Fate/Zero:IF   作:フリーズ

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第14話

 

「舞弥、新手のサーヴァント……恐らくはセイバーだが、そこからマスターは見えるか?」

「いえ、こちらは依然として、ランサーのマスターしか」

「了解だ。僕の方でセイバーのマスターを探す」

 

二脚架を閉じ、切嗣はワルサー狙撃銃を巡らせる。

だが、眼下には五騎のサーヴァント、そして十二時方向のデリッククレーンの上部に一騎が居座るだけで、肝心のマスターは見当たらない。

 

アーチャーは単独行動スキルを有するとなる以上、マスターが居ないのも頷ける。

ライダーのマスターは、あの戦車に乗り込んだままにサーヴァントから離れる素振りを見せない。

ランサーのマスターは……熱探知スコープのみに捉えられる隠蔽を行って佇立。

ならば、突如として上空から降り立ったあのセイバーのマスターは?

 

(最優のクラスかつ騎士道精神に則る以上、マスターも戦線に連れ出すものと踏んでいたが……まさか、単独で現れたというのか?)

 

切嗣は困惑しつつも、抜かりなくセイバーと……鉄柱の上に君臨したアーチャーを警戒する。

三大騎士クラスが揃った以上、バーサーカーたる此方は不利と思いがちだが、此方が召喚した英霊がアルトリアだという事を思い出し、切嗣はアイリスフィールの護衛を一任していた。

 

特に、飛行宝具で戦線に加わったあのライダー。

名をイスカンダルと嘯いていたが……それが本当であれば、この場の誰にも、あの漢を止めることは敵わないかもしれない。

だがそれは、他でもないバーサーカーが最もよく理解している。

 

張り詰めた闘気の中ーーーー果たして、最初に動きを見せたのは意外にもアーチャーだった。

尤も、あまり誉められた動機ではないが。

 

「……誰の許可を得てこの我を見る?」

 

アーチャーが、たった五秒間の注視をしたセイバーに、傲岸に嘯く。

だがセイバーは動じることなく、明らかな敵意を感じ取るや、聖剣の切っ先をアーチャーに向けた。

 

「せめて散り様で我を興じさせよ……雑種」

 

アーチャーの首が傾ぐと同時に、その端整にすぎる顔の両側面より宝剣と宝挺が一挺ずつ射出される。

その様相に、誰もが驚愕となる。

だが果たして、一同はたちどころに二度目の驚愕を味わわされた。

 

「ーーーー奴め。なんと達者な武芸を……!」

「あれでセイバークラスか……略奪クラスの間違いではないか?」

 

慄然とするランサーと、軽口を叩きながらも舞い上がった粉塵の中を見据えるライダー。

バーサーカーは変わらずの能面ではあるものの、その籠手には僅かながらの驚嘆がありありと窺える。

 

「な、なんだ……やられたのか?」

「なんだ坊主。解らんかったのか?」

 

憮然とするウェイバーへ、ライダーは凄烈な笑みを浮かべつつ先の数舜を、己がマスターに語る。

 

「奴は両手で携えていた聖剣を右手に持ち変え、第一投の宝挺を身を捻って躱すや、それを掴み取る。

そして、右手の聖剣で第二投の宝挺を打ち落としたのだ」

 

ライダーの語ったそれに、何の語弊もない。

そして、その事実を歯痒く睥睨するアーチャーは、言わずもがな。

 

「その穢らわしい手で我が宝物に触れるとは……そこまで死に急ぐか、狗ッ!」

 

憤怒も露に怒号するアーチャーは、誰彼の見境もなしに背面に更なる"王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)"を展開し、その流動する黄金からそれぞれ状のまるで違う宝具を解錠する。

その夥しき数の宝具の切っ先を見据え、セイバーは不適に笑う。

 

「その手癖の悪さで以てどこまで凌ぎきれるか……さぁ、見せてみよ!」

 

それぞれが異なる速度で射出される至上の宝具は、だがどう軌道を変更して襲い掛かるわけでもなく、単調に正面から肉薄していく。

……その無作為さこそが、或いは敗因となったのかもしれない。

 

セイバーは第一撃を袈裟懸けに打ち落とし、第二撃を返し刃の振り上げで、先程の宝剣ともどもに粉砕。

第三撃の宝刀は動きを縫って柄を掴み、続く六度の射出をすべて凌ぎきった。

にも留まらず、セイバーは九撃目の宝挺の軌道を僅かに逸らし、左手に携えていた宝刀ごと、電灯の上に立つアーチャーに振り投げた。

 

電灯の上を退きざるを得なくなったアーチャーは、憤怒の形相でセイバーを見据えながらも、三分割された電灯の前方に飛び降りた。

 

「天に仰ぎ見るべきこの我を、同じ大地に立たせるか!その不敬は万死に値する!

そこな雑種よ、最早肉片一つも残さんぞ!」

 

アーチャーはなおも憤慨を高め、倍以上の"王の財宝"を展開する。

総数にして三十六は下らない宝具の群れに、だがセイバーは怖じることはなかった。

 

「アーチャー。お前の敗因は三つある」

 

無数の金循環が瞬いた直後、セイバーは凄烈な笑みとともに語りかける。

そしてセイバーは、彼我の距離約十メートルを、悠然とした足取りで歩む。

 

その歩みを阻まんと軍を成して接近する宝具を、セイバーはさながら演舞を舞うかのように身を捻らせ、悉く相殺していく。

痺れを切らしたアーチャーが、セイバーを取り囲む円環を、二十の王の財宝で組み上げた。

 

間断なく放たれたが故に、直下型地震が訪れたかのような轟音と破壊の爪痕。

その中心部にセイバーはいなく……淀みない足取りで、アーチャーの眼前に詰め寄っていた。

 

「なっーーーー!?」

「一つ、お前はそこらの英霊と格が違うと言ったな。……だが、お前にとっての天敵が私だったようだ。生憎と、生前の逸話で偽装が得意手でね。御自慢の宝具の持ち主を一時的に私に偽装させて、主導権を握らせて貰った」

 

距離の差はほぼゼロ。セイバーが聖剣を振り抜くより先んじて"王の財宝"を射出することは、不可能に近い。

 

「二つ、お前はあまりにも慢心しすぎた。みたところ……お前はまだ宝具を隠し持っているのだろう?それを解き放たないのは、真名を隠すためではなく、ただ使うに値しないと……傲岸不遜な考えだからだ」

 

セイバーの聖剣が極光を放つ中で、アーチャーの背面及びセイバーの頭上、側面にも、爛々と"王の財宝"が展開される。

 

「三つ……お前は、今この瞬間でさえも、私を侮っている」

 

ーーーーそう、アーチャーは未だに、自らの敗北を考えていなかった。

アーチャーが身を防護せんと着衣している鎧は、たかだか英霊の宝具ごときで貫けるほどの業物ではない

。真名解放した宝具であれば可能性はあるが……よもや、アーチャーを含めた取り巻き五騎の前で、徒らに宝具を解放する筈があるまい。

 

確固たる予測が故に慢心するアーチャーは、だがその予測が外れることに気が付かなかった。ーーーー否、気付く由もなかったのだ。

何せ、早々に論外と切り捨てていたのだから。

 

「何!?」

「私が、真名を予測されまいと宝具を隠すと思ったか?

……残念だったな」

 

セイバーの宝具が放つ輝きの真価が、先の間桐邸での魔力反応を彷彿とさせる。

誰もが気付き、誰もがそうではあるまいと切り捨てた可能性たる、早期の真名解放。

セイバーは、その愚行を一夜の内に、二度も行使した。

 

「最果てに至れ。限界を越えよ……彼方の王よ。この光を御覧あれーーーーー!」

 

慢心の色が失せたアーチャーの瞳に、焦燥と驚愕が色濃く写る。

しかしながら、セイバーの切っ先が届くより先に、何の脈絡もなしに慄然とするアーチャーの随意を奪う者がいた。

 

 

「英雄王!どうか我が元に!」

「ーーーー!」

 

遠方の遠坂邸にて、アサシンの眼と同調して監視していた綺礼の助言を受けた時臣が、宝具発動の紙一重で令呪による強制瞬間転移を果たしていた。

驚愕のままに退場したアーチャーを見咎めるや、セイバーは宝具を中断する。

 

「……なるほど、令呪とやらの強制転移の魔術か。つくづく、この聖杯戦争には騎士道がないらしい」

 

冷静かつ当然の判断を下したアーチャーのマスターに、だが侮蔑も露に吐き捨てる。

雁夜からの頼み事……アーチャーの消滅は果たせなかったものの、初戦にしてはまずまずだろうとーーーーそう安堵しかけたセイバーに、邪剣の切っ先が肉薄した。

 

「なっーーーー」

 

寸でのところで刀身を引き戻し、セイバーは危うく難を逃れる。

 

「……何故でしょう、あなたを見ると腹が立ちますね」

「ーーーー当然の摂理でしょう。私は……貴方の」

 

そう言い掛けたセイバーに、再度、バーサーカーは逆袈裟に切り上げる。

 

「私は……貴方への謝罪をーーーー!」

「知らないです。早く死んでください」

 

弁明を述べ上げるセイバーなど意に介さず、バーサーカーは間断なく斬り迫る。

その不可解な様を熱探知スコープ越しに見据えながら、切嗣は口元を歪めていた。

 

 

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