Fate/Zero:IF   作:フリーズ

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第4話

 

ロンドン時計塔。

その降霊科の講師たるケイネス・アーチボルト……またの名をケイネス・エルメロイが、初歩的かつ大前提となる理論を、大衆の前で論じる。

 

「魔術の世界では、血筋によってその才能が大方決定してしまう。魔術の秘蹟は一代でなせるモノではなく、何代も時間を掛けてその秘蹟たる魔術回路を形成していく。

――――何故このような初歩的なことを説明するかというと、先日、一人の生徒が私の元に論文を届けに来た」

 

ケイネスは半ば苛立ち紛れにそう論じるや、懐から一つの紙束を取り出し、その表紙を甲で叩く。

 

「タイトルは新世紀に問う魔道の道だ。……この論文は今私が言った理論に一叱を投じるものだった。

これを読んで、私は正直思い知らされたよ」

 

それは、ウェイバーが構想三年、執筆一年に亘って手掛けた、最高傑作であった。故にこそ、それは理解されて当然の書類であり、断じて一蹴などされていい筈のない成果であった。

生徒のどよめきをさながら自らの成果のごとく酔いしれるウェイバーを、だがケイネスは尊敬の眼差しを送る訳でもなく、淡々と冷徹に見据えていた。

 

「静かに。――――はっきり言おう。ここに書かれている事は全て、ただの妄想に過ぎない。魔術の優劣は血統によって決まる。これは覆すことのできない事実である」

「――――先生!僕は、今の旧態依然とする時計塔に事実を述べただけで……」

 

動揺し思わず立ち上がったウェイバーを、ケイネスは侮蔑も露わに咎める。

 

「ウェイバー君。君の家はまだ、魔術の家系が三代までしか続いていなかったね。協会の長く続く歴史から見れば、君はまだ生まれたばかりの赤ん坊に過ぎない。

……親に抗議する前に、先ずは言葉を覚えるのが先じゃないかな?」

 

途端に感嘆を侮蔑に変えた生徒たちの憫笑と、その講師たるケイネスの双眸に堪え切れなくなったウェイバーは、怒りに身を任せたままに教室を辞していった。

 

 

大股に通路を歩み、ウェイバーは先のケイネスの言葉を思い出す。

 

「馬鹿にしやがって馬鹿にしやがって馬鹿にしやがってーーーー!あれが講師のやることか……アイツ、僕の論文を読んで嫉妬したんだ!だから皆の前であんなこと――――うわぁ!」

 

怒りのあまりに前方を見ていなかったウェイバーは、時計塔を巡っていた郵便物を届ける役を負った者の滑車と衝突した。

鈍痛とともに込み上げる焦燥に、ウェイバーは汗を流す。

 

「おぉ、ごめんね……あれ?君は降霊科の生徒じゃないか。何でここに?」

「あぁ……アーチボルト先生に頼み事をされて」

 

忌避していた質問に、思い浮かんだ答えを我武者羅に繋ぎ出す。

届け役は然して警戒も疑念も懐くことなく、ウェイバーの身の上の理由に納得する。それと同時に、届け役は思い出したかのように滑車を探るや、一つの小包を取り出す。

 

「なら丁度良かった。これをアーチボルト先生に届けてくれないか?」

「は、ぁ……?」

 

時計塔の掟に則って、届け役はケイネスの教え子たるウェイバーに、郵便物を手渡す。

だがウェイバーはそんな事も気に掛けず、郵便物の宛先に注視していた。

 

「頼んだよ。大事なものらしいから」

 

確認次第、滑車を進めさせた届け役に目もくれず、ウェイバーは宛先を呟いた。

 

「マケドニア……一体、なんでこんな場所から届け物が?」

 

最初に懐いたのは、懐疑。

だがその数舜後には、ウェイバーの疑念は晴れていた。

 

ケイネスが遥か極東の地にて、己の成果の集大成たるものを並べんと、ある催しに参加するという噂はかねてより時計塔内に広まりつつあった。

その名も――――聖杯戦争。

ウェイバーはその存在を確かめるべくして、書物を取り扱う時計塔の一角に踏み込んだ。

 

そして実に数時間の時を経て、ウェイバーは聖杯戦争の大方の事情を掴んだ。

聖杯戦争にはサーヴァントが必要不可欠で、更に才能も関係ない、完全な実力勝負であるものであると。だが、ウェイバーが如何にして聖杯戦争に参加したいと望もうが、サーヴァントを呼び出すための触媒がない。

……触媒がない状態で呼び出せば、己に最も近い性質の英霊が呼び出されると聞くが……自分と似たり寄ったりの英霊と戦いを共にするなど、あまり考えたくはない話だ。

 

そこでウェイバーは、先程の郵便物を思い出す。

ケイネス宛に送られた小包……この時期に届くものと言えば、確実にそれとしか考えられまい。ウェイバーはケイネスのことなど顧みずに、ただ欲望のままに包装を開けた。

――――その中には想像通り、サーヴァントを呼び出すべくして用意された〝触媒〟があった。

真紅の布切れ……だが、必勝を期すタイプであるケイネスが用意したサーヴァントともあれば、弱い筈がない。

ウェイバーの予想で思い当たる英霊は、たった一人。

その力量に期待し、胸を弾ませた。

 

 

嘶くして、ウェイバーは触媒と資金を揃えるや、直ぐに日本――――それも、冬木行きの旅客機に乗り込んだ。

だがウェイバーは何も恥じていなかった。如何にケイネスのモノを持ち出していようが、それはウェイバーにとって、良い仕返しにしかならない。

今頃ケイネスは大慌てでいることであろうと……内心でほくそ笑みながら、ウェイバーは冬木の街に降り立ったのだった。

 

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