「召喚される、という感覚はこのようはものなのか……一先ず、自己紹介を。
初めましてマスター。セイバー"ランスロット"ここに罷り越しました。あなたが、私のマスターですね?」
「……セイバーだと?」
爽風と自らの真名を明かしたセイバー、ランスロットは、眼前に膝をつく雁夜へ深々と頭を下げる。
だが雁夜は状況への理解が追い付かず、呆然と口を開けるより他にない。
「……俺は、狂化の詠唱を加えた筈だ。何故、お前のように真っ当な騎士が?」
「狂化ですか……見たところによれば、私には一切の邪気が感じられませぬ。
もしや、誰かが先に狂戦士を召喚していたのでは?」
そう訊ねられ、雁夜は現段階で判明しているマスターを思い返す。
蔵硯の言葉に偽りがなければ、アインツベルンより魔術師殺しの衛宮。
遠坂より忌まわしき時臣。時臣との師弟関係を破棄した神父。時計塔より二人の輩出者……残り一人は空席だと聞かされた。
しかし、雁夜がバーサーカーの居所を考えるより先んじて、セイバーの冷徹な声音がその思考を遮った。
「ですがそれを論ずるより先に……我がマスターに、私の力量を示しましょう」
「……何?」
セイバーは嘯くや、雁夜と反対方向に視線を遣る。
そこには、己の想像だにしないサーヴァントの召喚に戸惑う、間桐蔵硯の姿があった。
「貴様……何故、貴様が!?」
「私はお前が誰かは知らない。……だが、なまじ強力な邪悪さと、我がマスターの表情から、お前の素性には大方予想がつくぞ、ご老体」
算段を完全に狂わされた蔵硯は、摺り足で間合いを詰めるセイバーへと、群れを成した蟲を手向ける。
だが、ただの使い魔ごときがサーヴァントに勝てる道理など、どこに有り得ようか。
「ぬぅあぁぁあ!」
蟲蔵の蟲が総出でセイバーを殺さんと詰め寄るも、セイバーは腰に携えていた聖剣を振り抜き、数舜の内にして灰塵と変えた。
己が死を悟った蔵硯は、体内に寄生させた蟲を足下に束ね、この場を離脱せんと急ぐも……既に振りかぶられた聖は、過たず蔵硯の首を刎ねる。
「なるほど……そうやって生き永らえていたらしい。
マスター。ここで一度、私の宝具を御見せしましょう」
唖然とする雁夜の眼前で、セイバーは聖剣に極光を束ねる。
美しく繊細に刎ねられた蔵硯の首の断面より、小粒の蟲が這い出る。
ーーーーそれこそが紛うことなき、間桐蔵硯の本体であった。
「逃がさんぞ、ご老体
……最果てに至れ。限界を越えよ。彼方の王よ……この光を御覧あれ!」
遮蔽物の合間をすり抜けて逃げ行く蔵硯を、セイバーは跳躍一度と三歩で詰め寄った。
そして、その光輝く聖剣は、矮躯に変わり果てた蔵硯を塵同然と切り捨てる。
「
雁夜のみならず、間桐の人間並びに桜を苦しめていた元凶は、たかだか数舜の刻にして姿を消した。
それがサーヴァントの力であり、サーヴァントの前に立ち塞がった者の道理。
他のサーヴァントの実力がどうであれ、雁夜も敵前に躍り出れば、蔵硯と同じ道を辿ることは明白だ。
その恐怖と、恩讐の敵が消えた喜びに板挟みされた雁夜に、セイバーは再度問う。
「そういえば、先程の返答を聞いておりませんでした。……あなたが、私のマスターでしょうか?」
「ーーーーそうだ。俺は間桐雁夜……訳あって、この聖杯戦争に参加している」
「えぇ、今後とも宜しくお願いしましょう。カリヤ」
差し出された籠手越しに、雁夜はセイバーの体温を感じとる。
それは間違いなく、根っからの善人が持ち合わせる、人の温もりであった。
「……では先ず、カリヤの事情とやらを教えていただきたい。それから、戦略を立てるとしましょう」
「あぁ。どうか俺を勝たせてくれ、セイバー」
雁夜は間桐邸の右も左も分からぬセイバーを、寝静まった虚ろな少女の下へと案内していった。