皆に愛され 覇道をゆく天才の物語 作:水戸野幸義
諦めなければ夢は必ず叶うと信じているのだァッ!
某光の魔王如くそう意気込んだはいいものの前途多難だった。
シャルロットとの仲は相変わらず平行線。良くも悪くもなってない。
「……」
「……」
今みたいにお茶を一緒にしていても俺に対してシャルロットはおっかなびっくりなまま。
まあ、断られたり、逃げられたりしないだけマシか。
誘ったら、こうしてお茶に参加してくれるだけおっかなびっくりなだけで拒否感は持たれてない。
むしろ、逆に逃げているのは俺だ。
変わらず今も続くこの無言の空間に耐えられない。勉強や稽古の時間だと理由づけては席を外すことはしばしば。
俺にとってシャルロットはシャルロット・デュノアのイメージ、所謂原作のあの印象が強いからどうもギャップが激しい。
あのシャルロットが幼い頃は逆にこうだったんだろうと思えなくはないけど、原作の印象は生まれ変わってもそう簡単には拭えない。
しかし、いつまでもこうしてはいられない。
構い過ぎて嫌われてしまうのはもってのほかだが、それ以上にこのままなのはありえない。
このテオドール・デュノアに、停滞というチョイスは無いんだ!!
「シャルロットと呼んでもいいかな」
「は、はいっ……」
「ありがとう。シャルロットは屋敷での生活はどうだ? 少しは慣れてもらえただろうか。何かしてほしいこと、欲しいものがあったら遠慮く言ってくれ」
「えっと……特にはない、かな。おかあさんもおうちにいたときよりもいっぱいわらってくれるからうれしい。あ……じゃなくて! 特にはないです……! テオドールさま!」
思い出したように使う敬語の慣れてなさが可愛らしくて笑ってしまう。
「いや、敬語じゃなくて構わない。呼び方もテオでいい」
「で、でも……」
「そう呼んでほしいんだ。親しい人達にはそう呼ばれているし、シャルロットとも親しくなりたいからな」
「わ、分かった。あ……特にないって言っちゃったけど、してほしいこと……今からでもいい?」
「もちろん! 言ってみてくれ!」
思わず口角が上がった。
出会ってから初めてシャルロットから自発的な発言。
いい傾向だ。
「私もあだな? あいしょう? で呼んでほしいっ。私……ともだち、いないから」
「なら俺が最初の友達だ」
「いいの?」
「もちろんだ。となると……そうだな、シャルロット……シャシャとか」
「シャシャ……いいっ! ネコみたいだね! テオ!」
ようやく見れたシャルロットの笑顔。
そして、名前を呼ばれた事実。
この世界に俺は地に足をつけているという感覚が十全と得られる。
「そうだ。気になることもあれば、遠慮せずに聞いてくれて構わない」
「ききたいこと……う、う~ん……あっ」
「見つかったか。言ってみろ」
「そ、その……! きいちゃいけないことかもしれないけど、テオは私のおとうさんのこと、しってる?」
いきなりぶっこんできたな。
やっぱり、気になりもするか。今回の発端だ。
「ああ、よく知っている。シャシャの父上は俺の父上の兄、俺からして伯父になるからな。伯父殿は人の才能を愛し、厳しく激しい人だがそれを裏付ける優秀さを兼ね備えた尊敬できる人だ」
「そう、なんだ……おかあさんといっしょのこといってる」
「母君と?」
「うん……おとうさんはとっても賢くてきびしい人だけど誰よりも人の才を愛し、尊敬できる素敵な人だったっておかあさんいつも嬉しそうに話してくれて」
「なるほど……」
だったと過去形なのが気にはなる。
自分からは会うつもりはなかったということなのか。
あんな田舎街で隠れるように生活していたとなると。
それに話すシャルロットは嬉しくなさそうだ。
「シャシャは……」
「え……」
「伯父殿……つまり君のお父さんのこと、嫌いなのか」
「わ、わかんない……おとうさん、いままでずっと遠くにいるっておかあさん言ったのに……きゅうにおうちに来て、わけわかんない……おとうさんがいないせいでわたしは……っ」
後に続く言葉がどういうものなのかは言われずとも大体分かった。
シャルロットのこの苦悩の表情を見れば尚更。
まあ、そういうことにもなるよな。
「そうか……話してくれてありがとう。気を悪くさせたようですまない。困ったことがあったら力になろう」
そう言いながら暗くなった気持ちが少しでも和らげばとシャルロットを頭を撫でてやった。
「うぅ~は、はずかしいよ~」
頬を赤く染め照れるシャルロット。
少しは気がまぎれたみたいだ。
◇◆◇◆
ベルナール親子が我が屋敷で生活を始めてもう一ヶ月以上が経つ。
初めの頃よりはシャルロットと仲よくなれた気がする。
前進はしたものの、あくまでも初めの頃とは、というだけで主人と客人以上の間柄というわけではないのが現状。
状況が状況ゆえに仕方がないは分かっているけども、一線引かれている感じがしてもどかしい。
仲を深められるようなイベントの一つでもあればいいが、気長にいくほかあるまい。
そんなことを考えながら、家庭教師、今日の勉強を終えた俺は屋敷の廊下を歩いていた。
向かう場所は居間。休憩がてらお茶しに。
呼べばさっきまで勉強してた部屋に誰かが持ってきてくれたが、待つのすら惜しい。何せ……。
「あ、テオっ! お疲れ様!」
居間に入るとシャルロットが出迎えてくれた。
お茶一式とお菓子が乗ったキッチンカートを押す女性の使用人を伴っている。
「もしかして、こっちに来てくれようとしていたのか」
「うん、そろそろお勉強の時間終わる頃だったから。呼んでくれたらよかったのに」
「こっちから行きたい気分だったんだ。気にするな」
「昨日もそう言ってた」
「そうだったか?」
些細なことだ。
「シャルロット様。では、このままこちらのテーブルにご用意しますね」
「は、はいっ。お願いしますっ」
客人扱いされるのにまだ慣れてない様子のシャルロットは申し訳なさそうにしていた。
そんなシャルロットを微笑ましそうに見守りながら使用人はテキパキとお茶の用意をする。
俺はいつもの席に着き、向かい側にシャルロットが座る。そして、お茶を一口。
「ン……美味しい。シャシャ、またお茶淹れるの上手くなったな」
「本当っ!? よ、よかった~!」
「よかったですね、シャルロット様」
「はいっ! お姉さん達のおかげです!」
「いえいえ。これはシャルロット様のお力ですよ。先日からずっと頑張ってますし、シャルロット様は筋がいいです」
「それは俺も思うな」
「そ、そうかな~」
謙遜するシャルロットだが筋がいいのは俺も認めるところだ。
先日からお茶をする時、お茶を用意するのはシャルロットの役目となった。
こんなことは使用人達がやればいいし、シャルロットは客人なのだからゆっくりしてればいいものを、それが嫌らしい。
だから、せめてお茶ぐらいはということで任せてみたら、中々どうして美味い茶を淹れると来た。使用人が入れたのよりも美味い。才能があったのだろうか。
些細なものだがこれも立派な才だ。
本人はもっといろいろとしたいみたいだ。似た者親子だな。
母のイリスさんも客人の待遇にただ甘えるのは性に合わないらしく、母上のお付きみたいなことをしている。後はたまに俺の家庭教師もやっているか。
教えるのが上手い。この辺り、伯父殿が気に入ったのが何となくわかった。
「何やら外が騒がしいな」
お茶を飲みながらひと息ついていると、部屋の外が騒がしいのを感じた。
屋敷で騒ぐような奴はいないし、客人が来るというのも聞いてない。
嫌な予感がする。
「見てきてくれ」
「かしこまりました。って……ロ、ロゼンダ様!?」
「……」
見に行こうとしたと同時に部屋に叔母殿が入って来た。
突然の来訪に皆驚く。
叔母殿の後ろには何人もの使用人達がおり、引き留めようとした跡が伺える。
まずいな……本当に急すぎる。叔母殿が急に来るのは歓迎だが、ここにはシャルロットがいる。後々の展開は予想がつく。
現に叔母殿はシャルロットしか見えてない。屋敷に来たのもシャルロットが目的なのか。
「あ……ぁ……」
シャルロットと叔母殿が会うのは初めてだが、流石にこの状況では目の前の人間が自分に対してよく思ってないと分かるのだろう。
怯えている。
「叔母上」
「テオドール、どきなさい」
シャルロットへと詰め寄る叔母殿の前へと出る。
いつもみたいに愛称ではなく名前をハッキリと呼ばれる。
相当頭に血が上っているのが分かる。気持ちを分かってあげられなくはない。
しかし。
「嫌です」
「言うことを聞きない、テオドール……! 私はこの泥棒猫に……!」
刹那、叔母殿の手がシャルロットへと伸びる。
いけない! 後のことは覚悟の上だ。シャルロットと叔母殿の間に俺は入り続けた。
「テオっ!」
シャルロットの呼びかけと同時に手で頬を叩く乾いた音と頬に感じる痛み。
本来、シャルロットが受けるはずだった平手打ちを代わりに受けた。
「ぁ……」
「叔母上」
「あ、ぁ……テ、テオ……」
するはずじゃなかった相手に平手打ちをしてしまったからなのか叔母殿は動揺している。
叔母殿がこんなことを簡単にする人じゃないこと知っている。抑えに抑えた感情にどうしようもなく突き動かされた結果なんだろう、これは。
「気にしないで下さい、叔母上。落ち着いていただければ、それだけで」
「え、ええ……ごめんなさい。私……」
「大丈夫ですよ。知っているでしょ、僕は強いデュノア家の男なんですからへっちゃらです。おい、母上が帰ってくる時間はそろそろだったはずだな」
叔母殿を宥めつつ、使用人に確認する。
「は、はい。もうじき帰ってきますっ」
「では、叔母上をひとまず客間に案内しろ。落ち着くお茶を出して丁重にもてなす様に。それから母上に叔母上が来たことを伝えろ。後、このことは決して口に出すな。俺が見てない所でもだ。口に出した瞬間しかるべき処置をする。いいな!」
「か、かしこまりましたっ」
「かしこまりました!」
指示を飛ばすと指示通りに、使用人達は動き始める。
「ロゼンダ様、こちらへ」
「ええ……」
叔母上は使用人達に連れられ、部屋を後にした。
一段落した。
「シャシャ、大丈夫か? すまないな、身内ごとに巻き込んでしまって」
「わたしはだいじょうぶ。テオのほうこそだいじょうぶなの? 頬、その思いっきり……赤くなってる」
頬の赤みを見てシャルロットは心配そうな顔をする。
「問題ない。言っただろ? 俺は強いデュノアの男。へっちゃらだ。なんせ鍛えているからな」
これ以上、心配をかけないよう手首を回しながら敬礼の様な仕草をしながらそう言った。
「でも……ごめん、なさい……私のせいで、テオが……」
しかし、シャルロットの暗い表情は変わらなかった。
「間違っているぞ! シャシャ!」
「ぇ」
俺の一声に俯いていたシャルロットは顔を上げた。
「これは所謂、事故なんだ。シャシャのせいでは決してない。そして、誰のせいでもない。それからシャシャ」
「う、うん」
「先程のことで怖い思いをしただろうが、出来ることなら叔母殿のことを許してあげてほしてい」
「許して……?」
「ああ。叔母上は今、大変苦しい時なんだ。叔母殿にとっては何もかもがあまりにも急すぎたのだから」
叔母殿の心情は察するに余りある。
これは本来ならもっと未来の出来事のはずだったのだから。
嘆いたところで今起こったことは変わらない。叔母殿はもちろんのこと、シャルロットのケアに今は専念する。
「ダメかな?」
「ううん……分かった」
「ありがとう。いい子だ、シャシャ」
「わっ!」
目の前のシャルロットを抱きよせ、頭を撫でる。
オーバーリアクションだろうが、これで不安な思いが安らげばと思っての行動。
「ありがとう、テオ」
事実、シャルロットは安心したように身体を俺へ預けてくれた。