皆に愛され 覇道をゆく天才の物語   作:水戸野幸義

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デーンデデーン!デデン!デデッデーン!デンッ!


STORY23 激突!覇者vs亡国からの使者!

「オラオラァッ! 避けてばっかりじゃねぇか! その腰の得物は飾りか? 情けねぇ! 天才の名前が泣くなぁ、テオドール・デュノア!」

 

 突然現れ、戦闘になったが次第に状況と相手を把握できてきた。

 目の前のそれは紛うことなきEOS。しかも、何の悪戯なのか機体は純粋にEOS化したザクII 。頭部にブレードアンテナを持っていることからして、指揮官用ザクII 。赤紫とオレンジを基調に塗装されている。

何故奴がEOSを、この機体を持っているのか。そもそも誰がどのように開発したのか。次から次と疑問は思い浮かぶが、今考えても仕方ない。

 今はっきりとわかることがあるのなら中の装着者についてだ。引きずり出すまでもない。あの女だ。

 

「何者!? 名前と所属を明らかにしなさい!」

 

 呆気に取られてた楯無だったが、我に返ると警戒しながら問いただす。

 普通なら答えないところだが、この女は普通じゃない。

 

「何者と聞かれたら答えてあげるのが世の情けってなぁっ! よ~く聞けよ、栄えある秘密結社『亡国機業(ファントム・タスク)』が一人、オータム様だ!」

 

 隠す素振りもなく、あっさりと答えてくれた。

 むしろ、誇らしげだ。

 思えば、原作(俺が知る世界)でも自分から名乗っていた。こういう性分なんだろう。

 

「こっちが名乗ったんだ。名乗ったらどうなんだよガキ、戦の作法も知らねぇのか。最近のガキはなってねぇな、人として当然だろうが!」

「すまない、育ちがいいものでな! 危ない人に名前を教えるなと母上から教わっている!」

「ハッ! お高くとまりやがって、むかつくクソガキだ! てめぇはよォッ!」

「しかし、こちらも抜かねば不作法というもの」

 

 刀の持ち手、柄に手をかける。

 ここで逃げようとしても逃がしてはくれない。逃げれば、周りへの被害はそれ相応になる。そもそも逃げるなんていう選択はナンセンスだ。

 かといって避け続けるのは可能だが、時間の無駄。この状況を更識家以外に勘づかれる可能性は充分ありえる。そうなれば、確かめたいものも確かめられない。

 漸く、敵ネームドと会えたんだ。気になることはこの手で確かめるのみ。

 

『簪、抜刀の許可を。迎え撃つ!』

『は、はいっ。えっと、武力行使確認済み。抜刀許諾』

【抜刀許諾完了。安全装置解除】

 

 カチリと音が鳴り、刀を抜けないようにしていた鞘のロックが外れた。

 刀を抜き、構える。

 

「生意気にやる気か! いいぜぇ、オータム様の恐ろしさをたっぷり味合わせてやる!」

「そうかい! それは楽しみだ!」

 

 刀を振るい放つ剣撃の数々。

 この機体も他のEOSに漏れず、一歩遅さを感じさせるがそれでも中々の柔軟さがある。

 

『ちょっ、テオ!? そんな一人で!』

 

 飛び込んできた楯無からの通信。

 状況を目の当たりにして驚き慌てている。いきなりこんな光景を見せられればそれもそうか。

 

『俺が初めての機体で上手く戦えるか不安かもしれんが、俺に任せてくれればいい。楯無は周囲の警戒を』

『私の心配はそういうんじゃなくて……でも、そうね。悔しいけど、足手まといになる。分かったわ』

『それから簪、状況をモニタリングしているな』

『は、はいっ』

『なら、データの収集と解析を頼む』

 

 情けなく悔しいがこの戦闘で決着はつかないだろう。

 そして、そうなるとまた戦うことになる。

 それまでの間、多少になりと時間は生まれる。無駄にするのは愚かで、時間があるのなら研究と対策は重要。

 その為に映像や観測し蒐集できた数値データはあるにことしたことはない。それは経験にも言える。

 

「中々やるじゃねぇか、天才さんよ! これはどうだぁっ!?」

 

 自信たっぷりに降られる斧の連撃。

 中々速度と精度。

 しかし、如何せん殺意が滾りすぎている。プレッシャーはかなりのものだが、あまりにも直線的すぎる。だからこそ、読みやすい。

 

「甘いな!」

「なっ! ガァッ!?」

 

 戦いが始まって早数分。

 戦況としてはこちらが有利。押している。向こうもそれを理解しているようだが、当然認められるかとムキになっていく。おかげで冷静に分析できる。分かってきたことは多い。

 

 まずは機体。完成度は高い。

 作りに雑なところはない。忠実に作られている。

 本当にスケールダウンしたような機体。動力こそは他のEOS同様バッテリー駆動のようだが、ポテンシャルはオリジナルと変わらず。

 それから、この女は戦い慣れしていてもEOSに慣れてない。動きの節々に反応の悪さに戸惑うようなそぶりが見え隠れしている。

 

「ッア゛ア゛! クソが! このオータム様がこんなっ!」

「クッ、使いにくいッ」

 

 弾き合い、距離を取る。

 有利なのは変わらず。だがしかし、圧倒できてない。

 俺もまた刀の扱いに戸惑っていた。刀を使うのなんて今回が始め。普段、西洋剣ばかり使っているツケだな。今後はもっといろいろなものを試していくべきか。

 

「しゃらくせぇ!」

『楯無、警戒レベルをあげるぞ。新手が来る』

『えっ?』

 

 オータムが宣言するよりも早く、通信で楯無に注意を促す。

 今だレーダーに新たな機影はない。だが、プレッシャーの数が増えた。そして、こちらへと向けられるプレッシャーの密度は強まっていく。

 

「こうなったらこの手だ! お前らあのクソガキをやっちまえ!」

 

 怒声と共に現れたのは予感通りの新手。

 

『敵機反応、数3! テオ、お姉ちゃん!』

『あれは報告にあったドイツのEOSもどき!?』

『ここで再会とは!』

 

 新手とはドイツで見たEOSもどき。

 楯無達は姿を見ただけで気づいていた。更識家も結構深い部分まで知っているのか。

 

「EOSを揃えてるのはテメェだけじゃねぇんだよ!」

「そのようだ!」

 

 よく数揃えられた。いや、それよりもよく日本に持ち込めて今まで隠れられてたな。内通者ないし協力者がいたか。数は小隊規模。第二波がまだ潜んでいる可能性もなくもないが奴の性分、ムキになり具合を思うにその可能性は低い。

 

 それにドイツでの一件で出てきたのもこいつらと同じ機体。つまりは亡国機業所属。

 あの時は予想出来ていても不確かだったが、今こうして亡国機業自ら答え合わせをしてくれた。

 

「太っ腹とはこういうことを言うんだったよなァッ、亡国機業! 答え合わせをしてくれたのといい、やられ役を揃えてくれたこといい! 大盤振る舞い感謝するぞ!」

「何ボケたこと言ってんだ! アホ御曹司、後悔しろや!」

 

 そう言いながら構えてきたのはザクマシンガン。

 EOSもどきと共に撃ってきた。

 轟音。こちらへと疾風怒濤の如く掃射される銃弾の数々。

 隊列を組んで正面から行う一斉射撃の攻撃力は中々侮れない。この戦闘スタイルといい、敵機のフォルムといい。だんだん見えてくるものがあるような。

 

「どうだ! 鋼髏(ガンルゥ)3機による数の暴力は!」

 

 鋼髏(ガンルゥ)――そうだ、そんな機体あった。

 頭の片隅に追いやられていた知識が脳裏に思い浮かぶ。

 この機体もザク同様にEOS化されている。この世界にはありえない機体。俺は関与してない。

 あのザクといい、俺の知らないところで何かある。よくある俺と同じ境遇の者が他にもいて、亡国機業についたパターンも安易な考えではあるが、可能性は捨てきれない。気がかりだ。

 だからこそ、今はこの状況をどうにかしなければ、気にはしていられない。

 幸い分かりやすいあの女の狙いはハッキリとしているから、打ち砕くのみ。まず第一の狙いが数的有利による圧倒。

 第二が楯無。楯無も狙われているのだから、俺の気は取られる。そう思うだろう。そうすれば、最後の狙いは。

 

「お見通しである!」

「なっ、何ィッ!? ぐアっ!」

 

 ダッシュローラーをふかし弾雨を掻い潜り、女よりも先に一太刀浴びせる。

 一斉射によって作った隙をつくつもりだったのだろうが、ご破算にした。崩れる体勢。それが隙になる。その土手っ腹に蹴りをお見舞いしてやった。

 からの、蹴った反動を利用して加速。向かうは楯無の元。

 

「くっ! ッ、はぁあっ!」

 

 多少掠りはしているもののしっかりと銃弾を捌き、回避を成功させている。

 更に加えて言うのなら、流石は楯無と言うべきか。刀で反撃も試みている。楯無の太刀筋は綺麗。なるほど、そう振るんだったな。

 そして、派手に蹴っ飛ばしたことでEOSもどき共には少なからず動揺が走っている。そこが狙い目。

 

「貴様たちの登場のおかげだ、刀の扱いが分かって来たぞ! 練習相手になってくれてありがとう!」

 

 接敵は一瞬。

 乱れ打つ波の流れを描くように刀を振るう。すると、鋼鉄を斬り裂く音色が斬、斬、斬と絶え間くな響けば切り離れる両腕に備え付けられた折り畳み式の固定マシンガン、両脚。

 眼前で力なく崩れ落ちていく。奴らは全機、EOSもどきから鉄屑という正しい姿になった。

 

『楯無、大事ないか』

『え、ええ、助かったわテオ』

 

 楯無に元にたどり着くと警戒態勢を取りながら通信を繋げ刹那の休息。

 

『奴らの無力化は成功した。しかし、気を緩めるなよ』

『まだ増援が?』

『いや、こういう時にはお決まりの展開がある。だろう、簪』

『そうだね……武装や脚部を無力化しても機能自体はいくつか生きてるから最悪自爆するかも』

『ということだ。日本としても聞きたいことは山々。機体を無力化しつつ五体満足で済ませてやったんだ。勝手に死なれては困る』

『そうね。私はひとまず搭乗者の確保を優先するわ』

『よろしく頼む。とっ、もう復帰か』

 

 蹴っ飛ばされた衝撃から復帰し、ふらふらと立ち上がりながらも長斧を構えてくる。

 

「くそが! くそが!」

「お仲間はご覧の通りだ。大人しく投降すれば、然るべき手段で貴様を処罰してやるがどうだ?」

「オータム様をなめんな! 勘違い野郎! まだ終わっちゃいねえってんだよ! オッラァァッ!」

 

 激怒しながら叫ぶと斧を構えながら疾走してくる。

 よほど頭に来たのだろう。それ故にこの身を襲うプレッシャーはこの戦闘で感じた中で最も鋭く強い。

 それでいて怒りを戦闘力を高めるエネルギーへと変換でき、動きを読まれると分かっているからこそ、真っ向勝負を挑んでくる。

 この辺、粗暴な性格だとは言え戦士として本物なのだろう。気持ちが正しい方向に注がれ、身体能力と機体性能が合わさったその疾走はこれまでとは比べ物にならないほど単純に速い。

 心技一体はいつの世も成功すれば更になる力を生みやすい。

 

 反面、やろうとしていることは単純明快。

 感じ取るまでも、読むまでもない。

 居合の体勢でドンと構え待ち。

 

「ならばさぁ!」

 

 龍が翔び上がり一閃を描くような一振りの太刀筋。

 相手が振るうよりも先、更なる速度で斬り上げの抜刀を放った。

 

「っ!?」

「チィ、甘かったか」

 

 抜刀は当たったには当たった。

 斧の持ち手部分を両断。攻撃の阻止には成功。

 しかし、慣れてなさゆえに斬り込みが甘かった。

 だが、許容の範囲内。刀の先が当たり、頭部の顔面装甲を斬り裂いた。

 ぱっくりと綺麗な形で二つに割れる頭部。露になる女の綺麗な顔。驚いた表情がくっきりと見える。

 

「ようやく顔が見れたな! ファントムタスクのオータム!」

「ッ!」

 

 今後にわたって戦う相手の顔をついに拝めた。

 

「これで!」

 

 殺しも傷つけもしないがここで止まってはもらう。

 意気込み、とどめの一閃を叩き込もうとした刹那。

 

「――」

 

 感じたまたもや新たなプレッシャー。身を劈く死の寒気。

 まずい。そう思ったのとまったく同時に攻撃をやめ、意識と動作を即座に回避へと注ぐ。

 女を守るように振られつつあるカタールを紙一重で避け、地を蹴って距離を取った。

 

「ドイツの時が可愛く思えるぐらい随分と恐ろしいほど成長しちゃってまあ。天才御曹司の噂は嘘じゃないってことね。EOSのままISの攻撃をこんな綺麗に躱すなんて」

 

 その言葉と共に俺とオータムの間へと割り込んできた新たな敵機。

 メカメカしいフォルムを持つEOSとは打って変わって、女性的なフォルムを持つIS。

 灰色のそれは二本の足が長いことやフルフェイスマスクが複眼なことといいどことなく蜘蛛を連想させられる。

 

「派手にやられたわね。ほら」

「……ッ、サンキュ。って、おいっやめろってこんなところで」

「何言ってるの。顔汚れてるじゃない。傷はないみたいで何よりだけど」

 

 左右それぞれの手に持ったカタールを量子変換して仕舞うと地面に座ったままのオータムへと手を差し伸べ、引っ張って立つのを助けた。

 かと思えば、土埃で汚れたオータムの顔を指で優しく掃う。そのしぐさにオータムは照れていた。

 何だ、突然目の前でイチャつき出した。この状況で余裕なのか。数では互角だが、ISとEOSでは戦いにならないからなのだろうが。

 

 余裕を見せてくれたおかげで分析、考える時間は出来た。

 フルフェイスマスクで顔は確認できないが、オータムの仲間。それもここまでの親しさ。思い当たる人物と言えば、片割れ。奴らのリーダー各にあたるアイツか。

 それにこのIS。機体色や姿は覚えているのと大分違いあの姿になる前段階といった感じだが、今の時期を思えばあの機体に間違いないだろう。

 

『新手……どうする、テオ』

『様子を見守るしかないな。簪、そちらからも外観のデータは取っといてくれ。状況次第では俺達が持ち帰るのも難しくなるかもしれんからな』

『えっ……う、うんっ』

 

 通信でそんなやりとりをしながらも警戒し続ける。

 新手。それもIS。

 よくないな。状況はどうとできるから兎も角として、無理はよくない。いろいろな意味で。

 さて天才テオドール、ここからどう出るこの事態。

 

「さて、帰りましょう」

「ちょっと待てよ! 私は最後まで戦える! スコー、むぐっ!」

「し~ここでそれは禁句よ。状況を見なさい。あなたは頭部マスクを破壊されて、ボロボロ。エネルギーもそんなに残ってないんでしょう? 何より、第一目標は達成。第二目標であるそこの天才御曹司の戦闘データも取れた。要は済んだわ」

「しかしよぉ」

 

 口元に人差し指を当てられ宥められてるが納得はいかない様子。

 

「戦う機会は今後もあるわ。次はあなたにお似合いのこの子でね」

「っ! そうか、そうだな!」

 

 EOSを身に纏ったオータムを両腕で抱きかかえると灰色の蜘蛛はゆっくりと上空へ上がっていく。

 

「逃げる気!?」

「見て分からない? 用が済んだから帰るだけよ。また会いましょう。更識楯無さん、そしてデュノアの天才御曹司テオドール・デュノア君」

「次はボコボコにして絶対泣かしてやるからな!」

 

 姿が遠ざかっていく。

 当然、楯無は止めようとするが。

 

「せめて少しだけでも引き留めるぐらいは……!」

『ちょっと待ってくれ、楯無』

『えっ!?』

『すまない、機体が停止した』

 

 片膝着いた状態から動けなくなった。

 コンソールには各関節部のダメージを現す表示。戦闘での無理が祟った。特に先ほどの回避が決め手になったらしい。

 幸い通信機能を始め他の機能のいくつかは生きている。だからこそ、楯無からの通信もガンガンに入ってくる。

 

『一人であんな無理するから!』

 

 語気が荒い。

 心配してくれているのだろうが、心配したところで俺が反省するとは思ってないだろうからこそ、叱りつけてくる。

 

『そうは言うがこうするよりも他なかった。この機体をお釈迦にしたのは返す言葉もない。奴らを逃がしたことについても』

『もうっ、私が言いたいのはそういう事じゃなくてっ』

『お姉ちゃん、落ち着こう。またテオのペースに乗せられてる。でも、テオとお姉ちゃんが無事でよかった』

 

 冷静沈着な声が俺と楯無を落ち着かせてくれる。

 

『こっちから確認できる敵勢反応はなし。応援呼んだけど、捕まえた敵パイロットのこともあるからうちの人に向かってもらうね』

『ああ、助かる。ハッチを解放する』

 

 もう敵がでくることはない。敵意の気配もない。ハッチから外へ出てると辺りを見渡す。

 撃破したEOSもどき達の残骸。捕らえた敵パイロット。地面にはいくつもの激戦の跡。

 敵ネームド。俺の知らないEOS。そして、あのIS。

 こちら側は特にこれといった損耗はないにも関わらず、何とも後味の悪い終わりだった。




オータムさんは蜘蛛の機体を使う。ということは蜘蛛。つまりはそういうこと。
一人でにチンピラムーブしてくれるオータムさん好き。真面目させてもギャグさせてもおもしろい人だから最高。

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