皆に愛され 覇道をゆく天才の物語   作:水戸野幸義

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STORY3.5 覇者に寄り添う小さな従者

 ここ最近、本当にいろいろあった。

 六歳の誕生日があって、その後ベルナール親子と出会い、叔母殿に引っ叩かれ。

 この世界は本当に愉快で飽きない。俺をとことん楽しませてくれる。

 叔母殿の突然の訪問後、父上と母上の仲介の元、イリスさんと伯父殿、叔母殿の話し合いが行われた。

 全てが全てが丸く収まったわけじゃないけど、話し合って誤解は解けたらしい。

 伯父殿と叔母殿が婚約からの結婚をしたのが約六年程前。それ以前に伯父殿とイリスさんは秘密裏に交際していたようで、伯父殿が叔母殿と婚約を結んだときに別れ、イリスさんは伯父殿の前から姿を消した。その後シャルロットの妊娠が発覚したとのことらしい。

 まだ救いはあったということだ。それだけはよかったのかもしれない。

 ただまあ、伯父殿は叔母殿を愛しながらもイリスさんへの想いを再燃させているというのが母上の見立て。まったく、忙しない人だ伯父殿も。

 

 ひとまずの停戦と平穏な日々。

 あれからは特にこれと言った珍事もない。

 穏やかな日々が流れている。喜ばしい限りだ。

 もうじき白騎士事件が起きる。公開されたISの原型を研究すればするほど、その線が濃くなってきた。

 あんなものを開発したら試したくなる。望む舞台で活躍する姿を見たくてたまらなくなるというもの。同じ開発者としてよく理解できる。

 だからこそ、基礎研究は怠れない。でも、もう少しだけ穏やかな時間を……。

 

「テオ、私は役に立ちたいの!」

 

 平穏を破るかのようにシャルロットは言う。

 あの一件から更に仲は深まったが、あの一件はシャルロットの中で未だに尾を引いているようだ。

 

「役に立ちたいって……こうして美味しいお茶を用意してくれるだけで充分だが……」

 

「そうじゃなくてもっと役に立ちたいの!」

 

「そうは言われてもな……」

 

 こうして傍にいてくれるだけで役に立ってる。

 だから、そう強請られても困った。

 助けを求めて、同じくお茶している母上とイリスさんを見るが、微笑ましそうに笑っているだけ。助けてくれ。

 

「可愛い我が儘ね、シャルロットちゃん。ね、イリス」

 

「そうね……シャルロットがこんな風に我が儘を言うの初めて見たかも。テオドールさん、ごめんなさい。この子の我が儘を聞いてくれると母親として嬉しいわ」

 

「今で充分すぎるので……特にこれといったのは……」

 

「そうね……何なら、イリスみたいにシャルロットちゃんに専属のお付きになってもらったら? 今風に言うとメイドさんってところね」

 

「メイドさんっ!」

 

 母上の一言でシャルロットの目が輝いた。

 

「お付き……う、う~ん……」

 

 俺に専属の付き人はいないが、別に必要ない。

 身の回りのことは自分でできるようにしてあるし、必要になれば屋敷の使用人達を使えばいい。

 だから必要ないが……

 

「……!」

 

 そんな期待するような輝いた目を向けられたら、いらないとは言いにくい。

 そもそも。

 

「どうしてシャシャはそこまで役に立とうとするんだ……この間のことなら気にしなくていいものを」

 

「それはあるけど……おかあさんが頑張ってるのに私だけこのままのんびりしちゃってもいいのかなって……私もなにかしたくて。するならテオの役に立ちたくて、それで……」

 

「やだ、うちの子可愛すぎ」

 

「天使すぎるぐらいいじらしいわね~。というか、イリスが私の付き人を始めた理由とそっくり。親子ね。それでテオ、あなたはこれを聞いてどうなの?」

 

「母上、そんな聞き方しないで下さい。気持ちは分かったが……シャシャは客人なわけだし」

 

 働く母親の姿を見て自分も働きたくなったというのは理解できた。

 だが、それでもシャルロットは客人だ。客人を働かせるつもりはないし、そんなつもりで屋敷に招いたわけでもない。

 ましてやシャルロットは幼い。同じ6歳だ。そこがどうにもひっかかって。

 

「テオはまた細かいことを気にする顔して。客人として大切にするのは立派なことよ。けれど、相手の気持ちを尊重することのほうが大事ではなくて?」

 

「それは……そう、ですね。分かった……シャシャ、俺の付き人になれ」

 

「うんっ!」

 

「よかったわね、シャルロット」

 

「うんっ、おかあさん!」

 

 嬉しそうな親子の様子。

 こんな嬉しそうにされたら弱った。

 これでよかったのだろう。

 

「ただし、このテオドールの付き人になるのなら今まで通りの勉強や礼儀作法に加えてそれ相応の教育は受けてもらうぞ。いいな」

 

「は、はいっ!!」

 

「それも大事だけどもっと大事なことがあるわ」

 

「大事なこと?」

 

 分からず俺は首を傾げた。

 

「服装よ! イリス、お願いできるかしら」

 

「はい、奥様。シャルロット、着いてきて」

 

「う、うん」

 

 二人はどこかへ行ってしまった。

 服装……そういうことか!

 

「母上、こうなると分かっていて予め用意していましたね」

 

「当然でしょ。私だってデュノアの人間。常に二手三手先まで読んでいるわ」

 

「流石、母上」

 

 上品な笑みを浮かべているが強者の余裕のようなものを感じた。

 流石は母上だ。侮れない。

 そして、しばらく待つと二人は戻って来た。

 案の定、シャルロットはイリスさんの後ろに隠れているが。

 

「ほら、シャルロット。テオドールさんに見てもらいなさい」

 

「で、でもぉ……これ、スカートがぁ……」

 

「それが可愛いんじゃない。ほら」

 

「うぅ~……」

 

 イリスさんに背中を押されるようにシャルロットは前へと出た。

 

「ほぉ……」

 

 着替えてきたシャルロットを見て俺は感心の息を漏らす。

 シャルロットが着替えてきたのはメイド服。

 メイド服といっても屋敷の使用人達が作業着として着ているクラシックタイプではなく、ミニスカタイプ。日本的な奴だ。

 短いスカート丈が気になるようで、シャルロットはスカートの裾を伸ばしてる。

 

「可愛いじゃないか。いいな」

 

「え……本当!?」

 

「嘘言ってどうする。ふふ、本当に可愛いぞ」

 

「あ、ありがとうっ」

 

 頭を撫でながら褒めるとシャルロットは照れながらも嬉しそうにしていた。

 

「テオドールさんに喜んでもらえたしバッチリね」

 

「イリスと私とで選んだものね。まあ、本当にお勤めする時は他の使用人と同じのを着てもらうけど」

 

「えぇっ! そうなんですか……じゃあ、どうしてこれを」

 

「可愛いからよ!」

 

「可愛い子には可愛い服を着せたくなるじゃない!」

 

「そんな理由なの」

 

 すっかり母親二人のおもちゃだ。

 でもまあ、可愛いからこそ、弄りたくなるのはよく分かる。

 

「これから付き人としてもよろしく頼むぞ、シャシャ」

 

はい、お優しいテオドール様

 

 呼び方は使用人の真似なのだろう。

 冗談っぽく言いながら楽しそうなシャルロットは一段と可愛かった。

 これはこれでアリだな。大変気分がいい。


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