皆に愛され 覇道をゆく天才の物語   作:水戸野幸義

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祝一万文字越え!


STORY28 その者、男でIS乗り

「ここだな祭りの会場は」

 

 眼前に見える建物を見て思わずそんな感想が出た。

 だが、突然の言葉に隣にいるシャルロットは不思議がる。

 

「ま、祭り?」

「だって、そうだろ? これからこの学園で祭りのように楽しい日々が始まるんだ」

「そう言われれば……IS学園の生徒さんは個性的でイベントごとも豊富だって聞いたことがあるから言えてるのかも?」

 

 今日、IS学園へついにやってきた。

 引き継ぎや調整などあれこれしていて来日が昨日になってしまったがホテルに一泊してついに今日来れた。

 

「何はともあれ行こうか」

「うん」

 

 浮足立つ気持ちを抑え、足を進める。

 向かう先は本校舎の受付。来たらまずそこに顔を出すように言われている。

 あることをする為に。

 

「テオドール・デュノアさんとシャルロット・デュノアさんですね。ご入学おめでとうございます。お二人のことは聞き及んでいます。今教員の方を呼びますので少々お待ちを」

 

 俺達のことを向こうはきちんと把握してくれていたようで食い違いはなかった。

 しかし、学校が始まる前でもおそらくこれから2年生、3年生になる在校生はちらほらといて俺は目立つ。

 これから嫌でも体験することだ。それも何度も。慣れていかなければな。

 

「お待たせしました。デュノアさん」

 

 その言葉と共に現れたのは女性二人組。

 よく識る二人。片や一人は会ったことがある人物だ。思えば、あの時以来か。

 

「ご入学おめでとうございます。私はこのIS学園で教員をやっている山田真耶と言います。こちらが」

「同じく教員をやっている織斑千冬だ。まあ、お前相手に今更自己紹介は要らんだろうが一応な」

 

 やってきたのは山田真耶と織斑千冬。お馴染みの二人だ。

 これから世話になる教師でもある。

 

「自己紹介ありがとうございます。こちらも改めてテオドール・デュノアです。これからお世話になります」

「シャルロット・デュノアです。同じくお世話になります」

 

 こちらも自己紹介をしたが織斑千冬、もとい織斑先生はこちら、俺を何やら見てくる。

 

「何か?」

「すまない。更識といいあの時の子とこうしてまた会うことになるどころかお前も一夏と同じ境遇になるとは予想できんかったからな……」

 

 言葉は本心からのものだとは分かる。

 だが俺を見るその目は驚き、そして疑いが潜んでいる。

 無理もない。織斑先生の弟ならまだしても俺には篠ノ之束と接点はないのだから。

 

「織斑先生、彼と知り合いなのですか?」

「あ、ああ……少しな。デュノア社の人間だから昔話したことがあって」

「ああ、なるほど」

 

 織斑先生の言葉に山田先生は一人納得していた。

 嘘ではないし、本当のことを全部話す必要もない。織斑先生にとってもあの時のことは口にしたくはないだろう。

 

「それで受付に来ましたが、山田先生と模擬戦をするんでしたけ?」

「その通りだ。準備が整い次第山田先生と模擬戦をしてもらう。筆記試験は本国であるフランスで受けてもらい、実技についてはデュノア社から提出してくれたデータで問題ないのだが、これから教える身として実際にどれほどのものか把握しておきたい。男子生徒を持つなんて初めてのことだしな」

「なるほど」

 

 もっともらしい理由ではある。

 しかし、これは建前のようなもので理由は別のもう一つありそうな感じもするが。

 

「分かりました。事前に連絡もいただいていましたからそのつもりでいました」

「では、アリーナに案内する」

 

 アリーナに案内されると更衣室でISスーツに着替る。

 着替えが済めば、ピットと呼ばれる管制室と発進カタパルトが一体となったエリアに着く。

 

「来て早々これとは。流石はIS学園だな」

 

 機体を展開し、カタパルトに乗る。

 すると付き添ってくれているシャルロットが声をかけてきた。

 ぼやいたのを聞いていたのか、仕方ないなという笑みを浮かべている。

 

「本当にね。でも、テオは楽しくて仕方ないでしょ」

「貴重な体験が出来るわけだしな」

「じゃあ、頑張って」

「ああ。テオドール・デュノア、ラファール・ノヴァ出る!」

 

 その掛け声とともにピットを飛び出した。

 アリーナ中央には既にラファール・リヴァイブを纏った山田真耶がいた。

 

「すみません、待たせましたか」

「い、いえっ。若輩者ではありますが精一杯お相手しますっ」

「ありがとうございます。うちのラファールを使っていただいているのも感謝しかありません。何より元日本代表候補生、銃央矛塵(キリング・シールド)の異名で呼ばれていた実力楽しみです」

「知っているんですか!?」

 

 識っているし、改めて調べて確認して知った。

 

「あ、あはは~何だかお恥ずかしいですね。大層な異名で呼ばれていても所詮、候補止まりなので」

「何をおっしゃいますか。候補生になるのも難しいのに異名で呼ばれていた。その実力に挑ませていただく!」

「っ! わ、分かりました! こちらもデュノアの天才、その実力確かめさせてもらいます! ド、ドンとこいです!」

『準備はいいようだな。それでは――始め!』

 

 開戦を告げる織斑千冬の場内アナウンスを皮切りに模擬戦は始まっていくのだった。

 

「はぁああっ」

「ハァアッ」

 

 まず初めは挨拶がてら空中へと上がりながら銃撃戦。

 飛び交う弾丸。狙いは正確。最初は試すように、だが段々と精度を増していくばかり。

 序盤からこれだ。轟音高らかに響かせた後に迫り来る弾丸を躱し、反撃を叩きシールドエネルギーを削っていく。

 

「ッ! 流石はデュノアの天才! ですが、やぁああっ」

 

 感心したのは一瞬。

 すぐさま切り替え、反撃の弾雨を降らせてきた。

 模擬戦を始めるまで山田先生から放っていたふわふわとした雰囲気はどこへやら。今ではもう張り詰めた雰囲気。鋭い視線はこちらを捕らえて逃がさない。

 回避するので反撃するのがやっと。こちらから攻め込めない。

 

 反撃も結構な確率で防がれる。

 堅実な防御。正確な射撃。洞察力。

 加えて攻撃に少なからず宿る殺気などといった気持ちが読みにくい。これほど凄まじい数の銃弾を矢継ぎ早に撃ち放っているにも関わらず、上手く隠している。

 

 これが元日本代表候補生、現IS学園教師。

 原作(俺が識る世界)においても有数の実力を持つとされているネームド。

 そういう認識しかなかったが、こうして実際に体験すると沸き上がる実感が感動すら芽生えさせてくれる。

 

「ラファールをここまで上手く扱っていること開発者として感謝しかありませんよ!」

 

 山田先生はラファールを上手く扱ってくれている。

 機体性能をフルに引き出し、乗りこなす。これは開発者冥利に尽きるというもの。

 グランエールを装備した通常のラファール、共有機でこれなのだから専用の調整をしているのならもっと実力は発揮できるはず。

 

「こちらこそ! いい機体をどうもです! 個人の競技シーンだとラファールのほうがやっぱりいいですからね!」

 

 調べたところによると山田先生は現役時代、打鉄といった日本製のISを使っていた。

 それが今ではラファールを使っている。打鉄といった日本製のISは性能が安定していて、訓練向きではあるが山田先生が言ったようにラファールは競技シーンにおいて秀でているということ。

 

「でやァッ!」

「なんのこれしき!」

 

 こちらから仕掛けると山田先生から返ってくる反撃。

 以前使っているのはアメリカのクラウス社製実弾式アサルトライフル≪レッドバレット≫。

 

 なるほど、そうだよな。

 こうして戦っていると別に読めてきたものがある。

 この模擬戦の意図だ。俺の実力を確かめる他に機体の性能把握という意図も別にあるはず。

 特に知りたいだろうものはラファール・ノヴァの目玉、物理攻撃無効化防御兵装そよ風のように受け流して(パリィ・コム・ブリーズ)

 これがどれほどのものか知っておきたいはず。一教師としても、IS学園その他諸々としても。

 いくらIS学園が治外法権、特殊な環境とは言え、完璧に秘匿できるものではないか。

 

「ならばっ!」

「ッ!」

 

 見せつけるまで。

 圧倒的に。

 

 そもそも感情が読み取れないのなら合理性を読み取ればいい。

 山田先生の戦闘方法はまず合理的だ。

 射撃と防御を正確且つ堅実に使い分け、ペースを作り相手をそこに乗せる。

 時折不規則な搦手で相手を挑発。ペースに乗せていることを上手く隠し、銃口の前へと誘い、身体ごと矛すら塵へと還す強烈な攻撃を叩き込む。

 これが銃央矛塵(キリング・シールド)と呼ばれる所以。

 

 堅実且つ強力。

 だからこそ、合理性は読みやすい。

 

 アサルトライフルで牽制しつつ放つは単装砲とレールガンの連続発射。

 

「なっ!? はっ!」

 

 予期せぬ攻撃に驚きながらも山田先生は反応しようとする。

 次どうするかは読めた。

 相手が選ぶだろう最適解、その先を先手取る。

 

「そこだ!」

「――くぅぅッ!?」

 

 回避したがそれは自ら更なるレールガンへと飛び込むような形になって山田先生にクリーンヒット。

 大きくエネルギーシールドを削った。

 そしてすかさず、ブレードによる近接戦に持ち込み追撃を叩き込む。勝負、あった!

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「勝負あったか……」

 

 ピット内に設置されたモニターを見ながら私、織斑千冬は呟く。

 

 山田先生はよくやってくれた。

 初の男子生徒、それもデュノアの天才がどれほどの実力があるのかはおかげで大体把握できた。謙遜抜きに最低でも国家代表レベル。まだISに乗り始めて1、2ヶ月。稼働日数にしたらまだ1ヶ月もないだろう。

 それでこれは普通ならあり得ないが、彼の噂はよく耳にしていた。デュノアの天才と呼ばれる彼だからこそなのか。

 

 加えて彼の機体、フランスを代表するラファールシリーズの最新鋭機。デュノア社製第3世代型IS、ラファール・ノヴァ。

 近、中、遠、基本的な領域に対応した装備を有し、防御可能な物理攻撃をシールドの続く限り無力化する防御兵装まで有している。攻撃力、機動力、防御力、汎用力に優れた機体。その性能をこれほどまで確かめられたのなら、上は満足してくれる。

 

「しかし、何だこの男は……」

 

 元とは言え代表候補であった山田先生を今や一方的に圧倒する戦闘力。国家代表レベルの操縦テクニック。人並超えた身体能力。明晰な頭脳。

 天才……天が二物を与えた。ありえないことではない。こいつ以外にも思い当たるのが一人、私のよく知る腐れ縁のアイツが。

 

 だが、それでは片づけられないのが男であるのにISに適性があるということ。

 私の弟一夏にも言えることだが、まだ一夏は束と少なからず交流がある。

 ISに一夏を覚えさせ動かせるようにするなど束ならいくらでもできるだろう。私の弟で、自分の妹の片思い手の相手だからと。

 

 だが、こいつの場合はどうだ?

 繋がりはない。フランス、デュノア社が男でも動かせるようISに細工をしたとは考えにくい。束がそんなことを気づかない訳もなければ、許すわけもない。

 なら、身体のほうに細工という線もあるがこいつは正真正銘デュノア家の人間。狂った親でない限り自分の子供を弄繰り回すような真似は普通しない。デュノアという大企業の家なら尚更。

 そこまでするのはリスクが高すぎる。発覚した時、ただではすまない。

 

 人間的に束が気に入る様なタイプでもない。

 手間をかけるほどの優先順位ということもないだろう。

 

「――いや、分かった風なことをまた考えてしまったな」

 

 束と数年一緒にいて、一応友人をやっていたが分かっていた気でいた。

 だが、それも一年前までのこと。

 結局、私はあいつのことを分かっていなかったという事実を現役引退するしかなくなったあの事件と共に突き付けられた。

 得体のしれない奴。束、あいつは普通に生まれて私と同レベルの身体能力を持ち、今の世界を作ったISを生み出すほどの知能を持つ。

 

「似ているのやも知れんな」

 

 身体能力、知能。そして、得体の知れなさといい。

 本当に何なんだ。何が起こっているのか分からない。把握しきれない。

 地上最強(ブリュンヒルデ)などと大層な名前で呼ばれていても、井の中の蛙大海を知らず。

 

 後悔の念に轢きづりこまれそうな思考を断ち切ってくれたのは奇しくも模擬戦の勝者を告げる鐘の音だった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「流石はデュノアの天才、その名に恥じぬ強さでした。動かせるようになって2ヶ月でここまでなんて。これじゃあ授業が始まっても教えることはなさそうですね」

「そんなことはありません。まだまだ至らぬ身ゆえ第一線級の先生方に教えを請えるの楽しみにしています。今回勝ちこそはしましたが早速多くのことを学ばせていただきました」

「そう言っていただけると負けた身ではありますが助かります。実技では他の生徒の皆さんを引っ張っていってください!」

 

 模擬戦が終わった後着替え、アリーナから学生寮に向かう道中そんな話をしていた。

 模擬戦は無事勝つことが出来、得るものは多かった。銃央矛塵(キリング・シールド)の名は伊達ではないと身をもって経験できたのは大きい。

 元とは言え代表候補の普通そうあることではないからな。

 

「話は変わりますが寮の部屋割りのほうはどのような感じになってますか?」

「ああ、すみません! 私ってば話に夢中になっちゃって! 部屋割りはこちらになります」

「こういう感じか」

「テオ、私にも見せて」

「ああ」

 

 渡されてシャルロットと見たのは新一年生の部屋割り図。

 寮の簡単な間取りが描かれており、各部屋ごと二名ずつの名字が描かれていた。

 その中には見知った名前がチラホラ。セシリアと簪……今日来ることは前もって伝えていたが来てからは一言も連絡を入れてない。一息ついたら連絡入れなきゃだな。

 

「テオと別々の部屋なんだ……」

「それもだが俺とシャルロットがそれぞれ一人部屋なのはどういう理由で?」

 

 シャルロットとは別の部屋だが俺達はそれぞれ一人部屋だった。

 他の部屋のように同室の者の名前は書かれていない。

 俺が一人の理由は何となく察しがつく。

 

「最初はお二人同室だったのですがフランス政府から抗議……じゃなくていろいろあったと言いますか、いくら従妹関係と言えど同室なものかはどうなんだって言われまして。部屋はデュノア社で用意するから別けろと呼称されまして……その……」

「もしかしなくても……」

 

 シャルロットも誰が言いだしたのか分かったらしく、確かめるようにこちらを見るものだから耐えきれず笑ってしまった。

 

「ハハハハッ! 親心が目覚めたか伯父殿よ! 愛いな、まったく!」

「もうっ不器用通り越して馬鹿だよ、本当! 男女同室なのはもう一組いるのに!」

「言ってやるな、シャシャよ。これも遅咲きの親子心というものだ」

「知らない! 後でロゼンダ様とマリー様に言いつけるから!」

 

 シャルロットはすっかり拗ねてしまったが伯父殿の気持ちも分からなくはない。

 遅いながらも芽生えた親心故に従妹関係にあれど、男と一緒なのは複雑なんだろう。理由なんて何でもよくて、本国では同じ屋敷に居て四六時中一緒なんてことはざらにあった。そしてもう一組男女が男女同室なのに特に言ってない様子なのはそういうこと。

 我が伯父ながらおもしろい人だ。

 

「いやまったく、山田先生にはお手数と苦労を掛けてしまったようで。身内のことで笑いはしましたがご苦労様です」

「い、いえっ! これも仕事ですから!」

「シャシャもそう拗ねるものではないぞ。部屋はすぐ近く。いつでも来たらいい。歓迎するぞ、盛大にな。その辺問題はないですよね? 山田先生」

「はい、寮則を守っていただければ問題ありません」

「やったっ! 毎日行くからね! いつになっても私はテオの従者なんだから!」

 

 毎日どころか隙さえあれば毎秒来そうな勢いを感じさせる笑顔。

 拗ねた面影はもう微塵もないのがシャルロットらしいと言えばらしいか。

 

「じゅ、従者……? あ、忘れてました。でもデュノアさん、シャルロットさんはずっと一人部屋というわけではありません」

「え?」

「この表では間に合わず空欄になってますがドイツの代表候補生の方と同室になってもらいます。向こうが本国での調整中らしくて6月からの入学になるみたいなのですが……」

 

 ドイツ……入学してくるタイミング的にも彼女で間違いないだろう。

 そうして寮に着くとそれぞれの部屋へと入る。

 

「ここで今日から過ごすか」

 

 室内は普段使うホテルクラスの雰囲気。

 必要な家具一式は既に配置されており、トイレ風呂はてはキッチンまである。

 部屋から出ずとも事足りる。伯父殿様々だな。

 もっとも部屋の空きがない為、寮の一番端にプレハブハウスをくっつけた部屋ではあるが仕方ない。

 

 自分の部屋だ。

 先に届いていた荷物を解いて整頓していく。

 こういうのも今までは使用人の仕事だから俺がやるまでもなく先に済んでいたが、これから自分でやっていかなければならないんだな。

 そんな新生活の実感を覚えながら。

 

「最後に写真を立てて……うむっ、ヨシッ」

 

 屋敷で撮ったデュノア家全員が揃った家族写真を立てると整頓は済んだ。

 シャルロットの様子でも見に行くか。

 向こうもそろそろ一段落着くころだろう。そう思った丁度その時、部屋の扉がノックされた。誰か尋ねてきた。恐らくシャルロットが尋ねてきたのだろう。

 

「シャルロットです。皆も一緒なんだけど、入ってもいい?」

「皆? まあ、いいぞ。入ってくれ」

「お邪魔します」

 

 その言葉と共にシャルロットが入ってきた。

 シャルロットの後ろには皆がいた。

 

「セシリア、楯無、簪!」

「ごきげんよう、テオ」

「やっほ! テオ」

「テオ、お邪魔します」

 

 皆とは皆だった。

 

「テオと別れた後に部屋の整理しながら皆に連絡してて丁度整頓落ち着いた時に皆で会おうってなったから折角だからテオもって思って尋ねたの」

「なるほど、そういうことだったのか、シャシャよ。俺の方も一息ついたら連絡をと思っていたのだが遅れてしまったな」

「構いませんわ。こうしてようやく直接会えたこと、そしてこれから共に生活できることをまずは喜びましょう」

「そうだな」

 

 セシリアの言葉に皆頷く。

 後一歩のところまで来たんだ。皆と出会ってここまで長かったようで短く感じる。

 

 そして、皆で腰を落ち着けて旧交を温める。

 原作(俺の識る世界)だとこの時期にこの4人が顔を会わすこともなければ、交流もない。だが、俺達の場合ビデオチャットで以前から交流であった為、旧交はすぐ深まった。

 何気ない話で盛り上がっているとあることを思い出した。

 

「っと、そうだ。セシリア、入試主席合格おめでとう!」

「あ、そうだったね。おめでとう、セシリア!」

「おめでとうっ」

 

 皆で祝う。

 セシリアは入試試験、筆記は満点。実技試験では教官を倒した。

 それを持って主席となり、セシリアは入学生代表挨拶をすることになっているらしい。

 

「ありがとうございます、皆さん。教官に勝ったのはわたくしとシャルロットさんの二人ですし、筆記試験で満点だったのはわたくしと簪さんですから主席は誰がなってもおかしくはありませんでしたわ」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど私、筆記後数点足りなかったからから余計悔しくなっちゃうなぁ」

「私はそもそも専用機持ちなのに専用機ないから何とも言えないかな」

 

 簪は専用機が未完成で使えない状態。

 理由はやはり、織斑一夏の登場により彼の専用機開発を優先した為という。

「そう気を落とすな簪。聞けば、簪は訓練機で教官相手に後一歩のところまで追いつめたそうではないか。それも立派な結果。腕は確かだ。専用機が無事完成日、手合わせできる日が楽しみになってきたぞ」

「そ、そうっ? 何だかやる気湧いてきたよ。私、頑張るっ」

「その意気だ」

 

 簪が元気を取り戻してくれて何よりだ。

 実際、簪の専用機と戦えるのは楽しみだ。

 大分先にはなるだろうが体験してみないと分からないことは多いからな。

 

「テオ、本当に女性を煽てるのがお上手ですわね」

「テオだからね。何度煽てられて上手く乗せられたことか」

「それにしては簪ちゃん、チョロ過ぎない? お姉ちゃん、妹の将来が心配だわ」

「お姉ちゃん、人のこと言えないから。ほら、この間――」

「あー知らな~い。あ、そ、そうだわ。セシリアちゃんの新入生代表挨拶、生徒会長としてるから楽しみにしてるから!」

 

 誤魔化し笑いをする口元隠す開かれた扇には『』の文字が。

 字が震えて誤魔化しているがありありと現れている。意外と感情豊かなんだなその扇。

 

 時間は経ち、夕食の時間となった。

 寮生活では基本的に食堂でご飯を食べね。ただ決まった時間に全員集まって食べるというのではなく、食堂が終了する時間までなら好きな時間に来て自由に食べられるとのこと。

 それに習い俺達も寮の食堂へと来て夕食を食べているんだが、やはり目立つ。

 

「あれが噂の男の人……」

「金髪、長髪、そして美形! 俺様系の!」

「あのデュノア社の御曹司らしいんでしょ? 持ってるわ! 神的に!」

「産まれてきてよかった~! あの美貌見てるだけでご飯が進む!」

 

 案の定変な盛り上がり方をしている。

 視線が刺さる刺さる。こうなるのは分かっていたが、実際に体験すると想像を絶する。

 変な盛り上がりに拍車を駆ける要素は俺の周りに揃っている。

 

「きゃー! 更識会長までいるわ!」

「何故、一年生寮に? ど、どういうご関係なのかしら? ゴクリッ」

「それだけじゃないわよ! 主席合格のオルコットさんに日本の代表候補生の更識簪さんまで、もう一人の女の子も超絶可愛い!」

「くっ、美の集合体よ! 目が美に焼かれる! 目が目がぁ~!」

「もうお手付きなのかしら。あんないい男ほっておくわけないよね」

 

 周りにシャルロット達がいれば変な盛り上がり方は愉快なものとなる。

 個性的だな、ここの生徒は本当にいろいろな意味で。

 

「ご、ごめんなさい。私が一緒に食べてるせいで余計に騒がしくしちゃってるみたいで」

「気にするな、簪。これぐらい覚悟の上だ。それにこれにも慣れていかなければならない」

「そうよ、早く慣れなくちゃ。テオもだけど周りにもね。まあ、1週間したら落ち着いたものになるわ」

「そうですわね。賑やかなだけで近づいては来ませんから害はないようですし」

 

 楯無もセシリアは気にせず食べ進めている。

 賑やかなのは気になるが確かに近づいてくるような気配はない。

 なんせ、俺達の周りを何席か開けて周りの生徒は座っている。近づきたいが近づけない微妙な心理状態を現しているみたいだ。

 

「あ~かんちゃん、もう夕食食べに来てたんだ~」

 

 現れたのは本音。

 手には夕食を乗せたトレーを持ち、友人二人を連れている。

 

「おーたてなちゃんにせっしーまで豪華メンバーだぁ。でゅちーにてっちーまで~今日来たのー?」

「ああ、そうだが……でゅちー、てっちーとは?」

「シャルロット・デュノアだからでゅちーで、同じデュノアだけどテオドールだからてっちーだよー? えへへ~可愛いニックネームでしょ!」

 

 ドヤ顔の本音。

 空気が緩むな。

 

「可愛いのか? てっちーというニックネームは。でゅっちーよ」

「テオにその呼び方されるとムズムズする。んーた、多分? 日本だと?」

「いや、日本関係ないから」

 

 簪に鋭く突っ込まれてしまった。

 本音達は俺の向かいに座る簪の隣に座っていた。

 本音は特に気にしてないが連れの友人二人は周りをきょろきょろみて居辛そうにしている。

 

「こんな状況にしてしまって申し訳ないな。テオドール・デュノアだ。こんな風に迷惑かけると思うが精進するのでよろしく頼む」

「め、迷惑だなんてとんでもないです! 私は谷本癒子です! よろしくお願いします!」

「わ、私は夜竹さゆかです! よろしくお願いいたします!」

 

 本音の友人と言えばこの二人だったな。

 

 人が集まるとの視線も好奇の視線も集まる。

 にも関わらず、本音は笑顔で楽しそうに食べている。大物だ。 

 そんな本音を見て友人ふたりは呆れたように笑っている。

 

「んふふ~やっぱり、みんなでご飯食べるとより美味しくなるねー」

「この状況でそんなモリモリ食べれるなんて本音って大物?」

「いや、神経が太いだけじゃない? というか、凄い人達と知り合いなんだね」

「かんちゃんとたてなちゃちゃんのお友達だからね、てっちーもでゅっちーもせっしーも」

「へぇ~」

「あ……ちょっと気になったんですけど、し、質問いいですか?」

「何か? 夜竹さん」

 

 夜竹さんは俺とシャルロットを見て言葉を続けた。

 

「デュノアって同じ苗字ですけど……お二人はご兄妹なんですか?」

「兄妹みたいなものだな。もっと正確に言うと従妹関係だ」

「私の父がテオのお父様の兄で従妹になるよ。後、そんなかしこまらなくて大丈夫。同級生になるんだから、ね」

「う、うんっ。わ、分かったっ」

 

 まだ大分緊張した様子だがシャルロットのおかげでいくらかは硬さがほぐれた。 

 そうだ。あることを思いついた。

 

「そうだ。折角の機会だ。この際、気になることがどんなことでも質問してくれ」

「おおっ!」

 

 とっくに夕食は食べ終えていてここに長居する必要はないが折角の機会。

 ここで交友を深めるのも一興。その為の手段として質問はいい手だろう。周りも何を聞こうかといい盛り上がり方をしている。

 

「じゃ、じゃ! 私、谷本癒子いかせてください!」

「では谷本さん、どうぞ」

「あのっ、テオドール君には彼氏彼女、こここ、恋人はいますか!?」

 

 衝撃が周囲に走る。

 それはシャルロット達にまでも。

 定番の質問。だが、初手にしては威力が高い。

 どう答えるのか周りは興味津々。特にセシリアからの訴えるような視線が刺さる。

 仕方ない。言っておくべきか。隠すことでもなければ、いずれ知られる可能性は高い。後々面倒なになっても仕方ない。

 

「恋人はいない。だが、婚約者はいる」

「おおおおっ!?」

「隣に座るセシリアがそうだ」

「ふふん、そうですわ! 私セシリア・オルコットはテオドール・デュノア君の婚約者なのです!」

「デュノア家とオルコット家は昔からの間柄でな」

 

 補足をつけてみたが右から左へと耳を通り抜けていっているのが目に見えるようだ。

 女子がこの手の話を好きなのは知っているが、それにしても凄い盛り上がりだ。

 

「こ、婚約者……! そ、そうだよね! デュノアの御曹司ともなればそれぐらい普通だよね!」

「でもでも、会長や会長の妹さんのあの感じ……もしかしてあるんじゃない!?」

「略奪愛!」

 

 不穏なやり取りが遠くの方から聞こえた。

 

「略奪愛か……おもしろそうね!」

「の、乗るな。楯無」

「え~いいじゃないテオ。まだ婚約者。ワンチャンあるってことでしょ。ね、簪ちゃんもそう思うでしょう? ふふふっ」

「わ、私は別にっ……!」

「受けて立ちましょう! こちらにはシャルロットさんがいます! そう簡単にはいきませんわ!」

「ふふふふっ」

 

 シャルロットまで妖しく笑って乗ってしまった。

 何なんだ…この状況は。手に負えん。こういう時はさっさと切り替えるに限る。

 

「そこまでだ。他の質問はないか、このテオドール・デュノアがどのような質問でも答えてしんぜよう!」

「はいはーい! 次私お願いします!」

「では、そこの――」

 

 と新たに質問してきた生徒を当てる。

 そしてそして。

 

「つ、疲れた」

 

 シャワーを終え、一息ついた俺はベッドへと倒れ込む。

 質問大会は織斑先生に怒られるほどにまで大盛り上がりとなった。

 代償に精魂尽き果てた。女子のパワーは計り知れん。

 だが、多少は交流を深められ好感度を掴めた感触はある。恋人云々もあるが怪我の功名という奴か。

 

「そろそろ、寝るか。明日はいよいよ」

 

 入学式。

 ついに始まる。期待に胸を膨らませながら目を閉じると疲れたこともあってすぐに眠りにつけた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 翌日。

 入学式を終えた俺達はそれぞれのクラスにいた。

 俺達は一年一組。簪だけ4組とになって落ち込んでいたのが可愛そうだったが、時が進めばクラス分けは意味をなさなくなる。

「全員揃ってますね。では皆さん、今からSHR(ショート・ホーム・ルーム)を始めますよー! 私は山田真耶、この1年1組の副担任です」

 

 にっこりと笑みを浮かべながら自分の名前を黒板に書いていく山田先生。

 

「皆さん、これから一年よろしくお願いしますね」

 

 問題ない自己紹介だが山田先生を気に留めているものはほとんどいない。

 皆おのおの気になる席へと意識を向けている。

 一方は俺へと、もう一方はもう一人の男へと。昨日自己紹介を済ませていたおかげで注目はもう一方へと多く集まっている。

 だからなのか、教室には妙な緊張感が立ち込めていた。

 

「そ、それでは皆さん、自己紹介をお願いします。えっと、出席番号から順番にどうぞっ」

 

 教師としてこの空気に飲まれまいと懸命に進行する姿が涙ぐましい。

 そして順番に自己紹介は進んでいき、奴の番となった。

 

「あー、えー……えっと」

 

 山田先生に声をかけられた自分の番だと知ったようだが、余計なことを考えていたようで何を言おうかと迷っているのが見て取れる。

 数秒後覚悟を決めたのか、ゆっくりと席を立ち。

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 奴、織斑一夏は短く名乗りを上げた。

 

 …




ようやく原作スタート!
いろいろと動き出しているものが加速的になっていきます!

感想お待ちしております~!
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