「お前は一体、俺に何をして欲しかったんだ…?こんな変な力まで与えて…」
ルルーシュは、モノ言わなくなった女の身体を見つめながらそう呟いた。先程は確かにルルーシュの手首に触れたはずなのだが、その肉体は力無く床に寝そべり、とても生者のモノとは言えない様子であった。ルルーシュがそうして女を見つめていると、ルルーシュの背後にある倉庫の入り口から大きな音がして、ルルーシュは後ろへ振り返った。そこにあったのはブリタニア軍のKMF「サザーランド」であった。
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サザーランドのパイロットである軍属の女性「ヴィレッタ・ヌゥ」は、目の前の光景に驚きを隠せないでいた。クロヴィス第3皇子の命令で、新宿ゲットーをKMFで駆けていたヴィレッタだったが、親衛隊からの信号を受け取りこの場所に来たのだった。
しかし、信号を発した肝心の親衛隊は血の海に沈んでおり、その中心部には、学生と思わしきブリタニア人の少年が1人立っているだけであった。
(親衛隊が…!ここで一体何が?)
ヴィレッタは、目の前の学生が何か知っているはずだ。そう思い目の前の学生-ルルーシュに向かって話しかけるのだった。
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「貴様、ブリタニア人の学生だな?一体ここで何があった!答えろ!答えなければ…」
そう言ってKMFから発射された弾丸は、ルルーシュの背後の壁に風穴を開けた。ルルーシュはそれを受けても舌打ち1つで済ませると、KMFに乗るヴィレッタに向けて、先程と同じ能力を行使しようとした。
「そこから降りろ」
「貴様…何様のつもりだ?」
しかし、結果は先程のようには行かず、ヴィレッタは警戒心を強めた。
(ふむ…やはり直接見なければ効力を発揮することはできないか)
ルルーシュは心の中でそう結論づけると、続けてこんな嘘を吐いた。
「私は、アラン・スペンサー。父は侯爵だ。内ポケットにIDカードが入っている。確認の後、保護してもらいたい」
ヴィレッタも、相手が侯爵だと言われればその真偽を確かめるほかない。まして、爵位を欲して騎士になろうとしているヴィレッタにとって、たとえほんの少しでもその可能性があるのなら、自分の手で確認しなければ出世への道を断たれることになりかねない。そう思い、ヴィレッタは直接確認することにした。
ヴィレッタは外に出ると、銃をルルーシュは構えながら、ゆっくりとルルーシュに近づいていく。ルルーシュは、その瞬間を待っていた。
「手は上げたままでいろ。IDは私が確認する」
そう言いながら近づいてきたヴィレッタに対し、ルルーシュは再び能力を行使する。
「よこせ!お前のナイトメアを!」
ルルーシュがヴィレッタにそう言った瞬間、ヴィレッタは手に持っていた自身の機体の認証キーをルルーシュに投げ渡すと、その機体のパスワードを言った。ルルーシュは顔を歪めると、「ありがとう」と言って、ヴィレッタが乗っていたサザーランドに乗り込むのだった。
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スザクが意識を取り戻したとき、そこは意識を失うまでいた地下道ではなく、どこかのベットの上だった。目の前には見慣れない、白衣の男性と軍の制服を着こなす女性がいた。
「あの…ここは…?」
「ん?あぁ、まだ新宿ゲットーだよ」
「ここは救護車。クロヴィス殿下の居る本陣の中にあるから、この戦場で最も安全な場所といってもいいわ」
その後、女性が何かを手に持ってスザクの前に差し出した。
「スザク君、これが君を守ったのよ」
「スーツ内での跳弾を防いだだけなんだけどね。何か大切なものなのかい?」
女性の手の上にあったのは、銀の懐中時計だった。表面のガラスはひび割れていて、長針と短針も止まってしまっていた。もう2度と時を刻むことはないだろう。
スザクは、白衣の男性の言葉を遮った。そして、ルルーシュのことを聞こうとしたが、思い留まり、現在の状況を聞いた。
「あの、ルルー…。現在の状況はどうなりましたか?」
「カプセルが爆発して、毒ガスが撒き散らされたみたいだよ。イレブンにも大量に被害が出たみたい」
「犯人はまだ捜索中だそうよ」
「そうですか…」
スザクはそう言ったが、内心では複雑な心境を抱えていた。毒ガスだと聞かされていた球体の中には、拘束服を着せられた女性が入っていた。一緒にいたルルーシュの安否も気になる。延々と続く思考を遮ったのは、白衣の男性の言葉だった。
「枢木一等兵。君、KMFの騎乗経験は?」
「はっ?イレブン出身者は騎士にはなれませんが…」
「なる方法があると言ったら、どうする?」
白衣の男性の手に握られていたのは、KMFの認証キーだった。
「おめでとう!世界でたった1つのナイトメアが君を待っている。なれば変わるよ。君も、君の世界も」
「望もうと、望むまいとね…」
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「ブリタニアめ…!よくも!」
「カレン!グラスゴーはまだ動くか!?」
「大丈夫!私が囮になるから、扇さんたちは市民のみんなの救助を!捕まるのは私たちレジスタンスだけで!」
現在新宿ゲットーでは、テロリストの殲滅作業が行われていた。その過程で民間人も殺されており、グラスゴーに乗る「カレン」と呼ばれたレジスタンスの少女は、怒りに身を任せてブリタニア軍を攻撃するのだった。
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ルルーシュは、先程ヴィレッタから奪ったサザーランドのコクピット内で電話をかけていた。
「あっ、もしもし?ルル?やっと繋がった!今どこで何してるの!?」
電話の相手は「シャーリー」と言って、ルルーシュと同じ学園に通う女子生徒だった。ルルーシュはシャーリーの言葉を無視すると、近くに情報を発信するものがないか尋ねた。
「シャーリー。近くにテレビはあるか?なければラジオでもいい」
「ちょっと待ってね。ごめん、これ貸して!」
シャーリーは更衣室でテレビを見ながら着替えをしていた友人からテレビを借りると、ルルーシュに次の指示を仰いだ。
「それで?何すればいいの?」
「ニュースを見てくれ。新宿付近で何か情報はないか?」
「交通規制がかかってるぐらいで、他には特に何も無いみたい…。それよりルル?また賭け事でもやってるんじゃ無いでしょうね!」
「そうか、ありがとう。悪い、シャーリー。妹に伝えておいてくれ。今日は帰りが遅くなるって」
シャーリーのお説教が始まりそうなのを遮って、ルルーシュはシャーリーとの電話を切った。
ー
ルルーシュは、サザーランドのスクリーンに周辺の地図を映すと、先程シャーリーから聞いた情報を元に、戦場について考えていた。
(情報がおおっぴらに公開されている以上、援軍は来ないだろう。つまり、盤上の駒はこれだけか…)
先程見つけたチェスの駒をいじりながら、ルルーシュは考えた。
(この包囲網の中を1人で突破するのは難しい。かと言って、助けを求めたところで帰って危険だ…)
ルルーシュは1度コクピットから出ると、銃声の響く空の下で決意を露わにした。
「俺を巻き込んだ責任…必ず取ってもらうぞ」
ー
カレンは今、2機のサザーランドに追われていた。カレンのグラスゴーは左腕が破壊されてしまっていたし、相手も相当の手練れだったため、防戦一方となってしまっていた。このままでは負けてしまう。そう思っていたカレンの元に一本の無線連絡が届いた。カレンのグラスゴーの無線は回線が秘匿されているため、一般使用することのできないものだった。カレンはその声を警戒した。
「西口だ!線路を利用して西口に向かえ!」
「誰!?一体どうやってこのコードを!」
「誰でもいい!勝ちたければ私に従え!」
「勝つ…!?」
謎の声の"勝つ"という言葉に、このままではどうにもならないことを知ったカレンは、その声に従い、線路へと機体の進路を変えた。
「全く、逃げるだけでは狩りにならんだろう」
カレンを追う2機のサザーランド。そのうちの1機に乗るジェレミアは、そう言って余裕の笑みを浮かべた。
ー
線路を利用し、西口に向かうカレン。その後ろからは2機のサザーランドが迫っていた。絶体絶命だとカレンが諦めかけたその時、無線から先程の声が流れた。
「列車に飛び移れ!」
「分かった!」
声に従い、カレンは対面から走ってくる電車の上に飛び乗り、そのまま真っ直ぐ進んでいった。2機のサザーランドは反応が遅れてしまったのかそのまま列車に衝突したが、ジェレミアの乗る機体が列車を止めると、もう1人に指示を出した。
「お前はあのグラスゴーを追え。私はここから奴を狙う」
「分かりました」
そういって、サザーランドが列車の陰から飛び出した瞬間、それは銃撃に晒されて、一瞬のうちに破壊されてしまった。
「何!?」
ジェレミアはすぐに線路から降りると、柱の陰に身を隠して射線の方向を見た。ジェレミアの視線の先には、崩れた廃ビルがあり、そこにはブリタニア軍のサザーランドがあった。
「バカな!狙うべきはあの片腕のグラスゴーだろう!?」
ジェレミアは混乱したが、自身の方へ向かってくるグラスゴーを確認すると、一時撤退を選んだのか、そのまま軍の本部がある方向へと姿をくらました。
「ありがとうございます!」
そう言って、カレンがジェレミアと同じ場所を見ると、そこにはすでにサザーランドの姿はなかった。
カレンが困惑していると、外から仲間の声が聞こえた。
「カレン、無事か!?」
「ええ!扇さんたちもあの指示を?」
「あぁ、それでこの場所に来るように言われたんだが…」
カレンと、仲間たちのリーダーである「扇」が話していると、無線からまた声が聞こえた。
「来たか…列車のコンテナを開けろ!それを使って勝ちたくば、これより我が指示に従え!」
テロリストたちがコンテナを開けると、そこにあったのは大量のサザーランドだった。扇は仲間たちに謎の声に従うように言うと、次の指示を求めたのだった。
ー
「ふぅ、意外と疲れるな…」
先程までテロリストたちに指示を出していたのはルルーシュだった。ルルーシュは、黒のキングをその手で持ちながら、冷や汗を1つ流した。
「しかし、やりとげる決意は必要だ。これは、命を賭けた"ゲーム"なのだから…」
ルルーシュの顔には、微かではあるが、確かに笑みが浮かんでいた。