届けさせてください!   作:賀楽多屋

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遅くなってしまい、申し訳ございません。
お気づきの方もいらっしゃると思いますが、某高校生探偵にうつつを抜かしていました。


ルフィくんって凄い人たらし

「よし。サカズキ、クザン。貴様らの此度の処分だが、この三人の教育にしよう」

 

 海軍本部のど真ん中で、『海賊王になる!』と大胆不敵に言い放った少年に多くの人間が度肝を抜かれていた中、センゴクがさらりととんでもない処遇を下した。

 

 その内容は、確かに海軍本部に向けられた宣戦布告に対応するものであるが、問題は彼等を教育する人選だ。

 

「「「……は?」」」

 

 これには、事の渦中にいるサカズキやクザンだけでなく、おツルとガープでさえも目を剥く。

 

 だが、センゴクはこの決定を覆らさないと言いたげに背を向けた。

 そろそろ、仕事に戻らないと海軍としての機能が止まってしまうと、仕事場の天守閣に戻ろうとしているセンゴクに待ったをかけたのはエースだ。

 

「お、おい! 何勝手なこと言ってんだ!!?」

 

 いつの間にか、額にびっしょりと脂汗を浮かべていたエースの悲鳴のような声からは、「じょうだんじゃねェ!」と副音声すら聞こえてくる。

 

 その声にピタリと足を止めて、首だけで振り返ったセンゴクは、酷く冷めた目をしていた。

 

 ここに来るまでに浮かべていた好々爺そうなセンゴクの顔は、白昼夢で見たものではと疑いたくなる程の玲瓏とした横顔に、知らずエースは息を呑む。

 

「聞いておると、君たちは海賊になりたいんだろう。だが、流石に悪の芽を見過ごせる程、我々も弛んではないのだ」

 

「───おれは、絶対海軍にはならねェ! 人に指図されて動くのは、むかっ腹が立つ!!」

 

 ただでさえ、生まれた頃からロジャーのせいで、制約の多い人生なのだ。

 それなのに、今度は海軍に縛られることになるなんて、それこそ耐えられそうにない。

 

 誰にも、これ以上の干渉なんてさせてなるものか。

 

 

 ───おれの人生は、おれが決める……! 

 

 憤るエースの近くで、ルフィも「おれもぜってェ、海軍にはならねェ! 海賊になるんだ!!」と追撃する。

 

 ついルフィの方にエースが顔を向けると、こんな横暴な決定には従えないと澄んだ黒の眼で必死に訴える弟分の健気な姿がある。

 

 だが、この決定に一人だけ諾を唱える人間がいた。

 

「おれは…………この人たちに学びたい」

 

 まさかの声に、エースとルフィが信じられないものを見るような顔をして、その人物に目を向ける。

 

 嘘だと言いたげに目を向けた先にいるのは、両拳を握って、何かに堪えるように顔を俯かせるサボがいた。

 

「な、なんでだ───」

 

「おれは、今よりもっと強くなりてェ。もっと、もっと早く強くなって、そして、おれは……!」

 

「「サボ!!」」

 

 咎めるようなエースとルフィの叫びが、生憎にも揃う。

 

 だが、そんな二人の仲間の声を受けても、サボは言葉を紡ぐことを止めない。

 

「ブルージャムの連中でさえ、俺たちは手一杯だ……! けど、おれらが目指す海には、あんな連中よりも強ェ奴らがゴロゴロいんだ。おれは、そいつらに負けねェ強さが欲しい!! 最短でその力が手に入るなら、たとえ、相手が海軍だろうと教えを乞う!!」

 

 その強い思いは、エースやルフィだけでなく、師になろうとしているクザンやサカズキ。

 

 そして、この酔狂な顛末を言い渡したセンゴクに向けて放たれる。

 

 少年の鬼気迫る覚悟を聞いて皆が一様に口を閉ざす中、センゴクは薄らと笑った。

 

「力が欲しい。それは真に結構だ。だが、此処で力を蓄えれば、自ずとその夢は書き変わることだろう……! 海賊という悪がどれ程、この世界にとっての癌なのか。それをしかと見るが良い!!!」

 

 刹那、センゴクの体から重苦しい風圧が解き放たれた。否、それはただの威圧で巻き起こった風ではなく、先天的なものでしか得られない覇王色の覇気によるものだ。

 

 センゴクの周りで一人、また一人と海兵たちが泡を吹いて倒れていく。歴戦の猛者である三大将やおツル、ガープでさえも正気を保つのが精一杯な暴力的な力が崩れかけている訓練所内に吹き荒れる。

 

「ルフィ、さ、ぼ……!」

 

 そして、その力に子どもたちが適うはずもなく。

 

 傾いて行く視界の中で、エースはルフィとサボが白目を剥いて地に伏す瞬間を捉えていた。一体、何がこの場で起こっているのかを知る術もないまま、着実に混濁していく意識の中で声なき声で吼える。

 

 エースの意識がプツリと途切れたのは、それから幾許も経たない頃であった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ってことがあってね。センゴクさんったら、怒髪天を突く勢いで激おこプンプン丸。気付いたら、養護室みたいな所で寝かされていたの。あれも悪魔の実による何かなのかなぁ」

 

「にゃるほどなァ。だから、メルが連れてきたこの子達はこんなにやけ食いをしてるんだね」

 

「いや、それは通常運転。この三人、フードファイターも驚きの大食漢だから」

 

「この子達の爺様から必要以上の大金を貰ったって言うのはコレを見越してって事だったわけだね……足りるかなぁ」

 

 ところ変わって、此処はメルとジジィが住む職場兼住居の一軒家。時刻は、空に星々が輝く夕飯時。

 

 いつの間にか気絶していたメルが海軍の養護室で飛び起きたのが二時間前のことだ。その部屋で一緒に寝転がされていたコルボ山の三人達を前に状況把握を努めたが、まだ頭が起きたばかりで上手く動きはせず。

 

 結局、様子を見に来たボガードに事の仔細を聞くことになり、メルは子どもたちに冷え冷えとした視線を送ることになった。

 

 海軍の総本山で海賊になる宣言をした馬鹿共に送るにはこれ以上にないものだろう。あの無表情がデフォのボガードが、変な感心をするほどだ。「流石、ガープさんのお孫さんだ」っていうのは褒め言葉なのだろうか。

 

 そして、まだ気絶しているらしい彼等を容赦なく叩き起して、まともに記憶を取り戻さないうちに箒に括り付けて、メルの家に連行したというわけだ。

 

 今回の騒動に巻き込まれた詫びや彼等の一日の世話代をボガードから遠慮なく受け取って帰還を果たした頃には、彼等も気絶するまでの記憶を取り戻していたようで、頗るテンションが低かった。

 

 予め、メルが友人を連れてくると聞いていたジジィは、初めて養い子が友人を連れてくると張り切り、我が家のどこにこれ程の食材があったのかと目を疑うほどに料理を作って待っていたのだが、しょんぼり顔で続々と入ってくる子どもたちにジジィは目が点になる。

 

 流石にこんな有様の子どもたちの状況を大家兼オーナーのジジィに話さないわけにもいかず、メルはこうなった経緯を夕飯の席で語って聞かせたというわけだ。

 

「海軍の孫でも海賊になりたいって子がいるんだねェ」

 

「黒猫、おかわり」

 

「オジサン、おかわり!」

 

「飲みもん、何処だ?」

 

「君たち、遠慮ってものは無いのかい……?」

 

 栗鼠の様に頬袋をパンパンにして、おかわりの催促をする子どもたちにはジジィでさえもドン引きしている。彼もそこそこに肝が座っている質の筈だが、どうやら子どもたちの個性の強さには押し負けるようだ。

 

 椅子から立ち上がって、明日の朝食用に取っておいたシチューやバゲットを冷蔵庫から取り出しているジジィの後ろで、エースが漸くまともに口を開く気になったらしい。

 

「先ずは、あのくそジジィ共を倒さねぇとまともに航海も出来なさそうだな」

 

 だん! とテーブル上でフォークを持ったまま拳を打ち付けるエースを後目に、サボも深く考え込む。

 

「……ああ。あいつら、多分海軍の上層部だろ。どれくらいの位置にいるのかは分かんねぇけど、グランドラインに行けばあのレベルがゴロゴロいるんだろうな」

 

「強かったなァー、あのオッサン共。マグマに氷に、風……? どうやったら勝てんだろうな」

 

「まだ諦めてないんだ……。凄いね、君たち」

 

 あれ程の実力差を見せつけられたら、普通は心がポッキリと折れるものでは無いだろうか。リベンジ戦にコトコトと闘争心を燃やしつつある三人に、メルもつい本音がポロリと出てしまった。

 

「でも、成り上がるのには不屈の精神も必要だよ。強くなろうと思ったら、それくらい貪欲じゃないとねェ」

 

 おかわりをよそい終わったジジィがそれぞれの前に皿を置いて、再び席に着く。子どもたちはまた皿を手に取るやがっつき始めた。

 

「ボク達も海賊と取引することもあるから、正直なるなって強く引き止めることも出来ないしねェ。海軍のこともそんなに信用していないし」

 

「ん? そうなのか?」

 

 意外なジジィの台詞に、エースが不思議そうな表情を浮かべる。海軍に不信感を募らせる市民を彼はこれまで見たことがなかったのだ。

 

 サボは、ジジィの容姿で薄々は分かっているらしく、視線だけをちらりと獣じみた耳と尻尾に向ける。彼らの末っ子はご飯を食べるので忙しいらしく、聞いているのかも定かではない。

 

 

「君達は意外と反応が薄かったけど、ボクの姿は此方では珍しいからね。多分、聞いたことがないと思うけど、ミンク族っていう部族なんだ。ミンク族はボクみたいに動物の姿をしているけど、生活や生態はほぼ人間と変わりない」

 

「それ、着ぐるみだって思ってた……」

 

「本当だ!? オジサン、猫ちゃんじゃねぇか!!?」

 

「「「今頃気づいたんかい!!」」」

 

 ルフィの目が驚く程に節穴だったが、これ以上言っても詮無い。彼は、ジジィが猫のミンク族だとちゃんと認識したら、ご飯を口いっぱいにしたまま尻尾にじゃれついてきた。

 

 これは面倒なことになったと言わんばかりのジジィが尻尾をふりふり、ルフィを適当にあしらいながら、海軍への不信の理由を語る。

 

「ミンク族は、この世界では差別対象なんだよ。天竜人が一番上で、その下に人間がいるっていう構図は君たちも知っているよね。その人間の下にミンク族はいる。手長族や魚人族も僕達と同列だ。この世界は、毛が短く、手足のバランスが取れた、エラのない人間が優位に立っている」

 

「詰まり、天竜人や人間を保護するので手一杯の海軍は、ジジィさん達を後回しにしているんだな」

 

「後回しにするぐらいなら、まだいい方さ。ボクらには、人権なんてものは無い。無理矢理奴隷にされても捨て置かれる。人間が犯罪を犯しても、近くにボクらがいれば、いつの間にか罪を擦り付けられている。最悪、殺されても無かったことにされるだけだよ」

 

 子どもたちには、随分と刺激の強い話だ。口を開けたまま瞠目しているエースと目を伏せて唇かを噛むサボにジジィも話したことを少し後悔した。

 

 メルと話すように言ってしまったが、まだこんなにも幼い彼等に話して良い内容じゃなかったと後頭部を掻き掻き、この凍った空気をどうしようかなと思案する。

 

 だが、此処にはシリアスブレーカーを誇るルフィ少年がいた。

 

「なァ、猫ちゃん! お前、おれの仲間になれよ!!」

 

 恐らく、話の内容が難しすぎて何にも聞いていなかっただろうルフィ少年が唐突に勧誘し始めた。これには、ジジィを抜く他の一同が固唾を飲む。彼がこの勧誘にどう対応するのかが気になるからだ。

 

「ルフィくん。ボクは猫ちゃんだよ。君の海賊に入っても何の活躍も出来ないと思うなァ」

 

 ───凄い。いけしゃあしゃあと嘘を吐いてらっしゃる……。

 

 ジジィの戦闘力を知っているメルからすれば、息を吐くように紡がれた彼の嘘は失笑もんなのだが、実力を知らない彼らにしてみれば、確かに見た目猫なだけであって、とても強そうには見えないだろう。

 

 しかし、ルフィは二っと白い歯を見せて屈託なく笑った。

 

『なんだ、そんなことか』とでも言いそうなルフィの笑顔に、ジジィの方が気圧されるように吊り上がった目を見開く。

 

「そんなのどうでもいーよ。おれが誘ったんだから、猫ちゃんは役立たずなんかじゃねェ! 飯も上手いし、猫ちゃんだし、メルの家族なんだからそんなつまんねェこと気にすんなよ!」

 

 ジジィの長い生の中で、生まれて初めて掛けられた掛け値なしの勧誘だ。こんな褒め殺し、今日という日まで彼は自分とは無関係であったはずなのに、急に陽のあたる場所に連れ出されたようなむず痒さが身体中に走る。

 

「そっか。君は、“ボク”をちゃんと見てくれるんだね」

 

 どうしても付き纏うこの容姿への差別に、誰かに自分自身を見てもらうことなんて遠い昔に諦めていた。

 

 容姿への劣等感は、世界政府に拾われたあの頃に培われ、彼処で成長するにつれこびりついて落ちないカビのようにずっとこの身を支配している。

 

 だが、そのカビが少しだけ小さくなった。

 この少年の無責任で、柔らかで、目も眩むような言葉によって。

 

「ジジィ、良かったね。私の友達は多分、すっごく変人だからジジィも気にいると思ったんだけど、どうかな?」

 

 いつの間にかメルがジジィの隣までやって来て、ニヤニヤと彼の顔色を伺っていた。

 

 彼の感情など、ユラユラと嬉しそうに揺れている尻尾を見れば簡単に分かることなのだが、ジジィのこんな姿を見ることなんてあまりない機会だ。メルの顔には、揶揄い倒してやろうという魂胆が透けて見える。

 

 それが分かっていて、ジジィもつい綻びそうになる口元に手をやって必死にメルから感情を隠そうと無駄な努力をした。

 

「うん、最高だね」

 

 だが、その声音から喜びが滲み出ている。

 

 ───ああ、ジジィもルフィくんに落とされちゃった。

 

 人たらしな友人が気難しいメルの保護者を陥落した。これには、「よくやった!」とルフィをわしゃわしゃと撫でまくりたい気持ちになる。

 

 ジジィの人間嫌いにはメルも度々手を焼いていたし、何よりもメルとラブだけの狭い世界で十分と言いたげな厭世的な保護者を常日頃から心配していたからだ。

 

「よし! やっと猫ちゃんの尻尾捕まえられたー!!」

 

 ルフィ少年がようやっと、ジジィの尻尾捕獲に成功したらしく皆にピースサインを見せている。相変わらず、陽だまりのような笑顔を浮かべる彼に影響されてか、いつの間にか皆の顔にはそれぞれの笑い顔が出来上がっていた。

 

 

 ☆☆☆

 

 珍しく赤の他人を思いやることにしたらしいジジィにより、コルボ山の三人は、ジジィの部屋にある大きなベッドで寝ることが出来た。

 

 ジジィはラブの部屋を拝借することにしたらしく、既に部屋の中に引きこもっている。

 

 メルは軽い水浴びを済ませたら、ジジィの部屋にいる三人の元へと向かった。今日は珍しく寝間着を着ている。

 

 冬が近いせいで夜が冷え込んできたのだ。ドロワーズと下着だけで寝ていたら風邪を召しそうだとジジィに注意され、彼女はいやいや寝間着を着て寝ることにしたのである。

 

 コンコンとあまり入ることがないジジィの部屋の扉をノックすれば、サボが「しー」と唇の前に指を立てながら開けてくれた。ただ、見慣れないメルの姿に暫く目をぱちぱち瞬いていたが。

 

 メルの「どうしたの?」という呼び掛けに、漸く見慣れぬ少女がメルであると同定出来たらしいサボが部屋の中へと手招く。

 

 なんで静かにしろとサボに言われたのかがメルには謎だったが、それも部屋の中に入った瞬間に聞こえてきた二つの寝息によって解明された。

 

 ジジィのキングサイズのベッドで、揃って臍を出して寝ているルフィとエースが居たからだ。彼らは寝る時でさえもポーズを一緒にしているらしい。流石、兄弟と言うべきだろうか。和やかな光景に知らずクスクスと笑ってしまう。

 

「今日は、色々あったからな。飯食って、横になったらすぐに寝ちまいやがった」

 

 サボも微笑ましい気持ちを抱いているのだろう。楽しそうに二人のことを話す彼につられて、メルもまた口角を上げる。

 

 唯一の光源であるランプがジジィの書き物机の上に置かれているので、二人はその周りで腰を下ろして話に興じることにした。

 

「ジジィさん、読書家なんだな。壁いっぱいに見たことも無い本が沢山ある」

 

 ジジィの部屋は、元々書斎室だったらしい。壁一面の本棚にぎゅうぎゅうと詰められた書籍の群れは迫力がある。この書籍たちは、ジジィが片っ端から集めたもので、それらに規則性は見られなかった。

 

「ジジィは真面目だからねー。昔は学者さんに憧れたこともあったみたい。酔っ払った時にそんなことを言ってたから本当になりたかったんだろなぁって思うよ」

 

 あまり自分自身のことを話さないジジィだが、意外とお酒に弱いという一面を持っており、べろんべろんに泥酔した時は、過去の話をぽつりぽつり話してくれるのだ。

 

 今からでも学者になったら良いじゃないかと思ったりもするのだが、そこがジジィの気難しいところ。恐らく、メルが生まれるずっと昔にその夢を捨てたのだろう。彼は頑なにその夢から距離を取っている。

 

「メルって、子どもなのに妙に大人びているからおれらみたいに苦労しているんだろうなって思ってた。だから、ジジィさんに会って、おれが思っている以上に色んなものを見知っていても可笑しくないなって納得したんだ」

 

「サボくんってさ……教養あるよね。ルフィやエースみたいな野猿と違って、何処か別の場所で身に付けたって感じする」

 

「そうだな。おれ、貴族なんだ」

 

 サボの立ち振る舞いや夕飯での正しいカトラリーの使い方を見て確信に至った推理を披露してみれば、彼はあっさりとネタばらしをした。

 

 きっと、そこで寝ているエースやルフィも知らない事実を打ち明けられて、軽く動揺しそうになる。だが、言った本人はあっけらかんとしていた。

 

「本当は、なんとなくメルの正体も勘づいている。おれ、ゴア王国の王族と結婚するために生まれてきたから、この世界の神話も色々と知ってるんだ」

 

「うわぁ……。サボくんの人生も波乱万丈そうだね」

 

「それはお互い様だな」

 

 サボは、話しながらクラバットを解いたかと思えば、頭の上にあったシルクハットも書き物机の上に置く。

 

 そして、近くにあった窓のカーテンを引いて鍵を開けた。窓を少しだけ開くと夜風の冷たい空気が部屋の中へと舞い込んでくる。

 

「もうすぐ、新しい年が来るな。星座が全部冬のものだ」

 

 窓の隙間から冬の星座をなぞりあげて、楽しそうに名前を呼んでいく彼は、とてもあの過酷な野山を駆け巡っているような野生児には見えない。

 

 貴族の令息然とした、世間知らずそうな彼の後ろ姿にメルは「この人、本当に子ども……?」と自分のことを棚に上げて思う。メルと1つほどしか年が変わらないはずなのに、彼はその年齢で沢山の顔を持っている。

 

「新しい年が来たら、すぐエースの誕生日なんだ。彼奴、1月1日生まれで、直ぐに年上になっちまうんだよなー」

 

「あー、なんか日の出と一緒に生まれたって感じがする」

 

「だよな! 彼奴、太陽みてぇな感じがするだろ!」

 

 エースのことを語るサボの横顔は、既に野生児に戻っていた。あの高い教養に裏打ちされた気品なんて今のサボにはない。

 

 楽しそうに友人のことを自慢する彼は年相応で、王族との結婚を蹴ってまであの盗賊達の下で世話になったのは、彼にとって幸せなことなのだろうと思わされる。

 

「来年は、メルも祝ってやってくれよ。彼奴、メルが来ると楽しそうだからさ」

 

 サボのその申告には、メルも懐疑的にならざるを得ない。

 何故なら、大体再会を果たした時、エースはいつも仏頂面でいるからだ。

 

「そうかなー? なんかいっつも、来た瞬間ぶすっとしているような顔をしているような気がするんだけど」

 

「あー、あれはエースの癖みたいなもんだ。彼奴、素直に嬉しがることあんま出来ねェからさ。あれでも、昔よりかは大分丸くなったんだぜ」

 

 難儀な性格をしているエース少年の照れ隠しが右腕的存在であるサボによってあっさりとバラされたのだが、それでもメルは納得してなさそうなジト目のまま。

 

 恐らく、エースと違って、ルフィがいつも全身でメルの訪問を喜ぶことも要因の一つだ。あの裏表のない人間と比較されたエースも可哀想である。

 

「……しょうがないなー。多分、ジジィも会いたがるだろうから、ドーン島でお祝いした後はウチにも来てよ」

 

「勿論! おれもジジィさんと話したいしな」

 

 まさか、翌年の約束をするなんて思ってもいなかった。

 

 毎日を必死に生きていたメルにしてみれば、それはかなりの出来事であり、そんな約束をする友人が出来たことにも驚きだ。

 

 二人、約束を交わすために小指を絡めて、小さく指切りげんまんをする。すると、そんな彼等を祝福するように夜空に一条の光が流れた。

 

「あ、流れ星……」

 

 サボの囁くような声がそれの正体を明かす。

 

 一つの星の終わりになんだか感傷的になって、少しだけその余韻に少女達は感じ入る。その後は少しだけジジィの蔵書の話をして、解散となった。

 

 

 

 

 

 




これにて、『盃兄弟VS海軍上層部編』は終了で御座います。

☆バタフライエフェクトまとめ
・盃兄弟、三大将とセンゴク・おツルとエンカウント
・海軍式教育を受けることが確定(情操教育込み)
・サカズキとクザンがプチパンクハザードやらかして、仲の悪さが表面化する

★これからの問題
・エースがいつロジャーの息子とバレるか
・サボの残された時間の少なさ
・これから更に刺々しくなるだろうマグマと氷(に挟まれて嫌気が差しそうなボルサリーノ)

それに加えて、ラジニア王国とか言うオリジナル国が出張ってき、近々世界政府と一部海軍のガサ入れがあります。ロジーくんの処遇が気になる方は覚えておくと良いかもしれません。

ジジィ(メラメラの実持ち)とエースが出会っちゃいましたが、物語は着々と進んでいきます。

次回から、『メル、バイト探し編〜ブラックバイト、ダメ絶対〜』をお送りします。
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