皆に愛され 覇道をゆく天才の物語 作:水戸野幸義
いろいろなことがあったクラス対抗戦の後もいろいろなことがあった。
まずあの日の対抗戦は正式に中止。後日、改めてという形になった。
肝心の侵入者であるゴーレムはあの後、学園側に回収された。
そしてあの乱入騒動、ゴーレムについては観戦していた生徒全員に緘口令が敷かれた。
それから一夏や凰、俺やセシリアといった命令を聞かずISを使った者達は緊急事態ということもあって口頭での注意と反省文提出。たったそれだけで処分としてはあまりに軽い。
ゴーレムについて調べることは難しくなったが出来ることは多い。
しかし、一つ意外なことが起きた。
「いや~何だか悪いな、テオドール。俺の代わりだなんて」
「何気にするな。適材適所という奴だ。お前は元気になったとは言え、白式が本調子ではないしな」
今いるのはアリーナのピット内。
今日は先日中止になった対抗戦の再試合をする日。とは言え、対抗戦ではなく残るクラスの実力がどれほどなのかデータを取る為のもの。
対抗戦そのものは中止のままなので勝っても負けても特に何かあるわけではない。
そして本来なら今日も一夏が出るのだが先日の乱入事件からそんなに経ってない。
あれだけの戦闘。加えて龍砲を受けたにも関わらず一夏は軽い打撲で済んだ。だが、白式はそうはいかない。蓄積ダメージが中々のものだったらしく休むほかなかった。
そこで代役となったのが俺。
言った通り適材適所というのもあるが。
「それに他でもない簪からの指名。受けないわけがない」
試合形式を取っているがデータ収集が目的。
優勝賞品はなくなり形骸化したことで相手を自由に選べるようになった。
そこで俺が簪に指名された。
「何だか嬉しそうだな、テオドール」
「簪が指名してくれるとは思っていなかったからな。簪の戦い方、日本の第3世代型ISがどんなものかも楽しみだ」
打鉄弐式はまだ完全に完成していないようだが一応完成のめどはついたらしい。
対抗戦に出るに際して策があるとも言っていたからそれも楽しみだ。
「ン、時間だな」
準備完了の知らせが届いた。
いよいよ試合がはじまる。
「では、行ってくる。一夏、付き添い感謝する」
「そんな大層な。俺が勝手に付き添っただし。頑張れよ、テオドール」
一夏と別れるとピットを出てラファールを展開し、カタパルトから発進した。
俺がアリーナ中央に着くと続けざまに簪はやってきた。
身に纏う機体は打鉄弐式ではあるがその姿は俺が知る姿とは少し違っていた。
「それが言っていた策か」
「うん、打鉄弐式は打鉄だから」
両肩の横に浮く巨大な二つの砲身。
前腕や足の姿も打鉄弐式本来のものとは別のものになっている。
打鉄弐式としては初めて見る姿だが武装や腕と足は見覚えがある。
「それは打鉄の火力特化パッケージ<双撃>だな」
「正解。流石だね、テオ」
打鉄のパッケージをつけた打鉄弐式。
それは打鉄の後継機であり、同じ四肢換装機構を持つ弐式だからこそできる姿。
武装が完成していないのなら完成している武装を使う。いい策だ。
後継機としての互換性をしっかり発揮できている。
『それでは両者、試合を開始してください』
開始の合図と共に俺達は試合を始めた。
どちらからともなく詰める間合い。
轟音響かせながらぶつやり合う剣と薙刀。
俺達は力強く押し合う。お互い一歩も譲る気はない。
「ッ! やっぱりテオは強い!」
「簪も中々のものだ!」
刃を交えながら俺達は言葉を交わす。
まずは挨拶がてらの近接格闘戦。
数度ではあるが刃を交えたことで簪の実力は大体分かった。これまでの努力と研鑽が計り知れる。
だが、こんなものではないはず。簪と戦うなんて早々ない折角の機会だ。専用機持ちの日本代表候補生、その真髄確かめさせてもらう。
「これはどうだ!」
「くッ! うぅっぁあっ、これッぐらいっ!」
俺が叩き込んだ一撃を簪は受け止めたもののよろけたてしまった。
だが持ちこたえ、即座に距離を取って反撃。
こちらが捉えたのは脚部の一部が開き、放たれるミサイルの数々。
両手に呼び出したライフルで迎撃すると俺の目の前は爆煙で覆われる。ほんの一瞬のことだが俺から視界を奪えた。簪の狙いはこれか。次が来る。
「てぇぇいっっ!」
目の前の爆煙を突き破るように放たれるレールガン。
その向こうでは両肩の横にある巨大な砲身を構える簪の姿があった。
「ちょいさ!」
回避した体の動きをバネに簪へと迫る。
死角を取った。ハイパーセンサーで捉えられているだろうが振り向いて反応するにはもう遅い。
だが、このままやられる簪ではない。
「まだ、まだぁっ!」
死角へと向けられる両肩の横にある巨大な砲身。
伸びていたバレルが奥へとスライドし、縮んだ砲身に形成されたのは巨大なプラズマブレード。
このまま実体剣でぶつかればこちらが打ち負ける。即座に引っ込め、回避に努める。
「嘘!? 今のをこんな綺麗に避けるの!?」
「ガッカリする必要はない。今のは中々肝が冷えたぞ」
レールガン、脚部ミサイルといった武装を巧みに操る火器管制能力。
間合いや死角とった空間に対する把握の能力の高さ。
そして、今使っているパッケージに対する深い理解力。
簪が弐式の操縦者になれたのも分かる。
これは読んで識るだけでは分からないこの世界で実際に自分の身体で感じた実体験。
いい経験をさせてもらった。だからこそ。
「まだまだこれからだ。さあ簪と打鉄弐式、その実力と真髄もっと学ばさせてもらうぞ。ゆくぞ!」
「――ッ、来てッ! 私ももっと全力で行くから」
◇◆◇◆
「ん~! このケーキ最高~!」
「このエクレアも美味しいよ! 食べてみて!」
時は経ち、再試合があった日の夜。
寮の食堂は夕食が終わったというのにいつも以上の賑やかさに包まれていた。
「対抗戦が中止になって学食デザートの半年フリーパスがなくなったのは残念だけどまさかこんなことになるなんて!」
「本当本当。今日だけとは言え、こんな美味しいスイーツ食べれるなんて思ってもなかった!」
「何もないって思ってたからめっちゃ嬉しい!」
「ね。しかも、1組だけじゃなくて1年生全員食べさせてくれるなんてデュノア君様々だよ~!」
皆笑顔で喜んでいる。
聞こえてきた言葉の数々は大変気分がいい。
嬉しそうなのは彼女達だけではなく遠くにいる俺の隣にいるセシリア達もまた同じだった。
「皆さん、大喜びですわね」
「これだけ喜んでもらえたのなら頑張って用意した甲斐がある」
「テオ、いろいろなところから取り寄せてたからね。低カロリーのものとかも調べてたし」
今はスイーツパーティーの最中。
場所こそは学園に協力してもらい寮の食堂を借りたがスイーツは全て俺の自費だ。
有名どころは勿論、カロリーが気になる者達用に果物など低カロリーなものまで用意した。
今回のパーティーは彼女達が言っていたように対抗戦が中止になったことで優勝賞品だった学食デザートの半年フリーパスがなくなった代わりにやったというのもあるがもう一つ開催した理由がある。
「けど、テオドールがこんなことをするなんてな」
「対抗戦が中止になって学食デザートの半年フリーパスがなくなったのもあるがあんなことがあったんだ。癒しは必要だろう」
「それはそうだな」
一夏はあの時のことを思い浮かべてか複雑そうな表情をした。
俺達専用機持ちは事態の収束に注力していたが、ただ試合を見に来ていて生徒達は混乱と恐怖に支配されていた。
そのケアは必要だ。好感度稼ぎと言われれば、それまでだが。このケアをやっていれば似たようなことが今後起きた時、役に立つ。
「そういえば、対抗戦は中止になったけど今日やった試合凄かったよな。テオドールと更識さんの」
ふいに一夏が思い出したように言った。
それを受けてセシリアが言葉を続ける。
「それは確かに。日本代表候補生、そして専用機持ちは伊達ではなかったですわね」
「あれだけの武装を使いこなしながらちゃんと間合いとか相手の様子をしっかり捉えられてるのが見てるだけで伝わって来て凄かったよ」
簪に対するセシリアとシャルロットからの評価は高い。
同じ代表候補生、専用機持ちから見てもそれだけ簪の実力は確かなものだ。
簪は照れくさそうにしてながらもしっかりと賞賛の言葉を受け止め喜んでいた。
「あ、ありがとう。頑張った甲斐ある」
「戦闘もそうだが特に打鉄の後継機という特性活かせていたのはよかったぞ。あれは素直に感心した。あれを見れただけでも簪と戦えてよかった」
「もう大袈裟。けど、私もテオと戦えたのはよかった」
そんな風に話している時だった。
「あら、あれは……2組の」
セシリアが何やら気づいた。
視線の先を追うとそこには凰がいた。
彼女もこの場にいてもおかしくない。ずっと遠くの席にいるのは把握していた。
だが今はこちら、というより一夏を見ている。しかも、何か言いたげだ。
それにセシリアも気づき、凰へと近づいて声をかけた。
「そんなところで何やってますの。一夏さんに用があるならこちらへいらっしゃい」
「ちょ、ちょっと!」
セシリアに手を引かれて凰は一夏の前へと連れた来られた。
「……」
「……」
気まずそうな二人。
そう言えば、二人はまだ仲直りはしてなかったか。
本来なら保健室で仲直りするはずだった。しかし最後、再起動したゴーレムに突貫した一夏が気絶するというくだりがなくなった為、二人の仲も有耶無耶なままになってしまったようだ。
見たところ、試合したことや日が立ったことがあってか怒りは収まったみたいだ。
いや、だからこそというべきなんだろう。時間が経ち、冷静になったことで面と向かってもどうしたらいいのか分からないといったところだろう。
「鈴」
「な、何よ」
「この間はいろいろ言いすぎたりして悪かった。謝ってばかりになるけど本当すまんかった」
一夏は頭を下げ素直に謝った。
面食らいながらも凰は。
「ま、まあ……あたしもムキになっちゃってたし……もういいわよ」
いろいろなことがあり、気持ちの面でスッキりしたこともあってか凰は素直に謝罪を受け入れた。
だからか、一夏はここぞとばかりに言葉を続ける。
「酢豚のことも事も悪かった」
それを言うのか。まったくずるい男だな、一夏は。
今更そのことを掘り返されると思っていなかった凰は当然慌てふためいた。
「いい、いいっ。そんな人前で言わなくていいからっ。あんたがどう思ったか今更確かめるまでもないけど毎日食べても飽きないほど料理上手くなってみせるから会えなくてもあたしのこと忘れるんじゃないわよってことだから。うんっ! そうに違いない!」
誰が聞いても誤魔化しているようにしか聞こえない。
まあ、今言った様に言うしかあるまい。流石にな。
今の一夏はあの言葉の真意を知っているが本人がこういうのなら深堀出来るような内容でもないし半信半疑といった顔をしながらも納得していた。
「そ、そうかなのか? だったら、どれぐらい上達したのか気になるな。というか、こっちに戻ってきたってことはまた店やるのか? 鈴の料理も食べてみたいけど親父さんの料理上手かったからまた食いたいよ」
「あー……その、お店はもう……しないんだ」
暗い顔をしながら凰は一夏にその事情、両親の現状を説明した。
人前ということもあって大分端折ったり伏せた部分はあったがそれでも一夏は事情をしっかりと理解して神妙な面持ちをしていた。
「家族って……難しい、ね」
一夏の顔を見て凰は暗い雰囲気を誤魔化すように小さく笑った。
仲睦まじかった両親がすれ違い、家族がバラバラになる。
俺もまた凰の家の事情を識っているから何故こうなったのはいろいろ想像できるが子供にしたら自分の力だけではどうしようもなく難しさを痛感させられる。
我がデュノア家とて今は丸く収まったが本当ならバラバラだった。丸く収まったのだって結果的に上手くいってただけで余計拗れていた可能性だってあった。
そう思えば、家族の難しさ……凰の言葉は多少なりと実感できた。
影のある笑みをする凰を元気づけたくなったのかとんでもないことを言った。
「そうだ。怒らせっぱなしだったしお詫びと言っちゃ何だが今度一緒に地元に行かないか?」
「えっ? まさか、そ、それってデ――」
一夏にしたらデートなんて気は更々なく元気づけたい一心なのは分かる。
しかし凰は嬉しそうな顔をしながら当然期待してしまっているし、周りも期待の色をにじませながらざわつく。
好意を向けてる相手から誘われたらそうなるよな。
けれど一夏は期待を裏切ってくれる。いい意味の時もあるが、今は悪い意味で。
「そうだ。五反田も呼んで久しぶりに3人で集まるのもいいかもな!」
「……」
案の定、凰の顔から笑顔は消えた。
やはりショックを受けている。それどころか両肩落としてやっぱりかといった表情をしていた。
「お気を確かに。元気出してください。前途多難のようですがよろしければ相談乗りますわよ」
「今は何だかそう言ってもらえると助かるわ……」
あまりの様子を見かねたセシリアに慰められた凰は満更でもなさそうだった。
周りにいる皆も凰に同情的だ。
そんな雰囲気こそは感じ取っている一夏だが皆が何故同情的なのは分からず不思議そうにしている。
それを見て簪は一言
「前途多難」
「まったくだな」
まあ、まだ始まり出したばかり。
時間はある。なるべくしてなっていくだろう。
打鉄弐式のこのギミック公式設定としてあるけど二次創作で使われてるの見たことない。
使われている作品では使われているんでしょうか。
今回で1巻部分の話は終わりました。
次回からは2巻!どうなっていくのかお楽しみに~!!
感想お待ちしております