1話 出会い
1人の幼い少年が、美しい庭園で何か困っているようであった。
この少年、名を「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」と言い、この「アリエスの離宮」で母と妹、それに使用人たちと暮らしているため、迷うことなどありはしない。しかし、アリエスの離宮は庭園といってもとても広く、むしろ野原と言われた方がしっくり来るような作りになっていた。故に、この庭園のある「アリエスの離宮」に初めて入る人間は迷子になってしまう確率がかなり高いのである。であれば、ルルーシュが困っているのは、迷子の誰かを発見してしまったからであると想像ができる。
ルルーシュは幼いながらも賢い頭脳を持ち、時には大人顔負けの脳の回転を発揮することもあったが、こういったトラブルにはめっぽう弱かった。
それに、ルルーシュはこのアリエスの離宮で生活してきたため、外に出ることなど数えるほどしかなく、この離宮を訪ねてくる人物も、異母兄弟姉妹が基本で、全く知らない人を見かけるのも初めてのことだったので、困ってしまうのも当然なのだろう。
ルルーシュはついに話しかけることに決めた。自分よりも年下と思えるこの少女は恐らく誰かに連れられてこの場所に来たが、途中で迷子になってしまった。つまり、この離宮に入ってくる人物の子供である可能性が高く、敵対の危険はない。そう判断した故であった。
その少女は、ピンク色の鮮やかな髪に、質の良い服を着せられていたが、その髪や服にも泥や葉っぱが付いていた。それは正面に偏っていた為、どこかで転んでしまったのだろうと思い、ルルーシュがその少女の全身を見ると、膝を擦りむいてしまっていた。
「こんな所で何をしてるんだ?」
ルルーシュは少女の手当てをするにも、まずは触れてもいいかの許可を取らなければいけないと考え、できる限り優しい声を意識しながら少女に声をかけた。少女は泣きながらルルーシュの方を見て
「…迷った」
とだけ言った。
ルルーシュは「そうか」と頷くと、続けて「名前は?」と聞いた。
「アーニャ。アーニャ・アールストレイム」
そう少女が答えると、ルルーシュは自分の推理が間違ってなかったことを知った。アールストレイムと言えば、古くから帝国に使える名家であり、それと同時に、「ヴィ」家の支援もしてもらっている家だ。ならば、この少女がここにいるのも納得ができるというものだ。
「アーニャ、まずは、その膝を手当てさせてもらえないかな?なんでこんな場所にいるのかは、そのあとで話してくれ」
「…分かった」
ひとまずアーニャの許可を取ると、ルルーシュは来ていた服の袖を破った。続いて、遊んでいる途中で喉が渇いたら飲もうと思っていた水の入った水筒を開け、アーニャの膝に振りかけた。アーニャは痛かったのか、先程よりも泣き声が大きくなってしまったが、ルルーシュはその間にも的確な処置を施していく。
「アーニャ、もう大丈夫だよ」
「…ありがとう」
ルルーシュが処置を終えてアーニャに話しかけると、アーニャは泣きながらもきちんとお礼を言い、少しして落ち着いた後、自分が何故ここにいるのかを語って聞かせた。しかし、それは幼い少女の言うことで、「自分が迷ったのではなく、護衛の方が迷っている」と言った発言をして、ルルーシュを笑わせていた。
「おにいさまー!いったいどこにいますかー?」
妹の声だ。ルルーシュは返事をしようとして、いまだに座り込んでいるアーニャに目を向けた。
「そろそろ妹が僕を探してここに来るはずだ。アーニャもそこから帰れると思うよ。でもその前に、妹に君を紹介したいんだ。良いかな?」
「…ん」
ルルーシュの申し出に、アーニャは少し嬉しそうにはにかんで頷いた。それを見たルルーシュは赤面し、アーニャの方に手を差し出すと「またはぐれたらいけないから、手を繋ごう」と言って、アーニャの手を取ると、妹の声のした方向へと向かっていくのだった。