皆に愛され 覇道をゆく天才の物語   作:水戸野幸義

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STORY35 覇者たちの前にアノ中国娘がやってきた

「デュノア君、織斑君、おはよー。ねぇねぇ、転校生の噂ってもう聞いた?」

 

 朝、教室に入るなりクラスメイトから話しかけられた。

 話しかけてきた子だけでなく他のクラスメイトまでもが噂で盛り上がっている。

 このクラスだけじゃない。教室に来るまでの道の賑やかさを思い出したかのように一夏は言う。

 

「噂って、なるほど。それで教室に来るまで妙な賑やかさだったのか。でも、転校生……どうしてまたこんな時期に?」

 

 一夏の疑問はもっともだ。

 IS学園は勿論、この時期に転校は普通の学校でも珍しい。

 しかも、IS学園の入学条件は厳しい。この条件を満たせる人間となれば決まってくる。

 

「さあ? 流石に理由は知らないけど織斑君達男の子二人が関係してるんじゃないかって皆噂してるよ。何でも中国の代表候補生なんだってさ」

「へぇ~けどよ、何で俺達が関係してるんだ? テオなら分かるか?」

「大方俺達男子二人が入学したことを知って一枚噛みたくなったのだろう。関係を持てれば尚よしとな。後、今年は代表候補生は勿論、専用機持ちは例年と比べて多いからそれも関係してるのかもな」

 

 もっともらしい理由を上げるとすればこんな感じだろう。

 実際はこんな理由ではないが建前としてはこうなる。

 

「まあ、どんな方であっても気にせずわたくし達はわたくし達のやるべきことをするだけですわ」

「だね。ちなみにその子がどのクラスに来るのかって分かってたりするの?」

 

 セシリアの言葉に同意したシャルロットがまた違うクラスメイトに尋ねる。

 

「2組って聞いたよ」

「2組かぁ……どんな奴なんだろうなぁ」

「ほぉ、気になるのか」

 

珍しい。

 一夏はこういうことてっきり右から左へと流れそうなものだが一夏でも気にするのか。

 

「いや、だってよ。この時期に、しかもIS学園に転校してこれるてなると相当優秀な奴ってことだろう?」

「それはそうだな」

「転校してきた奴がクラス代表じゃないとしても対抗戦はクラス一丸となるから手強い相手になるだろうからちょっとヤバいかなとかいろいろ」

 

 気にするにしても一夏なりに危機感を持ってのこと。悪くはない。

 

「手強い相手になる可能性はあるだろ。だとしてもどんな相手であれ勝てばいい。勝つ為に強くなる時間は充分にある」

「相変わらず無茶苦茶言ってくれるが確かにその通りだな」

 

 苦笑いをしているがやる気は相変わらずあるようだ。

 

「そんな心配しなくてもデュノア君達もいることだし平気平気」

「そうそう! それに今のところ専用機持ってるのって1組と4組だけだから余裕だよ」

 

 などといつの間にか集まって来ていた他のクラスメイトが言う。

 その言葉はある種のきっかけとなる言葉。

 あの言葉と共に彼女はやってきた。

 

「その情報、古いよ」

 

 会話に割り込む一言。

 聞き慣れない声を聞き皆一様に声がした方へと視線を向ける。

 教室の入口で腕を組みドアにもたれながら片膝立ちしている小柄な少女。

 

「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないよ」

 

 皆始めて見るようでそいつが誰なのか分からないが、俺以外にただ一人分かる一夏は言った。

 

「鈴? もしかしてお前、鈴だよな?」

「そうよ。噂の転校生にして中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 ふっと大胆不敵な笑みを浮かべる。

 トレードマークであるツインテールがふわりと揺れた。

 

 噂していた相手が突然現れ、しかも宣戦布告を言いのけた。

 当然の如く目立ち、言葉を耳にした者は多くクラス中がざわめきだした。

 そんなことを気には止めず、一夏はツッコミを入れる。

 

「何かっこつけてるんだよ。全然似合ってねぇぞ」

「んなっ!? 折角久しぶりに会ったっていうのになんてこと言う事よ!」

 

 一夏の失礼な発言に凰はヒートアップしていく。

 見ている側としても盛り上がる展開ではあるが対照的にざわついていたクラスメイト達は静かになっていった。

 

「おい」

「何……ょ」

 

 声が下した方へと振りきながら言った凰だったが声の主を見るなり、声が小さくなり大人しくなるのが手に取るようにわかった。

 

「もうSHRの時間だ。自分の教室へ戻れ」

「……ち、千冬さん」

 

 凰のすぐ傍には織斑先生がいた。

 織斑先生に冷たく鋭い目で見下ろされるとさっきほどまでの威勢の良さが嘘かのように大人しくなった。

 

「ここでは織斑先生だ。さっさと行け」

「す、すみませんっ……」

 

 さっとドアから離れた。織斑先生はズカズカと教室に入り教壇へと向かう。

 この光景を見た時一夏は凰が織斑先生にビビっていると感じていたが俺でもそう感じる。

 しかし、ここで大人しく言われた通り帰るような奴ではない。

 

「また後で会いに行くから! 逃げるんじゃないわよ、一夏!」

 

 開いた教室のドア前で仁王立ちして凰はそう言った。

 

「さっさと戻れ」

「は、はいっ!」

 

 一瞬で姿が消えた。

 ダッシュで帰っていく足音が聞こえる。

 かっこつけようとしていたが最後までかっこつかなかったな。

 

「本当なんだったんだ。っていうか、アイツいつの間にISの操縦者、しかも専用機持ちになんてなってるなんて。初めて知ったぞ」

 

 一夏は思ったことを素直に口に出す。

 それを聞いて凰と織斑先生のやり取りで静まり返っていたクラス中が再びざわめき出す。

 

「何々、中国の代表候補生で専用機持ち!?」

「しかも、織斑君の知り合いってどういうこと!?」

 

 疑問や質問が次々と飛び交う。

 それはクラスメイト達だけではなくこちらもまた。

 

「まさか中国の専用機持ちが来るなんて」

「ええ。これで専用機持ちが6人……」

 

 シャルロットやセシリアも凰、新たな専用機持ちのことをかなり気にしている様子。

 

「まあ、気になるだろうが今は席に着こう。時間だ」

「え……あっ」

「そ、そうですわね」

 

 織斑先生がこちらを冷たく見つめる意味を察してシャルロットやセシリアは話すのをやめた。

 このまま話続けていたら叩かれていただろう。視線を躱すように席に着いた。

 

 凰鈴音が転校してきた。

 これでまた一つ物語は大きく進みだす。

 おもしろくなりそうだ。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 午前の授業が終わった昼時。

 俺達は昼飯を食べる為、学食へとやってきていた。

 いつもは俺、セシリア、シャルロット、そして一夏と篠ノ之といった面子で昼飯を食べているが今日は新たなメンバーが加わった。

 

「ようやく簪と一緒にお昼ご飯食べれるね」

「うん。ごめんなさい、何度か誘ってくれたことあったのに今まで行けなくて」

「昼の時間まで使って専用機開発に打ち込んでいたのです。仕方ありませんわ。それにもう落ち着いたのでしょう?」

「とりあえずは。だから、これからは一緒にお昼ちゃんと食べられる」

「それは何よりだ。後は楯無もこれるといいが」

「お姉ちゃん忙しいみたいだから」

 

 などと話ながら学食のカウンターで昼飯を受け取り、空いている席に着く。

 一夏達も同じく席に着いたのだが一夏はきょろきょろと辺りを見ている。

 

「どうかしたか?」

「いや昼飯時、学食なら鈴に会えるかと思ってけどいねぇなって。あんなこと言ってたくせに結局鈴の奴来なかったし」

「そう言えば、そうだな」

 

 あの後授業と授業の間の時間など来る機会はあるにはあった。

 しかし時間としては短く、落ち着いて会えない。だから、来なかった。

 今姿は見えないが来るとなればこの後。何より、ここで来ない訳はない。

 

「……」

 

 そんな一夏を隣で篠ノ之が聞きたそうな顔をして静かに見つめている。

 

「ん? どうかしたか、箒。何か言いたそうな顔をしてるけどよ」

「な、何でもないっ!」

 

 篠ノ之は止まっていた箸を進め物を食べて誤魔化す。

 その様子に一夏だけは不思議そうに首をかしげているがシャルロット達は察した様だった。

 気になるだろう。一夏と親しげな凰とどんな関係になのか。まあ、あせらずともすぐ分かる。

 

「ここにいたのね、一夏!」

 

 その言葉と共に仁王立ちで現れた凰。

 手にはラーメンが乗ったお盆が握られている。

 

「おおっ! 鈴っ、やった来たか! 遅かったな」

「遅かった、じゃない! そっちが早すぎるのよ!」

「そうか? まあ、学食混むからいつもテオドール達と授業終わったらすぐ行くからそのせいかもな」

 

 凰がこっちをグワッと見てくる。

 本当はそんなことはないが何だか睨まれているようだ。

 まあ、実際俺が居なければ一夏が先に来ることはなく凰が先に着ていた。

 

「聞きたいこともあるし隣空いてるから座れよ」

「あ、あんたがそこまで言うなら座ってあげるっ」

 

 凰は一夏の隣へと腰を下ろした。

 一夏を挟んだ反対側の隣には篠ノ之が座っている。

 一夏の前には俺。俺の両隣にはシャルロットとセシリア。シャルロットの隣には簪といった感じで座っている並び。

 

「本当久しぶりだな。丁度一年ぶりぐらいか。元気してたかよ」

「も、もちろんよっ。そういうあんたは……聞くまでもないわね。相変わらず元気。というか、いつも元気過ぎなのよ。たまには怪我病気しなさいよ」

「いや、なんでだよ。健康一番だろ。ところで」

 

 一夏が凰との近況報告に花を咲かす。

 こうなることは分かっていたので気にせず昼飯を食べる。

 簪も特に気にせず食べ、セシリアとシャルロットは気になるだろうがとりあえず食べている。しかし、篠ノ之だけは箸が再びとまっていた。

 視線こそは向けていないが篠ノ之の意識が全て一夏と凰とのやり取り気に向けられているのがよく分かる。一肌脱ぐか。

 

「旧交を暖めているところ悪いが一夏、そろそろと紹介してもらえるか」

「おっと、すまん。すっかり昔話に夢中になってた。改めて紹介するぜ、こいつは幼馴染の凰鈴音」

「幼馴染……?」

 

 怪訝な声が篠ノ之から聞こえる。

 ひっかかるものがあるのだろう。代わりに俺が訪ねることにした。

 

「篠ノ之の以外にも幼馴染いたんだな」

「まあな。幼馴染って言っても箒が小4の頃に引っ越して、小5になったばかりの頃に鈴が転校してきたんだよ。で、中二の終わりごろ国に帰ったから一年ぶりの再会になるな」

 

 一夏が簡単に経緯を説明してくれた。

 すると今度は凰が食いついた。

 

「篠ノ之……? 箒……? そう……あんたが」

「おっ、もしかして前話してたの覚えたか? こいつが箒、篠ノ之箒。小学校からの幼馴染で俺が通ってた剣術道場の娘」

 

 空気が張り詰めていくのが分かる。

 なのに一夏は呑気に答えてた。

 

「それ何度も聞いたわよ。まっ、これからよろしくね」

「ああっ、こちらこそなっ」

 

 何度も聞いた……つまり何度も篠ノ之の話をしていた。

 少なからず昔から意識しており、今相まみえた。ゆえに幼馴染二人の視線が火花を散らすようにぶつかっているのだが、それを知るわけがない一夏は不思議そうに見ていた。

 

「おっと、こいつも紹介するぜ。俺と同じく男でISを動かせるテオドールだ」

 

 一夏は次に俺を紹介してくれた。

 

「紹介に預かったテオドール・デュノアだ。名字で分かるかもしれないが自分はデュノアの」

「知ってるわ。デュノア社の天才御曹司でしょ。軍の人間から嫌ってほど話聞かされてたからね」

 

 意外だ。

 俺のことを聞かされることはあるだろうが、だとしても忘れてるものだと思っていた。だが、覚えてくれていた。

 そういう性格ではなかったように覚えているがこういうこともあるのか。

 

 俺が自己紹介したとなると次は自分の番だとセシリアが自己紹介をする。

 

「こほんっ! テオのことをご存知ならわたくしのこともご存知ですわよね! 中国の代表候補生、凰鈴音さん?」

「誰、あんた。知らないわよ」

「な、な、なっ!?」

 

 思ってもいなかった言葉にセシリアは怒りがこみ上げたかのようにわなわなわと震えている。

 そう言えば、二人の第一コンタクトはこんなのだったな。安心する。よく識った光景を見るのは。

 

「……ならば、お見知りおきを。イギリス代表候補生、専用機持ちのセシリア・オルコットです。よろしくお願いしますわね」

「はいはい、よろしく」

 

 どこまでも興味のない投げやりな言い草。

 セシリアは怒りを現してもおかしくないが寸前のところで堪え平静を努めていた。

 よく堪えた。成長した。

 

 その後、シャルロットや簪も凰に自己紹介を簡単にした。

 すると、そこであることが発覚した。

 

「ねぇねぇ、あそこのテーブルヤバくない?」

「うわっ、本当! 一年の専用機持ち全員揃ってるじゃない!」

 

 そんなひそひそ話が聞こえてきた。

 言われてみれば、確かにそうだ。一年生の専用機持ちを全員揃えたくて集まった訳じゃないが、これは面白い状況だ。

 

「ところで一夏、アンタが一組のクラス代表なんだってね」

「まあ、成り行きでな。でも、なったからには精一杯やるつもりだ」

「ふーん。じゃ、じゃあ、私が見てあげよっか? ISの操縦とかいろいろとさ」

 

 顔は自分の昼飯へと向けたまま、凰は視線だけ隣にいる一夏へと向けた。

 原作(俺が識る世界)だと言葉そのままに受け取っていたがどうなるか。

 

「嬉しいけど気持ちだけ受け受け取っとくよ」

「なっ!?」

 

 一夏はきっぱりと断った。

 断られると思っていなかった凰はわき目もふらずに驚いていた。

 

「何でよ!?」

「いや、だって鈴は別クラスの代表だろ? 戦うことになるわけだし、手の内明かすようなことはちょっとなぁ」

「そっ、それはそうだけど……あんたまだまだ素人でしょ!」

「はっきり言ってくれるなぁ……その通りだけどさ、そんな心配しなくてもISはテオドール達に教えてもらってるし、身体も鍛えてるからよ。なにせ俺には箒がいるからな」

「――」

 

 言葉を失ったかのように驚いたと同時に凰は俺達、主に俺を見てから篠ノ之を見た。

 今度こそははっきりと睨んでいる。俺達は内心察しているから気にせず、篠ノ之に至っては勝ち誇った様な顔をしている。

 言うまでもなく一夏の言葉を真に受けてだろう。もっとも一夏にしてみれば、剣道が同門の篠ノ之に見てもらってるから心強いというだけで色恋めいたものはない。

 

「あっそ、そっち選ぶんだ。まあ、言ってることは分かるけど昔、あんなにご飯一緒してあげた付き合い深い幼馴染差し置いて」

 

 驚きのあまり拗ねてしまった。

 でいいのかこれは。きっぱり断られ過ぎると凰でもこういう反応するだな。

 なんてことのないことを言っているが、意外にも篠ノ之が食いついた。

 

「一夏、どういうことだ。うちだけではなかったのか食事をしに行ってたのは」

「そりゃ食べに行くだろ。鈴の家は中華料理屋なんだからよ。鈴が転校してきたころはもう千冬姉、IS操縦者やって忙しくしてて俺一人とかよくあったからな」

「そ、そうか……それなら仕方ないな、うん」

 

 納得した篠ノ之はほっとしたひっそりと表情を浮かべた。

 

「店と言えば、親父さん元気しているのか。って、聞くまでもないか。元気の塊みたいな人だったもんな」

「あー……うん、元気……だと思う」

 

 歯切れの悪い。

 ああそう言えば、凰は父親と離れ離れだったな。

 この時、既に決まっていたのか。

 

「そんなことよりIS見てあげるのはもういいわ。代わりに今日の放課後、私の為に時間作りなさい。久しぶりにどっか行こうよ。ほら、あの駅前のファミレスとか。よく行ってたでしょ」

「行った行った、懐かしいな。まあ、そこ去年潰れたけど」

「そ、そう……なんだ。だったら、もう食堂でいいわ。積もる話も沢山あるでしょ」

 

 ISを見ることは諦めても一夏と時間を何とか持とうと必死に喰らいつこうとする。

 必死ということだけは一夏にでも分かっているようで困ったような視線が俺に飛んできた。

 放課後の予定を気にしてのこと。覚えているようで何よりだ。ならば、このテオドール・デュノアが人肌脱いでやる。

 

「あいにくだが、一夏の放課後は埋まっている。今日も対抗戦に向けての訓練だ」

「テオドール・デュノア……私は一夏と話してるんだけど」

「そう睨むな。訓練は6時頃には終わる。その時間に第一道場に来るといい。そうすれば一夏と会える。もっと時間が欲しいなら夜こいつの時間は空いている。その時間すきにするといい」

「お、おい。テオドール、んな勝手に」

「これ以上 時間の無駄ね……そう、分かった。じゃあ、終わった頃に行くからちゃんと待ってなさいよ、一夏! じゃあね!」

 

 スープも残さずラーメンを食べきった凰は席を立った。

 食器を返しにいったが戻ってくるわけもなく、食堂から出ていくのが見えた。




鈴が登場しました!
一夏達の恋模様が更に動き出していきます!
どうなっていくのかお楽しみに!

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