皆に愛され 覇道をゆく天才の物語   作:水戸野幸義

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お久しぶりです。
原作開始まで書き溜めが用意できたので随時更新しています。
お付き合いよろしくお願いします


STORY24 悲愴・覇者が見届けた家族の別れ

 織斑千冬の弟を誘拐した事件は一応の終息を迎えた。

 ドイツからの情報提供で発見できた為、協力報酬として織斑千冬が戦技教官として出向することは確定した。変わらない歴史の流れ。

 

 だが楯無のとある提案により、首謀国ないし協力国は絞り込むことは出来た。この時期からこの情報を手に入れたのは大きい。日本、更識家も調査すると言っていて、今後のことに役立つ芽を出せた。

 それは事件の裏側で起こった亡国機業襲撃でも言える。今の時期に亡国機業、それも敵ネームドであるオータムと出会えるとはまさに青天の霹靂。

 加えてドイツの時に見たEOSもどき、そして把握してなかったザクⅡをEOS化したような敵機。終いにはオータム、奴の愛機になるだろう機体の前身にあたるものまで出てきた。中身はあいつだろう。

 

「しかし、ザクⅡとは……あてつけか」

 

 ドイツのEOSのモデルをドムにしたからザクとした。

 この繋がりを連想して、このデザインに出来る者はこの世界にそうはいない。

 そうなるとやはり、同類の存在が考えられる。推測の域を出ないが、考慮してもいいだろう。

 

 知れたことは多いが、確かめられたことは限られている。

 EOSもどきが亡国機業のものだと分かっても、捕まえたパイロットから聞き出せたのはドイツの時と変わらなかった。パイロットは全員雇われたフリーの傭兵。簡単な操作説明を受けただけで、それ以上の情報は持ってない。何なら、オータムの顔すら見てなかった。

 

 それでも調査は更識家と共に進めているし、時間があるから予想は立てられる。

 この世界に存在しないはずの把握してなかった機体というイレギュラーはいるが、それを言うのなら俺もまたイレギュラー。幸いデュノア社、原作知識(与えられた知識)がある。どうとでもする。何より、まだ始まっちゃいない。本当の始まりは先のこと。時間はまだある。

 

「――ふむ」

「テオ、また難しい顔してる。あまり根詰めすぎないでね。これ、お茶だよ」

 

 そう言ったのはお茶を持って部屋に訪れたシャルロット。

 普段通りの日常。母国フランスに帰国して数日経つわけだが、平穏が戻ってきた。日本の一件、母上や父上に叱られたものの伯父殿からは一言二言の小言を言って。

 

『過ぎたことはいい。とにかく働け。私の望みはお前なくしては難しいだろうからな』

 

 というだけ。

 構っている余裕がないことは言われずとも分かっている。

 時間があるものがいれば、時間が限られているものもいる。

 

「イリスさんは変わりないか」

「……うん、いつも通り。起きてられるからテオのお世話、自分の仕事をして来いって」

 

 旅立つ前と帰国する後でイリスさんの体調に変化はない。

 悪化はしてない。かと言って、良くもなってない。以前変わらず、悪いままだ。良くなることもないだろう。

 このままだとどうなるかは言うまでもない。砂時計が零れ落ちるようだ。

 

 誰も彼も、そして当然シャルロットもそれことが分からないわけではない。覚悟はしてある。

 それでもシャルロットが辛くない訳でも、悲しくない訳でもない。表に出ないよう堪えているのが伝わってくる。

 

「そうか。心配だろうがデュノア両家一丸となっている。俺も伯父上から言われたことに力を尽くしている」

 

 今俺が出来ること、今俺がやるべきことと言えばこれだ。

 ISの研究。それによって、イリスさんの延命を行う為の方法を確立すること。

 亡きオルコット夫妻から託されたISと人間の生体融合処置の方法。救命領域対応。ISの自己修復機能。これらの組み合わせれば、延命できる仮説は立てられた。だが、後一つ足りない。

 

「だから、その何だ」

「分かってる。私なら大丈夫だよ。私にはテオがいるから」

「そうだな。シャシャには俺がついている」

 

 

◇◆◇◆

 

 

 デュノア社、社長室。

 そこに社長である伯父殿、そして俺の姿はあった。

 

「ついにか! 悲願がようやく!」

 

 報告を終えるなり、伯父殿は歓喜していた。

 俺の前だというのに心の底から純粋に喜んでいる。まるで幼い少年のように。

 こんな伯父殿を見るのは初めてだ。

 

「流石は我が甥! よくぞ、やってくれた! コード・グリーン……生命の緑か」

 

 こうなって当然か。

 延命できると仮説立てた3つの機能を同時に連動させ、効果を最大限発揮する≪コード・グリーン≫の発見に成功した。

 これにより、延命方法を一応確立することは出来た。今はまだシミュレーション上のみだが、問題なく連動し確かな確率で延命は可能という結果が出た。

 

「先ほども申し上げましたが、この報告結果はあくまでもシミュレーター上のものだというのは心得ておいてください」

 

 物が物だけに実際に試して検証してみるというのはできない。

 それに処置後、どうなるかも更に未知数だ。

 実地検証が出来ないのならシミュレーター上でもいいから検証しなければならないことは多い。

 人の命、それも身内の命がかからっているから尚更。第一、条約違反だ。

 

「分かっている。しかし、何も手立てがなかったことを思えば何もないよりいいだろう」

「それは確かに」

 

 イリスさんの病気を治す、よくする方法はこれまでなかった。

 デュノアの力、医療を持ってしてもだ。

 しかし、今は最後の手段はできた。何もないよりかはいい。

 

「それから家族の皆にも説明させて頂く。伯父上が万が一のことをしない為にも」

「はっきり言う。まあ、好きにするといい。口うるさい我が甥よ、まったく愚弟に似なくていいところばかり似てきよってからに」

 

 伯父殿の声が明るくなったのを久しぶりに聞いた。軽口を叩けるぐらいには叔父上にも余裕が出来た。

 ここのところずっと根を詰めていたのを思えば、いい傾向ではある。

 だが、油断はできない。俺も伯父殿も。

 

 選択肢は増えたが、何も解決はしていない。

 まだまだ他の手は考え、探す必要はある。以前油断ならない状況のまま。

 だからこそ、最終的にこれしかないとなれば伯父殿は迷いなくこの手段を強行する。

 それこそ、処置される当人イリスさんの意思を無視しても。

 

 伯父殿はそういう人だからこそ、俺としても油断はできない。

 伯父殿の止めるのが俺の役目だからだ。

 結果どうなるかを識っているからこそ。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ということです」

 

 会社からアルベール一家の屋敷に向かった。

 そして、処置を発見したことやそれを聞いた伯父殿の様子を家族の皆に詳しく説明した。

 

「そう。そんな処置が」

 

 真っ先に口を開き言ったのは伯母殿だった。

 驚いた様子も困惑した様子もなく伯母殿はただ事実を受け止めている。

 

「見つけてしまったものは仕方ない。それに何も手立てがなかったことを思えば何もないよりいいわね。アルベールの様子を思えば尚更」

「伯父上も同じようなことを言ってました。何もないよりかはいいと」

「それはそうよ。手段があるってだけで心に余裕は生まれる。悪いことだけではないわ。あなたは伯父の命に従ったまで。そして、知った私達のスタンスは変わらない」

 

 ロゼンダ・デュノアという女性は原作(俺が識る世界)からして強い人だ。

 禁忌に手を出してまでもシャルロットの母親を救いたいという強い思いを突きつけられても尚ぶれない。

 本妻である叔母殿がこうあってくれるのだから、周りもぶれないでいられる。

 

「そうだね。何も変わらない。兄上が処置について知ってしまったのは正直、困ったけど知るのは時間の問題だったはず。今も昔も兄上が道を逸れないよう支えるのが僕、僕達サンソン一家の役目だ」

「ええ、そうね」

 

 父上と母上がそうなように当人であるイリスさんもまた。

 

「本当に申し訳ないばかりです。ですが、手を煩わせるつもりはありません。余命いくばくもないのは神が定めてくだった天寿なのだと覚悟しています」

 

 神。その言葉を聞いて、脳裏に浮かぶのは転生する時に会った女神、そしてあの時の出来事。

 神が定めてくだった天寿と言えなくはないか。

 

 皆ぶれることなく、覚悟をしている。

 それはシャルロットにも言える。

 ぶれないよう、覚悟が揺るがないように必死に踏ん張っている。

 それでも心配なのは変わらない。

 

「お母さん……」

「そんな顔しない。何も今日明日のことじゃないと思うわ」

「そうね、イリスには最後の最後まで頑張ってもらわなくちゃ。この私があなたのこと諦めてないんだから」

「はい、もちろんです。ロゼンダ様」

 

 イリスさんと伯母殿が手を取り合う。

 それを見てシャルロットは少し安心できたようだった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 安心は束の間のこと。

 結局他の手は見つからず、本当に定められていたかのように別れの日は突然やってきた。外は気持ちのいいぐらい晴れているのがあてつけかのようなそんな日。

 イリスさんは弱りきり、今日この時が峠。今以上に手の施しようがなく、イリスさんのいる部屋に家族全員が集まり、別れの言葉を交わしていく。

 

「いってしまうのね、イリス」

「はい……申し訳ございません、ロゼンダ様。勝手ながらお暇を頂きます」

「本当勝手よ。勝手に現れて、アルベールの昔の女でしかも子持ち。私が欲しいもの全部持っていて、また勝手に去っていく。正直、あなたのこと憎かったわ。でも……イリスと過ごした今日まで楽しかった」

「ありがとうございます。私も楽しかったです」

 

 弱りきった身体ながらも嬉しそうな笑みを浮かべるイリスさんと素直に気持ちで優しい笑みを浮かべる伯母殿。

 悔いが残らないよう、悲しくても辛くてもしっかりと最後の会話を楽しむ。

 

 だが、誰もが伯母殿達ほどしっかりと話せるわけではない。

 むしろここで話してしまうと、イリスさんの死を回避できないと思い鼻差ない意固地になっているものもいる。

 誰という物でもなくそれは伯父殿。見かねた伯母殿が伯父殿の背中を押す。

 

「ほら、アルベールも。こんな時まで子供染みた意地張らない」

「別に私は意地など……張っておらん。いや、逆に問いたい。何故お前達はそこまで物分かりがいいんだ! コレを使えば、すべて解決するかもしれんというのに!」

 

 伯父殿の手にはコスモスの花を模したネックレス。

 筒状花の部分が緑色の水晶になっている。緑色は生命を現す。

 伯父殿はあの処置を形にした。ただ形にしただけ。やはり、実地検証なんてできるわけもなく、かといって他の手はない。

 だからこそ、伯父殿は言い方は最後の手ぐらいそうであってほしいと願いを込めたもの。

 

 イリスさんはネックレスを手に取り握る。

 一度断った処置を受け入れたわけではなく、伯父殿の気持ちを受け止めるような握り方。

 

「ああ……ここまでしてくれるなんて。私は果報者ね。本当に幸せ。ありがとう、アルベール」

「礼などッ! ようやく共に暮らせるようになったというのに! 失うなんて俺はッ!」

「確かに私はもう居なくなるけど、アルベールにはまずロゼンダ様がいる。サンソン一家の皆様も。そして何より、シャルロットがいる」

「シャルロット……」

「まだ幼いこの子をどうか愛し、この子がこれから進む道を助けてあげて。そして、どうかシャルロットには自由で素敵な人生を」

「あぁ、ああッ! 分かったッ!」

 

 何度も深く頷くとネックレスを握るイリスさんの手を取って握り床へと座り込む伯父殿は涙を流していた。

 そんな叔父殿に優しい視線を向けながら、イリスさんはシャルロットを手招きした。

 その手招きは力なく弱々しい、けれど表情は笑顔の花が咲いている。

 シャルロットは心配そうな顔をしながら近づき、手招きするその手を取った。

 

「お母さん……」

「そんな顔しないで可愛いシャルロット。あなたにはデュノア家の皆様が、そしてテオドール様がいる。一人じゃない。物心ついたころからずっとお母さんを支えくれてありがとう、産まれてきてくれてありがとう」

「ッ! 私こそ、ありがとう。産んでくれてありがとう。お母さん一人でもこんなにもちゃんと元気に育ててくれてありがとう。いっぱい、いぃぃっぱい愛してくれてありがとう! 本当にありがとうッ!」

 

 溢れ出す言葉と共にシャルロットの瞳からは涙までもが溢れ出した。

 ずっと我慢し続けていたんだろう。一度流した涙は止まらない。

 

「やっと泣いてくれた。どんな時も泣かずに我慢してばったりだったから。我慢させてた私が言えることじゃないけど、嬉しい。本当にありがとう」

「うん、うんっ!」

「すっごく寂しい思いをさせるけど、寂しいばかりじゃないわ。シャルロッにはこれからの未来がある。自由に生きて、シャルロットがしたいと思うのままに」

「私のしたいと思うまま……」

「友達と仲良く過ごすとか。大切な人を好きになって、恋をして愛するのでもとかたくさんあるわ。今までお母さんのために頑張ってくれた分、いっぱい自由を」

「うんっ! 分かったっ!」

「お父さんとも仲良くしてあげてね。この人、意地っぱりだけど素直な人だから」

 

 友と友。従者と主。妻と夫。母と娘

 別れの言葉を惜しみなくかわした。

 感じる命を火で表すのなら、小さな息ひと吹きで消えるほど。本当に間もない。

 それでもイリスさんは言葉を紡ぐ。

 

「テオドールさん」

「はい」

「あなたとの出会いが全ての始まりでした。あの出会いこそまさに神からの贈り物。名は体を表すとは本当でした。言われるまでもないことではありましょうけどどうかシャルロットを、デュノアの皆様を」

「ええ、もちろん。その願いたしかに受け取った」

「あぁ……ありがとう。本当に」

 

 感謝の言葉がイリスさんが最後に言った言葉。

 天へと召されていった。

 




久しぶりの更新なので感想などお待ちしております。
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