皆に愛され 覇道をゆく天才の物語   作:水戸野幸義

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STORY4.5 私の居場所

「シャルロット様、到着しました。どうぞ、足元にお気を付けください」

 

「は、はいっ」

 

 車が目的地で止まって、運転手さんが私が乗っているところのドアを開けてくれた。

 もうお屋敷に来て2年経つのにいまだにこうお客様扱いされるの慣れない。

 ピクニックバスケットを持つと車から降りる。

 

「お帰りの際はご連絡いただければお迎えに上がりますのでお気軽にご連絡下さいませ」

 

「あ、ありがとうございますっ」

 

 ペコリとお辞儀すると運転手さんに見送られながら、私は建物の中へと入った。

 

「あら、小さなお嬢さん。どうかしたの? お父さんかお母さんに会いに来たの?」

 

 入って受付に行くといつもとは違うお姉さんがいた。

 初めて見る人だ。

 

「えと、あのっ」

 

 緊張しちゃう。

 ここには何度も来るのに初めて会う人にどう話せばいいのか分からない。

 どうしよう。どうしよう。

 

「シャルロットさんじゃない」

 

「あっ!」

 

 声をした方を向けば、受付にいるいつものお姉さんだった。

 

「こんにちは」

 

「こんにちは。所長にお昼かしら? 所長なら部屋にいるわ。どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 またペコリとお辞儀して私はいつもの道を歩いていく。

 

「先輩、あの子知ってるんですか?」

 

「ええ。なんでもあの子、所長の大事な人らしいわ」

 

「あの所長の……もしかしてフィアンセだったりして?」

 

「かもしれないわ。可愛いわね」

 

 聞こえてるんだけど。恥ずかしい。

 私がフィ、フィアンセだなんて……おこがましすぎる。つりあってない。

 

「あっ……」

 

 考え事してたら目的の部屋の前に着いた。

 とりあえずノックした。

 

「誰だ」

 

「私、シャルロットです。お昼持ってきました」

 

「入ってくれ」

 

「失礼します」

 

 まだお仕事してるはずだから静かに中へと入る。

 

「……」

 

 部屋の奥でお仕事をする短いブロンドヘヤーの同じ歳の男の子。

 整った綺麗な顔立ちで真剣な顔をして、紫の瞳がパソコンの画面を見つめる。

 かっこいい……素敵だな。

 

 この人がテオ、テオドール・デュノア。

 私とお母さんを助けてくれて、お屋敷で暮らさせてくれている優しい人。

 私とは従妹っていう関係になるみたい。

 出会いは突然だったけど、テオのおかげで私達の生活は凄くよくなった。お母さんは昔から体が弱くて体調をよく崩していて、病院は高くていけなかったけど、テオのおかげで健康的な生活が出来て、病院にもちゃんといけるようになってお母さん凄く元気になった。

 なかなか今の生活にはなれなくて、不安なことも多いけど私は今の生活が大好き。

 お優しいテオドール様に会えてよかった。

 

「シャシャ、そんなところで突っ立ってないでこっちに来い」

 

「うんっ」

 

 呼ばれて、傍に行く。

 

 このシャシャって呼び方は私の愛称。

 産れて初めてつけてもらった愛称でテオは私の初めての友達。

 猫みたいで可愛くて私は気に入ってる。

 

「よく来たな。疲れなかったか?」

 

「大丈夫だよ。お屋敷の運転手さんに車で送ってもらったから」

 

「そうか」

 

 と話しながら右左1回ずつ互いの頬と頬を合わせ挨拶のビズをする。

 テオとビズするのはちょっぴり恥ずかしいけど、それ以上に安心する。

 

「それで今日のお昼は?」

 

「バゲットのサンドイッチだよ。ハムとチーズが入ったの。お仕事は大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ。キリつけた。どこで食べるか……ここでは何だし、外の公園とかどうだ」

 

「いいね。外天気いいし」

 

「では、行くか」

 

 部屋を出るテオに付いていって、外へと出ていく。

 外は人がいっぱい。お昼の時間だから何処かに食べ行くっぽい人もいれば、道を歩きながら頬張っている人もいる。

 それは公園も同じ。

 

「人いっぱいだね」

 

 やってきた公園はこの辺では一番きれいで大きなところ。

 だから、大人の人がいっぱいいる。私達みたいな子供はほとんどいない。

 

「お昼だからな……あそこが空いているな。あそこにしよう」

 

 テオが空いているスペースを見つけてくれて、そこに行ってそこで座る。

 

「はい、どうぞ」

 

 バスケットを開けて、テオにサンドイッチを選んでもらう。

 

「これにしよう……いただきます」

 

 テオは一口サンドイッチを齧る。

 

「どうかな?」

 

 今テオが食べてるサンドイッチは最初から最後まで私一人で作った。

 手作りをテオに食べてもらうのは初めてじゃないけど、緊張する。

 

「ンっ、今日も美味いぞ。腕を上げたな、シャシャ!」

 

「わわっ、ありがとうっ、テオ」

 

 空いている片方の手で頭を撫で笑いかけながら褒めてくれる。

 テオはよくこうして褒めてくれる。

 反則だよ、テオの笑顔。テオに褒められて笑いかけてもらえるだけで、胸がドキドキして、胸の奥が温かくなる。

 テオに褒められるの大好き。これからも、次はもっと頑張ろうって力が湧いてくる。

 

「あむっ」

 

 私もサンドイッチを頬張る。

 簡単な作り方だったけど、自分でもよく出来てると思う。

 美味しい。

 

「あ……テオ、ついてるよ」

 

「ン……取ってくれるか」

 

「うんっ」

 

 テオの口元に小さな食べかすがついているのを見つけ、私はテオの口元を用意していたナプキンで拭く。

 

「お茶のおかわりいる?」

 

「ン……貰おう」

 

 テオが持つコップにお茶を入れる。

 こんな些細なことでもテオに何かできるのは嬉しい。

 だって、私はテオの専属の付き人だから。

 

 デュノア家、テオのお父さんのサンソンさんの家にとって私とお母さんはあくまでお客さん。

 付き人をさせてもらっているのは我が儘で、テオは私が付き人のお仕事するの困ってた。でも、最近は慣れてくれたみたいでお屋敷の使用人さん達と同じようにお世話させてくれる。

 それが嬉しい。だって、私はいつでもテオに助けられて、たくさんのもの貰ってばかりなのに私からはテオに何もできないなんて悲しい。

 もっとお礼をしたい。感謝してるから……テオが望んでくれるなら私、どんなことだってできる。

 大好きだから。

 

「……」

 

 もう一個サンドイッチを食べながら横目でテオの様子を伺う。

 まただ。サンドイッチを食べながらテオは遠くを見ている。

 最近、テオはよく遠くを見ることが多い。あの白騎士事件から。

 考え事してるのかな? お仕事忙しいそうだから……。

 

「お仕事忙しいの……?」

 

 考え事の邪魔したらダメなのに、つい気になって聞いちゃった。

 

「ン……そこそこだな。暇な時はないがかといってずっと忙しいわけでもない。やることは多いが、充実していて楽しいくらいだ」

 

 確かにテオは楽しそう。

 お仕事……あの研究所の所長のテオはIS、インフィニット・ストラトスというのを研究してるらしい。

 IS……子供の私でも知ってる。世界を変えちゃった凄いもの。女の人にしか使えないみたいで……そのおかげで世界は皆は混乱している。

 それでもテオは前を向いて、堂々とした顔で世界をよくしようと頑張っている。凄い。尊敬している……でも。

 

「そんな心配そうな顔をするな。大丈夫だ、シャシャ」

 

「うん……でも、無理しないでね」

 

 テオは私と同じ歳なのにもうお仕事をして、あの研究所を任せられてる。

 お仕事をしながら、学校の勉強もして、お稽古もたくさんして本当に忙しそう。弱音なんて聞いたことがないし、忙しいのに嫌な顔しないで私の相手までしてくれる優しい人。

 私の我が儘だけどそんなテオの頑張りこそ報われてほしい。

 

「ふんっ! 無理程度でへこたれるテオ・ドールではない! ククク!」

 

 変なスイッチいれちゃった。

 テオがこんな風に笑うってことはまだまだ元気あるってこと。

 私が心配しても仕方ないよね。

 

「しかし、他ならぬシャシャの言葉だ。しかと胸に止め、善処しよう」

 

「ありがとう、テオ」

 

「礼ならこちらの台詞だ。ありがとう、シャシャ」

 

 といって右左1回ずつ互いの頬と頬を合わせる感謝のビズをしてくれた。

 

「テオの傍にいせさてくれてありがとう。ずっといさせてね」

 

「どうしたんだ、急に。俺がシャシャを手放す訳ないだろ」

 

「言いたかっただけだからあんまり気にしないで。私、ずっとテオの傍にいたい」

 

 私みたいなのがこんなのダメなのは分かってる。

 テオと出会ってから、私は我が儘になっちゃった。

 でも、この思いだけは我慢できない。

 どうか傍に居させてください。優しい、テオ。


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