どうしても召喚をあげたかった…!
「召喚の儀を行うのに、こんな術式で良いの?」
「意外に思うかもだけどね、実際に英霊を呼び出すのは聖杯だ。マスターたる僕は、ただ魔力のパスを回すだけでいい」
水銀を指先でなぞり、術式に文句がないことを確認した切嗣は、祭壇上に触媒となる伝説の聖剣の鞘を置いた。
「それじゃあ、始めよう」
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「召喚のための呪文は、きっちり憶えてきたじゃろうな?」
暗鬱な蟲蔵で、禿頭の老人たる間桐蔵硯が、生気の失せた雁夜に問う。
雁夜の無言の首肯に、だが蔵硯はしたり顔で言う。
「じゃが、その間に二節、別の呪詛を付け加えてもらうぞ」
「どういうことだ?」
「なに、お主は他のマスターとは違い、急拵えで仕立てたマスター……普通のサーヴァントを召喚したところで、勝ち目は薄い」
蔵硯の思惑を図りあぐねる雁夜は、懐疑の眼を向ける。
「雁夜、今回お主のサーヴァントには、狂化の属性を付与してもらう」
狂化……即して、それはサーヴァントに有無を言わさずに理性を破壊させること。
つまるところ、蔵硯の用意したこの触媒には、狂化の素質がある英霊の聖遺物であるということだ。
つくづく用意周到かつ悪趣味な老害だと内心舌打ちながらも、雁夜は首肯で応じた。
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深山の森にて、ウェイバーは長らく喧しかった鶏を漸くに殺し、その生き血で魔法陣を描いていた。
魔力の回りはいつもより格段によく、確実に最強の英霊を呼び出す準備が整っていた。
持ち運んだ巨石の上に、触媒たる彼の王の羽織り布地を乗せ、赤黒く発光を始めた魔法陣をみやる。
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遠坂邸の地下。
言峰璃正神父と、その息子たる言峰綺礼の見守る下、遠坂時臣は、この世で初めて脱皮した蛇の脱け殻を壇上に置き、召喚の詠唱を紡ぎ始めた。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
裏山でウェイバーが、総身の魔術回路から魔力が吸われていく感覚を味わいながらも、詠唱を続ける。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する!」
時臣の後方で、英霊召喚という奇跡を目の当たりにした璃正神父が眼を見開く。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
巻き起こる逆向きの突風が、ウェイバーの髪を煽る。
「 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!」
蟲蔵の陰鬱な空気に毒され、体内の疑似魔術回路……刻印蟲が蠢き出したおかげで、雁夜は全身の毛細血管を破裂させていた。
「誓いを……此処にぃ!
我は、常世総ての善と成る者、
我は……常世総ての悪を敷く者ォ!」
アイリスフィールが見守る中で、切嗣は雁夜とほぼ同じ時刻に、同じ狂化の詠唱を紡ぐ。
「「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――」」
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!
聖杯を求め、一時的な協力関係をもたらすサーヴァント四騎が、今夜の内にほぼ同時に召喚された。
眼前に顕現した黄金の鎧のサーヴァントに、時臣は興奮で破顔する。
それはまさしく、時臣が望んでいた通りの、最強の英霊。
「勝った……勝ったぞ綺礼。この戦い、我々の勝利だ!」
極光と白煙の中から悠然と飛び出した英霊に、だがウェイバーは唖然とするより他になかった。
召喚は明らかに成功した。
しかし、その結果として顕現したサーヴァントは……想像する巨躯ではなく、むしろウェイバーよりも小さき、矮躯であった。
「……嘘、だろ?」
召喚の際に無理矢理にもっていかれた魔力を補わんと、刻印蟲が雁夜の肉体を苛む。
その鈍痛に膝をつく雁夜の眼前に顕現したサーヴァントは……およそ狂気には見えない、真っ当な短髪の白騎士。
その風貌に、他ならぬ蔵硯が驚愕に打ち震える。
「……?」
「馬鹿な……有り得ん、有り得ん!」
氷に閉ざされたアインツベルン城の祭儀の間で、黒鎧に身を包んだ、叡知の結晶たる眼鏡を掛けた狂化の英霊が、切嗣とアイリスフィールの眼前に躍り出る。
だが果たして、その容姿は二人の想像するそれとは、遥かに異なったものであった。
「コイツは……」
「質問です。あなたが私のマスターでしょうか?」
開口一番にそう訊ねるや、バーサーカーは向けられる視線に首を傾げるのであった。