「……」
サーヴァントを召喚してより小一時間後。ウェイバー・ベルベットは、冬木市の大図書館前で、防護フェンス越しにシャッターに閉ざされた入り口を注視していた。
直後、鉄筋コンクリートも同然のシャッターに、殴り付けられた痕跡が五度に亘って付けられる。
打ち破られたシャッターを越えて、燃え盛る赤髪の巨躯サーヴァントが 現れる。
その膨大さに漠然とする中で……ウェイバーは己がサーヴァントが公共施設を破壊した事実に切歯するや、怒号を飛ばした。
「お、お前!なにシャッター蹴破って出てきてんだよ!!」
「何を怖じけておる、見苦しい。まるで盗人のようではないか」
「盗人じゃなくて、何なんだよお前!?」
だが巨躯のサーヴァントは憮然した様子で拳を頭に当て付け、慌てるウェイバーに言い放つ。
「断じて違う。闇に紛れて逃げ去るのならば匹夫の夜盗。凱歌とともに立ち去るのならば、それは征服王の略奪だ」
まるで釈然としないライダーを退散させるべく、ウェイバーはライダーの手元の『イリアス』と『世界地図資料集』の二冊を奪い取る。
元より、ここへは本を手に入れるという名目で来ただけであって、器物破損をしに来たわけでない。
ウェイバーが荷物運びを率先して申し出たと思ったライダーは、凄烈な笑みで応じる。
「さぁこれで良いだろ!?さぁ消えろ、今すぐ消えろ!!」
「うむ。では、荷運びは任せたぞ」
そうして霊体化したライダーから視線を外し、ウェイバーは眉間に皺を刻み付けて吼える。
「どうしてこうなるんだよッーーーー!!」
■■■
召喚された直後に、ウェイバーは落胆の念を隠しきれずにいた。
何せ召喚されたサーヴァントが、伝承そのままの矮躯で現れたからだ。
征服王イスカンダルーーーーまたの名をアレキサンドロス大王。数多の偉業を成し遂げた王として讃歌される彼を、ウェイバーは過大評価していたのかもしれない。
それほどの偉業を成し遂げたのならば、伝承の言い伝えは何かの間違いであるとーーーーそう信じて疑わなかったばかりに、想像だにしない矮躯が眼前の極光より躍り出た際には、当惑するより他になかった。
「お前……なんでそんなにちっこいんだ?」
「召喚された瞬間に言う言葉がそれかい、マスター?……まぁ、現代に伝えられた僕の伝承って、この通りの姿なんだろう?」
口を衝いて出た疑念に対し、全く威厳も糞もない飄々とした少年の様子で答える。
「そうだけど……必ずしもそういう訳じゃないだろ!?言葉の違いとかで語弊が生じることが少なくともあるだろうし……!」
「まぁ、そんなに落胆する必要はないよ、マスター。それに、僕は一時的に成長した姿に戻れるからさ」
そう言って内側から魔力を放出したライダーは、まるで姿の違う大男へと変貌した。
そのむくつけき体臭も、盛り上がった筋肉も……ウェイバーが最も毛嫌いする種の人間と酷似していた。
「……とまぁこんなところだ。欠点として、この状態の余はかなりの魔力を持っていくし、また一度なってしまっては、何時間か経たなければ戻れん」
「それって……諸刃の剣のようなものか?」
「そりゃあまぁ……そうだわな。余はサーヴァントとして生粋の魂喰いだ。こういった欠点が備え付けられるのも頷ける話ではある」
顎に手を添えて考えるライダーが、不意にウェイバーへと訊ねる。
「そういえば、貴様は聖杯に何を望む?」
「なにを……?」
「そうだ。貴様がこの世界を征服せんとするのならば、余と貴様はライバルということになる。
……覇王は二人と要らんからな」
途端に気迫を増した表情に、ウェイバーは気圧される。
だが、自分はこのライダーのマスター。力量の差がどうであれ、現界に要する魔力を供給しているのは他でもないウェイバーである。立場上の関係は、明らかにウェイバーが勝る。
「僕はそんな低俗なことに興味はない。ーーーー僕は、偏に評価だけだ。
僕をまるで空気とした時計塔の連中に、考えを改めるさせることだーーーー」
「小さいわ!」
そう理想を述べたウェイバーの頬を、ライダーは加減して叩き付ける。
だが如何に加減せよ、サーヴァントたるライダーの平手は圧巻の威力であった。数メートル先の草影まで飛ばされたウェイバーは、鈍痛が走る右頬を押さえつつもライダーを見やる。
「小さい、狭い!聖杯に託す願いが己の沽券を示すためだけなどと……全くもって阿保らしい!
……そうまでして己の存在を知らしめたいのであれば、貴様はあと二十センチ背を伸ばすよう聖杯に願え」
そうしてウェイバーを持ち上げたライダーは、ウェイバーの服に着いた埃を払い退け、ウェイバーを傍らに立たせる。
「余の実力は開戦すれば直ぐに分かる。それまでに、貴様は他のサーヴァントの居場所でも突き止めてみせろ。それまでは……うむ、本でも読んで武陵の慰めとするが、良いな?」
「……あぁ」
この数舜で触れた征服王の威厳に圧倒され、ウェイバーはその提言を首肯する。
ともあれ、征服王イスカンダルと自分のではまったくの真逆であるとーーーーウェイバーは先を思いやっていた。