皆に愛され 覇道をゆく天才の物語   作:水戸野幸義

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STORY33 覇者・弟姉・妹姉

 セシリアと一夏が模擬戦をした翌日。

 今朝のSHRでは昨日のことを受け、クラス代表について正式な発表が行われていた。

 

「ということで織斑一夏君が正式に一年一組のクラス代表となりました! 昨日の試合では大健闘してましたし、一繋がりで縁起がいい! これは期待しちゃいますね!」

 

 山田先生が嬉しそうに言うとクラス全体が喜々として盛り上がった。

 しかし、一夏だけは周りに反して浮かない顔をしている。

 そんな一夏を見て山田先生が心配そうに声をかけた。

 

「大丈夫ですか? 織斑君」

「アッ、ハイ」

 

 生返事。

 本来ならここで抗議をしそうなものだが、今の一夏はそれすらも諦めてる。

 昨日の試合を見て面白半分、客寄せパンダとしてだけでなく確かな期待を周りから寄せられているのだから抗議しても無駄だと悟った様子。

 けれど、乗り気ではない。そんな一夏の様子を見かねたセシリアが渇を入れる。

 

「なんて顔をしていますの。正式なクラス代表になったのですから胸を張りなさい!」

「そう言われてもなぁ……」

「このセシリア・オルコット相手にあそこまでの健闘をした一夏さんの実力はわたくしも認めているのです。初心者故に不安もありましょうが心配ご無用。指導にはこのわたくしとシャルロットさん、そしてテオがいますわ!」

 

 今度は注目が俺に集まる。

 ここで声をかけないのは酷か。

 

「その通りだとも。このテオドール・デュノアが力になろう! 一夏は一人じゃない。一夏には俺達が、そしてクラス皆がいる」

「そうだよ! 情報収集なら任せて!」

「応援だってするよ! オルコットさん相手にあそこまで頑張った織斑君くんが勝つの楽しみ!」

「目指せ! 優勝! 目指せ、学食デザート半年フリーパス!」

 

 一人二人と次々クラスメイトから次々と一夏へと応援の言葉が出てくる。

 これだけ言われて引き下がる様な奴じゃない。

 一夏は少し自信を持ったように口を開いた。

 

「あんま期待され過ぎんのはアレだけどクラス代表として頑張ってみるか!」

「おおっ!」

 

 一夏の宣誓にクラスが沸く。

 本来ならここで一悶着あるはずだが、クラスが一致団結してオチがついた。

 まあ、これはこれで悪くない展開だ。

 

 一夏以外にも浮かない顔をしている篠ノ之が気掛かりではある。

 ここでガッと来るはずなのだが。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「一夏、これから共にISの訓練をしないか?」

 

 放課後。

 帰りのホームルームが終わるなり、俺から一夏に声をかけた。

 当然の如く、周りはざわつく。注目の的というのもあるが、これまで放課後一夏の時間は篠ノ之との時間。俺から一夏を何かしら誘うというの初めてのこと。だから、周りはこの反応で当の本人である一夏も驚いている。

 

「へっ……?」

 

 驚きのあまり間抜けな顔をしているほどだ。

 

「昨日の今日であるがお前の機体はそこまでダメージはなかっただろ? 専用機を手に入れたことだし、出来ることが増えて折角だからな。ほら、前も言ったがこういうのは早いうちからするのがいいと。もっとも一夏がよければだが」

「おおっ、全然構わねぇっ! むしろ、こっちからお願いしたい! いろいろ教えてくれ!」

 

 一夏がそう言った時、後ろ髪を引かれるような顔をした篠ノ之が一人教室から出ていくのが見えた。

 これでもアクションはないか。やはり気がかりだが、下手に関わっても埒は明かない。どうするべきか。

 

 ところかわって第3アリーナのピット。

 昨日模擬戦があったここで今から一夏と訓練をする。

 

「そう言えばISってどんな訓練するんだ?」

「他のスポーツと変わらん。試合形式ですることもあれば、技術や技を一つ一つ磨くなど様々だ。ちなみに今からするのは模擬戦だ。まずはお互いの実力を直に知ることが大切だ。それに口ばかりだとは思われたくないし、一夏だって実力の分からない奴に教わりたくはないだろう?」

「そこまでは思わねぇけど、お前の実力は知りたいな! すげぇって噂ずっと聞いてたし!」

 

 一夏が凄い期待の視線を向けてくる。

 噂というのは大方セシリアやシャルロットとの練習を見ていた者達が噂したのだろう。

 

「期待するといい。ということで始めようか。後で二人も参加してもらうことはなるがまずはモニタリングを頼んだぞ。セシリア、シャシャ」

「ええ、任せてください」

「任せて」

 

 一夏との模擬戦をした後、二人を入れた訓練も考えている。

 俺だけで一夏に訓練をつけてやっていてもいいが、一夏一人だけには構ってられない。 セシリア 二人を入れた方が二人の訓練にもなるし、一夏としても得られるものは大きいだろう。

 

 ピットからフィールドへ降りると一夏との模擬戦は始まった。

 

「うおおおっ!」

「――! ふんっ!」

「うあああっ!?」

 

 一夏の一刀を受け止め、弾き飛ばす。

 

 悪くない太刀筋。剣道経験者というだけはある。

 セシリアとの模擬戦までにあった一週間で失ったものを多少なりと取り戻せたというのが感じ取れる。

 だが、昨日のようなキレはない。一夏は全力で今の戦いに挑んでいるがどこかセーブした感じでアクセルを最後まで踏み切れていない。

 

「これなら!」

「甘いぞ! 一夏!」

「なっ! 白羽取りィッ!?」

 

 両手に持つソードを宙へと投げると振り下ろされる雪片弐型を俺は白羽取りした。

 そして続けざまに背部から両脇へと伸びる単装砲とレールガンを一夏にお見舞いする。

 

「うわあああっ!」

 

 轟く轟音と共に一夏は吹き飛ぶ。

 宙から落ちてきたソードをキャッチすると量子変換で収納し、残ったのは白羽取りからの砲撃で一夏が手放す形になった雪片弐型。

 俺は地面に落ちたそれを拾う。

 

「これが……」

 

 織斑千冬が振るった雪片の後継。

 姿は同じでこうして手に持ってみてもただの近接ブレードにしか見えないが、現状零落白夜を発動する為の触媒となる欠かせない近接武器。

 

「零落白夜か……」

「いてて! めちゃくちゃ強ぇし、容赦ねぇぜ」

「何を言う。本気ではあるが充分抑えての攻撃。しかも、模擬弾を使ってのものだ」

「これが模擬弾じゃなかったらやられてたったことか……っと、ありがとう」

 

 立ち上がった一夏に雪片弐型を返す。

 

「お前の実力は大体分かった。次はもっとお前の本気を見せてくれ。零落白夜を使って」

「え……いや、それは……」

「やはり、お前は躊躇っているな。発動すれば強く攻めれる場面にも拘らず度々躊躇した動きになっていたぞ」

「マジでか。あれ、武装用のエネルギーだけじゃなくてシールドエネルギーまで使うっぽくてそれで負けたし……それに……」

 

 歯切れが悪くなった。

 言いにくいか。

 ならば、こちらが言ってやろう。

 

「バリアー無効化能力で絶対防御まで消滅させてしまうかもしれないから怖くて使えないと」

「!? そ、その通りだけど零落白夜のこと知ってるんだな」

「世界で初めて発現したワンオフ・アビリティーとして零落白夜は有名だからな」

 

 零落白夜は日本だけでなく、全世界で分析と研究がされている。

 俺が知っているのは原作知識以外にこれもあってのこと。

 

「お前こそよく気づけたな。自分のことだから気にはなっているだろうが負けた時何が何だかって顔してたのに」

「確かに負けた時は何も分からなかったけど、自分のことだからちゃんと知ろうと思って。お前言っただろ? 知識は力だって。だから、一番知ってそうな千冬姉に頼みこんでかなり渋々だったけど教えてもらった。教えてくれたのはエネルギー切れの訳と能力のことだけで使い方は自分で見つけろって言われたけど」

「なるほどな……」

 

 一夏が零落白夜について知るのはもう少し後のこと。

 それも教えられる形で知ることになる。だが、この一夏は自ら知りに行った。

 些細なことだが大きな変化だ。

 

「知って怖くなったか。だが、使わずこれから戦い抜けるのか? 武器はその雪片だけなのだろう?」

「それは……」

「危険な力なら使いこなせばいい。お前の姉のように。力は使い様。世界最強の姉から受け継いだその力、お下がりではないと俺に見せてくれ」

「千冬姉から受け継いだ力……うしっ! いっちょやってみるか!」

 

 乗ってくれた。

 一夏のこういうところは助かる。

 

 再開した一夏との模擬戦。

 まずは何度も斬り結び、ここぞというタイミング。

 

「今だ! 零落白夜、発動!」

 

 白い輝きを放出する雪片。

 無事発動成功。一夏の零落白夜も一度発現すれば、精神がせたぷった状態でなくても基本好きなように使えるようだ。

 不安定な精神状態でなら発動できるか気になるところだが、今確かめられることを確かめる。

 

「えええい!」

 

 零落白夜を発動した雪片を構え、一夏は勢いに乗って迫ってくる。

 零落白夜は剣状に形成されている。織斑千冬が使っていた暮桜だと雪片の刀身に零落白夜のエネルギーを纏う形だった。この違い、零落白夜にどう変化かがあるのか。

 それにワンオフ・アビリティー、零落白夜は今まで何度か見たことあるがここまで近くで見るのは初めて。

 強力な力。近いうちに必ず。

 

 俺はあえて撃ち落すレールガンを放ってみた。

 

「ハァァッ!」

 

 思惑通り、雪片で真正面から弾を叩き斬ってくれる。

 放ったのは高速で電磁射出する実弾から切り替えたプラズマ。ISから供給されるエネルギーの特異性を帯びたエネルギー攻撃。

 ゆえに零落白夜で消滅させられた。これを見るにやはり、一夏の零落白夜は織斑千冬が使っていた零落白夜と同等と見て今のところは問題なさそうだ。

 

「へへっ!」

 

 手ごたえを感じている顔をしながら迫る一夏。

 このままでは当たると瞬間終わるが。

 

「当たらなければどういうことはない!」

「なっ!? この間合いで避けて!? うああっ!」

 

 こちらから瞬時に距離を詰め、懐に潜って放つロングソードの一閃。

 見事に当たり、自身のシールドエネルギーまでもを消費する零落白夜の特性も相まってエネルギーシールが尽きる。決着は着いた。

 

「くぅ~……! 俺の負けか……」

「まだまだISの動きになれておらず隙が多かったからな。動きが単調なのところが多々あった」

「そっか……」

 

 一夏に覇気がない。

 てっきり声を上げるなりしてもっと悔しがるものだと思っていた。

 これは珍しく一夏が凹んでるのか?

 

「何凹んでるんだ。始めの内はこんなものだ」

「そうかもしれねぇけどさ……こう言っちゃ何だけど今の零落白夜すげぇ自信あったんだ。今だけじゃねぇ、セシリアと戦った時もそうだ。あの時は衝動に押されるまま突っ込んで失敗。今は簡単に避けられてこの様。受け継いだって言ってもらえてたけどはしゃいでたんだなぁって。これじゃ……」

「お下がり、だと……」

「……ッ」

 

 悲痛な無言は肯定にも似たものだった。

 

 まさか織斑一夏がこんな風に凹むとは。

 それだけ真剣に取り組んでいるということかなのかもしれん。

 

「言っただろ? 始めのうちはこんなものだと。大事なのはこれからだ。お下がりだろうが何だろうが手にした力に報いる結果を。それ相応の強さを身につければいい」

「分かっちゃいるんだけどさ……」

 

 言葉を理解できても今一つ納得しきれない様子。

 俺は更に言葉をかけ続ける。

 

「それは当然の反応だ。だが、行動あるのみだ。一夏、お前ならできる。このテオドール・デュノアがついているんだからな!」

「そっか……そうだな!」

 

 凹んだ表情を拭い一夏は笑顔を浮かべた。

 

「マシな顔にはなったな。さ、一旦ピットに戻るぞ! 反省会だ!」

「おうっ!」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「そう言えば、織斑一夏が正式に1組のクラス代表になったんだってね」

「相変わらず耳聡いな」

「噂の人だもの。嫌でも耳に入ってくるよ」

 

 手を動かす簪と談笑をする。

 今日も今日とて簪は打鉄弐式の開発と調整中。

 俺は様子を見に来てすぐ帰るつもりだったが少しぐらいゆっくりしていったらという言葉に甘えこうしてまだ簪と整備室にいる。

 

「実技の授業に出られるようになったから私もそろそろ機体動かして訓練しなきゃ。クラス代表戦も近いし」

「半月後だからな。そうだ、よかったら簪も一緒に訓練するか?」

「そう言ってくれるのは嬉しいけどいいのかな……? 個人戦なら兎も角、クラス代表戦。友達とは言え、他所の組の人に混ざるのはいろいろとね……」

「気にしなくてもいいと思うが……周りの目はあるか」

「うん……私だけ別のクラスだと余計にね。はぁ……私も同じクラスだったらよかったのに……」

 

 本気で落ち込んでいるわけではないだろうがそれでも少しばかり落ち込ませてしまった。

 

「今後この手の話題は控えることにしよう」

「ああ、気にしないで。別のクラスなのはやっぱ少し悲しいけど、そのおかげで気にかけてもらえてるから悲しいことばかりじゃないよ」

 

 そう嬉しそうに微笑む簪。

 何だか逆に気を使われてしまった。

 

「でも、織斑一夏か……専用機は気になるかな」

「戦うかもしれんからな」

「それもあるんだけど……あの機体があんなことになるなんてなぁっと思って」

 

 知った風な口振りの簪。

 

「白式のこと知っているのか?」

 

 思わず聞いてしまったが、こんなこと聞くまでもない。

 白式と打鉄弐式は同じ日本、倉持製。知っていてもおかしくない。

 

「白式っていう名前はね。後は元々、白椿っていう名前だったっていうこととか」

「白椿……」

 

 そんな名前あったな。

 確か開発コードだと原作(俺が識る世界)の資料にあったはずだ。

 

「元々の開発コードが白椿で織斑一夏のことがあって白椿に打鉄弐式のスタッフ全員移ったと思ったら白式って名前に変ってて。織斑一夏が白式に乗っているのなら白椿が白式で間違いないはず」

「なるほど……」

 

 白式は元々開発が凍結になった機体に外部の手が加わった機体。

 その際に開発コードである白椿という名前から白式が正式名称として日本、倉持も採用したっていう感じか。

 

「ねぇ、こんなことテオに聞いていいのか分からないけどいい?」

「何だ」

「白式が最後に見せた剣の輝きって零落白夜だったりそれに近いものじゃないかって思うんだけど……」

 

 珍しく簪から質問があったと思えば、これとは驚いた。

 俺は予め識っていて文章や映像として何度も見たことがあるからこそ、結論ありきであれが零落白夜だと分かった。

 だが、簪が白式の零落白夜を見るのは試合が始めて。見ただけで気づいたのか。

 

「どうしてそう思った?」

「あの輝き、発動の感じこそ違うけど現役時代の織斑先生が使ってた零落白夜の輝きと似てるっていうか同じように思えて……シールドエネルギー切れで負けたっぽいのも零落白夜はエネルギーの消費が膨大過ぎて武器用のエネルギーだけじゃなくシールドエネルギーまで消費するらしいからそれで。本当それだけの状況判断というかそれ以外証拠らしい証拠ないんだけど気になっちゃって……」

 

 よく見ている。それに頭の回転、察しがいい。

 更識簪という人物の地頭のよさを垣間見た。

 これなら後方サポートをなるのも納得だ。

 

「流石だぞ。よく見てよく考えているんだな」

「わわっ、テオ!? きゅ、急にっ……まあ、いいけど……」

 

 頭を撫で褒めてやる。

 当然簪は驚いたが悪い気はしていないようだった。

 

「正解だ。あれは零落白夜。一夏に確かめたら一夏は織斑先生に確かめていたから間違いないはずだ」

「やっぱり、そうなんだっ……ということは白式、白椿は設計コンセプト達成しちゃったことになるのかな……」

「というと?」

 

 今度は俺から簪に尋ねる。

 

「元々零落白夜を再現しようとしたらしいの。でも、再現じゃなくて本物の零落白夜を発現させたなんて……」

 

 第三世代機はワンオフ・アビリティーを技術的に再現することを目的とした機体群。

 強い日本の象徴的存在である織斑千冬が使った力を再現しようとするのはそうおかしい流れではない。

 

「なるほど。何の因果か本物の零落白夜が発現したわけだが。そうなると白椿だった頃はどういう風に再現しようとしていたのかは気になってきたな。テンペスタⅡのようにしていたのか」

「確かに気にはなるよね。けど、そこまでは私も詳しくは分からない。私が関わってた開発チームとは別だったから。ただ予想はできるかな。これ見て」

 

 そう言って簪は作業途中のウィンドとは別のウィンドにあるものを映した。

 薙刀の形をした近接武器。薙刀の下には名前も表示されている。

 

「夢現……弐式の近接武器か」

「うん。超振動薙刀……これは元々白椿に実装されてた近接ブレードを転用したものなの。機能は一部オミットされていて、多分オミットされた機能を使ったんじゃないかな」

「ふむ……」

 

 超高振動武器……思い浮かぶのはseedのアーマーシュナイダー系統の武器。

 ただそれを振るっただけでは何も機能のない近接武器よりもよく切れる近接武器でしかない。ゲイルストライクのウィンクソー。次に超高振動武器として思い浮かんだこれを参考にするのはありかもしれない。

 切断対象ごとに振動周波数を調節することで切れ味を安定させたり、シールドエネルギーを突破するとかおもしろそうだ。

 はたまた荷電粒子を引き裂いたバン仕様ブレードライガーのブレードみたいな感じでいっそにシンプルに運用するのも悪くはなさそうだ。

 

 超振動武器を使っての零落白夜の再現方法。

 外部の手が入らなければ白式……いや、白椿がそうなっていた可能性は大いにあるな。

 これで確定ではないが謎だった部分に明確な推測を立てられるのは大変気分がいい。

 

「ふふっ」

 

 ふと簪が楽しそうに笑った。

 いや嬉しいそうにともいえるか。

 

「何だ急に笑って」

「考え込んでるのに楽しそうでテオが男の子の顔してるなと思って。」

 

 

「いや興味深い。いい話を聞かせてもらった。すっかり邪魔してしまったな」

「そんなことない。気にしないで。いい息抜きになった。ちょっと行き詰っていたから。あ……でも、そろそろ……」

 

 簪が時間を見て言葉を続けようとして時だった。

 

お姉ちゃんの出番ね!

 

 ここにはいない人物の声が聞こえた。

 

「!?」

 

 簪と一緒にバッと振り向く。

 するとそこには整備室のドアにもたれかかるようにいたのは楯無だった。

 口元を隠すように開かれたのは扇には『同心協力』との文字があった。

 

「ビ、ビックリした……!」

「入ってきた音しなかったぞ。いつからいたんだ」

「簪ちゃんが行き詰ったって言ったところかしら。何か難しい話してたから気配殺して入って来たけどベストタイミングね」

 

 気配殺して入る必要あったか?

 

「入るなら普通に入って来て。というか、ベストタイミングってお姉ちゃん……また手伝おうとしにきたの? 気持ちだけ受け取るって言ったのに」

 

 様子を見に来た入学初日からも楯無は度々簪の様子を見に来ているらしい。

 律儀に俺がした助言を守ってなのは知らないが。

 だが、今みたいに断られる結果が続く。

 

「で、でもっ。やっぱりっ、ISって本当に一人じゃ大変で私も虚ちゃんや薫子ちゃん達にいろいろアドバイス貰って完成させたから。だからっ」

 

 楯無は何とかして食い下がろうとする。

 簪の力になりたくて必死なのだろう。

 気持ちは俺にまで伝わって、それは当然楯無にも。

 

「ありがとう、お姉ちゃん。でも、やっぱり気持ちだけ受け取る。打鉄弐式の完成は一人で成し遂げたい。どうしようなくなった時はなくなった時は頼らせてもらうけど、頑張れるところは頑張りたい。そうすることでお姉ちゃんに追いつきたい」

 

 しっかりと口調で言う簪のからは強い意志が宿っている。

 その目に射抜かれた楯無の食い下がっていた勢いは次第に大人しくなっていく。

 

「……そう……なら、もうこれ以上とやかく言わないでおくわ。ごめんなさい、簪ちゃん」

「何でお姉ちゃんが謝るの。私が意地張ってるだけだから謝る必要なんてないよ。ただ一度意地を張ったからには最後の最後まで張り通したいって我が儘だから」

「簪ちゃんが我が儘……素敵な我が儘ね……」

 

 明るい簪と影のある楯無。

 何だか雰囲気がいつもとはすっかり間逆になってしまった。

 

「じゃあ、私ご飯食べる前に一度部屋に戻るけど……」

 

 夕食の時間になっているので整備室を後にする。

 簪は一度部屋に戻るとのことなのだがすっかり影を落とした楯無が気がかりで行くに行けない様子。

 なので目配せをする。楯無は俺に任せろと。

 

「そうか。なら、先に食堂で待っているぞ」

「うん。テオ、また後で。お姉ちゃん、またね」

「ええ……簪ちゃん、また……」

 

 簪が去っていくのだが、その後ろ姿を楯無はただ静かに見つめ続けた。

 姿が見えなくなると楯無はぽつりと口を開く。

 

「親はなくても子は育つと言ったら何だけど……私が心配しなくても簪ちゃんは一人で歩いて行ける。こんなにも立派に成長してる……」

 

 微笑みを浮かべる楯無は簪の成長を喜んでいるかのよう。

 しかし、以前影は落としたまま。むしろ、影は増していっているかのように感じる。羨んでいるかのようにさえ。

 

「だな。だからこそ、もっと簪を応援したくなる」

「そうね。でも、私は簪ちゃんのお姉ちゃんなんだから本当はもっと何かしてあげなきゃいけないのに……」

 

 これだ。

 前にも似たようなことを言っていた。

 簪を思っての発言だろうが、それだけではないような気がしてならない。

 

「落ち着ないのは分かるがだからってそう気負うことでもあるまい。見守ること、応援することも立派なしてあげられることだ。それに他にもしてあげられることはあるんじゃないか」

「それは……その通りね。はぁ~……ダメだわ、頭硬くなってる。しっかりしなきゃ、私は簪ちゃんを守って手本になるお姉ちゃんだから」

「――」

 

 脳裏にイメージが思い浮かんだ。

 幼い頃の楯無が寂しそうな顔をしている姿が。

 

 だから、目の前の楯無も心細そうにしているように見える。

 こんな楯無を見るのは始めてだ。

 少しして当人は自覚をしたようでハッとする。

 

「って、私らしくないわね。皆の頼りになる先輩で最強の生徒会長で強いお姉ちゃん、そして更識家の当主。その様に振る舞えるようもっとしっかりしなきゃ」

 

 誤魔化すように見慣れた笑みを浮かべた。

 言葉を口に出して自分に言い聞かせている。

 これはまた随分背負いこんでいるな。やはり、楯無はこれはこういうものだという固定概念のようなもので自分を縛っている。

 

 楯無には様々な立場があり、時と場合で使い分け、その時折の役に徹している。

 何だか幼い天才子役が本来の自分とは違う年齢の役や性格の違う役を演じているかのようだ。

 

 これは最早楯無、いや刀奈としてのそういう在り方なんだろう。幼い頃から多くの役目を背負ったゆえに。そして、そうすることで自分を守っている。だからこそ、素の部分がこんなにも心細く見えるのか。

 しかし、どれも紛れもない本当の更識刀奈(更識楯無)。否定はできない。

 

「何度も言うがあまり気負うなよ。話ぐらいは聞いてやる。それにそうだな……もしかすると簪に直接何かしてあげられるかもしれんぞ?」

「え?」

 

 沈んでいたのがだんだんと晴れていく。

 

「開発が進めば実際に動かしてデータを取らなければならないだろ? 一人では出来ることは限られている。それにクラス代表戦が近づいて練習は必要だ」

「テオやセシリアちゃん、シャルロットちゃん達がいるじゃない」

「勿論誘った。だが、簪だけ別のクラスだからな。その中に他所のクラスの者が一人いるのはどうなのかと簪本人がな」

「あーなるほどね……それで私が?」

 

 半信半疑。

 けれどもしかしてと期待に胸を寄せてからなのか嬉しそう。

 楯無は平然を装っているが隠しきれてない。

 

「学年違えば他所のクラスどうのはないだろうし、他の同級生に頼むとレンタル待ちがあるが専用機持ちならそれはない。周りの興味は引くだろうが姉妹で練習するのはなんらおかしくはない? 勿論、簪次第だ。今日にみたいに突然行くのではなく前もって話をつけるといいだろう。直接話をつけれると尚いいかもな」

「わ、分かったわっ!」

 

 まだ決まったわけではないのに決まったかのように嬉しそうな顔をしている。

 姉として妹に何かしてやられるかもしれないというのは楯無自身の安心と自身になるのだろうがそれを差し引いても妹思ってなのは伝わる。

 

「練習相手になれたとしてもあまりズカズカ構いすぎるなよ。あくまでも練習相手。よく見守って、アドバイスできそうなところがあればそれとなくがよかよろう。何でもかんでもしてあげるのが姉ではあるまい。かといって遠回しに変な過保護するのも要注意。簪に気を病ませても仕方ない」

「そうね。気を付けることいっぱい。今まで通りってわけにはいかないわね」

「生身の人間を相手にしているわけだからな。時と場合で接し方も変わってくるというもの。これはこういうものだと変に凝り固まらずしっかり簪と向き合って新たな姉キャラを作るのもいいんじゃないか」

「姉キャラって……テオ、貴方。でも、そうね。気持ちを一新していろいろ頑張ってみるわ!」

 

 先ほどまで沈んでいたのが嘘のように楯無はやる気に満ちていた。




一夏に訓練をつけたり、簪の様子見がてら白式と零落白夜について考えたり、更識姉妹の仲を取り持ったりと。
今回もいろいろありました。

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