皆に愛され 覇道をゆく天才の物語 作:水戸野幸義
「(一夏が私を選んでくれた……!)」
浮かれている自覚はある。こんなのよくないと分かっている。
今は一夏との訓練の真っ最中だというのに。
だとしても浮かれずにはいられない。
「(凰鈴音……)」
噂の転校生は一夏の知り合いだった。
しかも、私以外の幼馴染。まさかそんな存在がいるなんて思っていなかった。私と入れ替わるように転校してきて、私が知らない一夏を知っている存在。
ただの友人以上よりも親しいのは嫌というほど理解した。そして、奴が一夏に惚れているというのも分かった。
その上で一夏は私を選んでくれた。
一夏にしてみればただ単に約束を守っただけなのかもしれないが、私にとっては大切なこと。ここだけの話……素直に嬉しい。
「はぁああっ!」
「うおっ!? 今日の箒はやけにやる気だな! やっぱ、それだけ対抗戦に力入れてくれてるってことか!」
喜びが太刀筋に乗ってしまったが今回ばかりは一夏の勘違いに助けられた。
気を引き締めなければ。いつまでも喜んでばかりもいられない。
同じ幼馴染でも奴と私は違う。違い過ぎる。奴は中国の代表候補生。それも専用機持ち。かたや私はIS開発者篠ノ之束の妹というだけで代表候補生でも専用機でもないただの一生徒。
今この時とて対抗戦が終わるまでのこと。
私が一夏に教えられることは幼い頃師である父から教わったことの再確認、基本的な身体づくりぐらい。今後はもっとISに重きが置かれていくだろうことは私にだってわかる。
そうなれば、私の役目は減っていく。お役御免になることだってあるだろう。
それに反して専用機持ち同士はセシリア達を見るに接する機会が増えていく。
そもそも一夏と訓練するこの時は――。
「もらったぁぁっ!」
「えっ? ――あ……」
「よっしゃ! 一本!」
一夏が嬉しそうに喜ぶ。
それを見て私は自分が一夏に一本取られたことに気づいた。
遅れて気づくなんて私はよっぽど考え込んでいたのか。
「って……箒、大丈夫か? 何かぼーっとしてるみたいだけど」
「あ、ああ……大丈夫だ。……もう一本行くぞ、一夏!」
「おうっ!」
少しでも早く気持ちが切り替わるように竹刀を握り直す。
しっかりしなければ。
今のはぼーっとしていたから一本取られてしまったが、これまでも一本取られることはあった。
一夏は日に日に強くなっている。元々幼い頃から一夏は飲み込みが早かった。何より一夏には今明確な目標があり、やる気に満ちている。
ぼーっとして私がそれの邪魔をするわけにはいかない。
それに一夏と二人っきりで訓練できるようお膳立てしてくれた皆に申し訳ない。
皆というのはセシリア達のこと。
中でも特に気を利かせてくれたのが。
「(テオドール・デュノア、か……)」
気を利かせてくれたことありがたくないわけではない。
だが、気を利かせてくれる理由が分からない。奴には悪いが正直不気味だ。
奴は一夏によくしているから私はそのついでなのもかもしれないが。
何より、奴と接していると姉さんのことを何故かと姉さんのことを思い浮かべてしまう。
それどころか、奴と姉さんが似てるとさえ思ってしまう。
自分勝手なところ、強引なところ。似ていると思えるところはあるにはあるが、何故似ていると思うのかうまく言い表せない。
気を利かせてはくれているが、いいように使われている感も否めない。
まるで掌で踊らされているかのよう。この辺りも姉さんに通ずるところがあるのやもしれん。
このままではいけない。今一夏のひと時とて自分で勝ち取ったわけではないのだから。だから、余計に弱腰になってしまいそうになる。
いや、実際弱腰だ。だからこそ、それが隙になってしまった。
「というわけで部屋代わってよ」
夜、8時頃。
夕食を食べ終え、部屋でゆっくりしていた時だった。
突然、凰がやってきてこんなことを言ってきた。
軽口のような言いぶりだが冗談で言ってるわけじゃないのがすぐさま分かった。本気で変わってもらうつもりだ。
「ふ、ふざけるな! いきなり来てなんだ、それは!」
「本当は放課後、来たかったんだけど転校のこととかいろいろあってこれなくてね」
「説明になってないぞ! どうして私が代わらないといけない!?」
「いや篠ノ之さん、男子と一緒の部屋って嫌でしょ? 気を遣うし、落ち着かないじゃない? 私だったらその辺全然平気、気にしないからさ」
私が抗議しても気にも止めず、それっぽいことを言ってふわりと流されてしまう。
余裕の態度。対して私は慌てふためいて語気を荒げてしまっている。
このままでは押し負けてしまう。毅然とした態度ではっきり言わなければ。
「私の気持ちを勝手に決めるな。これは学園が決めたことお前の意見だけでどうこうできるものではあるまい。それに何かあれば、その都度私と一夏で問題解決する。部外者が首を突っ込む余地はない」
「学園側が同室にしたのは幼馴染だからでしょ? だったら、私も幼馴染。同じじゃない」
「どうしてそうなるんだ!」
埒が開かない。
話が噛み合わない。
この後も言い合いは続いたがああえばこういうで話が進まない。
一夏も見てないで助けるなりしてくれてもいいものなのに俺を巻き込むなとめんどくさそうな顔をしている。
どいつもこいつも人が折角冷静になろうとしているというのに身勝手極まりない。どうにも腹の虫がおさまらない。
「いい加減にしろ! 部屋を変わるつもりはない! 自分の部屋に戻れ!」
「そうだ、一夏。引っ越す前にした約束覚えてる?」
「ひ、人の話を無視するなど失礼だぞ! ふざけるのも大概に!」
無視されてもう我慢の限界だった。
私はいつでも取れるようベッドの脇に置いてあった竹刀を手に取り凰へと振り下ろしていた。
物凄い音がした。
身体に当たった音ではない。何か硬いものに当たった音。
「鈴、大丈夫か!?」
「大丈夫。心配されるまでもないわ。なんせ今のあたしは代表候補生、専用機持ちなんだから」
私の竹刀は凰が腕に部分展開していたISの腕によってしっかり受け取られていた。
「……!」
私はただただ驚いた。
ISを展開したことではない。専用機持ちなのだから展開ぐらいいつだって出来るだろう。
それよりも私の太刀筋に反応したことに驚きを隠せない。授業で習ったがISの展開速度は人間の反射神経を超えられない。
そして先ほどの一撃は怒りで鈍っていたとしても突然のことに素人が反応できるものではなかった。
なのに凰はしっかりと反応して防いだ。
つまりISを差し引いてもこいつは出来る。
今の私が唯一優れているであろう身体能力ですら大したことはない。
自信がなくなっていく。更に追い打ちがかかる。
「今の生身の人間なら本気で危なかったよ」
「うっ……す、すまない……」
不器用に謝るのが精一杯だ。
なんてバツの悪い。怒りに飲まれて無防備な相手に刀を振るってしまった。
これでは武士失格だ。
「謝ってくれるんならいいわ。私もいきなりだったし気にしない」
凰はさらっと流して気にしないでくれた。
人としても私は劣っている。
この後、一夏が凰としたらしいあからさまな約束を勘違いして怒らせたなどのやり取りはあったが私の心にはしこりのようなものが残った。
今回、凰は引き下がってくれたがいつまでもこのままではいられないという事。
折角一夏とまた会えたのに今のままではまた離れ離れになってしまう。
同じところにいるはずなのに一夏は高いところにいる。立っている高さが違い過ぎる。
学園、いや今を生きるにはISが必要だ。私もISを、専用機を手に入れられれば少しは一夏の傍に……。
◇◆◇◆
「――というのが現状のまとめになるのだが」
『分かってはいましたが相変わらず状況に進展はありませんわね。敵は……エクスカリバー攻略はそれだけ手強いということですわね』
セシリアは画面の向こうで呟き暗い表情をする。
暗い表情なのはシャルロット そして、チェルシー皆もか。
夜の自由時間を使ってビデオ通話をしながら今、エクスカリバーについて調査したことの定期報告会をしている最中。
とは言っても大して報告は出てきていない。
各々の情報網、俺ならばデュノア家の情報網を使って情報収集しているのだが中々どうして。裏の裏にまで精通している更識家の情報網をもってしても把握できていない。
今分かっていることはセシリアのメイドであるチェルシーの妹エクシアがエクスカリバーのISコアと一体化しているということぐらい。
恐らくもう地上にエクシアはいない。いるならば宇宙。ということはエクスカリバーはすでに完成しているだとかは推測できる。
だが肝心の居場所、エクスカリバーの現状、詳細なスペックなどがまったくといっていいほど分かっていない。
『コアのネットワークを使って探すとかどうかしら?』
『お姉ちゃん、この手の衛星兵器がISコアを搭載しているのならステルスモード使ってるだろうから難しいと思う。逆に探してること気づかれるかも』
『簪の言う通りだろうな。それにここまで我々が探しても見つからないということは光学迷彩も別で持っているだろう』
『現状は打つ手なし、ですわね……だとしても』
焦らずとも来たるべき時がくれば、会える。
とは言ってもセシリア達がそのことを知るわけもなく、俺の口からも言えない。仮にセシリア達がそのことを知っていたとしてもだからといって悠長にはしていられない。
俺としてもエクスカリバーと出会うことやエクシアを救い出すことが早いにこしたことはない。
『話は変わるんだけど皆は今日転校してきた中国の代表候補生とはもう会った?』
楯無が突然、そんな話をしてきた。
「楯無も知っているんだな」
『そりゃ生徒会長ですもの。学園で起きたことならどんな些細なことでも知ってるわ。その子が箒ちゃんと同じ一夏君の幼馴染だってことも』
流石の情報網。
まあ、騒ぎにもなっていたし嫌でも耳には届くか。
『篠ノ之さん達と言えば』
シャルロットがぽつりと言う。
それも何か思い出した風に。
『テオは結構篠ノ之さんの背中押してたよね』
『そうでしたわね。噂の転校生、凰鈴音さんが一夏さんの幼馴染で仲良さげにしいて箒さんが押され気味だったところを助けてましたし』
シャルロット達にはそう見えているのか。
皆が思うような色恋めいたものではないがそれはそうか。
「余計なお世話だとは分かっているのだが何だか見てられなくてな。篠ノ之が一夏に惚れているのは皆も気づいているだろう? 俺としてはお似合いの二人だと思うしな」
『へぇ~』
『テオでもそういうこと思うんだ』
心底意外だという反応。
まあ、こういうこと今までなかったからそうなるか。
今言ったことは嘘じゃない。
他にもお似合いの二人という物はあるんだろうがやはり、王道を言うのなら織斑一夏には篠ノ之箒だろう。
『えっ?! 何の音!?』
『び、びっくりした……テオの部屋からみたいだけど』
ドンドンと激しく俺の部屋の扉を叩く音にシャルロットや簪が驚く。
「客人のようだ」
『この時間に? この感じだとあの方でしょうか』
「恐らくな。少し行ってくる」
そう一言告げて扉へと近づき出迎えた。
そして、開口一番。
「テオドール! 助けてくれー!」
血相を変えた一夏が泣きついてきた。
「一体何が……」
言いかけて気づいた。
今日は凰鈴音が転校してきて日中いろいろと騒動があったが夜は夜でまた騒動があったはず。恐らくそれが理由で俺の部屋まで来た。
「いや、いい。大体分かった」
「マジで!?」
「大方女絡み……篠ノ之と凰達とトラブルが起きて怒らせたとかだろう?」
「うっ……トラブルってほどじゃねぇけど確かに怒らせちまった。テオドールはエスパーかよ」
エスパー……ニュータイプはそう表現されることがあるから中らずと雖も遠からずだな。
それより、やはり起きたか。
「それで助けてくれるか? 俺には箒や鈴、女子が何考えてるのかいまいちわからなくてさ。テオドールならセシリアと婚約?してるから女子に慣れてるだろうと思って」
「慣れとはすごい言い草だな。まあ、いいだろう。貸し一つだ。あまり長居させてやれないが部屋に入ることを許そう。丁度今セシリア達とビデオ通話しているから女子の意見も聞けるぞ」
そう言って俺は一夏を部屋に中へと通し、通話中のモニター前へと連れて来た。
セシリアやシャルロット、簪は一夏と会ったことあるが初めて会う者がいた。
「一夏は楯無と会うのは初めてだったな」
「た、多分。初めまして……あっいやでも、何処かで見たような気も」
『もう、ちゃんと知っててほしいけど仕方ないわね。改めまして、私は更識楯無。学年は2年生。生徒会長をやってるって言えばピンと来るかしら』
「生徒会長……ああっ! どうりで見覚えが!」
言われてようやく一夏はピンと来たようだ。
らしいと言えばらしいが。
『で、こんな時間にテオを訪ねて来たってことは何かあった』
「トラブルがあったらしくてな助けてほしいとのことだ」
『トラブル?』
『ああ……』
『やっぱり』
シャルロット、簪、セシリア、皆一応に察していた。
一夏のトラルブルなど限られてくる。
何より、篠ノ之と凰とのやりとりが記憶に新しい。
「何だよ……皆してテオみたいな反応して」
「そりゃそうなるという奴だ。とりあえず、詳しい経緯の説明してもらえるか」
「お、おう。あれは……」
一夏は詳しく経緯の説明を始め。
「というわけなんだ」
たった今一夏からここに来た経緯の説明があったのだが。
『……』
『まったく一夏さんは……』
『噂通り過ぎるってのも何だかね……』
『あはは……』
言葉すら出ないほどドン引きする簪
呆れるセシリアと楯無。
苦笑いするシャルロット。
こんな風に反応されれば、一夏は罪悪感を感じてバツが悪そうにしていた。
「やっぱ、よくなかった………よな?」
『それはもちろん』
『うん。凰さんが怒るのも無理ない』
楯無と簪がはっきりと肯定した。
一夏が持ってきたトラブル、そして凰が起こった理由は分かった。
だが、ここで一つ新たな疑問が生まれたらしい。
『伝えたいことは分かるんだけど。だったら、何で毎日酢豚をってそんな遠回りの言い方をしたんだろう?』
『確かに。見た感じ活発そうな方でしたし……』
シャルロットとセシリアは不思議そうにする。
あのセリフは日本独自のものでイギリスやフランスの人間である二人には分からなくて当然か。
『多分、あの台詞のアレンジよね。ねぇ、簪ちゃん』
『うん……毎日俺の味噌汁を作ってくれって奴』
対して日本人である更識姉妹はすぐ分かったようだ。
二人に言われて一夏もピンと来たらしい。
「ああ、それ聞いたこと気がするなぁ」
『味噌汁? どういうことですか?』
やはり、まだセシリアはピンと来ていない様子。
なので俺から説明することにした。
「今はどうか知らんが日本では昔毎朝味噌汁が出てくるのが定番で家事は女性が作るのが常だった。この言葉は毎朝一緒の朝を迎え共に食卓を囲む間柄になろうというのが秘められた言葉だな」
『それって……』
『知る人ぞ知る古風なプロポーズの言葉ね』
元ネタは漫画か、アニメで主人公が言った言葉だとか諸説ある。
今ではもうすっかり廃れて、特に女尊男卑であるis世界では死語にも等しい。
それでも根強く残っている所には残っていて、日本人の奥ゆかしさを現した言葉なんだろう。
「プ、プロポーズ!?」
当然の如く一夏は驚いた。
「それ以外何があるという。凰がお前を好いているのは誰から見ても明らかだ」
『テオ、はっきり言うね』
「はっきりに言わなければこいつには分からんだろう」
こういう色恋沙汰はやはり自分で気づくのが一番だろう。
だが、今言ったようにはっきり言わないと織斑一夏は分からない。
はっきりさせなかった結果が
『それはそうだね。本当、凰さんは相手が悪かった』
『だとしても雰囲気とかで分かるものですけど。一世一代のプロポーズを奢ってくれるってことだと勘違いされればそりゃ平然では居られませんわね』
『朴念仁』
「うぐっ」
シャルロット、セシリア、簪、皆容赦ない。
まあ、同性である凰の気持ちを思えば言いたくもなるか。
しかし、流石に可愛そうになったのか楯無がフォローに入った。
『一夏君をフォローするのなら言葉として分かりにくかったのもあるわよね。彼女なりの気のきいた言葉と照れ隠しだとしてもこの手の言葉って言われた方が元ネタ知らないとよく分からない言葉だし』
「そうだな。今時元ネタの言葉すら言わないしな」
結局のところ、どれだけの想いや意味を込めたとしても言葉は伝わらないと意味がない。
「だとしてもよぉ、そんなプロポーズなんて言われても……鈴が俺のことをそんな風に思ってくれているなんて考えたこともなかったし、そもそもそんな素振りなんて」
『乙女心は複雑だから。好きって気持ちに気づいてほしいけど知られるのは恥ずかしくてついつい隠しちゃうっていう』
シャルロットが言った通りではあるな。
これを聞いて一夏は納得はできないが、だからといって全部が全部理解できない訳ではない様子。
と言ったあたりだろうか。
「だ、だとしても鈴を怒らせたままってのは……お、俺どうしたらいいんだ?」
怒らせたままにしたくないというのは分かる。
だがしかし。
「今はどうもしなくてもいいんじゃないか」
俺から言えることはこれしかない。
だが、当然の如く一夏は納得しない。
「どうもしなくていいってそんなわけにはいかねぇだろ。怒らせちまったんだから謝ったりした方が」
気持ちは分かる。
分かるからこそ、言えること。いった方がいい事はある。
「どう謝るつもりだ。誤解していたと言うのか? その場合どう誤解していたのか説明しなければならん。それはそれでややこしいことになるぞ」
「ややこしいこと?」
「どう誤解していたのか説明できなければ結局の言葉の真意を理解してないと余計な怒りを買いかねない。かといって、プロポーズだと思ってもいなかったと説明すればプロポーズの答えを求められかねない。一夏、お前はすぐに答えを出せるのか?」
「そ、それは……」
一夏は言葉に詰まる。
一度怒らせてしまった相手に対して誤解を解くのは難しい。凰のような人間相手なら尚更。
それに一夏が誤解を上手く解けるとは思えないし。ましてやすぐ答えを出せるわけでもなかろう。
「だから、今はどうもしなくていい。折角再会できた幼馴染とまた別の意味で微妙な仲になることもあるまい。ただ今はの話だ。言われたことについてはゆっくりでもいいから答えは見つけておけ」
「わ、分かった。でも、そうなると鈴はずっと怒ったままだよなぁ?」
「下手に宥めるよりそっとしておくほうが怒りも収まるというもの。それでも収まらないとしてもあの手の者はひと暴れしたらすっきりだろう。丁度、クラス対抗戦がある」
「それって怒られてボコられろってことじゃん」
「よく気づいたな。理由は何にせよ乙女の恋心を無下にしたんだ。馬に蹴られるぐらいのことは受けんとな」
セシリア達、みんなが一様に頷く。
それに一夏は怪訝な顔をした。
「そんなぁ」
「それが嫌なら強くなればいい。分かりやすいだろ」
「結局、そこかよ。でも、まあそうなるよな」
分かっているようだ。
明確な答えが出たわけではないが、見えてきたものはあるはず。
「と、時間だな」
そろそろ自室からの外出禁止時間になる。
「もうそんな時間か。早く帰らないと千冬姉に怒られちまう。本当いろいろありがとな! 本当助かったぜ!」
「礼などいい。言っただろう? これは大きな貸しだと!」
「はは、大きな貸し作ちまったな。でも、ちゃんと返せるぐらいになってみせるぜ!」
自信満々だが一夏はやる男だ。
期待はしないが心配もしない。借りは大きく返してもらうさ。
そして、一夏は帰るのだがあるものを見て止まっていた。
「テオドールにシャルロット……これって家族写真だよな」
一夏の視線の先にあったもの。
それは日本のIS学園に来る前、フランスの実家にてデュノア家全員で撮った家族写真。
「大家族なんだな、テオドールの家って」
「シャルロットの両親も一緒に映ってるからそう見えるだけだ。親戚同士だしな」
「けど、家族が多くて両親がちゃんといるのはいいことだな」
「そうだな」
たわいない風に言葉を交わす。
一夏に凹んだり、羨ましがった様子はないがおもうところがあるのだろう。
反芻しているような雰囲気はあった。
「じゃ、本当に帰るよ。おやすみ、テオドール」
「ああ、おやすみ」
帰っていく一夏を見送る。
一夏は凰の気持ちを知った。すぐどうこうなる事ではない。
だが、種は蒔いた。
どうなっていくのか見ものだな。
箒は苦悩して一夏は悩む回。
テオドールは一箒(一夏×箒)派なので最推し気味ですが、他の二人組がダメってわけではないです。
皆さんは一夏の相手、誰派だったりしますか?
自分は過去のことを思うと箒かなって思いますが、一夏の将来のことを思うとのほほんさんかなって思ったりしています。
感想とかでお聞かせてください~