届けさせてください!   作:賀楽多屋

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すごくお待たせしたので、やれる所まではやっておきたい。


ガープ! 貴様、またやりやがったな!!

「皆、作戦は把握出来た?」

 

 マグマと氷の戦いは激しく、半壊していく部屋の状況を見る限り一刻を争う。こんなに破壊しといて、誰も様子を見に来ないというのは、もしやこの城は今、無人なのではないかとも思えてくる。

 

 もし、そうなのだとしたら、なんて間の悪いタイミングで起こってしまった悲劇なのだろうか。

 

「当たり前だ」

 

「勿論だ」

 

「早くやろうぜ、にししし」

 

 捲し立てるように説明した作戦を、果たして三人が理解出来ているのかが若干不安だが、もう時間もない。

 

 三人揃って自信満々に頷くのだから、情報は共有されたのだろう。

 

 エースとサボが執務室を慌てたように出ていくのを見届けて、メルは手に持つデッキブラシに力を入れる。

 

 ───チャンスは、一回きり。

 

 ルフィの方をちらと盗み見すると、肩をぐるぐると回して準備体操をしていた。

 

 なんだか、肩の力が抜けてしまうその光景に、段々と一人だけ肩肘張ってるのも馬鹿らしくなってきて、メルはふふふと笑みを零した。

 

 そして、幾分もしない内に作戦が始まる。

 

 

 バタバタと部屋の外で立てられた軽快な足音が、いつもの()()()で部屋内に響く。

 

 籠るように反響するその音は、メルがいつも空を飛ぶために舞い込んでいる風を使って響かせているものだ。

 

 足音の次に聞こえるのは切羽詰まった人の叫び声───計画の要が実行される時が来た。

 

「た、たたたた大変だ────ァ!! おツル中将が、おツル中将が、結婚するって大発表が出たぞぉォオオオッ!!!」

 

「しかも相手は、まだ海軍将校にもなっていない若造だ! 話によると、デキ婚かもしれないと!!」

 

「かなりの高齢出産ということもあって、今、上が会議を開いてるみたいだァァアアアッ!!!」

 

 

 戦いに割って入ることも出来ない。

 子どもの制止の声くらいじゃ止まれない。

 誰も助けには来てくれない。

 

 そんなナイナイ尽くしならば、相手の急所をえぐるしか出来ることはないだろうとは、メルの言である。

 

 海賊、海軍、世界政府、秘密結社エトセトラエトセトラを相手にしてきたメルだからこそ提案できた『母親代わりが自分よりも年下の男と結婚、しかも授かり婚』計画。

 

 海軍内部で決行するには、あまりにもセンセーショナルな計画だ。

 

 これを真顔で、しかも真剣に、真面目に、恐れずにやってのけるのは、様々な意味での命知らずである。

 

 さあ、この誤報に二人が引っかかってくれなければ、計画は此処で詰んでしまうのだが───。

 

 エースとサボによるボーイズソプラノでの喧伝も、メルの風の魔法によっての誘導や、そもそもサカズキとクザン(当人達)が冷静でないことも加えて反応があった。

 

 マグマと氷が一瞬にして、動きを止めたのだ───恐ろしい程にタイミングを合わせて。

 

「今だ!」

 

 メルとルフィは作戦通りにデッキブラシに急いで股がって、さっきまでゆらゆらと部屋内で静かに吹いていた風を魔法で総動員させ浮かせる。

 

 そして、いつもの如く弾丸のように、しかし繊細にデッキブラシを動かして、グツグツと煮え立っているマグマや部屋の四隅にまで届く氷上を飛び越え定位置までメルが来ると、ルフィの両腕がゴムのように伸びて、失神しかけている裏切り者の海兵を掴む。

 

「うし!」

 

 ルフィの短い掛け声と共にしゅるしゅると手元に戻ってきている海兵をそのままに、メルは一も二もなく部屋を飛び出していく。

 

 手が戻ってきたルフィは、そのまま付属品のようについてきた海兵を横抱きに抱える。すると、その男が何かお守りのような物を大事そうに両手に持っていることに気づいた。

 

「なんだ、これ?」

 

 ルフィはこんな状態にまでなって海兵が大事そうに握り締めている物に興味が出たようで、彼の掌を無理やり開こうとする。

 

 すると、少しだけその物が姿が見えてきた。

 

「石で出来たナイフ?」

 

 瞬間、体から何故か力が抜けて行くのを感じてルフィは、気だるさを覚える体に喝を入れる。まだ、目の前では自分より一つだけ上の女の子が頑張ってるのだ。

 

 ルフィの体に異常が起きている中、運転手であるメルはアクセル全開でデッキブラシをかっ飛ばすことに全集中していた。

 

 メル達は稲妻のごとく部屋の中から無事飛びしてきた。幸いなことに、メル達が出て行った後も諍い中に響いていた轟音が聞こえてこないことから、まだあの二人はセンセーショナルな誤報に惑わされているのだろう。

 

 驚く程に効果覿面である。

 

 部屋から猛スピードで飛び出してきたデッキブラシに、外で演技をしてくれていたエースとサボが喜色を浮かべる。

 

「上手いこといったみてェだな! まさか、あんなので上手いこといくとは」

 

「……やってから言うのもあれだけどな。メル、お前鬼過ぎるぜ」

 

 純粋に勝利を喜ぶエースと、自分が犯した罪の重さに戦慄くサボという正反対な光景が繰り広げられているがメルはなんのその。

 

「使えるものは、使わないとね!」

 

「悪魔だ。此処に女の子の皮を被った悪魔がいる……!」

 

 キュピンとウインクするメルに、サボがドン引きしたように後ずさる。勝利の余韻を一緒に味わえないなんて残念なことだ。

 

「メル〜。此奴、めっちゃ重いぞ」

 

 デッキブラシに乗りながら、なんとか海兵を横抱きしていたルフィがへばったような顔をしているのをエースがふんと鼻を鳴らす。

 

「軟弱なこと言うんじゃねェ! まだ修行で持ち上げる岩の方が断然重いだろ」

 

「そうなんだけどよ、なーんか力が入んねェんだ」

 

 ヘロヘロとメルの肩に頭を乗せて、しんどそうに項垂れるルフィにエースが目元を引き攣らせるが、流石に彼のこの様子は変だと思ったメルは、一先ず床にこの男を置こうと提案する。

 

 メルの提案にこくこくとルフィが頷いたこともあって、そうそうにデッキブラシから二人は舞い降り、エースとサボの手を借りながら海兵を床に寝かす。

 

 そうやって、子どもたちがエッサホッサ頑張ってると、急に旋風が吹いた。

 

 ───否、それは旋風ではなく、全速力で駆けて行くサカズキとクザンであった。

 

 あんなに慌てふためく二人を見るのは初めてのことであったので、メルはつい目を点にして、土埃を立ててすっかりと姿を消してしまった彼等を呆然と眺め続けてしまう。

 

「……なんだありゃ? さっきのオッサンら、すっげェ剣幕で行っちまったぞ」

 

「そりゃ、母親代わりの上司が何処の骨とも知れねェ男と結婚するって聞かされてるんだ。しかも、デキ婚。必死になって確かめに行っても可笑しくねェさ」

 

「そんなもんなのかァ?」

 

「ダダンが若いイケメンと子供が出来たから結婚するってなったら、お前らどうする?」

 

「「ぜってぇ騙されてる」」

 

「そういうこった」

 

 この計画のえげつなさを自覚したらしいエースとルフィから、冷ややかな視線を送られることになったメル。サボは達観の笑みを見せてくるというおまけ付きだ。

 

「世の中って、世知辛いものなのよ」

 

 物言わず非難してくるコルボ山の子ども達を無視して、メルは海兵の衣服を着々と検めていく。

 

 あまりに慣れたように意識のぼんやりとした海兵の衣服をまさぐっていく配達屋の少女に、年上ーずはかなりドン引きした面持ちになっているが、尻を上げて「力がぬーけーるー」とへたっているルフィのことも段々と心配になってきて、気忙しいことこの上ない。

 

 

 メルの手によって暴かれていくこの男の制服の下からは、じゃんじゃか多種多様な暗器が出てきた。

 

 小刀、バタフライナイフ、毒針、手裏剣、手榴弾、催涙弾、銃などなど。

 

 そして、男が大事に握り締めていた物の正体は、海楼石で加工したナイフであった。

 

 最後まで、サカズキを仕留めようとしていたその男の執念に、メルはぐっと眉をひそめて、男の手からナイフをもぎ取る。

 

「ルフィ君の力が抜けてしまったのって、多分この海楼石製のナイフが原因だね。ルフィ君のことだから、気になってそれを触ったか。それとも、運んでる時に触れてしまったかしたんだ」

 

「かいろーせき?」

 

「そう。海と同じエネルギーを持っている石のことだよ。かなりの深海で発掘されるって聞いたことがある」

 

「ってことは、悪魔の実の能力者にとっては厄介な代物ってことだな」

 

「そーゆーこと」

 

 ルフィはそれを聞いてから、海楼石製なナイフを嫌そうに見詰めた。自分の力を抑え込む存在に、自然な嫌悪を覚えているのだろう。

 

 エースとサボも、そんな対能力者向けの道具があるとは知らなかったようで、悪魔の実とはなんの関係もないこともあって、興味深そうに眺めている。

 

「とと、此処で立ち止まっているわけにもいかないよね。取り敢えず、ガープさんの所に行こっか。なんか執務室にはいなさそうな気がするけども」

 

 この海兵は、不当に命を奪われて良い人間ではないが、もしかしたら、これからこの世界に大混乱を起こすかもしれない人間ではあるのだ。

 

 一国の間者を子どもだけでどうにか出来るはずもないのだから、一分でも早く海軍に引渡したいところである。

 

 三人と間者は再び、デッキブラシの空中散歩をすることにし、ガープの執務室に向かってみたら案の定、誰も居るはずもなく。

 

 仕方ないから、誰か適当な人でも探そうとウロウロしていた所をセンゴクによって発見される。

 

「君たち、こんな所で何をしているんだ?」

 

「あ、センゴクさーん! ラジリア王国ってとこの間者さんで、サカズキさんを殺そうとしていた人を今、預かってるんですー! 引き取って貰えませんかー?」

 

 漸く、まともな大人と会うことが出来たとメルが、ピカピカの笑顔でとんでもないことを言い続ける。

 

 それを聞いたセンゴクは「うむ」と頷き、

 

「ガァァアアプゥウウウウッ!! あんの脳筋爺ッ!! なんてものを子ども達に処理させてるんだ!!!」

 

 いや、処理させたのはガープの爺ちゃんではなく、城を沈めようとしていたマグマと氷───と四人は言いたくて仕方なかったが、これ以上センゴクに心労をかけてはいけないと、無意識に察した子どもたちは固くその口を慎むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 




ガープは紛うことなき冤罪です。
プチパンクハザードが起きてたとは知らないセンゴク氏。
恐らく天守閣に帰った瞬間にひっくり返ることでしょう。

そして、メルのあまりに酷な計画。
私としてもあんな非道なことをしていいのかと思いましたが、ポチッとやってしまいました。後悔はしていない。

拙作にしては、珍しく能力が大盤振る舞い使われた熱い展開の終焉があれで良いのかと思ったりもしますが、この作品、コメディなのよね。

次回はこの大騒ぎに蹴りが着きます。
あと1、2話でこの長かった盃兄弟編は終わりです。
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