それでは、本編どうぞ!
ルルーシュは恥ずかしさのあまり、「穴があったら入りたい」と切実に思いながら、アーニャの方を向けないでいた。理由は単純明快で、先程までルルーシュがアーニャに慰められていたという事実に、ルルーシュのプライドが大きなダメージを受けているのである。
妹と同い年の年下の女の子に正面から抱きしめられ、背中をさすられていた!さらに、自分はその女の子の胸でみっともなく泣いてしまった!…ルルーシュの小さな自尊心は、傷つきっぱなしである。
しかし、先程の出来事によりルルーシュが救われたのも事実であり、ルルーシュがお礼を言おうとアーニャの方を向いた瞬間、アーニャと目があった。ルルーシュは全力で顔を背けた!もう1度、恐る恐るアーニャの方に顔を向けると、アーニャの頬が赤く染まっていた。先程の出来事は、やった本人からしても恥ずかしいことだったようだ。
「アーニャ!」「ルルーシュ!」
「むっ、先に良いぞ!」「…先に良いよ」
そして、2人とも目を見て話していないために、声が完全に重なってしまうというベタな展開が待っていた。ルルーシュは1つ咳払いをし、アーニャの方を完全に向くと、未だ赤く染まる自分の頬を意識しつつも話を切り出した。
「…アーニャ、まずは、俺の事を慰めてくれてありがとう」
「…私は当然のことをしただけ」
「それでも、俺はお前に救われた。お前だから、救われたんだ。ありがとう!」
ルルーシュは、今の純粋な気持ちを伝えることにした。どれだけ恥ずかしくとも、もうアーニャとは2度と会うことはないかもしれないから…
アーニャもルルーシュの真剣さを感じたようで、「分かった」と返事をすると、今度は自分の番だと言わんばかりにルルーシュの顔を真っ直ぐ見つめた。
「ルルーシュ、日本に行くって、本当?」
「…あぁ。今日、父上に言われたよ。」
「…もう、会えないの?」
「…そうかもしれない」
「そんなっ!…私、嫌だよ。ルルーシュとも、ナナリーとも会えなくなるなんて!」
そう言って、今度はアーニャがその瞳に涙を浮かべていた。アーニャも所詮は6歳の少女。大好きな相手が突然いなくなるなんて、泣かずにはいられなかったのだろう。それを見たルルーシュは、思わず口を開いてしまった。それは、胸に宿った未だ覚めやらぬ、熱い衝動に身を任せてのものだったのかもしれない。しかし、このとこのルルーシュの頭の中にあったのは、「アーニャを泣かせてはならない」という1つの思考だけだった。
「アーニャ!約束をしよう!」
「…約束?」
「あぁ!俺とお前で!」
「…どんな?」
「それはもちろん…!?」
ここまで言ってルルーシュは気づいた。自分が一体、アーニャに向かって一体何を言おうとしていたのかを。この時になって、ルルーシュはようやく自覚した。自分がアーニャに恋してるということを。
しかし、この場で婚約の申し込みなど決してできるわけがなかった。なぜならば、ルルーシュはもはや廃摘されたも同然の身分であり、しかもこれから日本に行けば、もう一度生きて帰ってこれるかも怪しい。しかし、口に出した言葉の続きを言わないことなど、時間を巻き戻せでもしない限り不可能なわけで、ルルーシュはとっさに別の言葉を口にしていた。
「アーニャ、君は俺の騎士になるんだ!」
「…騎士?」
ルルーシュは内面で頭を全力で抑えていた。何言ってんだ俺のバカ!と自分自身を罵っていた。口に出した言葉を止められないのも事実。ここで何かを口にしなければルルーシュはアーニャの涙を止めることはできなかっただろう。しかし、この「騎士になってくれ」というのはどう考えてもおかしかった。
そもそも、男が女の騎士に守ってもらうなど、世間から見れば不甲斐ない以外の何者でもなく、また、この場面に適しているとも到底思えなかった。一方のアーニャはポカンとしているため、第1目的である「涙を止める」ことには成功していた。
「そうだ!お前は俺の騎士となるんだ!何年かかっても良い、必ず俺を迎えに来い!…そして、俺を守ってくれ。」
この言葉には、アーニャと離れたくないというルルーシュの気持ちと、アーニャに立派になってほしいと願うルルーシュの気持ちの両方が込められていた。
騎士というのは、この国の中ではかなり高い地位に就くことができる職である。皇族の専属の騎士として仕えることができれば、それ相応の生活ができる。それに、皇帝直属の最強の騎士に与えられる「ナイト・オブ・ラウンズ」の称号を手にすることができれば、その将来は順風満帆であると言っても過言ではない。
ルルーシュは、1度口に出した言葉が止まらないというならば、それを利用しようと考えた。ルルーシュの考えではこの約束を交わした後、この言葉を励みに訓練を頑張るようになれば、高い実力をつけて本当に騎士になることができる。そうすれば、アーニャは1人でも生きていける。そう思った。
「分かった!何年かけてでも、絶対にルルーシュのこと迎えに行くから!」
アーニャはそう言って屈託無く笑った。ルルーシュの考える、裏の未来を考えもせず、ただ実直に、この約束を果たそうと考えた。アーニャはこの後、凄まじい成長を遂げることになる。「ルルーシュの騎士になる」その約束を胸に抱いて。
ー
ところで、この光景を影から眺めている1人の男がいた。その名を「ジェレミア・ゴッドバルト」といい、元々は「ヴィ」家を支援する名家の長男であった。
しかしこのジェレミア、実は先日の「マリアンヌ襲撃事件」で警護を担当していたものでもあり、職務を怠慢し、敬愛するマリアンヌを守れなかった罰として、自殺まで考えていた。そして、最後にアリエスの離宮を見ようと足を運び、この光景に遭遇したのだった。
ジェレミアは涙した。幼い少年と少女の、この世で最も尊ぶべき神聖なる誓いに。そして気づいた。2人が何も手にしていないことに。
本来、騎士の誓いというのは、自分の心臓に剣を向けた状態にして、忠義を果たすべき主君へと差し出す。それを主君が受け取り、左右の方に剣を乗せ、誓いの言葉を宣言するというものだった。しかし、今2人は剣どころか、棒切れ1つすら持っていなかった。
ジェレミアは迷った。この神聖なる誓いを邪魔してでも、剣を貸し出し、より忠義に対する思いを厚くするべきか。はたまた、この光景をすぐに入るであろう自らの墓まで持っていくのか。
その時、ジェレミアは少年がルルーシュだということに気づいた。ジェレミアはその時、確かに感じた。この少年に忠義を果たすことこそが我が使命なのだと。であれば、ジェレミアに迷いはなかった。
ー
「ルルーシュ様。失礼ながら、進言させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
ルルーシュはとっさに声のした方を向いた。するとそこには、長身の男が傅いていた。ルルーシュは、その声に聞き覚えがあった。よくアリエスの離宮に来て、母と話をしていた人物だと気づいた。
「ジェレミア・ゴッドバルトか?」
「はっ!」
「進言とは一体どういうことだ」
ルルーシュは多少怒気を含ませながら言った。自分とアーニャがせっかく(?)良い雰囲気だったのに、急に出てきた男に壊されたからだ。しかし、このタイミングで出てくるとは、何かあるに違いないと考えたルルーシュは、とりあえずその「進言」とやらを聞くことにした。
「恐れながら、御二方は神聖なる騎士の誓いをしてらっしゃるにもかかわらず、剣をお持ちでないご様子。しからば、我が剣にて、その儀を完遂させて欲しいと思い、参りました」
「ほう、気がきくではないか」
ルルーシュは機嫌が良くなった。いくら仮初めであると言っても、本格的なものであるほど、アーニャの取り組みも一生懸命になるだろうと考えたからだ。
「アーニャ」
「…うん」
ジェレミアがやり方を2人に教え、それになぞらえてルルーシュとアーニャの叙勲式が始まった。
その誓いの様子はまさしく皇帝と騎士の関係のようであったという。
ー
飛行場にて、ルルーシュはナナリーを背負って歩いていた。その先には、日本へ向かう飛行機がある。これに乗ってしまえば、おそらくアーニャとは会えなくなるだろう。と思った。涙はあの日、あの庭園で出し切ったと思っていたのに、目からは涙が溢れ出そうで、ルルーシュは思わず空を見上げた。
飛行場には、他の皇族たちの姿もある。泣いているものも、無関心なもの
もいた。挨拶もそこそこに、ルルーシュは飛行機になろうとした。その時、この場所で聞こえるはずのない声が聞こえた。
「ルルーシュ!」
アーニャだった。警備員の制止を振り切ってルルーシュの元へと駆けてきたアーニャは、ルルーシュの目の前で止まると
「絶対に迎えにいくから!」
と言った。
「あぁ、待ってるよ」
ルルーシュはそう返すと、そのあとは黙って飛行機に乗った。涙はもう、止まっていた。
ー
アーニャは、ルルーシュの飛行機を見送った後、ジェレミアのもとに身を寄せることにした。忠義とは何か、騎士とは何かを知るためだ。それに、実家では元々皇子と仲がいいという理由で優遇されてきたが、その皇子はもういない。実家でどんな扱いを受けるかなんて想像もつかないが、少なくともろくなことにはならないだろうと思った。
アーニャが考え事をしながら歩いていると、不意に懐かしい雰囲気を感じたような気がした。アーニャは気のせいかと頭を振り、自分にできることを精一杯することにした。
「…頑張ってね♪」
そんな誰かの呟きは、喧騒の中に溶け込んで、浮かんでくることはもうなかった。