皆に愛され 覇道をゆく天才の物語 作:水戸野幸義
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母上の嬉しそうな祝福の声。
次いで産れた時からの付き合いになる使用人達の祝福の声。
沢山の好物が煌びやかな縦長テーブルに並び。
そして目の前には立派なケーキがあり、その上乗せられた明かりの灯る六本のロウソクに息を吹きかけ、火を消した。
「わー!」
「六歳、おめでとう。テオ」
母上が嬉しそうな満面の笑みを浮かべながら拍手をしてくれ。
父上も祝福の言葉で祝ってくれる。
今日は俺、テオドール・デュノア、六歳の誕生日。
六歳……この世に生を受けて、いや転生してから六年が経つ。
前世の記憶や転生特典は物心ついたころから徐々に発現していっている。
そしてデュノアの名前で分かるように、あの女神に望んだとおり、デュノア家に産れた。
母上はマリー・デュノア。
今、上座にいる俺からして右側で嬉しそうに優しい笑みを浮かべている。
天真爛漫で慈しみに溢れた優しく綺麗な母上。たまに天然なところがあるがそんなところも母上の好きなところだ。
我が国と母上の名前のせい。それと前世の記憶と知識にひっぱられているからか、某容姿や声とか雰囲気が某ソシャゲのあの百合の王妃っぽく感じる。
父上はサンソン・デュノア。
今、上座にいる俺からして左側で優しく温和な笑みを浮かべている。
優しく真面目な人で人と人を取り持つのが得意で、デュノア家、デュノア社では交渉ごとなどを担当している。
デュノア家当主でありデュノア社社長の父上の兄もそういうところを高く評価している。
ただ少し抜けているところもあるが、そういうところが人を安心させるのだろう。尊敬できる父上だ。
ちなみに父上もまた我が国と名前のせいなのか、容姿や声とか雰囲気が某ソシャゲあの執行人っぽく感じる。母上と言い父上といい、これは女神の仕業なのか。今となっては確認できないけども。
転生特典とは言え、優しく尊敬できる両親の元に産れた来れたのは女神に感謝しなければならないな!
「ありがとうございます。母上! 父上! それに皆もありがとう!」
「嬉しそうだな、テオ。浮かれた奴は我が弟で充分だが今日は誕生日。私からもおめでとうと言っておこう」
そんな言葉が父上の隣から聞こえてきた。
遠回しな言い方だが、これがこの人なりの祝福の仕方なのはよく知っている。
この人がデュノア家当主であり、デュノア社社長のアルベール・デュノア。
父上の兄であり、俺からは伯父上に当たる人。伯父上ないし伯父殿と呼んでいる。
才能主義の厳格で厳しい人で、本人もまたデュノア社を世界的な大企業にし続けてる優秀な人。
伯父殿のことも尊敬しているが、こんな厳格な感じなのにシャルロットの父親。つまりはシャルロットの母親に手を出した状態で……。
まあ、これはまだ伯父殿以外は転生特典の知識がある俺しか知らないことだがそういうところもやり手というのだろうか。
シャルロットはまだ見つかってない。
同い年のはずだからもう産まれているはずだが、この歳で探せる範囲なんて限られてる。
ましてや隠しているのが某架空の企業みたくスプーンから戦艦までがキャッチコピーの世界的大企業の社長だ。そう簡単には見つかるように隠し方はしてない。
今はまだ我慢だ。シャルロットとは必ず会える。そう俺のニュータイプとしての勘が告げている。
「もうあなたったら……テオ君、お誕生日おめでとう。もう六歳か……子供の成長って本当早いわね」
なんて風にしみじみ言ってきたのは伯母のロゼンダ・デュノア。
伯父殿の正妻であり、社長夫人としての気品に溢れた美貌の持ち主。
子供が出来ない身体だから、俺に対しては一線引いている感じのある人だがそれでも可愛がってくれるよき伯母殿だ。
多分、デュノア家で一番器が大きい人はこの人じゃないかと俺は思っている。プライドの高い伯父上と結婚からずっと上手くやっている上に、将来的にはシャルロットと向き合うと思える人だからな。
「伯父上も伯母上もお祝いの言葉ありがとうございます。嬉しいです」
「ふん」
「めでたい日ですからね。あ……でも、アルベールからの誕生日プレゼント、本当にあれでよかったの? それはアルベール、貴方もだけど」
「本当に嬉しいです、伯母上。伯父上が近未来技術研究所丸ごとすべて僕に任せてくれたのは」
母上、父上、伯母上からはまた別で誕生日プレゼントをもらったけど
伯父殿から貰った誕生日プレゼントはデュノア社の技術研究所の全権利。
子供のプレゼントにしては過ぎたものだが、六歳……今から半年後あるいは一年後には何も世界的変化がなければ、白騎士事件が起きる。
ISの登場だ。これからこの世界での生活を楽しむにはISは必要不可欠で、下準備は必要だ。今はまだISは登場してないが、ISの原型はもう既にデータ発表されている。
発表者の名前は伏せられているがこれは確実にISになる。現状世間はこの発表がとんでも理論の塊で相手にしてないが、研究しているところは研究している。
デュノア社としても俺としても出遅れるわけにはいかない。基礎研究は早くからやっておけば必ず役に立つ。デュノア社を原作の二の舞にしないことが目標の一つなのだ。
「構わん。こいつが珍しく強請って来たんだ、面白いではないか。それにただやるわけではない」
「先行投資ですよね」
「そうだ、テオ。力ある大人として才があるものにはそれを伸ばす場を与えてやらなければならん。そこが目が出れば将来我が社の力になるやもしれんし、何もなければこいつは所詮そこまでだったというだけのこと。その時は身をもって返させる」
怖いことを言うが言っていることはもっともだ。
「分かっています、伯父上。このテオドール、必ずや素晴らしい結果をデュノア社にもたらせます」
「その言葉しかと受け取った。もっとも心配はしておらん。こいつは才ある人間であり、デュノア家の男。期待しているぞっ、我が甥よっ!」
「はいっ、伯父上っ!」
女神からはもらうもの貰ったんだ。上手くやるさ。
「ふふ、テオとお義兄様は本当に仲良しね」
「まったく呆れるぐらいにね。そっくりだわ」
「あはは、僕としてはテオにはもう少し平穏に育ってほしいんだけども」
「あら、サンソン。こうして元気に育ってくれてるから充分じゃない。それにこの子には好きなことして育ってほしいわ。でしょう?」
「それはそうだね。元気に育ってくれればそれだけで」
◇◆◇◆
それは誕生日から一ヶ月ほど経った時のこと。
その日は朝勉強を終え、昼の武術稽古を終えて、気心の知れた使用人に囲まれながら母上と屋敷の庭でお茶をしていた時だった。
「本当、テオは凄いのよ! 今日だって先生があんなにも褒めてくれていたもの!」
「え、ええ……そ、そうですねっ」
「母上、さっきからそればっかりですよ」
母上が何度も同じことを言うから流石の使用人も困っていた。
それでも母上は止まらない。暴走機関車だ。
「だって、自分のことのように嬉しいのよ! 先生から一本取ったテオは素敵だったわ!」
「ありがとうございます、母上」
褒められて悪い気はしないのでありがたく受け取る。
先生というのは武術を自分に稽古してくれる人のことでそれの人から俺は一本取った。
フランスでも名の知れた腕の立つ人。子供ながら大人に一本取るのは奇跡だが、最近は転生特典も体に慣れてきて上手く扱えるようになっている。そのおかげだ。
それに相手はプロフェッショナル。能力を試すのには丁度いい。
『流石はデュノア家のご子息。流石ですな。勉学も優秀とくれば、武術も優秀。そんな子を教えられて私も鼻が高い! ご子息の活躍には私も励まされますぞ!』
などと先生には褒められた。
半分以上お世辞だろうが、それでも褒められて悪い気はしない。どころか、見てくれた母上がこんなにも喜んでくれるのなら大変気分がいい。
「ん、美味しい。折角美味しい茶葉が手に入ったのだからロゼンダもお茶会来てもらえると素敵なのに」
「伯母殿は最近、忙しいようですから……でもまあ、落ち着けばきっと来てくれますよ」
「そうね……そうだと嬉しいわ」
少し母上は笑ってくれた。
しょんぼりしていた母上を何とか元気づけられた。
母上には笑っていて欲しい。
伯母殿ともお茶するのは何回もあるが、誕生日を過ぎてからはまだ一回もない。
忙しくしているようだ。社長夫人ともなれば、無理もない。
こんな風に平和な時が続くのが一番。そう願っているが、何故だか胸騒ぎがする。
「誰かが……」
「どうかしたの?」
「いえ、誰かがこっちにくる感じがして」
こちらに近づいてくる気配は段々大きくなる。
知っている人の気配。
この気配は。
「マリー! テオ!」
「あら、サンソン」
やってきたのは父上だった。
昼間に返ってくるなんて珍しい。今日は仕事で帰ってくるのはいつも夜、早くても夕方なのに。
変に急いできたのか息が荒い。血相を変えている。
「おかえりなさい、サンソン」
「おかえりなさい、父上。何かあったのですか?」
「あ、ああ……悪いが君達は下がってくれて」
そう言って父上は、使用人たちを下がらせた。
よほどのことなのはすぐに理解した。
「テオ……君のような幼い子にこんな話は聞かせたくないのだが、君は私達の子供で賢い子だ。そして、デュノア家の男。心してほしい」
「はい」
父上がこんな風に前置きするのは珍しい。
よほどのことだろうが、これは一大事なのか。
流石に母上も真剣な面持ちだ。
「兄上と義姉上が喧嘩したんだ」
「なん……だと……っ!?」
「あらあら」
本当に一大事だった。
あの伯父殿と伯母殿が喧嘩……?
二人の人柄的にもだが、政略結婚とは言え、恋愛結婚したかのように仲のいい夫婦なのにどうして。信じられない。
「珍しいこともあるものね。あの二人が喧嘩だなんて」
「そうなんだ……しかも、本社の社長室で喧嘩したものだから大変だったよ。幸い肝心な話は漏れてないようだし、その場は何とか収められたけど」
「お疲れ様、サンソン。でも、二人が喧嘩って何が原因なの?」
「それが……」
小さく手招きされ三人で顔を近づけ合う。
「何ていえばいいのか。その……兄上に隠し子がいることが発覚したらしくて」
「それはまた……」
いつもほんわかしている母上が引いてしまうほどの驚愕的な事実。
でも、俺は不謹慎ながら嬉しかった。
この隠し子……もしかするともしかするかもしれないからだ。
ただ一つ気になることはある。
「隠し子……父上一つ気になるのですが、何故そのことが発覚したのですか? 外部の人間が伯父殿が隠すだろう情報を見つけるなんて無理そうなのですが」
「それが先月テオの誕生日があっただろ? それ以来兄上はちょくちょくその隠し子とその母親を訪ねていたらしく、その日のことは仕事の移動日に当ててカモフラージュしていたが、義姉上に怪しまれて問い詰められたらポロったらしくてね……」
「伯父殿ェ……」
俺と父上、親子二人、何とも言えない顔で頭を抱える。
伯父殿の末路にしては何とも情けない。あの伯父殿も流石に愛した女には弱かったということなんだろう。
ただ伯父殿を憐れんでもいられない。これは間接的に俺のせいでもある。伯母殿がシャルロットのことを知るのは今から大分先の未来。少なくとも今ではなかったはず。
俺が産まれたばかりに歴史の流れが狂ったか。ここは好機として取るほかあるまい。
物事が早く起きれば、それだけ改善修復の時間は早められる。伯父殿も将来、あんな遠回しなことをしなくて済むだろう。
悲観はここまで。考えて動く!
「動きましょう、一刻も早く。父上、母上!」
「動く……?」
要領を得ない母上はきょとんとした顔で小さく小首をかしげる。
「父上、このことはどれぐらいの人に知られてますか?」
「宥めたから恐らく、僕と兄上、義姉上だけだと思いたいが場所が社長室だったからね……耳ざといものにはもう知られている可能性も……」
「そうですか……」
となると。
「この事が外部に漏れれば、デュノア社、ひいてはデュノア家にダメージがあるのは避けられない」
「それはそうだね。完璧な兄上を崩すいい弱点だ。だから分家の人間にも動きがあるだろう。兄上は実力のある人だけど結果を出すためには強引なことも辞さない人だから恨みを買っているだろうから」
分家というのは……デュノア社が成長するにあたって取り込んだ企業や名家の人間達のこと。清濁併せ呑むデュノア家は伯父殿と父上、直系血族の本家と企業的繋がりや家同士の繋がりを結んだ分家に別れている。
お家騒動になりかねない。隠し子の暗殺計画が持ち上がるなんてこともあるだろう。未来での出来事を思えば。
「伯父殿と伯母殿は今どこに……?」
「兄上は会社で義姉上は兄上達の屋敷にこもっているみたいだ」
「となると父上と僕とで伯父殿のところへ行き、まずは話を聞きましょう。僕もデュノア家の人間として知っておきたいです。母上は」
「ふふっ、分かっているわ、テオ。義兄様の屋敷、ロゼンダのところへでしょう?」
「そうです。まだ事実が発覚してから時間はそう経ってない。ならば、心の傷は早めにケアをしたほうがいい。時間が経てば、重いしこりになる。伯父殿夫妻の仲の修復は難しくなる。隠し子にも深い恨みが積もる。そうなるのは避けたい。大好きな家族が悲しいことになるのは嫌です」
「そうだ、テオの言う通り。僕からも頼むよ、マリー。義姉上のことを頼む」
「ええ、任せて! ロゼンダは私の大切な親友で家族。今はとても辛いでしょうけど、ずっと辛いままなのは悲しいわ。それに大好きな夫と可愛い息子に頼まれたら私頑張っちゃうわ! あなた達は義兄様のことお願いね」
「もちろん。だろ、テオ」
「はい、もちろん。サンソン一家の力を合わせて、乗り越えましょう! デュノア家の為に、家族皆の為に」
一家全員やることは決まった。
産まれて初めての大ごと。これからも大ごとは沢山降りかかるだろう。
初めの一つ、乗り越えて見せる。我が覇道は誰にも止められん!
「お前達、来てくれ! 出かける用意と車の手はずを!」
「かしこまりました! テオドール様!」
では、行動開始だ!
テオドール・デュノア
愛称はテオ。この物語の主人公。
転生特典を持ってこの世界にデュノア家の人間として生まれた転生者。
大蔵衣遠とクリム・ニックが合わさったような奴
サンソン・デュノア
主人公の父親。シャルロットの父親とは兄弟で、弟。デュノア社、副社長
人と人を繋いで仲を取り持つ才に長けている。
見た目某ソシャゲのサンソン、性格と人柄大蔵遊星のような人
マリー・デュノア
主人公の母親
いろいろとハイスペックな美人妻。
見た目も性格も某ソシャゲに出る百合の王女そのものな人。