Fate/Zero:IF   作:フリーズ

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第9話

 

「質問です。あなたが私のマスターでしょうか?」

 

そう問われた切嗣は、現れた英霊の容姿に唖然としながらも、首肯で応じた。

アイリスフィールも、完全に信じきっていた静粛なアーサー王とは似ても似つかない文系サーヴァントの端麗な姿に、言葉を失っていた。

 

先ず第一として、彼は……否、彼女が女だという点にある。

男装の麗人、ともすれば多少は納得のいくものの……こうも信じ難き美貌を兼ね備えているとは、到底信じえまい。

だが二人は、たちどころに二度目の驚愕を味わわされる羽目となった。

 

「召喚に応じ参上しました。バーサーカー改め"謎のヒロインXオルタ"です」

「……アイリ。僕が呼び出したサーヴァントは、記憶が曖昧になっているのか?

それとも何だ、これがバーサーカー特有の、狂化だとでも?」

「えぇと……狂化は理性を破壊してしまうも同然のことだから、こんな面白可笑しい属性は持たない筈だけど……」

 

半ば袂を別つことを考えてしまうほどの侮辱と、マスターからの懐疑の視線。

だがバーサーカーは、いかんともすることなく、然もありなんとした様子で口許を歪める。

 

「私の素性に心当たりがないのは当然です。私の変装と扮装には自信がありますので。

実力に関しては……まぁ、敵のサーヴァントと戦ったときに分かります」

「バーサーカー。僕が訊きたいのはそういうことじゃあない。その聖剣……とも呼びがたいその剣はなんだ?」

 

切嗣はまるで要領を得ないバーサーカーに、予てより気掛かりになっていた剣について訊ねる。

黒光りする赤黒い紋様のそれは、明らかに切嗣の知る聖剣、エクスカリバーとは訳が違う。

 

「邪聖剣ネクロカリバーです。怪しいつうはーーーー湖の乙女から授かりました」

「今、怪しい通販といいかけたな?……僕の記憶には、お前の生きた時代はインターネットもない時代であったとされていた筈だが?」

「ーーーーチッ」

「き、切嗣!?この娘舌打ちしたわよ!?」

 

的確に意表を付かれたバーサーカーは、切嗣から目線を逸らし、露骨にも舌を打つ。

そんな悪態を切嗣は別段気にすることもなくーーーー一瞥した瞬間に疑念として残る事柄を質す。

 

「バーサーカー……お前は、何故"女"だ?

僕の時代に伝えられたアーサー王伝説は、明らかに男として伝えられた。男として性別を偽ることに、何かしらの理由があったのか?」

 

切嗣が向ける冷徹な敵意は、明らかにバーサーカーには向けられていなかった。

もしも、バーサーカーを男として扱い、王として奉った者が大多数であれば……切嗣は、それを毛嫌いするより他にない。

 

「知らないです。過去に訓練で男装した思いではなくもないですけど、性別を偽った記憶はないです。

回りが勘違いしただけじゃないですか?」

 

予想だにしない返答に、切嗣は困惑する。

 

「ーーーーは?……なら何だ、要約するに、お前は本来の聖剣も持ってないし、現代に伝えられたアーサー王としての逸話には何の記憶もないと?」

「そうですね」

 

切嗣は、狂化の属性を付与せんとしていた以前の自分に、悔恨の念を懐く。

そんな切嗣を他所に、アイリスフィールは能面のままのバーサーカーへと訊ねる。

 

「えぇと……バーサーカー。とにもかくにも、私たちは直ぐに日本に発たないといけないのよ。

だから、旅立つ前に何かしたいこととかはないかしら?」

 

その問いを黙殺せんとばかりに、バーサーカーは無表情を貫く……そう感じた直後に、祭儀の間を轟かせる轟音が、バーサーカーの腹より五秒程、鳴り響く。

 

「……もしかして、お腹が減ったの?」

「適切な魔力供給が必要です。特に糖分補給が欲しいです」

 

そう嘯いたバーサーカーを、アイリスフィールは少しの間の後に微笑で受け入れ、食事の間へと導く。

その後続を淀みない足取りで追いながらも、切嗣は常識の通じないバーサーカーへ、様々な考察を巡らせる。

 

如何に狂化の属性を付与したと言えども、たかだか理性を失う程度。或いは、僅かな意思疎通への弊害程度の筈だ。

しかしながら、記憶に障害を出し、あまつさえ所有する宝具の変質すらも引き起こした。

……その重要性を噛み締めつつも、切嗣は無駄に長い食事机の前に座る。

 

「切嗣……あの娘、本当にアーサー王なの?」

 

アイリスフィールの問いに向かいに視線をやった切嗣は、瞬くの内に消えていく料理を見た。

取り分け、糖分を含む甘味に関しては、瞬きの一瞬よりなお速く消えていた。

 

「美味ですね。おかわりを」

「は、はい!」

 

給仕を既に従えさせたバーサーカーは、空になった皿を食事の片手間に預けていく。

その都度にアインツベルン城の給仕の半数が、バーサーカー一人の為に動員する。

 

「もしかして……ブリテンが食糧難に陥ったのってアーサー王のせいなのかしら?」

「これを見せられたら一理あるとしか思えないな。……まぁ、よほど抑制されていたのだろう」

 

恍惚とした表情で食事を頬張るバーサーカーを、二人は漠然と見据える。

 

「そういえば、バーサーカーが聖杯で叶えたい願いは何なんでしょうね?」

「……聖杯戦争に呼びされるということは、何かしらの願望が有るわけだからね。だけど、それは僕たちには関係ない話だ。

サーヴァントとの関係はあくまでもただの協力関係であり、道具でしかない。それを僕と君が忘れなければ、この戦いに負ける道理はないだろうさ」

 

虚ろな眼差しでバーサーカーを見据えながらも、切嗣はそう語る。

その傍らで寄り添うアイリスフィールも、無言の首肯で理解していた。

 

 

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