ルルーシュは、舗装のあまりされていない道を、ナナリーを背負いながら歩いていた。太陽に体を照らされ、汗が滝のように流れ落ちる。何度も休憩を挟んだため足取りはしっかりとしているが、ルルーシュ自身の意識はもはや朦朧としている。ルルーシュを歩かせているのは「背中にナナリーを背負っている」という事実だけだった。
しかし、ルルーシュが命を張るには、そのたった1つの事実だけで十分だった。なぜなら、ルルーシュには、もうナナリーしか残されていないのだから。
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「お兄さま、大丈夫ですか?私、重くありませんか?」
「あぁ、大丈夫だよナナリー」
「でも、お兄さまは体調が良くないようですが…」
「心配ないよ。それに、あとはここを登ればすぐに着くからね」
ルルーシュがナナリーのことを気遣いながらゆっくりと歩いてきてからどれほどの時間が経っただろうか。ようやく目の前に、目的地の目印である長い石畳の階段が姿を現した。
階段には等間隔で鳥居が並んでおり、先が見えないほど長い。何度も休憩を挟み、ときには諦めそうになりながらも、それでも諦めることなく、1歩1歩を踏みしめながら、ルルーシュはゆっくりと階段を上っていく。そうして、階段を上った先で待っていたのは現日本国首相「枢木ゲンブ」その人だった。彼は、ルルーシュとナナリーを一瞥すると、
「疲れただろう。家の中に入りなさい。少し休憩したあと、君たちが今日から住むことになる場所に案内しよう。」
そう言って、建物の中へと入っていった。お礼を言う間もなかったが、ルルーシュは言葉に甘えて、家の中に入ることにした。
家は木造の、落ち着く感じのする家で、大理石を使った宮殿に住んでいたルルーシュからすればそれまでの自分の常識がひっくり返されるほどの衝撃を受けた。
休憩中には、ナナリーがルルーシュに、家の様子や、家の中に何があるかなどを聞き、ルルーシュがそれを詳しくナナリーに伝えていく。2人のやりとりを見ていたゲンブは、微笑ましいものでも見たかのように笑ったあと、何かを耐えるような悲痛な顔をして、「君たちの住む場所へ案内しよう」といった。ルルーシュはナナリーをおぶさると、ゲンブの後をついていった。
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「…すまないね。この日本には、君たちブリタニア人のことを良く思ってない者がたくさんいるんだ。その者たちを納得させるために、君たちにはここに住んでもらうほかなかった」
そういってゲンブがルルーシュたちを連れてきたのは、土倉の前だった。相当年季が入っているのだろう。しかし、中は意外にも綺麗で、ルルーシュは驚いたが、「流石に、皇族の方を埃まみれの場所に住ませておくわけにはいかないよ」と言って、その場を立ち去った。
「お兄さま、私たちが今から住むのはどんな場所なんですか?」
「素敵なところだよ。さっき見た枢木の本家に負けないくらい立派だね」
ルルーシュは、例え嘘をつくことになっても、ナナリーを悲しませることなどできなかった。しかし、そんなルルーシュの考えをぶち壊すかのように、大きな声が響いた。
「お前ら、ブリタニア人だな!僕の基地で何してるんだ!」
それは、ルルーシュと年齢が変わらないように見える少年だった。栗色の髪は風を受けてなびいており、育ちがいいことを思い浮かべさせる。さらにルルーシュは、そこに先ほど見た枢木ゲンブの面影があるのを感じ取った。
「枢木ゲンブの息子、枢木スザクだな?」
「そうだ!」
「ここが貴様の基地だと?」
「そうだ!ここは僕の基地なんだ!それに、本家の作りと変わらないなんて、馬鹿にしてるのか!?」
「…ッ。貴様!言わせておけば!」
ルルーシュは怒っていた。この日本に来ることが決まった時から、ずっと怒りをその内面に孕んでいた。しかし、我慢してきた。自分は外交のための道具なのだと。それも、限界だった。そして何より、ナナリーを悲しませるような真似をしたこの少年「枢木スザク」を許しておけはしなかった。
ルルーシュはスザクに飛びかかった。ルルーシュには勝てると言う自信があった。なぜなら、いきなりこちらに絡んできた蛮人に負けるはずなどないと思ったからだ。しかし、その思い込みはすぐに幻想となった。
ルルーシュが飛びかかってくると、スザクはその身体を捻ってルルーシュを交わし、地面に転がったルルーシュの上に馬乗りになると、その顔目掛けて拳を振り抜いた。「バシッ!」という大きな音が1度響いた。もう1度殴ろうと、スザクが拳を振り上げた瞬間、その場所に悲痛な声が鳴り響いた。
「もうやめてください!」
スザクは、驚いて拳を途中で止めた。ルルーシュもまた、殴られた痛みなど無いように、驚いた顔をしてナナリーの方を向いた。
「私たちは、枢木首相にこの場所に住むようにと言われたんです!あなたの居場所を奪ってしまうのは申し訳なく思っています!しかし、私たちも生きるために必死なのです!どうか、ここは引いて頂けませんか!?」
ルルーシュはさらに驚いた。今までナナリーが大声で何かを懇願する様子など見たことがなかった。まして、目と足が不自由になってから、内向的な性格になってしまい、以前のような活発な言動も鳴りを潜めていたため、驚くのは当然のことだった。
それは、スザクも同じようであったが、その驚きのベクトルはルルーシュとは違っていた。
「君…目が?それに足も…」
スザクが驚いたのは、ナナリーの姿だった。閉じた目、そして身じろぎひとつしない足。スザクは、その様子に同情を覚えた。
「ッ!…今日は、もう帰る」
そう言って、スザクは家のある方へと足を進めていった。その足取りは重さを感じさせるものであった。
2人の出会いは、互いに傷跡を残す、最悪のものとなったのだった。
枢木首相はキャラ付けが難しかったです。この話自体、アニメでも詳しく語られているわけではないので、私のイメージによるものとなっています。違和感などを感じましたら、遠慮なく感想にて指摘してください。
追記
感想にてご指摘頂いたため、ルルーシュの体力について考慮し、最初の方に、ルルーシュがこまめに休憩を入れる描写を加筆いたしました。みなさんのおかげでこの作品は成り立っています。これからもご愛読よろしくお願いします。