皆に愛され 覇道をゆく天才の物語 作:水戸野幸義
「パッケージ、予備弾倉含め弾薬はゼロ……エネルギーは残りわずか」
「こちらもです、隊長!」
「どうするんです!?」
我々は窮地に立たされている。
フランスとドイツのEOSによる合同演習。
その最中に起こった大多数の未確認機による襲撃。
既存の兵器以上の脅威に対してこの基地の防衛隊は押されるばかり。
それを見かねた我々は防衛への加勢を申し出て、実際に防衛の任に着いた。
最初こそはよかった。既存の兵器以上の脅威があるとは言え、未確認機はEOSほどの性能はなかった。押されていた戦線を一気に持ち直し、一機一機確実に撃退できていた。それまではいい。
だが、突然の第二波。波のように押しかけてきた敵機は増大し、流石のEOSも数の前には有利に出れない。
再び押され始めた。この基地の防衛隊はほぼ崩壊状態。ドイツのEOS部隊も5機中3機が損傷し、後退。
我がトマ隊も5機中、2機が損傷により後退。死者、重傷者がいないだけがまだ救いか。
しかし、悠長にはしていられない。
「隊長、指示を!」
「我々も後方へ後退しますか!」
「後退だと! 馬鹿なことを言うな! 我々が引けば、最後の防衛線が崩れそれこそ本当に最後だ!」
「ですがッ……!」
こいつがこう言ってくる気持ちは痛いほど分かる。
このまま戦い続けても結果は嫌なまでにはっきりと目に見えている。死、よくて死の一歩手前。
敵もそれを分かっているようで、我々が身を隠しているところに銃口を向けながらジリジリと近づいてくる。
まるで舌なめずりをしているようだ。連携は取れずとも、統率のある集団。本当にこんなもの達が一体どこから。
後退……それが脳裏によぎる。
しかし我々が後退すれば、それこそこの基地を守るものがいなくなってしまう。
そうなれば、基地が敵の手に落ちるのは免れない。
ここには多くの人がいる。政府の役人。軍のお偉い。EOS関係者のデュノア社。そして、テオドール・デュノア。
彼も来てるんだ。見学という名目だが、デュノアEOS局所長としてデータを取りに来たんだろう。
彼を一言で表すのなら希代の天才。文武両道、あの年齢で大企業デュノア社の一部門を任され、実戦も持ち前のセンスの高さを生かし我々に引けを取らない腕前。絵に書いた天才。
大企業の子供らしく甘えたがりの坊ちゃんかと思えば、多少生意気なところはあるが礼儀正しく我々のことを慕って、よく見ている今では我々のお気に入りとなった聡明な少年。
将来有望な若者。彼が次代のフランス、世界を率いていく。
何より、彼の天才っぷりに彼自身に我々は助けられている。軍が最もそうだ。
デュノアが政治的に立ち回ってくれ、軍備縮小を抑えてくれたおかげでめぐりあえたのがEOS。
噂だけはIS登場前から聞いていた。国連主導でパワードスーツを開発していると。もっとも、見てくれだけで重く、稼働時間も短い欠陥機。
それを実戦で問題なく使えるだけでなく予想以上のものとしてくれたのが、デュノアであり、テオドール君だ。
今回のこの新型だって、我々の意見を取り入れてくれ、絶妙な調整までしてくれた。
これならISに奪われた御株を取り戻せる。ISの間に合わせなんかではなく、我々はまた軍人の務めを果たせる。
そうだ。我々は最後の最後まで務めを果たさなければならない。
守るべき者達、将来を担うテオドール君のような若者を守る為に戦う。
軍人として、大人として、人として。
弱音や迷いは全て終わった後で足りる。
「打って出るぞ! 我々は軍人だ! 守るための戦いを名乗り出たのだ! 最後まで務めを果たす!」
「務め……そうですね!」
「分かりましたっ付き合いますよ! 隊長!」
隊の意思は一つに固まった。腹を括った。
「よしっ、行動開始!」
「了解!」
意気込んで打って出たが、気持ちだけではどうにもならないことは当然のごとく多い。
待ちわびていたかのような敵と再びの戦闘。近接武器で対峙したが、相手は火器メインの機体。加えて減らしたとはいえ、数は我々の倍はある。
道連れではないが、3人で1機2機持っていっただけで我々は地に這いつくばる結果を迎えた。
「……くっ」
うつ伏せで倒れながらも敵機の銃口がこちらを捉えているのが見えた。
思わず、苦い声を漏らす。
最早、ここまでのようだ。今までの人生、よかったこと、大変だったこと、嬉しかったこと。様々な思い出が脳裏を駆け巡る。これが走馬灯。
軍に務め、軍人として現場に出て、危険な目にも何度もあってきたが走馬灯を見たことはなかった。
だから、鮮明に見えてしまう。それこそ、小さいころの記憶からも。
そう言えば小さな頃、よくヒーローに憧れていた。
ピンチな時、何処からともなく助けにやってきてくれるヒーローの存在。
だから、
こんな時に思い出すなんて変だな。
変なのはそれだけでなく、今はピンチの時。もしかするとヒーローが現れるんじゃないか? とつい思ってしまった。
幼くて甘い考え。
現実の前で都合のいいただの考えでしかない。何も力を持たない。
事実、終わりを身をもって教えんと無慈悲に向けられる鉄の死の門。
重い銃声が鳴り響こうとした、その瞬間――。
「――そこまでだ」
轟く覇者の誓いは確かに今ここに。
有言実行が如く、絶望は希望へと塗り替えられた。
爆ぜたのは僕でなく、僕を撃とうとした目の前の敵。
「――!!」
すぐには何が起きたのか分からなかった。
目の前の光景ははっきりと見えているのに事態を飲み込めず、言葉を口にできない。
ただ、分かるのは今釘付けになっている栄光に満ちた後ろ姿を僕は未来永劫忘れることが出来なくなったということだけ。
絶望は希望によって塗り替えられた。
だからこそ希望の熱が弱った体、果ては絶望に堕ちていた魂にまで灯り、後ろ姿を見ているだけで何処からともなくどうしようもないほど込みあげてくる頼もしいという感激に胸が熱く滾る。
これでもう大丈夫。もう何も怖くない。ピンチの時、ヒーローは本当にやってくるんだ。これは嘘偽りない現実の光景。この胸の熱い鼓動こそがその揺るぎない証明。
おおぉ、主よ……! 感謝しますっ……! 僕は神にひたすら感謝した。
敵との間に割って入った姿は銀に輝く鉄の剣を両手に携えながら鉄の鎧を身に纏い、誰なのか見ただけでは分からない。
だが、彼の姿がすぐに思い浮かんだ。きっと寸前まで彼のことを考えていたからなんだろう。
彼とは――。
テオドール・デュノア。
神からの贈り物という意味の名前を持つ覇者の彼が、やってきた。
ISの世界に軍人、特に男性軍人はどんな気分なんだろう。
そんな考えをテーマに今回の幕間をお送りしました。