夜気を切って疾駆したバーサーカーの眼前で、紅槍が踊る。何の飾りもない紅槍の刺突は、然したる弊害になりうるものではない。
バーサーカーは紅槍の切っ先を、邪剣の刀身中腹で払い返すや、その返し刃の振り下ろしでランサーの頭上を攻める。
だがランサーは、もう一方の黄槍でそれを払い退け、間断なく紅槍を振り払う。
横一線の凪ぎを後方背転で飛び退いたバーサーカーは、立て続けに空を斬った風切音に目をすがめた。
振り払うと同時に、バーサーカーの眼前にまで突き出された先程の黄槍が、バーサーカーの首元を貫抜く。
しかしながら、バーサーカーは剣柄で槍の刺突を相殺し、直ちにランサーの間合いより外れる。
(なるほど……あの短槍と長槍、射程の違いが面倒ですね)
闘争本能が真っ先に、ランサーの評価を上げる。たかだか数舜の間とは言えど……間隙を突く目敏さに加え、所見の武器にも拘わらずに間合いを完全に把握しきっている。
ランサーの座がこれほどの者だと、他の五騎にも不安が募る。
だが果たして、驚愕と感嘆はランサーも同様であった。
バーサーカーの剣筋は単調ではあった。
が、その何れもが重すぎる。打ち所が悪ければ致命傷、そも、先程のランサーの三撃は確実に、必中かつ必滅を期したものであった。
「フッ……女だてらに中々手応えのある奴よ」
「それは此方の台詞です。……まったく面倒な」
揶揄の言葉を投げ合いながら、両者は摺り足で間合いを図る。
ランサーは中近ともに対応した柔軟でありながら、バーサーカーの確実な一手を殺していた。
バーサーカーは遠距離にこそ弱いものの、近距離に於いては敗北を知らない。
つまるところ、近距離かつ間断のない多段の隙を作れば、バーサーカーの勝利は確定する。
ーーーーと、不意にランサーが、何の脈絡もなしに体勢を崩した。
よもや、足場に何らかの極些細な支障があることを見逃していたのだろうか。
バーサーカーはその一瞬を見咎めるや、コンクリートを砂利同然に踏み鳴らし、ランサーの眼前に躍り出る。
袈裟懸けの振り下ろしが、ランサーの胴体を確実に切り開く……その手応えを確信していたバーサーカーは、たちどころに驚愕を味わわされた。
「ーーーー!?」
ランサーは先ず右手の短槍を捨て去るや、空いた右手と左手を載せた長槍で、バーサーカーの剣筋を僅かに逸らす。
それだけに留まらず、必滅の手を防がれたと判じて退いたバーサーカーの足元。先程転がした短槍を蹴り上げた。
当惑する隙もあらば、バーサーカーはランサーの意図を直感で察し取る。
何らかの呪詛札が剥がれた短槍は、ランサーの右手に納められるやーーーー退いたバーサーカーの手元を掠める。
「ーーーーっ」
「……そう易々と取らせてはくれないか」
槍が掠め去った傷痕を鑑みながら、バーサーカーは跳びずさる。
アイリスフィールの治癒によって癒されてはいるものの……と、バーサーカーはここで異変に気付く。
「アイリスフィール、この傷は癒せませんか?」
「……治癒をかけても、全然だめなのよ!その状態でバーサーカーは最善になっていることにされているわ!」
バーサーカーは切歯しながらも、邪剣を構える。幸いにも然したる支障はないが、あと数ミリでも切っ先を外させなければ、腱を切り開かれていた。
「厄介な宝具ですね。……その様子だと、そちらの紅いのも厄介そうですけど」
「フッ。俺の
攻めの好機を掴んだランサーは、悠然とした足取りでバーサーカーとの距離を詰める。
近距離戦はバーサーカーの方が有利ではあるが、あの黄槍にこれ以上の傷を付けられることは避けなければならない。
故にーーーーと起動しかけた宝具を、バーサーカーは余儀なく停滞される。
「「っ!?」」
衝撃は皆等しく同じであった。
耳を聾する轟音の正体は頭上。位置は南東方向の冬木大橋から。
轟く雷鳴と、空気を踏み鳴らす蹄の怪音。その直中に在る戦車に乗り込む二人組……それは正しく、監視を決め込んだライダー陣営であった。
「双方、武器を収めよ。王の御前であるぞ!」
威勢よく地に車輪を着いたライダーは、両腕をあらん限りに広げ、自分を除く集う英霊四騎に呼び掛けた。
「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせな訳だが……一つ、余の軍門に下る気はないか!?」
「……ライダーアァアァーー!」
そう場の厳粛さを考えぬ胴間声が、一同の反感を受けるのだった。