皆に愛され 覇道をゆく天才の物語 作:水戸野幸義
前進というものを最近、よく感じる。
具体的な例を挙げるとすれば、身近なところにはなるが日本での目的が達成できた。
シャルロットとイリスさん、叔母殿の交流。予想以上に仲良くなっていて俺自身かなり驚いている。本人達の努力とかそういうのは勿論あるが、日本への旅行を計画した母上の手腕には感服するしかない。
更識家、更識姉妹と早い時期から交友を築けたのは大きい。帰国後もメッセでやり取りは続いている。大切にしていかなければ。
そして、世界もまた前進していく。
今や世界の中心となったISは日々進歩を続け、技術と技能は発展を続けている。早いところ……我がデュノア社ではもう第二世代の構想を始めているほどに。
全世界への普及と浸透は最早、目覚ましいまである。
それだけISという存在の浸食速度は驚異的だ。
世界はISに魅入られている。
その最たる理由はあの日起きた白騎士事件の出来事であり、もう一つが……。
「凄まじいものだな、織斑千冬と暮桜。そして、
隣で伯父殿がそんな感心めいた声をこぼす。
視線の先には今しがた終えた大会前のデモンストレーションを終えた専用機に乗る織斑千冬の姿。
伯父殿がこんな風に外で喜ぶ様子を見せるのは珍しい。伯父殿だけじゃない。周りの大人、各国政府関係者、各国の軍事関係者、企業関係者など様々な人がいるが皆、伯父殿と似たような反応。喜々とした様子で目の前で起きた光景に魅入られている。
目の前で起きた光景。たった今、自分の目で直接世界初の
ワンオフ・アビリティーの存在こそは白騎士事件後に改めてされたIS発表時点で公表されており、零落白夜の存在も最近日本から公表があった。
今日行われる大会はそれのお披露目を兼ねたもの。
それにこれだけじゃない。
織斑千冬が乗る第一世代専用機IS『暮桜』は世界初の形態移行、セカンドシフトに移行している。
もっともこのセカンドシフトに移行しているのはもう一人いる。
だが今現在、ISが操縦者と最高状態の相性になった時、自然発生する固有の特殊能力ワンオフ・アビリティーを有しているのは織斑千冬のみ。
IS開発者篠ノ之束の懐刀、織斑千冬が世界で最初に発現させた二つの事象。このことにいろいろ思うことはあるが、真価はこれから確かめられる。
『それではただいまより第一回、モンド・グロッソ。総合部門の試合を行います』
アナウンスの共に会場が歓声で湧く。
今日、世界が前進する日。ターニングポイント。
場所は条約締結の地、アラスカに新設されたIS競技用スタジアム。
そこには高い倍率を勝ち抜いて観戦チケットを手に入れた凄い数の観客が世界中から集まっている。
それは俺と伯父殿が今いる招待席もまた同じ。中継の視聴率も凄いそうな。それほどまでにこの大会が注目されているという証拠。
IS初の世界大会、その締めくくり。オリンピック以上に分かりやすい代理戦争。
そして、ISというある種偶然手に入れた、人の手には過ぎた力をどんな形であれ試さずにはいられない人間の性。
そんなところだろう。
格闘・射撃・近接・飛行など様々な部門を勝ち抜いたヴァルキリーと呼ばれる者達を筆頭にトーナメント形式で行われる総合戦闘の勝ち抜き戦。
自国の技術力、選手の完成度などを存分に試させる。どの国も熱を上げているが、この大会、結果は最初から見えているようなものだった。
「テオ、やはりお前の予想通りになったな。流石と言うべきか」
「買いかぶりですよ、伯父上。伯父上だってこうなることは最初から分かっていたでしょ」
気づけば、大会も最後。決勝戦。
日本代表、織斑千冬とイタリア代表、アリーシャ・ジョセスターフの対決。
近接部門優勝者と格闘部門優勝者、ヴァルキリー同士の試合であり、セカンドシフトに移行した機体が初めてぶつかる。
この二人が勝ち上がり、対決するだろうことはこの大会では根強い予想の一つ。
セカンドシフトという機体性能は大きいだろうが、実力は確か。
特に織斑千冬は近接部門から総合部門決勝戦の今まで全試合ストレート勝ち。他の公式試合は勿論、練習試合ですから負けがないという。アリーシャ・ジョセスターフですら今大会いくつか黒星があるというのに。
オマケにワンオフ・アビリティー、零落白夜はまだ一度も使ってない。本当に刀一本で勝ち抜いてきた。
最強を体現したその姿に観客は勿論、自国の勝利を願って熱を上げていた他国の政府関係者までもが織斑千冬という選手に魅入られている。
まあ、こうなるのは当然で予定調和。
楽しみはこれから。俺の予想が正しければ、この試合でおもしろいものが見れる。
それはすぐにでも。
「分身だと!?」
「どういうことだ! イタリアはこのことを黙っていたのか!」
「知るかっ! こんな機能はない! どういうことなのかはこっちが知りたい!」
目の前で起きた驚くべき光景。
それらに観客は驚き、特別なものを見たと喜々と興奮して沸き上がる。
一方、俺の周りにいる政府関係者など所謂知識のある者達は驚き、動揺を隠せない様子。
「テオ……あれはワンオフ・アビリティーか」
「はい。おそらくは機動制御に使われている気流制御システムがセカンドシフトで変化したと推測できます」
「なるほど……それで風で出来た分身か」
アリーシャ・ジョセスターフが自身の機体テンペスタとたった今発現させたワンオフ・アビリティー。
テンペスタの機動制御に使われている気流制御システムがセカンドシフトで変化し、ISエネルギーで風を逆巻くように集め、逆巻く風で出来た実体のある分身を作り出す能力。
現れたのは一体だけだが、それでも充分だ。超高速回転をすることで実体を得ている風の分身は触れるだけで装甲を削り、本体と分身という数的有利を作り出せた。
疾走するアリーシャ・ジョセスターフはまさに嵐、テンペストとなり猛威を振るう。
「しかし、何故だ。このタイミングで発現とは出来過ぎている。セカンドシフトしてもそんな予兆はないと聞いた。何がそうさせた?」
「負けられないという強い想い。その想いに機体が応えてくれたんでしょう」
アリーシャ・ジョセスターフが織斑千冬と戦うこの試合に強く意気込んでいるのは見ているだけで伝わってくる。
加えて、零落白夜を使わせるよう政府や軍から指示があったようで、アリーシャ・ジョセスターフ自身も零落白夜を使われることを望みしきりに織斑千冬を挑発していた。
しかし、織斑千冬は零落白夜を使うことなく、挑発を歯牙にもかけることなく、これまでの試合同様刀一本で斬り伏せ三本勝負のうちまず一勝した。
始まった二試合目も織斑千冬が圧倒的なまでに優勢。会場は織斑千冬勝利の空気一色となり、それをよく思わない負けられないアリーシャ・ジョセスターフは最後の賭けに出て、今の状況へと至る。
「機械兵器が人の想いに応えるだと……何を馬鹿なこと言う。それではまるで御伽噺や物語に出てくる魔法の道具みたいじゃないか」
「その通りなのかもしれません、伯父上。ISはただの機械ではない。人の想い次第で今までの常識をぶち破るようなただの機械兵器以上の力を見せる。白騎士事件がそうだったように」
「……白騎士事件……苦い記憶だ。テオの言う通りだな、クククッ。ISは魔法の道具の如き存在か」
隣で伯父殿が楽しげに笑う。
ISをただの機械だと思ってはいけない。
強く想えばISは人に応えてくれる。
世界を変えたいと想っただろう女が本当に世界を変えてしまったように。
試合は続いている。
誰も止められない。止めようともしない。
見せられる驚愕の光景にあるものは魅入られ、ある者は恐れるばかり。
同時に試合はいつまでも続きはしない。終わりの時はやってくる。
「零落白夜……」
ついに発動した零落白夜。
その光景に会場の盛り上がりは最高潮に達する。
思わず俺も声に出して名前を口に出してしまった。
疾走する嵐の猛攻を掻い潜り、零落白夜が叩き込まれていく。
待ちに待った光景。今日はこれを見に来た。この瞬間の為だけに来た。
胸が躍った。
「――ッ!」
なのに寒気がした。
寒い宇宙に放り出されたような寒気。
どころか、何かが肌にまとわりつく気持ち悪さ。
鏡にひびが入る様な感覚。
これは。
『そ、そこまで! 勝者、日本代表織斑千冬!』
場内に轟くアナウンスで我に返る。
試合に決着がついた。ちゃんとその瞬間を見ていた。
零落白夜がISエネルギーで作られた風の分身ごとテンペスタを斬り伏せ、エネルギーシールドを消滅。絶対防御を強制発動させることでシールドエネルギーをエンプティまでもっていった。
絶対防御を強制発動させた直後、寸前のところで零落白夜の発動と太刀筋を止めたのは最早神業だ。別の人間ならそのまま機体ごとアリーシャ・ジョセスターフを斬りつけていてもおかしくない。
歓声と拍手に包まれるスタジアム。第一回、モンド・グロッソが終わった。
結果は予定通り、織斑千冬が優勝。
ISが登場してから初めて行われた初の世界大会。初のセカンドシフト移行機同士の試合。そして、ワンオフアビリティーが初めてぶつかり合った。
世界は前進していく。誰も、俺すらも予想できない次元へと。