アーニャはルルーシュと出会った後から、よく1人でもアリエスの離宮に足を運ぶようになった。ルルーシュには、妹「ナナリー・ヴィ・ブリタニア」がいるのだが、年齢が同じということもあり、よく遊ぶようになっていた。また、アリエスの離宮に遊びに来るその他の皇女とも仲良くなったようで、遊ぶ姿が度々目撃されていた。
アーニャは、初めのうちはあまり喋ることを得意としていなかったようで、抑揚の少ない声で聞かれた事に淡々と答えるばかりで、自分から積極的に話しかけるという行為をあまりしていなかった。しかし、皇女殿下達はどうやら活発な方が多いようで、アーニャはよく腕を引かれていた。
そんな日々がアーニャに変化をもたらしたのか、以前よりも笑顔を浮かべる事が多くなり、庭を駆け回るような少女へとなっていった。
ルルーシュもよく遊びに誘われるのだが、ルルーシュはとんでもなく体力が無いため、すぐに疲れて倒れ伏してしまい、その様子を笑われて、怒って追いかけるも、またすぐに倒れてしまうという負のスパイラルに陥ることも多く、その様子はアリエスの離宮を訪れる多くの大人や、ルルーシュとナナリーの実母「マリアンヌ」を笑顔にさせていた。
そんな日々が2年ほど続いたある日、アーニャはいつもの様にアリエスの離宮を訪れ、ルルーシュやナナリーと一緒に遊ぼうと思った。しかし、どうも様子がおかしいことに気がついた。
違和感の正体はすぐに分かった。いつもは多いとまでは行かなくても、来客が途切れることなどなかった庭園や建物の中に人の姿どころか、人の気配すらも感じられないのである。
アーニャは困った。ルルーシュ達と遊ぶときに外で遊んだはあっても、ルルーシュ達と会うのは基本的にアリエスの離宮以外にあり得ず、それ以外にいそうな場所を知らないからだ。アーニャは、言い寄れない不安を感じながら、1人でルルーシュとナナリーの姿を探して歩いた。ポツリと雨が降り出した。
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時は少し遡り、ルルーシュの場面に移り変わる。場所はアリエスの離宮では無く、父である第98代ブリタニア皇帝「シャルル・ジ・ブリタニア」の住む王宮、さらにその中にある謁見の間にて、父と対面していた。
「…父上、なぜナナリーにあの様な厳しい言葉をおかけになられたのですか!?ナナリーは、一晩のうちに母を亡くし、歩行する術を失い、そして光すらも奪われたのです!それなのになぜ、あの子に優しい言葉をかけてあげないのですか!?」
ルルーシュは、激怒していた。母が死んだのにもかかわらず、「そうか」という一言だけで済ませ、死に顔も確認せず、その上、ナナリーに向けて酷い言葉を投げつけたのだ!ナナリーはそうで無くてもまだ6歳の子供で、物事の道理も完全に理解したとは言えない年頃であり、昨晩にたくさんの大きなものを失ってしまったというのに!
ルルーシュは目の前の父である皇帝シャルルを厳しい目つきで睨みつけていた。シャルルは目を背けることなく、ルルーシュの言葉を聞いていたが、ルルーシュの言葉が止まったのを見ると、ルルーシュに言った。
「ナナリーがそこで立ち止まるなら、あやつはそこまでの人間だったということよ」
「なっ!」
ルルーシュには、父のその言葉が信じられないものに感じた。この男は、いったい何を言っているんだろうかと。
ルルーシュは再び言い募ろうとしたが 、目の前からの凄まじいプレッシャーに口を開けることが出来なかった。そうしているうちに、再びシャルルが口を開く。
「人間とはぁ!不平等においてこそ進化する生き物であるぅぅ!今のナナリーやお前の様な状況になってこそ、真に人間とは進化するのだぁ!つまり、貴様達がここで立ち止まるというのならば、それは怠惰というものよぉ!」
その言葉に、ルルーシュは絶句する他なかった。この男は、確かに強さを求めていた。しかし、これでは度がすぎている。ルルーシュが衝撃を受けていると、シャルルから1つの事実を告げられた。「日本へ向かえ」と。
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ルルーシュは、気づいたらアリエスの離宮、その庭園にいた。ナナリーは王宮で治療を受けているが、それが終わり次第2人は日本へと連れていかれるだろう。政治のための駒として。
ルルーシュは悲しかった。母の命を守れなかったこと。ナナリーの心を守れなかったこと。そして、自身の尊厳すらも守れなかったこと。全てに対してルルーシュは絶望を覚えていた。
体にあたる雨はだんだん激しさを増し、体から急速に体温を奪っていく。もはや立っていることすらできず、その場に座り込むと、丸くなってしまった。その姿はまるでいじけた子供の様だが、その内面は荒れ狂う暴風の様であった。
ルルーシュは考えた。これまでのこと、これからのこと。そして、アーニャのこと。
彼女と初めて出会ってから、もう2年の付き合いになっていた。最近では行儀見習いとして、このアリエスの離宮に来ていたため、遊ぶ機会は以前ほど多くはなかったが、それでも親しくしていた少女。その少女のことが頭をよぎる。
ルルーシュは女々しい考えだと自分自身を嗤った。ルルーシュにこの感情はまだわからなかったが、彼女のことを考えただけで、体が温かくなる様な気になった。
このまま、この暖かさに浸っていたい。ルルーシュは、もう半分も回っていない脳の片隅でそんなことを考えた。その時、目の前から声が聞こえた。最も聞きたかった、1人の少女の声が。
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アーニャは焦っていた。アリエスの離宮の中を長い間探してみても、人どころか、ネズミの一匹すら見当たらない。探してない部分は庭園の隅だけになり、アーニャは雨の中そこに向かった。そして、見つけたのだ。びしょ濡れになりながら丸まる、1人の少年の姿を。
「ルルーシュ?」
「…」
「ルルーシュ!」
「…アーニャか?どうして君がここに…」
「それはこっちのセリフ!こんなになって、こんなところで何してるの!?」
アーニャはルルーシュに厳しい口調で詰問した。ルルーシュはしばらく黙っていたが、アーニャが声をかけ続けると、ポツリポツリと今までのことを話し始めた。
母が殺されたこと。ナナリーの目が見えなくなり、足も動かなくなってしまったこと。父に見捨てられたこと。そして、日本へと行くこと。
「…そう」
アーニャは何も言えなかった。もう大好きなルルーシュやナナリーには会えないかもしれず、マリアンヌにはもう2度と会えないのだと。しかし、今ばかりは己の悲しみではなく、ルルーシュの悲しみを優先した。
「ねえ、ルルーシュ」
「…なんだ」
「辛い時には泣いたっていいんだよ?」
ルルーシュは涙を流していなかった。拳をきつく握りしめ、歯を食いしばり、自らの内から湧き上がる悔しさと必死に戦っていた。しかし、アーニャの言葉を聞き、今まで耐えてきた分が一気に放出された。
ルルーシュはみっともなくアーニャの胸にしがみつき、大声で泣いた。恥ずかしさもあった。しかし、それよりも悲しみが勝った。いくら頭がいいと言っても、ルルーシュもまだ9歳の少年。子供だった。
アーニャは何も言わず、ただルルーシュの背中を撫で続けた。優しい手つきで、ずっと。
いつの間にか、空は晴れていた。
今回一番苦労したのは、シャルルのキャラクター性です。うまくできていたら幸いです。もし良ければ感想や評価などお待ちしております。
追記:感想にもあった「アーニャは原作のようにマリアンヌ襲撃の現場にいたのか」につきましては、明日投稿予定の次話にて描写を入れるつもりです。また、その描写に関する補足も近いうちに入れると思いますので、よろしくお願いします。
ということで、次話をお楽しみに!