Fate/Zero:IF   作:フリーズ

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第16話

 

 

 

 

 

 水銀の大雫。——に食らいかかろうとアイリの即席錬金術(シャープ・イスト・レイヴン)

 

 勝手知ったる様相のまま、殺意マシマシに邪剣で斬りかかる凶戦士。相手方は苦衷(くちゅう)そうに顔を歪めるばかりか、剣の勢いは秒刻みに衰えていく。

 

 さて、バーサーカー陣営は切った張ったの大勝負に持ちかけたワケだ。肝心のマスターすら()っぽって私情に暮れるのは考えものだが……

 

「この状況を、どう見ますか」

「……援助をしたいものだ。が、デリッククレーンの上。あの勝手者が物見遊山(ものみゆさん)を決めているのかどうか、判断がつかない以上は下手に動けない」

苛烈(かれつ)に攻め続けるバーサーカー。勢いを失ったセイバー。豪胆さを売りにするようなライダー。そして、真名をうかがわせぬランサーと、退散したアーチャー。

 残るサーヴァントはアサシンとキャスター。……どちらか、ですね」

 

 ——切嗣はいまだ、状況把握から脱せずにいた。

 戦いの場として仕立てられたこの沿岸部、なるほどコンテナやら展望台、クレーン車などの(かく)(みの)は多い。ランサーのマスターは、よほど慎重家だと窺えよう。

 

 なればこそ、絶好の俯瞰(ふかん)スポットかつ隠れ場たるデリッククレーンを明け渡し、逆にこちらはクレーンからは死角になる場所を選び取ったワケだ。

 

「あくまでも戦いに参戦しないことを(かんが)みても、キャスターとアサシンのどちらにも性質は該当しうる……クソっ、ここにきて不明なクラスが七面倒だ」

「事前諜報の成果——に該当するマスターも、のこり一人」

「だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 歯痒(はがゆ)さに切歯する。その間にも、(しのぎ)を削る激闘は進んでいく。

 ただ、より突き詰めた解釈としては——存外にも簡単なもので、大別して二つ。

 

 ひとつ、闖入者(ちんにゅうしゃ)の膝下で発砲し、ランサーのマスターを殺害する。

 ふたつ、令呪による強制権でバーサーカーの意識をアイリの元へ引き戻す。

 

 一貫して付き(まと)うのは……セイバーの陣営に第三者が関わっているという情報を、さらしてしまうことだ。

 

「……。舞弥、きみはあの謎めいたサーヴァントを射撃しろ。僕の方で、ランサーのマスターを射殺する。タイミングは五つ数えた(あと)

「——! わかりました」

 

 一つ返事の折、すかさずダークスーツは暗闇を疾走。コンパクトな身の(さば)きは、あくまでもクレーンからの死角を保ちながら、これまた上々な強襲の場へと移動を整える。

 切嗣の(がわ)もまた、ワルサー狙撃銃のスコープを凝視。魔術回路をぞんぶんに使う手前、体温を上げているランサーのマスター目掛(めが)け、

 

「五」

 

 ランサーとライダーの戦い。ほとんど視野の片隅(かたすみ)にしか捉えていないが、なかなかにヒートアップしているらしい。こちらに気付くこともなければ、マスター同士の争いにも目を向けることはない。

 

「四」

 

 件のサーヴァントに動きはなし。潮風に黒塗りの襤褸(ぼろ)マントをなびかせ、白髑髏の仮面に(かんばせ)をおおったまま佇立。

 

「三」

 

 セイバーとバーサーカーの剣戟は、切嗣の予想しうる剣術という(くく)りが生半可に思えるほど凄まじい。稲妻じみた残像が尾を引いている風にしか、常人の目には見えないものだ。

 

「二」

 

 アイリスフィールが手繰る糸編みのような鳥。敢然と水銀玉に(くちばし)を立てるものの、芳しくない。それどころか、返礼とばかりに逆棘(さかとげ)が魔力の翼を串刺しにする。——なるほどあれが、あの男の魔術礼装。

 

「一、」

 

 そんな戦局下、あらたに銃撃がくわわれば主客転倒も間違いなしである。延長戦を危惧(きぐ)するマスターが、もしやサーヴァントともども引き際を見極めるやもしれまい。

 いや。……これはあくまでも、願望の域を出ないもの。ひとまずは目下(もっか)、ランサーのマスターを速やかに射殺せねば。

 

「ゼ、————っ」

「な、」

 

 銃爪に指を引っかけて、引き絞る簡素な作業。それを停滞せざるを得ないことが、切嗣らの、否、この場の誰しもの目に()れる。

 

「とぉウ! 緊急召喚に応じたセイバー狩りの達人! 我こそはぁッ!」

「名乗りは省略で。さっさと……アイリスフィールさんを護衛、ゴー」

「ぬぅおあっ⁉︎」

 

 もう一騎、英霊が場に臨んだ。

 顔はバーサーカーに瓜二(うりふた)つであり、だが濡羽色(ぬればいろ)の鎧とは毛ほども似ないジャージ姿。着の身着のまま、とはまさしく彼女を示すよう。——それでいて、()る剣は、

 

「ややっ、何奴(なにやつ)! 胡散臭いにプラスして、自意識過剰かつ嫌味ったらしい!」

「な、んだ貴様は……⁉︎」

「語る名などあるまいよ……私はただ、そう。〝セイバーを狩る者〟……ですが、こと聖杯戦争だというならばハイ、空気を読みましょう!

 いくぞ愛剣《ひみつかりばー》っっっ!」

「ぬぅっ⁉︎ 《月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)》ゥッ‼︎」

 

 黄金の剣が(ひるがえ)る。一足にて三歩分、ワケの分からぬ怪人は間合いをぐいっと詰める。

 たまらず身退(みさ)がり、男は水銀を我が(たもと)にと喝破。……果たして、一介の魔術礼装がサーヴァントの法外なパラメータを上回るはずもない。

 

 身を縮め硬質な螺旋壁を築き上げるよりもなお(はや)く、不可解なサーヴァントは男の懐中(かいちゅう)に滑り入り……

 

「づぅっ⁉︎ 今度こそ何奴!」

「こちらのセリフだ剣士! 剣を扱うなればこそ、騎士の道に(じゅん)ずる——その尊き精神に従うべきではっ?」

「はっはっは、闇討ちが売りのアサシンに騎士道精神とか言語道断! その綺麗な鼻っ面を捻り切ってやりますよ!」

 

 (いちじる)しく要領を得ない言語——いや待て。彼女は今、我が身をアサシンと。

 ランサーがそう息を詰めた折り合い、双方の合間をたぷんと水銀が擦過(さっか)。金の刃が液体を斬り伏せた時にはもう、綺麗さっぱりとランサーの影も形もない。マスターもまた同様である。

 

「あちゃー。逃しましたえっちゃん!」

「そうですか。なら手短に退去を、」

「あっ、戦ってるのセイバーですね⁉︎ なにナイショで剣狩りしてるんですかそこを退きなさい、私以外のセイバーはっ、」

 

 図々(ずうずう)しい新手と、獲物の独占を狙うバーサーカー。お互いに()んず(ほぐ)れつ足を引っ張り合い、卦体(けたい)な二人三脚を披露。

 

 ともすれば、聖騎士はひとりでに独白をする。

 

「あ、あぁあ……なんという、地獄——、! 我が、我が王が分身、いや分裂……っ、この場はもう耐えきれまい! カリヤ、令呪を!」

 

 (こく)するように美丈夫は叫び、すると淡い光が彼を包む。たちまち存在の()びれも残らず、聖剣使いは消え去った。……令呪による強制転移。

 

 それがイザコザの皮切りである。

 

「ぬぅあああ! またも、(のが)した! えっちゃん出しゃばりちゃんですか⁉︎」

「斯くいうXさんも自信満々でターゲットロストですが。なんですか()()()()()()()()()()()()()()はもう帰ってください」

「くあぁあぁあ! サーヴァントユニヴァースでの千本剣ノックの恩義(おんぎ)を忘れたか眼鏡っ子ォ!」

「ありもしない思い出がすっと過るほど記憶曖昧模糊(あいまいもこ)ですか。さっさと星に帰るといいでしょう」

 

 論旨はどうやら、あのセイバーを取り逃した責任転嫁(てんか)。脈絡不明、意味不透明な論争は終わる毛色を見せることはない。

 

 ——なので、さも居ない者あつかいをされる分厚い胸板が水をさす。

 

「あー、もう止めんか! 同じ顔同士で相争うなどと見るに耐えん」

「……なんですかムサ男さん。名詮自性(みょうせんじしょう)を出てきて早々にした貴方には、さっぱり縁遠い争いごとに嫉妬が?」

「いやそうじゃなくなぁ……。誰が倒しただとか誰が悪いだとか、そういう理非を突き詰める姿、なかなかに見応えがないんだよぉ」

「なにをゥ大男! セイバーじゃない相手に興味はない! 去れ!」

「ロクすっぽ話の通じん相手か——しょうことなし。おい坊主(ぼうず)、ずらかるぞ。今宵の戦い、どうにも締まらんオチだが……決着、はついたらしい」

 

 意思通話もおざなりに、ライダーは耳の穴をかっぽじる。そのままウェイバーをひょいと御車台に乗せれば、呑気(のんき)にあくびだ。

 ただし、ウェイバーとても異論反論はない。若魔術師でありながら、いやだからこそ、今夜は衝撃が連綿(れんめん)しすぎていると思う。とりわけロンドン時計塔から見知り越しがいるなどと……

 

「はぁー……行けよライダー。ムカつくこともどうにかしてやりたいことも! ……大量に積んだままだが、寝覚めが悪いのはごめんだ」

「そうか。……フフン、若人(わこうど)の成長はたいへん早い! ではさらばだっ、バーサーカーとそのマスター、妙な小娘らよ!」

 

 ひとつ手綱(たづな)で檄すれば、雄牛の蹄は雷を帯びる。ややもせず地表を離れ、紫電を散らし、訪れ(どき)どうよう嵐のように場を後にしていく。遠雷じみた呵々大笑は、けっこうな時間、耳朶(じだ)に触れた。

 

 これで、残ったのはバーサーカー陣営のみ。

 

「……えぇと。バーサーカー——と、……?」

「おっと。名乗っておりませんでしたね。私は、————ぬ」

「あ」

 

 おずおずとアイリスフィールが切り出す。が、路床についた脚は二人分のみ。目深(まぶか)に帽子をかぶった彼女は、ふわりと茫洋な光に包まれつつあった。

 

「んー、よっぽど魔力供給がないと、二人分の持続は厳しいですか。むしろ普通のマスターには、私たち二人を常に(はべ)らせておくのは無茶、ってものですしね」

「……消えるの?」

「ご安心ください! 私は英霊召喚の(あぶ)れ者みたいなものですからねぇ……えっちゃんがいるところに私あり、という有耶無耶(うやむや)なものです」

「————。ごめんなさい、やっぱり難しいわ、貴女の言葉」

 

 一所懸命に言葉を反芻(はんすう)し、だが整った美貌は笑い崩れる。

 

 尤も、この英霊とて(やぶさ)かではない様子。にへらと笑い次第、ピースサインを出す。

 

「ピンチヒッターとして私を覚えていてくれればそれで! 細かいところは……えぇ! これでも文系なえっちゃんが親切に教えてくれるはずですよ」

「……! あ、待って! せめて貴女の名前、教えてくれるかしら?」

 

 胴体(なか)ばまで(ほぐ)れたサーヴァント。そこに、名を尋ねる。

 ……さても名前を紡ぐだけのために魔力を貰っていいものかと甚だ疑問を懐き。だが誰何(すいか)に答えるのも悪くはないと、帽子を取っ払う。

 

「謎のヒロインXと。——ははは最高の名前でしょう!」

 

 何屈託(くったく)のない笑顔、それを見え隠れさせる金の前髪。あぁユーモアを徹底した英霊であったものだと、アイリスフィールはクスリと笑い、

 

「…………何、謎のヒロイン、それもX————って」

 

 

 















 三年越しの更新となります!!!!!
  原因→(ログインパスワードをようやく思い出す) 

 しかしながらッ
 この三年間、小説家になろう様にて猛修行をしておりました。いやはや、オリジナル作品に熱と愛を注ぎ込むのは楽しい反面、下地となる出来事を自分でつくり上げる大変さもあるのだと……
 その甲斐あってか、言葉の覚えと自分のペースは鷲掴みできております。

 もはや刷新する勢いで、ハイペースとスロウペースの間切りをひた走ろうと思います!
 古い書物を紐解くようなお気持ちで、今一度、掘り起こしていただけると幸いです。



 モチベーションから逃げるな(自分用)

   


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