「質問です。あなたが私のマスターでしょうか?」
そう問われた切嗣は、現れた英霊の容姿に唖然としながらも、首肯で応じた。
アイリスフィールも、完全に信じきっていた静粛なアーサー王とは似ても似つかない文系サーヴァントの端麗な姿に、言葉を失っていた。
先ず第一として、彼は……否、彼女が女だという点にある。
男装の麗人、ともすれば多少は納得のいくものの……こうも信じ難き美貌を兼ね備えているとは、到底信じえまい。
だが二人は、たちどころに二度目の驚愕を味わわされる羽目となった。
「召喚に応じ参上しました。バーサーカー改め"謎のヒロインXオルタ"です」
「……アイリ。僕が呼び出したサーヴァントは、記憶が曖昧になっているのか?
それとも何だ、これがバーサーカー特有の、狂化だとでも?」
「えぇと……狂化は理性を破壊してしまうも同然のことだから、こんな面白可笑しい属性は持たない筈だけど……」
半ば袂を別つことを考えてしまうほどの侮辱と、マスターからの懐疑の視線。
だがバーサーカーは、いかんともすることなく、然もありなんとした様子で口許を歪める。
「私の素性に心当たりがないのは当然です。私の変装と扮装には自信がありますので。
実力に関しては……まぁ、敵のサーヴァントと戦ったときに分かります」
「バーサーカー。僕が訊きたいのはそういうことじゃあない。その聖剣……とも呼びがたいその剣はなんだ?」
切嗣はまるで要領を得ないバーサーカーに、予てより気掛かりになっていた剣について訊ねる。
黒光りする赤黒い紋様のそれは、明らかに切嗣の知る聖剣、エクスカリバーとは訳が違う。
「邪聖剣ネクロカリバーです。怪しいつうはーーーー湖の乙女から授かりました」
「今、怪しい通販といいかけたな?……僕の記憶には、お前の生きた時代はインターネットもない時代であったとされていた筈だが?」
「ーーーーチッ」
「き、切嗣!?この娘舌打ちしたわよ!?」
的確に意表を付かれたバーサーカーは、切嗣から目線を逸らし、露骨にも舌を打つ。
そんな悪態を切嗣は別段気にすることもなくーーーー一瞥した瞬間に疑念として残る事柄を質す。
「バーサーカー……お前は、何故"女"だ?
僕の時代に伝えられたアーサー王伝説は、明らかに男として伝えられた。男として性別を偽ることに、何かしらの理由があったのか?」
切嗣が向ける冷徹な敵意は、明らかにバーサーカーには向けられていなかった。
もしも、バーサーカーを男として扱い、王として奉った者が大多数であれば……切嗣は、それを毛嫌いするより他にない。
「知らないです。過去に訓練で男装した思いではなくもないですけど、性別を偽った記憶はないです。
回りが勘違いしただけじゃないですか?」
予想だにしない返答に、切嗣は困惑する。
「ーーーーは?……なら何だ、要約するに、お前は本来の聖剣も持ってないし、現代に伝えられたアーサー王としての逸話には何の記憶もないと?」
「そうですね」
切嗣は、狂化の属性を付与せんとしていた以前の自分に、悔恨の念を懐く。
そんな切嗣を他所に、アイリスフィールは能面のままのバーサーカーへと訊ねる。
「えぇと……バーサーカー。とにもかくにも、私たちは直ぐに日本に発たないといけないのよ。
だから、旅立つ前に何かしたいこととかはないかしら?」
その問いを黙殺せんとばかりに、バーサーカーは無表情を貫く……そう感じた直後に、祭儀の間を轟かせる轟音が、バーサーカーの腹より五秒程、鳴り響く。
「……もしかして、お腹が減ったの?」
「適切な魔力供給が必要です。特に糖分補給が欲しいです」
そう嘯いたバーサーカーを、アイリスフィールは少しの間の後に微笑で受け入れ、食事の間へと導く。
その後続を淀みない足取りで追いながらも、切嗣は常識の通じないバーサーカーへ、様々な考察を巡らせる。
如何に狂化の属性を付与したと言えども、たかだか理性を失う程度。或いは、僅かな意思疎通への弊害程度の筈だ。
しかしながら、記憶に障害を出し、あまつさえ所有する宝具の変質すらも引き起こした。
……その重要性を噛み締めつつも、切嗣は無駄に長い食事机の前に座る。
「切嗣……あの娘、本当にアーサー王なの?」
アイリスフィールの問いに向かいに視線をやった切嗣は、瞬くの内に消えていく料理を見た。
取り分け、糖分を含む甘味に関しては、瞬きの一瞬よりなお速く消えていた。
「美味ですね。おかわりを」
「は、はい!」
給仕を既に従えさせたバーサーカーは、空になった皿を食事の片手間に預けていく。
その都度にアインツベルン城の給仕の半数が、バーサーカー一人の為に動員する。
「もしかして……ブリテンが食糧難に陥ったのってアーサー王のせいなのかしら?」
「これを見せられたら一理あるとしか思えないな。……まぁ、よほど抑制されていたのだろう」
恍惚とした表情で食事を頬張るバーサーカーを、二人は漠然と見据える。
「そういえば、バーサーカーが聖杯で叶えたい願いは何なんでしょうね?」
「……聖杯戦争に呼びされるということは、何かしらの願望が有るわけだからね。だけど、それは僕たちには関係ない話だ。
サーヴァントとの関係はあくまでもただの協力関係であり、道具でしかない。それを僕と君が忘れなければ、この戦いに負ける道理はないだろうさ」
虚ろな眼差しでバーサーカーを見据えながらも、切嗣はそう語る。
その傍らで寄り添うアイリスフィールも、無言の首肯で理解していた。