届けさせてください!   作:賀楽多屋

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★『マグマ鍋の回』にて、赤犬の位を大将に変更しています。
くそう、出世早すぎだよ三人とも。
★バッファローのコラさんへの思いの丈を少し修復しました。


この世に生まれる君に世界の祝福がありますように

 メルと女の子、それから男の子はクリームに購入したパンを包んでもらい、漸くお腹を触っていいよと許しが出たのでメルは珍しくドキドキと胸を高鳴らせて、女の子がお腹が撫でている様子を見ていた。

 

「あ! またポンって蹴った!」

 

 クリームは女の子のはしゃいだ声を聞いて目を細める。

 そのお腹の子は、確かに母親が太鼓判押すだけあって元気いっぱいだ。

 

「ベビー5ゥ、俺も触りたいだすやん!」

 

「駄目よ、バッファロー。だって、アンタまだ力加減下手くそじゃない」

 

「うぐぐぐぐ。そ、そうだすやん·····」

 

「この前は二人とも時間がなさそうだったから言わなかったけどさ、バッファロー君だって触りたいわよね。この子も私も子供に押されたところでビクともしないさ。だから、バッファロー君さえ良いなら触ってみないかい?」

 

「ほ、本当に良いだすやんか?」

 

「勿論さ。この子もきっとバッファロー君に構ってもらったら嬉しいんじゃないかい」

 

 光を見出したようにバッファローがベビー5の方へ顔を向けると、「クリームさんが良いなら」と渋々彼女は頷いてみせる。

 

「ありがとうだすやん!!」

 

 クリームからお触りの許可が出たのがよっぽど嬉しかったのか、バッファローが目を潤ませて小躍りする。

 

 もう調子いいんだからとベビー5がバッファローの浮かれ具合に物申しているが、そんな二人のやり取りを見てクリームはアッハッハッハーと大口を開けて笑った。

 

「本当に二人は面白いねぇ。まるで、漫才師のコントを見てみるたい。ねぇ、メルちゃん」

 

「う、うん。ボケとツッコミが成り立っているもんね」

 

 まさかこんな流れ弾がメルの方に向かってくるとは思わず、メルは慌てて首を縦に振った。

 

 二人のコントも勿論聞いているのだが、メルの目はクリームのお腹ばかりを捕らえていた。

 

 メルの碧眼が少し淡く光っていることには気づかず、クリームはバッファローの片手を取って、自分のお腹の方へと導く。

 

 徐々にクリームのお腹の方に近づいて行く自分の手に、徐々に怖くなってきたみたいでバッファローの手が一瞬動きを止める。

 

「大丈夫。怖がらないで」

 

 しかし、バッファローの手を掴んでいるクリームが安心させるように微笑みかけてきた。

 

 その微笑みに励まされるように、バッファロー片手から力を抜く。

 

 そして、クリームによって導かれた掌が彼女のお腹の上に当てられる。

 

 そっと触れたバッファローの掌は、自分のそれよりも暑い塊に少しだけ動揺したようにブレた。

 

 だが、このお腹の中にその熱を発しているだろう赤子がいるのだと思えばそれは凄く尊いように思えてきて、もっとよく感じようと彼は目を瞑る。

 

 バッファローは見たことがある

 若が商っている人身売買の中に、妊婦がいた事を。

 

 彼女達はクリームのような幸せそうな表情こそしてないが、一生懸命に自分のお腹の子供を生かそうと日々命の火花を散らしている姿は、素直に綺麗なものだなとバッファローは思っていた。

 

 若やトレーボルからあまり奴隷達のいる場所には近づくなと言われていることもあって、バッファローは彼女等を眺めることは出来ないが、たまに抜け出して彼処へ侵入することがある。

 

 刹那、物思いをしていたバッファローの手に何かが当たる感覚がした。クリームのお腹越しに小さな足が確かにバッファローの手を蹴ったその感覚に、彼は「うわッ!」と声を上げる。

 

「赤ちゃんがおれの手を蹴っただすやん! 凄い、お腹の中でもこの子は生きてるんだ」

 

 胸の中に込み上げるこの感情はなんだろう。

 バッファローはクリームに礼を言って、引いた手をそのまま自分の胸に当ててみる。

 

 胸の奥がじんわりと温かくなって、大好きなアイスを食べた時以上の喜びが体全体を覆っていく。

 

 その満たされた気持ちに、バッファローは少し泣きそうになった。

 

「コラさん──」

 

 不意に思い出したのは、嘗ての家族(ファミリー)の姿。

 男の癖に顔に化粧を施して、若とお揃いのモフモフのコートを羽織っていたその男は、裏切りの処罰を受けて死んだ。

 

 若を裏切ったのだから、当たり前の仕打ちだろう。

 ケジメをつけてあの世に逝けたのだから、最高の最期を迎えられたのだと言ってもいい。

 

 ───けれども、何故か胸の奥が痛む。

 

 コラソンが、まさか若のことを裏切るだなんて思わなかった。

 

 あの頃、常に海軍の追跡を受けていたことを疑問に思わなくはなかったが、本当に家族内に裏切り者がいるなどとはバッファローは思いもよらなかった。

 

 ローを連れて、コラさんが行方不明になったと知った時の若を思い出して、バッファローはまた胸の痛みを感じる。

 

 そして、しみじみとバッファローは思う。

 

 バッファローの顔を見れば、すぐド突くし蹴るし、あんまり良い目に遭わされなかったけど、それでも彼はコラさんのことが家族として好きだった。

 

 だから、もう一度───。

 

 

「·····温かい。無事に生まれたらいいな」

 

 バッファローと同じような感想を零すメルに、彼は初めてメルという人間を認識した。

 

 家族以外は興味のないバッファローにとって、メルはさっきまで生きようが死のうがどうでもいい生物であった。

 

 しかし、お腹の赤子に感嘆の声を上げるメルのその姿はさっきの自分と瓜二つで、少しだけ興味が出てきたのだ。

 

「二人は蹴ってもらったみたいだけど、私も蹴ってもらえるかな」

 

「ふふふ、どうかしらね。今日は皆に相手してもらってるからサービスしてくれるかもしれないよ」

 

「蹴ってもらえるといいね」

 

「うん。私もこの子が生きてるって感じてみたい」

 

 人見知りの気があるベビー5も、バッファローと同じ気持ちを抱いたのかメルとは普通の会話を交わしていた。

 

 そして、メルの目が驚きに見開かれる。

 

「蹴った·····」

 

 ポツリと零したメルの声は少しだけ掠れていた。

 

「良かっただすやん!!」

 

「これで皆、赤ちゃんに蹴ってもらったね」

 

 口々に良かった良かったとベビー5とバッファローが言うと、メルも「うん」と素直に頷く。

 

 頷いたメルの顔には雨が止んだ晴れ空のように清々しい笑顔が浮かんでいる。

 

 こんな笑い顔を見たのは、バッファローにとっても初めてのことだった

 

 ベビー5は今、どんな顔をしているんだろう。

 ついそんなことが気になったバッファローは、ベビー5の顔色を盗み見するように伺う。

 

 バッファローの視線の先にいるベビー5は、やっぱりバッファローと同じような笑いたいような泣きたいようなそんな顔をして、メルとお腹の赤子の交流を見ていた。

 

 ───多分、ベビー5の頭の中にもコラさんがいる。

 その憶測は、長年時を共にしているからこそ直ぐに思い浮かぶもの。

 

 二人が今は亡きその人物について万感の思いを抱いていると、メルがクリームのお腹の上に人差し指を滑らせて文字を書き始めた。

 

 そのメルの行為にクリームが「擽ったいよ」と声を上げ、メルはこれは「お呪い」なのだと三人に告げた。

 

「赤ちゃんが無事に産まれて、すくすく育ちますようにっていう祈りの呪いだよ。この子が世界の祝福を受けますように、世界に愛されますように」

 

 ───私は、世界に望まれなかった子だから。

 

 そんなドロドロとした思いに蓋をして、メルは小さな魔力をクリームのお腹の向こうにいる赤子に明け渡した。

 

 ベビー5やバッファローが過日に思いを馳せるように、メルもメルでこの一瞬で色々と考えたらしい。

 

 まだ人生の一部しか生きてない割には、三人ともがなかなかにヘビーな時間を生きてきている。

 

 まだまだこれからも沢山困難な降りかかるだろうけども、今この時は、赤子が無事に生まれるようにと三人が揃って居ないと思っている筈の神様に祈りを捧げた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「若は本当に凄いのよ。私が見てきた中で一番強いし、美味しいものをたくさん知ってるし、それから服のセンスもとても素敵なの! あと私をとても頼ってくれるのよ!!」

 

「あ、アイスが垂れただすやん。溶けないアイスとか売ってないだすやんかねー」

 

 パン屋の一件ですっかり仲良くなったメル達は現在、ドレスローザのメイン通りを歩いていた。

 

 口を開けば『若』の話ばかりするベビー5の話を適度に聞き流しながら、少し前に買ったはずのアイスをもう既に溶かしてスコーンをベチャベチャにしてるらしいバッファローをなんとはなしに眺めていた。

 

 それからベタベタになった両手に嫌な顔をしているバッファローに気が付いたらしいベビー5がまたかというように、ワンピースのポケットからフリルのついたハンカチを取り出す様もついでにとメルは視界に入れる。

 

「もう」と嘆息を吐きながらもどこか嬉しそうにバッファローの世話をしているベビー5に、結構息のあったコンビなんだなとそのまま二人の様子を静かに観察していた。

 

「それにしても、メルの仕事先がウチなんて凄い偶然ね。しかも、デリンジャー宛」

 

「その小包の中には、何が入ってる出すやん? もしかして、アイスか?」

 

「んー私は冷凍食品は扱わないからアイスは無いかな。中身についてはジジィに何にも教えてもらえなかったから分かんないけど·····」

 

 偶然とは怖いものである。

 

 三人が呑気に話しているように、メルの配達先は二人の住処であったらしいのだ。

 

 しかも、デリンジャーは家族とのこと。

 要するにこの二人は、メルの顧客先の子供達になるってことだ。

 

 否、デリンジャー自身も子供のようだから、顧客の兄妹ということになるか。

 

「あ、そうだ。じゃあ、『王様』って人にさ、覚えとかある? この人がこの荷物の差出人なんだけども」

 

 そう言えば、この荷物にはとある不気味な謎があったんだったと思い出したメルが二人にその事を聞いてみる。

 

「王様ァ? 」

 

 あまり頭の良くなさそうな声を上げて、首を捻るバッファロー。覚えなど無さそうなバッファローの反応にメルがこれは収穫無しかと眉根を下げていると、思わぬ伏兵が「なんだ、若からの荷物だったんだ」とさらっと申した。

 

 メルはすぐさま、ベビー5の方へと顔を向けた。

 

 その伏兵とは、可愛らしく微笑んでいるベビー5であったのだ。

 

「だって、若は王様なんだもの」

 

 ───なんだか、その若とやらは危ないヤツな気がしてきた。

 

 「なんだっけ、服のセンスが良くて、滅法強くて、物知りな人がベビー5の言う若だっけ」と右から左へと聞き流していた彼女の証言を頑張ってメルは掘り起こす。

 

 しかし、自分のことを王様と称する人物がマトモな人だろうか。

 

 メルはアイスでベタベタになったバッファローの口元を拭っているベビー5を見ながら考える。

 

 ───でも、こんなに凄くいい子達に慕われているのがその若だもんね。案外、お山の大将みたいな良い人なのかもしれない。

 

 そして最終的にメルが出した結論には、希望的観測が過分に含まれていた。

 

 こればっかりは会ってみなきゃ分からないとまで思い始めたメルは、半ばヤケクソだ。

 

 メルのシックス・センスは、今も確実にヤバイヤバイと騒いでいる。

 だけども、行かなきゃ仕事は終わらない。

 

 シックス・センスとベビー5達の板挟みになりながら、メルはデリンジャーが居るというベビー5達の住処へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




若とベビー5の間に起きた『街諸共婚約者滅んだ騒動』は未だに覚えています。結構ちょこちょここういう感じの事件がこの世界で起きていますけど、こんなモンペ事件が奴の手によって引き起こされるとは思ってなかった昔。

若についての話はまた次回にてしたいと思います。

ドレスローザ奪還ぐらいまでは毎週アニメを見ていたので、そこそこちゃんと覚えているつもりだったのですが、いざ調べてみると実はそんなに覚えていませんでした。

バッファローは何故か倒れる瞬間が印象的なんですよね。
ベビー5とちょっとお似合いなんじゃないかと邪推していたせいかな。

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