皆に愛され 覇道をゆく天才の物語   作:水戸野幸義

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STORY20 覇者と楯無と彼女の苦悶

 案内されたのはホテル内にある一室。

 楯無が用意してくれた。それだけあってなかなかいい部屋だ。

 

「好きなところに腰かけて。お茶用意してもらったけど飲む?」

「いただこう」

 

 ようやく一息つく。

 宴会場を後にしたことで悪目立ちないし目立ちはするだろうが人目がないだけ気持ち楽になる。

 

「何だかんだ強引に話を進めてしまったな」

「いいのよ、これで。ここ最近、仕事でずっと大人の相手ばかりで息をつく暇もないぐほどだったから、ベストタイミングね」

「かもしれんな。簪には感謝しなくてはな」

「そうね。おかげでこうしてテオと二人っきりになれたわけだしね!」

 

 とウィンクのオマケ付き。

 言っていること自体は間違ってない、楯無らしいといえばらしい。

 しかし、無理しているように見えて。

 

「何か反応してよ。つれないわね。婚約者ができると冷たくなるのかしら」

「どうしてそうなる。簪共々姉妹揃って婚約者のことを気にする」

「あら、そうなの。なるほどねぇ~簪ちゃんも……」

 

 含みのある言い方をしながら楯無は一人納得する。

 姉妹だから通じ合うものがあるのだろうか。

 

「まあ、そりゃ気になるわよ。お友達の男の子にある日婚約者が出来たらね」

「そういうものか?」

「そういうものよ。乙女心は複雑なの」

 

 乙女心を持ち出されるとお手上げだ。

 確かに複雑だ。男の俺が完全に理解するなんてのは無理がある。

 

「でも、別にテオは身持ちが堅いってわけでもないのよね。私、魅力ないのかしら」

「魅力的だと思うが……それから、身持ちが堅いわけでもないとは随分な言いようだ」

「だって、そうでしょ。ワイヤードのショコラ、(テンペスタ)のアーリィ、そしてブリュンヒルデの織斑千冬。ねっ」

 

 またウィンク付き。ねっじゃないがおかげで分かったことがある。

 からかわれてるな。更識楯無はこういうキャラ()だ。見ていたか、あるいは俺達のことを耳にしていて事情を分かった上で言っている。

 

「身持ちは堅いつもりだが皆が放っておいてくれないのだから仕方なかろう?」

「またそんな言い方して。本当、つれない人。実際、アリーシャ様達だけじゃなくて各国の要人にも相変わらずモテモテだったわね」

「天才天才とおだてて少しでもデュノアと繋がりを持とうとする。いつものことさ。今宵は宴会の華やかさのせいかいつもより皆浮かれていたな」

「浮かれてもらわなくちゃ困るわ。その為の披露宴でもあるんですもの」

「狙い通りという事か。実際、これほど華やかなものを開くとは思っていなかった。ここだけじゃない。日本全体が華やかになったと聞く。もしかしなくても」

「そう、IS様々ってところかしら」

 

 言いたかったことを楯無は代弁してくれた。

 何の理由もなく突然華やかになることはまずない。

 華やかになる理由は確かにあって、思い当たるものがあるとすればISだ。

 

「もっと言うならIS誕生によって生まれたもののおかげね。ISそのものは目立つ存在ではあるけれど、周りとのパワーバランスを保ったりだとかする為のもの」

「重要ではあるが利益は知れているか」

「コア数が限られてるからね。それでもIS開発するにあたって得た技術はあって、多少なりと他へ転用できる。EOSなんかは最たる例よね」

「そうだな。ISの数億倍は稼がせてもらっている」

 

 これは身をもって体験していることだ。

 ISあってのものではあるが、ISはコア数の関係で限度がある。

 その点EOSは限度なく幅広く提供可能だ。今はまだ少しずつだが民生用、作業用へと発展が進んでいけば、需要は更なるものになる。

 

「そう言えば、日本もEOSを採用してくれたな」

「国連製グローバルモデル、GMタイプのカスタムをね。本当なら完全自国製にしたいところらしいけど、国内各所と調整が難航してるっぽいのよね」

「日本らしいな。だが、資料によれば性能はかなりいいじゃないか」

「カスタムパーツは安心の信頼のメイドインジャパンですもの。うちにも数機配備回したし、自衛隊を中心に災害現場でISのサポート役として活躍中。利益も上場」

「それだけではないだろ」

 

 EOSだけではここまでなことはならない。

 まだ何かあるはず。

 実際、その通りな様で楯無はやっぱり分かる?といった風に微笑えんで教えてくれた。

 

「一番利益があったのはIS学園の創設ね。某国から作れってうるさく言われたのを逆手にとったの」

「IS学園の創設、それにまつわるその他諸々を公共事業としたのだったな」

「その通り。IS学園創設を日本の一大事業にしちゃったってわけ。その甲斐あって創設に関わる大小様々な業界達に莫大な利益をもたらすことが出来た。勿論いろいろな対策や補助とかあってのことで。何より完成した後の今もその得たお金、税をうまく回せてるってのもあるんだけど」

「実際上手くやってると思う、今の日本は。金は使わないと回らない。損して得取れというんだったか、こういうのは」

「あら、よく知ってるじゃない。やっぱり、連鎖の循環は大事よね」

 

 懐が潤い、金が使いやすくすれば使う人も増え始める。

 そうすればまた誰かの懐が潤い、そのまた誰かが金を使う。

 そして経済が回れば、国が豊かになる。豊かになれば経済は勿論、国内が回る。

 一見すると絵空事のようだが、事実今の日本はそうした高度な連鎖が輪になって循環している。

 そのおかげもあって今の日本、豊かさ。そして今宵の宴のような華やかさに繋がったと。

 

「後は日本国民の意識の改革と言えばいいのかしら。心のよりどころが出来たのが一番大きいわね」

「どういうことだ……?」

「世界を今の形に変えてしまったISの生みの親、篠ノ之束博士は日本人でしょう? 産まれは由緒ある神社の生まれで申し分なし。若い天才と称される女性。恐れや困惑とかいろいろあるけど、同じ日本人ってだけで共感しちゃったのね。こんな凄い人と同じ日本人で自分も誇らしいって」

「古すぎないか、それは」

 

 理屈としては分かる。

 世界的な賞を取った者がいたとして、自分と同じ出身の人間というだけで自分も誇らしく思えたりする。

 よくある同じ国の人間として誇らしいという奴。

 

「古いとは私も思うけど、そういうものよ。世界は変わっても人はそう簡単にはってね。で決め手は織斑千冬」

「織斑千冬……」

 

 何故、彼女の名前がここで。

 

「ほら、篠ノ之博士って人前に滅多に出てこないじゃない。その点、織斑千冬は日本の国家IS選手として露出度は高い。ほとんどの人が知っている。そんな彼女はIS初の世界大会で圧倒的な力をもって優勝を納めた」

 

 脳裏に浮かぶのは第一回世界大会でこの目を持って見た彼女の勇姿。

 そして、それを見た周りの反応。

 

「なるほどな、輝かしく見えてしまったのか」

「そういうこと。新時代の到来を告げる優勝という輝かしさ。尚且つ、ISって案外分かりやすいのよ。スポーツって体裁は取ってるけど、所詮兵器。人々にまだ白騎士事件は記憶に新しいから自分と同じ日本人が作ったISを使って自分と同じ日本人が世界最強になったことが余計、変な自信みたいなものになっちゃったのよね。自分達もやればできるんじゃないかって。実際、やってみれば日本はここまで成長できちゃったわけだし」

「心のよりどころになるには充分すぎるな」

「恐ろしいまでにね。変化ばかりのここ数年だからこそ、そういう存在の必要性と欲求はIS誕生前よりは高くなっちゃってたし。それにほら、彼女は心のよりどころにはうってつけじゃない。象徴的なアイドル適性あるというか、容姿も悪くない。クールで強くてカッコイイ次世代の女性の在り方を体現してるみたいで」

 

 アイドル、言えて妙だ。

 適性は確かなものだ。彼女の人気っぷりが正にそう言える。いろいろと合点がいった。

 人々の華やかさはそう言うところから来るもの。

 世界の変革、社会の流れ、時世と日本国民の求める理想的なアイドル像と一致する存在の誕生。いろいろなものが噛み合い過ぎた。恐ろしいまでに。

 

「大変興味深い話だった。聞かせてくれたこと感謝する。楯無……いや、刀奈も……やはり、何でもない。忘れてくれ」

 

 楯無が聞かせてくれた話でISの誕生による変化、社会の移り変わり、篠ノ之束と織斑千冬、二人を日本人が一般的にどう思っているのかを知ることが出来た。

 私感を交えながら楯無は話してくれたが、何処か他人事のようにも聞こえた。ならば、実際のところこの一連のことをどう思っているのか素直な感想が聞きたかった。

 しかし、同じ日本人としてどう思うかなどと楯無に聞くのは無粋のように思えて口を噤んだ。楯無の今いる立場は複雑なのだ。

 

 そんな俺の思い。もとい余計な気遣いを小さく笑いとばして許してくれた。

 

「ふふっ、天才テオドールに気遣われて光栄ね」

「俺とて気ぐらい遣うさ」

「その名前で呼んでおいて? ずるい人。まあ、テオの言いたいことは分かるわ。隠すほどのことじゃない。日本の対暗部の暗部、防諜の更識家当主としては日本が豊かになったことも二人が日本在住の日本人なのも喜ばしい事ね。もし二人が他国の人間だったら日本はこうにはならないどころか、酷いことになってかもしれないもの。二人とも日本にいるから監視もしやすい」

 

 これが更識家当主としての素直な感想。

 過程に様々なことがあったが、日本がこうなれたのは二人が日本人というのは確かに関係しているだろう。

 居場所が分かっていて、それが自国だと監視しやすいのも確かにだ。

 

「それが納得いかないのが周りの国。特に我がロシア」

 

 突如として楯無の口から出たロシアという国名。

 そして、日本人であるのにも関わらず我がロシアという言い方。

 

「そう言えばロシアのIS操縦者、国家代表になったのだったな」

「本当、耳が早い。なったにはなったけど、次期ね」

「日本人の楯無がどうやってロシアの代表に?」

 

 元々知っていたことではあるし、確認も取ってロシアの国家代表に楯無がなったことは確かだ。

 だが、経緯までは掴めずにいた。原作(俺が知る世界)でもそこは詳しく語られずのままだったゆえに、分からず終いである。

 

「ふふ、それは内・緒」

 

 ウィンクしながら楯無は妖しく微笑む。

 口元を隠す様に開かけた扇には『機密事項』の文字が現れていた。

 

「それは残念だ。まあ、そう簡単に教えられるものではないだろう」

「そりゃね。言えないことも含めていろいろあったのよ。どうしても知りたいのなら、私楯無のものになるのなら教えてあげなくもないけど」

「冗談。言っただろ? 身持ちは堅いつもりだと」

 

 経緯は変わらず気になるが確かめなければ気が済まないというほどでもない。

 楯無がロシアの国家代表で専用機持ちになるのことに変わりないのならそれでいい。

 

「あっ! だったら、逆に私の全部をテオにものにしてくれて根掘り葉掘り話させるっていうのもあるわよ? 身体に聞くっての定番よね。どうかしら」

「どうって……また、人で遊びおって」

「いいじゃない。それぐらい許して。いろいろあり過ぎるのよ。日本人だからと疎まれて力を示した途端、見事なまでにごま擦られて。当然の流れなんだろうけど、何だかね。三代目ブリュンヒルデはロシアのものだとか調子いいのなんの。まあ期待には応えるし、そのように振る舞うだけだからどうにかはするけど。今の国家代表には変に絡まれるのは流石にしんどいよね。やっぱり、あの女ぼっこぼっこにしたのがまずかったのよね、はぁ……」

 

 これが次期ロシア国家代表更識楯無としての本音。

 気を許してのことなんだろうが、出てくる愚痴は数知れず。気苦労は凄そうだ。

 それに楯無はやっぱりあの女と一戦交えたのか。

 

「しかし、更識家当主がロシア国家代表というのは」

「どうなのかってことよね。その疑問は正しいわ。ぶっちゃけ、更識家が指名されたの」

「指名……?」

 

 反射的に何をどう指名されたのか聞きそうになった。

 しかし、楯無は自分の口元に人差し指を当てた。その問いには答えられないと言葉なく語っていた。

 それはそうだった。苦笑いしつつ楯無は話を続けていく。

 

「指名されたのは交渉の結果としか。最初は簪ちゃんがって案もあったらしいだけど」

 

 交渉の結果。

 らしいという言い方は楯無は関与してないのか。

 しかも、簪が候補に。

 

「まあ、本当に案で終わって能力的な適性に私の方が適任ってことで私になったったわけよ。まあ、私は当主だから家全体の取りまとめや指揮が主で実際動くのは他の人になるから目立つことで私に注目を集めて他から目をそらさせるって感じね」

 

 軽く言い飛ばす楯無。

 言うほど簡単なものではないだろう。楯無も当然分かった上で言っている。俺に対してはこういうしかなかったというところか。

 

「まあ、私でよかったわ。簪ちゃんが尻軽だとか売国奴ーなんて言われたらお姉ちゃん何をしちゃうか分からないわ」

 

 笑顔で怖いことを言う。

 簪を思っての事だろが、おそらくそれは楯無自身が。

 

「まあ、私の妹ってことでそういうこと言われる可能性は全然あるだろうけど」

「だとしても簪なら気にしないし、負けはしないはずだ。楯無の立場や事情もよく理解して気持ちを汲んでくれるだろう」

「当然ね。簪ちゃんは自慢の妹なんだから。賢くて……そう、強い」

 

 思いを馳せるような表情を楯無は見せてくる。

 確かめるまでもなく思いを馳せる相手は簪。

 そして、今楯無が思い浮かべる顔をしていてその脳裏には。

 

「さっきの簪のことを?」

「ええ。本当、強くなったなぁと思って。ああいうパーティーごと嫌いなのに私のことを気遣ってくれて、自分から残ってくれた。立派になったわね」

「嬉しそうなのに、どうしてこちらを睨む」

 

 睨むというよりかはジト目と言えばいいのか。そんな目を向けられる。

 

「だって嬉しい反面、悔しいんだもの。可愛い可愛い妹の成長にもっとも貢献してたのが私じゃなくてテオ、あなたなのよ? 姉としての自信がね」

「そういうもの……なのだろうな。俺としては簪の力になれていたのなら光栄な限りだ」

「こういう時謙遜しないのフランス人らしいというかテオらしいわね。テオっていうきっかけ、心のよりどころは大きいけどやっぱり簪ちゃん本人が頑張って成長したっていうのが一番の成果よね。簪ちゃんは変わっていける。どこまでも」

 

 簪の成長を喜んでいる。

 それでいながら、何処か羨ましく思っているように見えた。

 

「羨ましいか、簪が」

「ストレートに聞いてくるわね。顔に出ちゃってたかしら。羨ましい、かぁ……そう、なのかも。羨ましい……成長していける簪ちゃんが……いや、簪ちゃんだけじゃない。篠ノ之束や織斑千冬、自分の思うがまま世界を変えていける人達が」

 

 楯無にとってはあの二人はそういうカテゴライズなのか。

 織斑千冬はどうかと思うが、篠ノ之束はまさに楯無が言った通りの人間ではある。

 

「世界を変えたいのか?」

「例えよ。世界を変えられるほど力や能力があれば、何も苦労はしないんじゃないかと幼い頃は単純に思って。簪ちゃんを守りたかったから。それに家系が家系だからいろいろ厳しいものを少なからず見てきたわけだし。テオも似たようなものでしょ?」

 

 頷いて同意してみせた。

 毛色こそは違うが、力ある家に生まれると幼いころから確かにいろいろ厳しいものは見てしまう。オマケにお互い長男と長女、見る頻度は必然と高まる。

 

「それで当主の座を目指して?」

「まあ、それだけじゃないけどね。長女だから次期当主になるように育て、教えられた以上の価値を示して無事、楯無を襲名。歴代最年少。めでたしめでたし」

「とはいかなかったと」

「当たり前にね。当主になったからそれでゴールっていうことはなくて新しいスタート。見えなかった世界が見えるようになる。世界が広がる」

 

 立場が変わる。上の立場に着くと見えるもの、見れるものは変わってくる。

 しかし、それが一概にいい方向に働くとは限らない。

 見たくないものだって見えてしまう。

 

「自分や楯無の立場をより自覚させられるというか、当主になっても上には上にいて、使われる立場のまま。こんなにも大きな歯車の集まりの一部なんだと突き付けられて、責任ばかり増えて。教えは厳しかったけどお父様には大切されてたんだなって実感は出来たけど」

「しかし、不満というわけではないだろう?」

 

 一見愚痴のようにも聞こえなくはない。

 けれど、これは不満からくる愚痴ではない。

 言うなれば、当主になって分かったことに対しての感想みたいなもの。

 

「そりゃね。愚痴っぽくなっちゃったけど不満なんてないわ。私が望んでなった当主の座だもの。ロシア代表になることも、それであれこれあるのも覚悟の上。選択肢があってないようなことも分かってた。そうあれと望まれるのならわたしはそう振るまうだけだから」

 

 どこまでも気丈。楯無はそうあり続けようとする。

 しかし、手のひらを見つめる楯無の瞳は心もたなさそうに揺れている。

 

「なのに、どうしてかしてかしらね。周りが遠く感じることがあって……これじゃあ、まるでわたし――」

 

 ハッとした顔をして、楯無は慌てたように口を手で覆った。

 零れ落ちそうになった。刀奈としての本音が。

 楯無自身その自覚はあるようで本音を奥へとしまい込むように言葉を飲み込んでいた。

 

「っと、ごめんなさい。ダメね、私。こんなの楯無じゃない。テオの前だとつい口が軽くなっちゃう」

 

 佇まいを正すと扇を広げ、口元を隠す。

 そして、いつもの調子で苦笑いを浮かべていた。

 

「俺としては嬉しい限りなのだがな。おかげでまた一つ楯無のことを、刀奈のことを知ることが出来た」

「もう、そんなこと言って。というか、あまりその名前で呼ばないで」

「気を悪くさせたか?」

「そういうことじゃなくて。テオに呼ばれるとその……ちょ、調子狂うのよっ」

 

 そう言った楯無は恥ずかしそうだ。

 

「クククッ。刀奈は愛いな」

「こぉらっ、そうやってお姉さんをからかわないのっ。まったくもう」

 

 お姉さんと自称する割には拗ねる楯無は幼く、やはり可愛らしかった

 

「まあ真面目な話、立場は勿論国すらも違うから難しいものもあるだろうが力になろう。楯無も刀奈も俺の大事な人だからな」

「ッ、またそういう言い方をして本当ずるい人……どうせ、大事な友達とかなんでしょう?」

「そこは好きに解釈してもらっていい。何せ俺はずるい奴だからな。だが、自分の気持ちに嘘はつかんぞ」

「でも、楯無と刀奈どの私もテオに大事に思われてるのなら悪くはないわね」

 

 隠すことなく見せてくれたその笑みは幸せそのものだった。

 しかし、見れたのも束の間。こちらが見ていることに気づくと誤魔化すように話始める。

 

「あ~あ、もうなんだかすごい借りを作っちゃった気分だわ。これは返すの一苦労しそうね」

 

 それを聞いてある考えが過った。

 たった今なのはどうかと思うが、言うならこのタイミングしかない。

 そして相手は楯無を置いて他にはいない。

 

「なら、一つ頼まれてくれないか?」

「頼み? ええ、いいけど」

「ありがとう。織斑千冬、彼女の弟のことでなんだが――」

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