こんな小さいのにか?」

 

「今の世の中、働かなきゃご飯にありつけないのでー」

 

「しっかりした嬢ちゃんだなァ。オレんとこのチビと同じくらいだってェのに偉いもんだ」

 

 メルの健気な口振りに、厳つい顔の割には感心したような声を上げる海賊。近くに座っていた仲間だろう二人の海賊もメルに柔らかな笑みを向けてきた。

 

 まさかそんな反応を貰うことになるとは思わなかったと、アルカイックスマイルの下でメルは口元を引き攣らせる。

 

 思ったよりもちょろかった海賊に、メルの方がドギマギしてしまったのだ。

 

 気のいいおじさん達を相手にしているようなやり取りに、メルはこれ以上調子を狂わされては敵わないとヘラっとした笑みを浮かべて、「じゃあ、お仕事してきますー」と撤退を図った。

 

 背後で「配達終わったら、こっち来なァ」とかお誘いの声が聞こえてくるが、メルは訳の分からない好意に疑心暗鬼になりそうである。

 

 あれは海賊あれは海賊あれは海賊と心中で繰り返し、メルは漸くカウンターまでやって来ることが出来た。

 

 メルの登場に、カウンターの向こう側で忙しそうに手を動かしていた女性が「あら」と声を上げる。

 

 世界中を飛び回っているメルもあまりお目にかからない美女だ。お淑やかな微笑を浮かべて、「何かご用かしら?」と用を聞く女性に、メルは「お届け物です」と小包をカウンター上へと上げる。

 

「モンキー・D・ルフィさん。モンキー・D・ガープさんからお荷物です」

 

 酒場の店員はこの女性しか見当たらないから、宛先人はこの人だろうとメルはニコニコとそう告げる。

 

 しかし、メルの呼び掛けに声を上げたのはその女性ではなかった。

 

 隣の隣ぐらいから少年の高い声が聞こえてくる。

 

「じいちゃんがおれに?」

 

「え?」

 

 海賊たちの方から出てきたのは、ボサボサの黒髪が特徴的な少年だ。

 

 さっき会ったエース少年とは違って、何処も擦れていない普通の少年の登場にメルは混乱する。

 

「じいちゃん·····?」

 

「ルフィはガープさんの孫なの」

 

 メルの疑問に答えてくれたのは、あの麗しの美女である。

 

 ───そう言えば、ガープさん(金蔓)は依頼の時になんて言ってたっけ?

 

『これはわしの愛孫への贈り物なんじゃ。最近、あんまり構ってやれんくての』

 

 そう言えば、孫への贈り物だった。

 孫に干物への贈り物ってどうなんだろうって思っていたけど、酒場を経営しているお孫さんならそういうのもありなのかと思ったのだ。

 

「じゃあ、この子が将来有望の海軍·····」

 

「おれは海軍にはならねェ!!」

 

「うわァ·····物の見事に玉砕してるんだけど」

 

 この場合祖父の心、孫知らずと言うべきなのだろうか。

 

 いつも同僚や部下に怒られている所しか見ていないせいか、あんまり威厳とか感じないお爺さんなのだが、ああ見えて英雄と名高い著名人らしい。

 

 でも、だからこそ嫌なのかもしれない。

 

 英雄と呼ばれる祖父の壁はとてつもなく高いだろう。

 

 ───同じ道を歩むからこそ、その高さは余計に目に付きやすいだろうし。

 

 このルフィ少年は、本能的にその道の険しさを感じ取っているのだろうとまでメルは思い馳せて、ついそのボサボサ頭を撫でてしまった。

 

「変に力持っている家族を持つと色々大変だよね·····」

 

「プハッ·····!!」

 

 しんみりとした口調で、ルフィと自分の境遇を重ねていたメルの間に失礼なことに吹き出して割って入った者がいる。

 

 じろりとメルがその不届き者を見遣ると、メルとルフィのやり取りを面白そうに眺めていた赤髪の男が小さく肩を震わせていた。

 

 首から下げた麦わら帽子が目を引くその男は、何が可笑しいのか腹を抱えて静かに爆笑している。

 

「シャンクス、何笑ってるんだ?」

 

「い、いや。何やら面白い話してるなァと思って」

 

「そんな話してたかァ?」

 

 素直に首を捻るルフィの頭をポンポンと撫でて、目尻に溜まった涙を拭うシャンクスと呼ばれた男に冷え冷えとした視線をメルは送る。

 

 生憎、メルはそこのイーストブルー純粋培養のルフィとは違って、荒れ狂うグランドライン産のへそ曲がりだ。

 

 むっとした表情で、シャンクスを見続けるメルに彼は降参降参と言わんばかりに片手を上げた。

 

「悪ィ悪ィ。ルフィは、自分の祖父に気後れして海軍に入らないんじゃないんだ。この子は、海賊に憧れててね」

 

「そうだぞ! おれは海賊になるんだ!!」

 

 シャンクスに言われて嬉しかったのか、白い歯を見せて両手を突き上げそう宣言するルフィにメルはなるほどとゴチる。

 

 

 ───ガープさん、貴方の夢を破壊しかねない男がフーシャ村にいますよ。

 

 帰ったらガープにこのことをチクってやろうとメルは心に決めて、海賊になるんだと言って聞かないルフィを再度見やる。

 

 世界中を探せば、こんな少年は五万といるだろう。

 ルフィに注がれる酒場の女性の慈愛の詰まった視線を考慮するに、この少年は真っ直ぐな愛を源にすくすくと育っている真っ只中で、その他に特に注目する点もない。

 

 そう言えば結構前に、海軍設立記念日の時のラジオで海軍の人が、こういう無鉄砲な少年が事件に巻き込まれやすいと言ってた気がするとメルは思い出す。

 

 近頃は海賊に憧れる子供が多くて、犯罪に巻き込まれるケースが多いとか。海上で聞いたそのラジオのことをメルは何故かはっきりと覚えていた。

 

 そして、メルは隣でシャンクスに構ってもらっているルフィに視線を落とす。

 

 ───うん、このルフィ少年は絶対その口だ。

 そこにいる赤髪が牙を剥くのも時間の問題だろう。

 

 短いやり取りで、すっかりシャンクスに苦手意識を抱いていたメルはルフィの将来を思って密かに両手を合わせる。

 

 ガープさんにはしっかり伝えてあげるね。君は、案外海兵の方が向いているかもしれない。

 

 それは、完全にシャンクスに対する八つ当たりであった。

 

「ルフィ君。海賊になったってあんまり良いことなんて無いよ。だって、考えてもみなよ。お尋ね者になっちゃうんだよ? それに化け物海軍に日がな一日追いかけ回されるし、同業者は金と女と名声しか目がない海賊だし、お風呂にだって毎日入れる訳でもないし」

 

「お嬢ちゃん、海賊に随分と詳しいな」

 

「顧客になることもあるので」

 

「なァ、そろそろ謝った方がいいんじゃねェの、お頭。その子、かなり笑ったこと根に持ってるぞ」

 

「あんまり女の子にこうも怒られることないから面白くてな、ついつい」

 

 鈍い金髪の真ん中分けの男がシャンクスの隣で含み笑いしてそろそろ謝るべきだと促すが、当のシャンクスが面白がって謝る様子を欠片にも見せない。

 

 メルはそのやり取りだけでも、青筋立てられそうだった。

 

 今すぐにでも此処に海軍を呼んでやろうかとデッキブラシに跨りたくなったが、一応ここは顧客の家だ。

 

 ───絶対に帰ったらガープさんにチクってやる!

 

「お前、名前なんて言うんだ?」

 

 いつの間にやらルフィは、メルの立っている傍の椅子に腰掛けていたらしく、名を名乗れと声だけでなく体全体で申してくる。

 

 一応、ルフィは顧客なのでメルはショルダーバッグから名刺を取り出して、ルフィに差し出した。

 

「私はサルヴァーニ・メル。どうぞ、ご贔屓にね」

 

「おう! おれはモンキー・D・ルフィだ!」

 

 宜しくと握手を交わすとルフィはにししと歯を見せて笑った。

 

 胸のすくような笑顔をうかべる子だ。

 ルフィの笑顔は見ていて心地よく、まるで太陽のような子だなとメルはルフィに対する印象を改める。

 

 メルもお返しにと笑顔を振りまけば、ルフィは更に笑みを深めた。

 

 だがルフィとの親交を温めていたら、ルフィの後ろからにゅるっと邪魔者が顔を出してきた。

 

 ルフィと同じくらい目を爛々として見てくるシャンクスに、メルは凄く嫌な予感がした。

 

「よし、メル。俺とも友達になろう」

 

「ごめんなさい。この商売、信用が一番なの」

 

 予感通り、碌な提案をしてこないシャンクスをメルは一刀両断。

 

 そんな二人のやり取りにぐふっと変な音を上げたのは、あの金髪前開け男だった。

 

「さっき海賊も顧客になるって言ってたから、お頭はお断りだって言われてるぞ」

 

「なんでだ!? 久しぶりに断られたぞ」

 

「シャンクスさん、女の子って男の子と違って繊細なのよ」

 

 納得がいかないと声を荒らげるシャンクスに女性も苦笑いだ。

 どうやら、この大人三人組の中で一番女の子の心の機微に疎いのがシャンクスらしい。

 

 そんな中、渦中のメルはと言えば大人達の会話を無視して、ルフィと手を繋いでぶらぶらと揺らしていた。

 

 完全にシャンクスを視界から追い出している。

 

「マキノ、お頭はそもそもそれ以前だからな。先ずは、謝らなきゃいけないだろう」

 

 そして、漸く大人達の話も佳境を迎える。

 

 改まったようにメルとルフィの方に体を向けたシャンクスに、手遊びをしていた二人も流石に不審そうな目を向ける。

 

 そして───潔く頭を下げたシャンクスに、メルは目を見開くことになった。

 

「笑って悪かった。すまない」

 

 金髪男と美女に諭されて、漸くシャンクスはメルに謝罪することにしたらしい。金髪男とマキノが生暖かい目でシャンクスとメルの行く末を見守っている。

 

 まるで、子供達の喧嘩に大人が仲裁に入ったみたいな状況に、メルはなんでこんな展開になっているんだと事の元凶を見詰める。

 

 両膝に手を置いて、頭を下げるシャンクスは本当に申し訳ないと思っているらしい。

 

 シャンクスの頭と背後に垂れた犬耳と尻尾が幻視出来てしまい、メルは目の疲れだと目元を覆った。

 

 ───なんでこの海賊、子供相手にガチで謝っているんだろう? しかも、子供と友達になりたいっていうのも可笑しい。

 

 一体どういう下心があってそんなことを言っているのだろうと、メルが見定めるようにシャンクスを見ると、上手いこと顔を上げたシャンクスと目が合ってしまった。

 

 メルは男の思ったよりも端正な顔を見て、うっと声を詰まらせる。

 

 顔が良い海賊にあんまり良い思い出は無いのだが、しかしシャンクスの黒曜石のように綺麗な瞳は混じりっけがなくて。

 

 こんな目をそういえばさっき見たなと、メルはニュース・クーやエースの瞳を思い出す。

 

 庇護欲唆る円な黒。

 誰にも頭を垂れないと鮮烈に貫く黒。

 

 そして、この人の黒は───。

 

 そう、例えるとしたら誰も彼もを抱き込む冬の夜空。

 

 

「分かったよ。私なんかを友達にしたいなんて、変な海賊だよね」

 

「·····だははははッ! そうか、オレは変か」

 

 折れたのはメルだ。折れてあげたつもりでいるが、なんだかこの未来はシャンクスの思い描いた未来のような気がしてつい口を尖らせる。

 

 良いように転がされた感じがメルについて回るのだ。

 

 ───絶対、見た目通りの能天気な海賊じゃないよ、この人。

 

 そうメルに評価を下されているシャンクスと言えば、これまた可笑しそうに笑い声を轟かせている。

 

 本当によく笑う海賊だとメルが若干呆れを抱き始めた頃、そう言えばとメルはまだシャンクスから自己紹介を受けていないことを思い出した。

 

「で、貴方は友達に名前すら言わないの? あ、私はメル。グランドラインで運送業をしているよ」

 

 ルフィとも握手を交わしたのだからと、一応シャンクスにも片手を差し出してみる。

 

 すると、目を無邪気に輝かせたシャンクスが一も二もなくメルの片手を掴み、しっかりとした力強さで持って握手を交わした。

 

「オレはシャンクス。しがない海賊をしている。グランドラインも前半(楽園)後半(新世界)かによるが、子供にしてはかなり遠い所から来たんだな」

 

 確かに船旅であれば、そこそこの遠出になるだろう。

 イーストブルーの海賊にしてはよく知ってると思いつつ、その刹那メルの頭に何人かの人の顔が脳裏を過った。

 

 その顔は、平面で凹凸が無く。

 紙に描かれた顔のように平べったい。

 

 ───赤髪?

 

 まるで、写真越しに見たような顔にメルはつい額を打った。

 

 ───嗚呼、そうだ。思い出した。

 

 ───赤髪のシャンクス。

 

 どこかで見た顔だと思えば、それは指名手配書に載っていたものであった。

 

 ───この人、そこそこメジャーな海賊だ。賞金額だってそこそこの大台に乗っていたはず。

 

 そこまで思い至って、メルはつい霹靂とした表情を浮かべていたらしい。

 

 ルフィが目ざとくメルの表情の変化を見つけて、不思議そうな顔をして声を掛けてきた。

 

「メル? 腹減ったのか?」

 

 しかも、とんだ思い違いだ。だが、今のメルにとってはその思い違いがとても有難かった。

 

「うん、お腹すいたなー。だから、もう帰るよ」

 

「メルちゃん、良かったらご飯食べて言ったらどうかしら? 今日はこの人達の貸切だから、色々用意したのよ」

 

「ありがとう、マキノ! でも、そろそろ帰らなくちゃジジィに怒られちゃうんだよね」

 

「メルもじいちゃんがいるのか」

 

「いるいるー。ガープさんと違って守銭奴で、口煩くて、放任主義のジジィだけどね」

 

「メルも大変なんだな」

 

 この酒場の住人、凄く優しい!とメルが感動していても太陽は刻一刻と沈んでいっている───これ、帰還は夜中だわ。

 

 ジジィのお小言を考え始めると胃が痛くなってくるので、脇に避けることにしてメルはルフィ、マキノ、それから一応シャンクスと金髪男にも向かって手を振った。

 

「じゃあね! もし依頼があったらそこの住所で受け付けてるから!」

 

 メルはそう言って、慌ただしくデッキブラシを抱えてマキノの酒場を出ていく。

 

 背後では各々が手を振ってメルを見送っているが、それも満足に見もせず店の外へと出ていった少女の後ろ姿を見ながら、シャンクスはずっと浮かべていた笑みを消した。

 

「デッキブラシの配達便って、本当に存在したんだな」

 

 グラスに入った氷を揺らしてそうゴチるシャンクスには、先程までヘラヘラとしていた雰囲気がない。

 

 眼をすがめて酒瓶の並べられた戸棚をぼうと眺めるシャンクスは、海賊の頭の風格が漂っていた。

 

 触れたら、切り刻まれると錯覚しそうな程の威圧を纏う男は、何を考えているのか分からない顔で溶けた氷を啜っている。

 

 そして、そんなシャンクスに気後れしない金髪男───ヤソップが賛同するようにスルメを摘んだ。

 

「噂じゃあ、海軍の手先とも言われてたみたいだが、あんなちっこい餓鬼にそんなことが出来るとも思えねェけどな」

 

 ちろりとヤソップがシャンクスの方を見ると、シャンクスは麦わら帽子を目元に置いて椅子にもたれ掛かる。

 

 唯一見えているシャンクスの口元がニヒルな弧を描いた。

 

 それを見て、ヤソップは思う。

 ウチのお頭は、いつもこうなのだと。

 

 ───やっぱ。なんだかんだ言って甘ェんだよなァ、コイツ。

 

「さァな。オレはアイツと友達になった。それでいいんじゃないか」

 

 ───仲間、友達、それから女子供に。

 

 結局はその地点に落ち着くのだ、この男は。

 鷹が爪を隠すように、己の牙を見せないシャンクスは、自分の情けに忠実だ。

 

 ヤソップは空気を変えるように、杯を掲げた。

 よくよく見れば、あの構ってもらいたがりのルフィですら空気を読んでマキノと何か言い合っている。

 

「よし、折角だし新しい友達に乾杯しとくか!! 本人はいねぇけど!!」

 

「ああ、折角なんだ」

 

 ヤソップと笑顔を合わせて、シャンクスも杯を掲げる。

 

 新しい意地っ張りな少女との新たな縁が、これからもずっと続きますように。

 

「「新しい友情に乾杯!!!」」

 

 カチンと鳴った二人のグラスにマキノと口論していたルフィが「あー!ズリィーぞッ!」と騒いで、ヤソップとシャンクスの席の間に入ってくる。

 

「 おれもやるーッ! おれだってメルと友達になったんだからなー!!」

 

「勿論だ、ルフィ。よし、乾杯!」

 

「乾杯!」

 

 この日の友情がいつまで続くのかはともかく、彼らに幸あることを。

 

 

 




ONE PIECEの冒険の軸の一つに、ロジャーの旅を追体験することがあるような気がします。

尾田先生にとって、『赤』は貴色なのか主要人物は赤を纏う人が多いような。

主人公のルフィ、目的の一つでもあるシャンクス、あと最近元帥になった人などなど、思い入れのある色かしらと考察するのも楽しいです。

そんな訳で、次次回のネクストワードは『赤色』です。
次回はオリキャラ回ですので、ちょっと注意が必要かもしれません。

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