皆に愛され 覇道をゆく天才の物語 作:水戸野幸義
「織斑一夏です。よろしくお願いします」
奴、織斑一夏は短く名乗る。
この男が織斑一夏。同じISを使える男。そして、ISにおける|原作主人公≪ヒーロー≫。
「……」
少しの間。名乗りこそはしたが、あまりに短い。
逆に長い方がいいということないが、注目の人物。もう少し本人の口から自己紹介を聞きたい。
だから、織斑一夏に注目の視線は集まるばかり。一方、当の本人にしてみればこれ以上言うこともなければ、この状態を耐えられるわけもなく。
「い、以上です」
と言うしかなかった。
だが、期待外れだった女子数人はズッコケたり、えーっとショックそうな声を上げた。おかげで教室は騒がしくなり、後ろから入ってきた人物に気づかない。気づいたのは俺とシャルロット、セシリアぐらいなものか。
「もっと気のきいた挨拶の一つぐらい満足にしてみせろ! 馬鹿者!」
「イ゛ッ゛――!?」
織斑一夏の後ろから脳天へと綺麗に落とされた黒い名簿。
これが伝説のジャパニーズメイボアタック。
「い、痛そう……」
「ああ、痛そうだ」
前の席に座るシャルロットがぼそっと呟いた事には全面的に同意だ。
現に織斑一夏は叩かれた頭を押さえながら涙目だ。
しかし、効果は織斑一夏以外にもあった。教室全体に響く乾いた音があまりにも大きくいい音だったからか、騒がしかったは静まり返った。
そんなことを気にも止めず、言葉を続ける。
「山田先生、初日早々からクラスのことを任せきっりにしてすみません」
「い、いえっ。織斑先生は会議でしたし、これでも副担任ですから」
顔を見るのは昨日以来か。
優しい声色と表情。あの時は印象が異なる。
向けられた山田先生は嬉しそうに照れていた。
山田先生の口からようやく出た名前。それを聞いてやって来たのが誰なのか周りの生徒は気づき始めた。
そして騒ぎになるよりも早く名乗り出した。
「諸君、私がこのクラスの担任である織斑千冬だ。これから一年を使って諸君ら新入生にISに纏わるあらゆることを叩き込み使いものになるよう叩き上げるのが私の仕事だ。私や山田先生の言葉をよく聞き、理解しろ。そして実践しろ。逆らっても構わんが言うことは聞け。いや、聞かせてやる。心しておけ」
案の定の言葉。
こんな傍若無人なある種の暴言を吐いたとしてもそこに異議を唱えるものはない。
むしろ、これがいいのだろう。黄色い声援が巻き上がった。
「キャーキャー! 千冬様、ブリュンヒルデ! 本物の織斑千冬様だわ!」
「一目見たあの日からファンです!」
「千冬様に憧れてます! 跪かせてください、お姉様!」
凄い人気だ。
次世代の到来を象徴し、人々が昔から求め続けていた強い日本人強い女性。供給と需要がここまでベストマッチするとこうなるのか。
ただそれにも騒がしい。女子が集まるとこうなるのは経験済みだが、それでもだ。つい愚痴のようなものが零れてしまう。
「元気がいいのは結構だがこれが当分続くのか」
「あ、あはは……織斑先生、有名人だもんね。そりゃそんな人と会えて自分の担任ってなったらこうなっても仕方ない……のかも?」
シャルロットの言うことは理解できるが、実際そんな気持ちになったことはないのだから傍からすればいい迷惑だ。
織斑一夏の斜め後ろの席にいる俺とシャルロットは辟易するばかり。後ろの方の席にいるセシリアは心を無にしてやり過ごそうとしている
「まったく、去年今年といい毎年こうなのはどういうことだ。馬鹿者ばかり集まるのは。ここまでくれば感心するしかないぞ。私のクラスだけこんな馬鹿者ばかり集中させてないか、これは最早」
額に手を当て鬱陶しそうな顔で嘆いている。
集中させているというよりかは、織斑先生のオーラのようなものに当てられ元々真面目だったりしようが集まった生徒が皆こういう感じになってしまうのだろう。
魔性と言えなくはない。実際吐き捨てられているのを喜んでいる生徒が出来上がっている。
「ああぁっ! いいっ、いいっ、いいっ! 最高! これが千冬様!」
「ありがとうございます! ありがとうございます! 誰よりも何よりも私は千冬様に会えてよかった!」
ここまで来たら元気そうで何よりという他ない。
これだけ元気ならこれからの学園生活は退屈しなさそうだ。
「で、いつまで突っ立てるだお前は。後がいるんだぞ。もう一度自己紹介する気か? 結果は変わらんだろうがな」
「ちょっ、千冬姉、ひど――」
再び響く気持ちのいい衝撃音。
織斑一夏の脳天へと再びクラス名簿が落とされていた。
こんな大勢の前で叩くのはいただけないが騒がしかったクラスが静まり返ったのはありがたい。
「織斑先生だ」
「え、いや、でもっ千冬姉っ」
3度目の脳天直撃クラス名簿アタック。
流石にこれには騒いでいた生徒達も若干引いていた。
「織斑先生と呼べ」
「……はい、織斑先生」
そう言って織斑一夏は席に着いたがそれだけではすまない。
次に皆の興味を引いたのは二人の関係性。
呼び方でおおよそ理解したものはいる。
「やっぱり、織斑君って千冬様の弟だったんだ……」
「いいなっいいなぁっ」
「貴様ら静かにしろ。織斑の次の者、自己紹介を」
自己紹介は再開し、セシリア、シャルロットも自己紹介を終えればいよいよ俺の番となった。
「昨日の夜もう自己紹介をして知っている者もいるだろうが改めて自己紹介を。テオドール・デュノアだ。出身はフランス。男のIS操縦者ということもあっていろいろ迷惑をかけると思うが善処していく。これから一年よろしく頼む」
無難ではあるが悪くはないだろう。
昨日あの場に居合わせていた生徒は多い。
その分注目度は低いが、好感触は掴めていた。
「やっぱり、いいっ! 金髪ロングの俺様系デュノア君!」
「分かる~! オマケにデュノア社の御曹司! 美、財力、ルックス! どれをとってもいい!」
「これで婚約者持ちでなければ! いや、オルコットさん受けて立つといってたからワンチャン……?」
「ということはデュノア君×織斑君もアリなのでは!?」
「アリ寄りのアリ! 見える、私には二人の絡み合いが見える!」
案の定盛り上がっていた。
しかし、そんなものは見えなくていいから。
◇◆◇◆
「ちょっと、よっ、よろしいかっ」
一時間目が終わり、2時間目までの行間休み。
織斑一夏がこちらへとやってきて声をかけてきた。
驚いた。本来ならこの時間は幼馴染に話しかけているはずだ。
理由はいくつか予想できるが変な言葉遣いになるほどかなり緊張した様子。
周りは何だ何だとこちらに好気の視線を寄せているから無理もないか。
「ああ、大丈夫だ。大分緊張しているみたいだがまずは肩の力抜けよ、織斑一夏」
「俺の名前を!? って、自己紹介したから当然か」
「自己紹介はしたが改めて、テオドール・デュノアだ。一時間目から苦労しているようだが同じ男として力になれることがあればこのテオドール・デュノアが力になろう。よろしく」
そう言って俺からお近づきと友好の証として握手を求めた。
産まれ、そして行き着く結末がどうあれ共にことをなすものには優しくしておくべきだ。
これは
こいつが手にする力は必要になる可能性は高い。戦力としても数えられるようになるかもしれない。
上手くやる方がメリットは大きい。
「おおっ! こちらこそ、よろしく頼むぜ! 男子が俺一人とかじゃなくて本当よかった! 一夏でいいからな、テオドール!」
織斑一夏もとい一夏は感激したように差し伸べた手を取り、握り返してきた。
余程嬉しいのだろう。握手が激しい。
女子ばかりの環境で自分以外に同じ男がいるというのは心強いのだろう。
「学園生活共に頑張ろではないか、一夏」
「ああっ!」
俺の言葉を素直に真に受け熱い握手。
こういう素直で熱いところが人々を惹きつけたのやもしれんな。
「これが男同士の間に友情が芽生える瞬間……!」
「尊い……はぅ」
「やはりワンチャンあるのでは? これはデュノア君×織斑君の薄い本が厚くなる!」
火に油を注いだ自覚は少なからずあるが本当飽きないな。
2時間目が終わると再び行間休み。
今度こそ一夏は幼馴染に声をかけに行きにいっていた。
「テオ、シャルロットさん。二時間目、お疲れ様ですわ」
こちらには今度セシリアが俺達の席へとやってきた。
「お疲れ様、セシリア」
「お疲れ、セシリア。初日だからか賑やかこの上ない」
「まったくですわ」
セシリアが心底呆れ顔をしているのは2時間目のことが記憶に新しいからだろう。
2時間目も1時間目に引き続いてISの座学。
IS学園に入るなら誰しもが事前に学び終えている基礎的な規則の話で特にこれと言って騒ぐような内容でもないが一夏はまだ授業について行けず、参考書を捨てたという始末。そこでもひと騒ぎ。
そのことにセシリアは呆れている。
「捨てたのも解せませんが参考書一つでまあよくもあそこまで騒げるものですわ。まったく」
「まあ、何もかもがいきなりでこのような状況だ。追々落ち着いてくるだろ」
「そう願いたいですわね。折角、名高いIS学園へ学びに来ているのですから」
笑みを見せてくれたが苦笑いで落胆の色は隠せないでいる。
セシリアにしてみればIS学園にいろいろとセシリアなりの理想を描いていたはずで、理想通りではない現状にギャップを感じ落胆するのは仕方ないか。
「時にそろそろクラス代表を決める頃だな」
「ああ、楯無会長が言ってたね。大体入学した初日に決めるって」
「基本的に専用機持ちあるいは代表候補生が選ばれると仰ってましたね」
時間にして数分後、クラス代表が決まる。
クラス代表については予め楯無から聞いてもいた。
自推、他推問わず推薦によって選ぶ。だが基本的に推薦に上がるのは代表候補生。専用機持ちがいれば専用機持ちが選ばれるといった感じらしい。
「話に出したということはテオはクラス代表に興味がおありで? 私もと思っていましたがそういうことでしたら……」
「いや、そうではないのだ。セシリア」
話に出したのはある考えがあってのこと。
「俺にいい考えがある。よければ、俺達3人で織斑一夏を推薦しようと思う」
「へっ?」
「なっ!?」
シャルロットは素直に驚いていたが、セシリアは声を上げるほどかなり驚いていた。
まるで信じられない言葉を聞いたかのように。
当然目立ち、セシリアを宥める。
「落ち着け。セシリアが納得できないのも分かる。だが、考えてみろ。俺達にはクラス代表までやっている時間は惜しい。代表候補生専用機持ちの務め、家のこと、そして来たる日に向けて準備その他諸々。俺達にはやること、やらなければならないことは多いだろ。クラスのことで時間は取られたくない」
「そ、それはそうですけど……ですがっ!」
「適当言ってるつもりもない。こういう時は考え方を変えてみるもんだ。クラス代表に相応しくないのなら相応しく鍛え上げればいい。名付けて織斑一夏育成計画だ」
これが俺の考え。
相応しくないのなら相応しくなるように鍛え上げればいい。
発想の逆転。クラス代表となれば、ISに触れる機会は勿論誰かしらと対戦する機会も増える。それはいろいろなことに役立てられるかもしれない。例えば。
「わたくし達の目的の為を考えているのですね」
「察しがいいな、セシリア。積極的に巻き込むわけではないが状況は未知数。使える専用機持ちは多いにこしたことはない。それに彼はブリュンヒルデの弟。鍛えれば化ける素質はあると見た。天才の勘がそう告げている。何より、ISが使えたことに理由は分からずとも必然はあるはずだ。悪い話ではない。とうだ?」
そうセシリアに提案してみた。
「――テオがそこまで言うのでしたら話は分かりました。ただし条件があります」
「条件?」
「それは――」
丁度その時、授業開始を告げるチャイムが鳴った。
織斑先生方が教室に戻ってきた。
「貴様ら席につけ!」
「テオ、話はまた後で」
セシリアは席に戻らざるおえなくなり、話は中断となった。
条件は聞きそびれた。セシリアを見るに悪い反応ではなかったから、これは賭けだな。
「ああ、そうだ。授業を始める前に5月の中旬頃からクラス対抗戦が行われる。それに出る代表者を決めようと思う」
やってきたクラス代表決め。
織斑先生はクラス代表の説明をすると推薦合戦が始まった。
「はいはーい、織斑君を推薦しまーす!」
「私はデュノア君がいいと思います!」
「シャルロットさんもよさそう!」
「それを言うならセシリアさんだって!」
これだけでは収まらず続きと各々が思う人物の名前を上げていく。
昨日多少なりと交流を持てたのが活きている。
こうなるのは予想出来ていたが如何に。
「ふむ……票が見事にバラけたな。名前を上げられたデュノア達はどうだ? 自推他推でも構わんぞ」
「では、織斑一夏君を推薦させてください」
「私も織斑君を推薦します」
予定通り俺とシャルロットは共に織斑一夏を推薦した。
すると当然の反応が返ってきた。
「お、俺っ!? 何でさ!?」
立ち上がる一夏。
釣られるように周りにいる生徒たちの視線が一夏へと集まった。
俺やシャルロットに推薦されるほどなのだから一夏はきっと凄い何かしらの結果を出すのだろうといった根拠のない無責任な期待の眼差し。
「織斑、席に着いて静かにしてろ。他に意見はないか? なら、このまま推薦の多い織斑を」
「織斑先生よろしいでしょうか」
「何だオルコット」
手を上げ指名されるとセシリアは静かに立ち上がった。
「わたくしも織斑一夏さんを推薦させていただきます。ですが、一つ条件があります」
条件……それは先ほど休み時間でも言っていた言葉。
一筋縄ではいかない。何かする気なのか。
「条件か……良いだろう、言ってみろ」
「ありがとうございます、織斑先生。提示する条件とはわたくしと織斑一夏さんとで模擬戦をさせていただき実力を確かめさせてほしいのです。クラス代表たる実力がどの程度あるのかを」
それがセシリアの提示した条件だった。
そんなことを考えていたのか。
しかし、すぐにはその条件は通らない。当の本人の一夏が一番困惑していた。
「ちょっと待ってくれよ! いきなりそんな!」
「いきなりの申し出その無礼は詫びましょう。ですが聞くところによれば織斑さん、あなたは入試の実技試験において教官を倒したそうではありませんか」
セシリアのその言葉にクラスがどよめき賑わった。
このことは楯無から教えてもらっていた。
実情がどういうものだったのか詳しく。
「あれは倒したって言っていいのか……? 勝ち判定は貰ったけどよ」
「内容はどうあれ勝ちは勝ちですわ。その結果、そしてブリュンヒルデの弟がどれほどのものか確かめさせてはくれませんの? それとも日本男児は勝負を突きつけられても急だから巻き込まれてここにいるだけだからと逃げ出すのですか?」
勝ち気な笑みを小さく浮かべ放つ見え透いた挑発。
一歩引いて冷静になれば、ここで乗るのはかしいこい選択ではないとすぐわかる程度のもの。
だが相手が相手だ。何より、姉のことを出されれば下がるわけがない。
「そこまで言われたら引き下がれねぇよな。千冬姉を引き合い出されたら尚更だ! いいぜ、勝負受けてやる! 四の五の言うよりわかりやすいだろ!」
いとも簡単に一夏は挑発に乗ってくれた。
「話はまとまったようだな。織斑にとってISバトルが出来るのはいい機会だ。日本の倉持技研から織斑の専用機も来ることだしな」
その言葉を聞いて教室にどよめきが広がった。
ここで一夏の専用機持ちのことを明かすのか。
一夏が疑問の声を上げた。
「専用機って読んで字のごとくだよな。やっぱり、男だから……的な?」
「男子が動かす貴重なデータ収集の意味合いは強い。後は保護的な意味合いもな」
ISは強力な鎧でもある。
下手に既存兵器や既存戦力で守るよりかはいい。
後は他国よりも先に専用機を与え、他国からのちょっかいを防いだ。そうすることで織斑一夏の所属、所有権を言葉なく明確化した。
そして、一夏を日本に
「話を戻そう。クラス代表は織斑で決まりだがその勝負を認めよう。勝負は一週間後の月曜、放課後。場所は第3アリーナにて行う。双方とも準備は怠るなよ」
奇しくも一夏とセシリアが模擬戦する予定通りの流れになった。
こういう流れで模擬戦することになろうとは思ってもいなかったが、これはこれでありだ。こうなるのもおもしろい。
何より、穏便に事が進んで何よりだ。
その後始まった授業を終えて休み時間になると、セシリアを呼んだ。
「条件とはあれのことだったんだな」
「結局テオに話ができずに言ってしまいましたが確かめたいのです。テオがそこまで言う彼の実力を。二つ返事で認めるわけにはいきませんもの」
それは確かにそうだな。
セシリアがはい分かりましたと認めるようなタマではない。
「なるほど。仮に模擬戦を経て実力不足だと感じた時はどうするつもりだ?」
「それは勿論、このセシリア・オルコットが直々にクラス代表に相応しい殿方に育てあげて差し上げますわ。その時は節穴となったテオもまとめて」
「それはおもしろそうだ。というわけだ、一夏。頑張れよ」
自分の席にいて次の授業の予習をしているフリをしながらこちらの会話に聞き耳立てることに全神経集中させている一夏へ声をかけた。
「頑張れよって他人事だと思って。ひでぇぜ」
「はははっ! しかし織斑先生も言っていたようにこれはいい機会だぞ」
「いい機会……そりゃ専用機は貰えるみたいだけどよぉ」
ピンと来ないのか首をかしげる一夏。
「それだけじゃない。お前は男でありながらISに乗れるようになった。力を手に入れたわけだ。その力どう使う? 男と産まれたからには誰もが一生のうち一度は夢見る地上最強を目指すもよし、誇りの為に使うもよし、大切な誰かを守る為に使うもよし。セシリアとの一戦はその足掛かりとなる」
「力……守る為の。そっか、なら確かにいい機会だよな! 燃えてきた!」
単純な奴。
だからこそ、燃え上がるモチベーションは高まりようは大きい。
油を投下された火が勢いを増すように。
「まったく、わたくしをダシに叩きつけてくれましたわね。このセシリア・オルコットを足掛かりにするなんて」
「そう言うな。モチベが高まりきってない奴を相手にするよりもいいだろう? フォローはするさ。セシリアの次にはなるが一夏にも焚き付けた分のフォローはしよう。このテオドール・デュノアに遠慮なく言うといい!」
「お、おうっ!」
◇◆◇◆
時は進み、放課後。
「ううぅ、おおおっ……」
謎のうめき声を上げる一夏。
HRが終わり、先生方が教室を出ていった後一夏は机の上に顔を伏せうなだれていた。
「分からん……何も……」
精魂尽き果てたといった様子。
今日一日最後までISの座学漬けだったからこの始末。
「さて、わたくし達も行きましょう。テオ、シャルロットさん」
「ああ、そうだな。時間が惜しい」
「早く申請しに行かないとね」
うなだれる一夏を脇に帰る支度をして教室を出ようとする。
ここからは自由時間。
やること、やらなければならないこと、そしてやりたいことは多い。
「行くって何処か出かけるのか」
ふらふらと身体を起こした一夏が疑問を投げかけてきた。
「そういうことではない。放課後になったんだ、ゆっくりしている場合じゃないだろ? 来る一週間後に向けていろいろとしたほうがいいことは多い」
「た、確かにっ! だったら、俺も一緒にっ!」
ハッと顔して気づいた一夏が言いかけた時、教室に山田先生が入ってきた。
「よかった。織斑君、まだいたんですね」
「えっと、何か用なんですよね」
「はい、寮の部屋のことを伝えようと思って」
一夏は今朝自宅から登校したらしいのだが今日から寮生活になるらしい。
この後のことは流れ通りだろう。
俺達が口出す様なことでもない。シャルロットとセシリアと目くばせすると共に教室を出ようとするのだが、一夏に引き留められる。
「ちょっ、俺を一人にする気か?」
「今から寮に行くのだろう? 今日のところはそっちを優先しろ。そういうのは早い方がいい」
「それはそうだけどよぉ、テオドール」
理解はできるが納得しきれないといった顔。
やる気を出したところで出鼻をくじかれればそうなるのは理解できる。
だからといって、捨てられた子犬のような悲しい目で見るのはやめろ。周りに油を注ぐな。
「そんな目でこっちを見るな。部屋のことをしながら自室で今日習ったことを復習するといい。分からなかったことが分かるというのは大きな自信となる。携帯あるか? このメッセージアプリも」
「あるぜ。って何か来た」
「何かとは何だ。それは俺の連絡先だ。どうしてもなくなった時はメッセで声をかけるといい。内容次第では力になってやる」
「おおっ! 思ったより、テオドールっていい奴なんだな!」
また随分なことを言われたがまあいい。
アフターフォローは用意してやった。
これで大人しくなるだろ。
「ふふっ」
俺と一夏を見るクラスメイト達からの怪しい視線だけでなくシャルロットとセシリアから微笑ましいものを見るような笑みを向けられる。
「何だ」
「いや、テオって本当にね」
「ええ、お優しいこと」
「別にそういうのじゃない。ほら、行くぞ」
話を切り上げ、俺達3人はあるところへ向かった。
テオドールの一夏へのスタンスが明らかになりました!
そして何やかんやでとりあえずセシリアvs一夏の戦いが成立しました。
セシリアの名台詞「ちょっとよろしくて」が使えなくなったので変則的な感じで一夏に。
次の次ぐらいでセシリアvs一夏の試合をお届けする予定です!
感想お待ちしております!!