唐突に現れ、唐突に消え去ったアーチャーの桁違いさにも驚かされたが……ランサーのマスターたるケイネスにとっての番狂わせは、セイバーと思わしき剣使いが二人現れたことだった。
当初は、黒騎士がセイバーたる者と確信していたがーーーー後手に姿を見せたあの白騎士。身なりといい振る舞いといい、完璧な騎士そのものであった。
……が、相手の武具を無理矢理に自らの宝具にするともなれば、それはセイバーの座に見合う英霊か。
ともすれば、黒騎士の正統派な剣筋こそが、セイバーたる者の証なのではないか。
ーーーーと、真象に悩まされるケイネスを我に返らせたのは、先程から傍観を決め込んでいるライダー……その傍らで怖じ気ながらも三騎のサーヴァントを見据えるマスターであった。
「……そうか、君か。一体なんの意図があって私の聖遺物を盗み出したのかと思えばーーーーまさか、君自らが聖杯戦争に出る腹だったとはね」
こと内側への怒りならば抑えの効かなくなるケイネスではあるが、こと外側への怒りともあらば、時間を掛けてゆっくりと済ます。
その性格が表立ってしまったのか、ケイネスは侮蔑も露に眼下のウェイバーへと語りかける。
「ウェイバー・ベルベット君。
君には特別に課外授業をしてあげようじゃないか。魔術師同士が殺し合う、真の恐怖をね」
「ーーーー!?」
声の主たるケイネスの姿は見えないものの、ウェイバーはその声質を憶えている。
もう二度と聞くまいと、聖遺物すらも盗んでやった者の声。だが、これは好機でもあった。
ウェイバーは、次にケイネスを見た時に、挑発をしてやろうとも躍起立っていた筈だ。
……しかしながら、それが土壇場で言い出せない。
何を怖じる必要があるのかと自らに問うても、その答はまるで見当たらない。
そんなウェイバーを見かねたのか、はたまたケイネスの侮蔑に気を悪くしたのか、ライダーはウェイバーの肩に手を乗せ、不敵に笑う。
「おう魔術師よ!……聞けば貴様が余の主となる者だったらしいが、そうだとしたら片腹痛いのぉ。余のマスターたる者は、余と共に戦場へ赴く者でなければならぬ!
さらに言えばーーーー余は顕現してまだ短い付き合いでしかないが、この坊主はこと略奪に関しては、まるで恥じぬことをせんと見える。ならば!貴様から聖遺物を盗み取ったのは見当違いだ。それはこの坊主の、紛れもない"略奪"である!」
鍔迫り合いの剣戟音が響き、冷たい夜気が頬をなぜる倉庫街にて、ライダーの遠慮のない胴間声がケイネスへと挑発を飛ばす。
その傍らのウェイバーは……喧嘩を売る相手への畏怖とライダーからの評価による感激で、板挟みされている。
「そこまでにして貰おうか、ライダー。それより先は我が主への侮辱だ」
「ーーーー何を言うか。貴様のマスターが先に余のマスターを侮辱したのだ。
それとも何だ?貴様は、先の戦いに昂らされた余の闘争心を沈めると?」
なおも挑発を続けるライダーを、冷徹にランサーが言い咎める。が、ライダーは依然として凄烈なる闘気を充填させて、ランサーへと訊ねる。
「望むところだ。……あの黒騎士の宣誓より先にお前を倒すことになるのは些か癪ではあるがーーーー我が主を侮辱した罪、存分に償うがいいさ」
「フフン。では……存分に殺し合おうぞ!」
ウェイバーの意など汲み取らず、ライダーは自らの意思に従って、ランサーとの闘争に心踊らせる。
片やランサーは……脳内に介入したマスターの指示通り、ライダーの意識を自分に持っていく。
周到に間合いを図る素振りをしつつも、摺り足で主の着地地点よりライダーを離す。
そして、沿岸部にほと近き防護フェンスに背を阻まれたときーーーーランサーは、意を決して踏み込んだ。
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ランサーが現段階の最脅威たるライダーを引き離すことにより、ケイネスは易々と戦線に加わった。
そして、眼前に驚愕の表情でケイネスを見据える者ーーーーアイリスフィールへ、凛然かつ静かに一礼する。
「先ずはお初にお目にかかる。アインツベルンの魔術師よ。私の名はーーーー」
「ケイネス・アーチボルト……私が、何も聖杯戦争の情報を知らないとでも?」
「ほぅ。話のわかる者は嫌いではないよ。……尤も、君は今から死ぬことになるのだけどね」
飄々と死の宣告をするケイネスへと、だがアイリスフィールは余裕の笑みを取り戻す。
「残念ね。生憎と……私は強いわよ?」
「見え透いた嘘だーーーー魔術兵装も持たぬ魔術師など、恐れるに足らぬ
アイリスフィールの言葉を一蹴し、ケイネスは胸ポケットより一つの試験管を取り出す。その内部に納められていた銀色の流動体は、銀の筋となってケイネスの傍らに降り落ちるや、弾性の強い球体に変貌する。
「魔術師同士の戦いというもの……その身に刻み込んでやろう」
「返り討ちにならないことね。……シャープ・イスト・レイブン!」
ケイネスの球体を視認するや、アイリスフィールは呪詛により急仕立ての、即席錬金体を生成する。
美しき銀鳥と、凶悪無比の水銀球を注視しながらも、マスター同士の聖杯戦争の幕が、斬って落とされた。