皆に愛され 覇道をゆく天才の物語 作:水戸野幸義
「パイロットスーツ着用よし!」
「パイロットスーツ着用よし!」
ISスーツと同じ機能を持つ首まで特殊な繊維で編まれたパイロットスーツを着用。
生命維持機能が問題なく正常に動作していることも確認済み。
「両隊員、EOSへ搭乗!」
号令を皮切りに人間の頭と胸に相当する部分にコクピットへと乗り込む。
【パイロットの搭乗を確認。メインシステム起動、パイロットデータの認証を開始します。認証完了。全ヴェトロニクス起動。全アクチュエータ接続。最終チェック。チェック完了】
EOS内で次々と空間投影ディスプレイが立ち上がり機体の各システムが立ち上がっていく。
「ハッチ閉鎖。戦闘モード起動」
【ハッチ閉鎖完了。システム、戦闘モード起動。身体補助システム。自動調整】
搭乗したEOS、ラファール・ダガーは搭乗パイロットの体格に合わせ、内部を自動で調整しフィットさせるオートフィット機能。転生特典から得た知識と技術の一つG3-Xに搭載されている同名のものを参考にして発展させたものをこの機体にも搭載した。
これのおかげで身長の低い大人は勿論、それこそ子供まで乗れる優れもの。
サイズ感は問題なし。他も違和感はなし。普段通り立ち上がる。
「二人とも準備はよろしいですか。それではただいまより、デュノア隊員とトマ隊長の演習を開始する」
フランス軍基地内、演習場に鳴るアナウンス。
目の前には俺が駆るラファール・ダガーと同じラファール・ダガーが立つ。
開始の時を静かに待つ。
「始め!」
合図と共に脚部ランドローラーで間合いを詰めていく。
モデルになった機体にはない兵装。
言うならば、ナイトメアのランドスピナーのようなもの。
おかげで推進剤を使うことなく地上で高速移動が出来る。
「そこだ!」
トマ隊長の反応は早く、狙いは的確だ。
流石はEOS部隊をまとめる選び抜かれた高い身体能力を持つ優秀な軍人。
だが、遅い。
「……!」
「相変わらず化け物じみた反応を! くっ……!」
弾の軌道を読み、回避行動で間合いを作りながら、牽制の射撃。
反射的にトマ隊長はシールドで防ごうとしたがアサルトライフルから放った演習弾は、トマ隊長の機体と盾に全弾ヒット。
【敵機ダメージ、小破レベル。演習続行を確認】
AIの報告が聞こえる。
半分当たって、半分防がれた。
やるな。なら、更にギアを上げていく。
交差機動しながら間合い詰める。
「はぁっ!」
「っ……! なっ!? 回避先を読んだか!」
その言葉通り、トマ隊長の回避先にアサルトライフルを放った。
ヒット。じわじわと削っていく。
「まだまだ!」
当然反撃も来たが、左手に持つシールドで対処。
「なら!」
「ン……」
腰の後ろにアサルトライフルをマウントするとトマ隊長は、機体背部に設置された近接戦用伸縮式ロッドを抜いた。
近接戦で一気に勝負をかける気だな。
「いいでしょう、隊長。付き合います!」
「いい心意気だ! 行かせてもらう!」
こちらも同じくロッドを抜き、トマ隊長に応じる。
ランドローラーの出力を全開にし、トマ隊長が側面から攻め込んでくる。
「ふッ」
振り落とされるロッドをシールドで防ぐ。
伝わってくる衝撃と押し崩そうと力を前に働く重み。
衝突音を響かせながら、押してくる。
大人と子供、力では勝てない。だからこそ、受け流し利用する。
「ハァァ――!」
「くっ……!」
俺からの反撃の一打。
すかさず受け止められるが、予想通り。
次の先手をトマ隊長が取って来てロッドを振るい。
「蝶のように舞い!」
俺はそれを紙一重で避け。
「蜂のように刺す!」
強く一打。
「ぐぁっ!」
【敵機ダメージ、大破レベル。敵機撃破と想定。演習の終了を確認】
AIの報告が聞こえた。
決まった。
「そこまで! ただいまの演習、デュノア隊員の勝利!」
終わりを告げる号令。
「システム、通常モード。ハッチ解放」
【システム、通常モードに移行。ハッチ解放】
機体を解くと外へと出る。
すると、同じようにトマ隊長が外へと出てきていた。
「隊長、演習ありがとうございました」
「こちらこそありがとう、テオドール君。本気で挑んだのだが負けてしまったな。やはり、デュノア家屈指の天才児! 子供ながら精鋭以上の強さ! 恐れ入れる!」
「何をおっしゃいます、隊長。隊長、そしてこの部隊のおかげで自分は強くなることができ、成長できました。隊長と部隊の皆さんのおかげです」
懇意にさせてもらっているフランスEOS部隊での訓練に参加し、この模擬戦は訓練の一環。
子供が軍の訓練に参加するなんて本来はありえないことだが、そこはデュノアの力を存分に使わせてもらった。
子供故に最初は赤ん坊扱いだったが、実力を見せてしまえば一端の軍人扱いしてもらえたのは運がよかった。おかげで本場の訓練を受けられ、EOSを使う現場の生の声を直接聞けた実りある訓練だった。
転生特典があるとは言え、俺はまだまだ子供。能力と体感、感覚のズレはある。それを合わすためにもこの訓練は凄く役に立った。転生特典、天賦の才があろとそれを伸ばそうとしなければ、ないとの一緒だからな。
「テオドールが帰っちまうのは寂しいな」
「そうだな。最初はガキが来たってビックリだったが、お前はもう立派な部隊の一員だ。たまには顔出しに来い! またビシバシしごいてやるからよ!」
いつの間にか隊員の皆が集まって来てそんな声をかけてくれる。
今日は短期の訓練期間を終え、部隊を後にする最終日。
この演習は卒業式みたいなもの。
「はい、また顔を出しに来ます。皆さん、本当にありがとうございました。隊長は勿論、部隊員の皆さん、この部隊のことは軍上層部を始め、フランス政府各所にとてもよく言っておきます」
「それは非常に助かる。ISの登場で世界は混迷し、早くも戦場の世界の主役はISだ。我々がEOS試験部隊とは言え、男の立場は弱まりつつある。君のような若者が、若い男がいてくれるのは同じ男として頼もしい限りだ。テオドール君、君は希望の星。これからの活躍も楽しみにしている」
トマ隊長の言葉に他の部隊員が力強く頷く。
ISの登場で世界は大きく変わり、その一番煽りを受けたのは軍。特に現場だ。
ISは絶対数は勿論、現場で実際に活躍する稼働数は既存の兵器と比べ圧倒的に少ないが、数をものともしない圧倒的な力がある。
何より、ISは既存兵器と比べて圧倒的に製造コスト、運用コストがいい。
だからこそ、容易に世界の抑止力となり替われた。
そうしたことがあり、ISに乗れる女性の立場は相対的に上がり、男性の立場は相対的に下がった。
既存の兵器達が現場から消えることはないが、それでも予算削減などマイナスの面が目立ちつつある。
だからこそ、我が社がEOSがISの対として今みたいに運用されている事実もまたあるのだが。
「それでは皆で送り出そう。全員整列!」
トマ隊長の一声で全員が横一列に整列する。
「デュノア隊員に敬礼!」
トマ隊長を初め全員に敬礼をされ、俺からも敬礼を返した。
挨拶をすませ荷物を持ち部隊隊舎を去った後。
迎えの車が来るまでの時間、ISのピットの様子を見学させてもらっていた。
「ラファール1番機、着陸確認!」
「乗り換え、作業開始!」
出撃していたラファールがピットに帰ってくると展開待機状態にして一度降りる。
するとすぐ近くには2号機と呼ばれた、同じく展開待機状態のラファールが自動で動く台車に乗せられやってきた。
「ISコアの摘出を確認。2番機へ搭載。チェックよし、搭載完了!」
1番機と呼ばれた展開待機状態の機体からISコアを抜き出したかと思えばなんと2号機と呼ばれる機体にISコアを搭載した。
驚くべき光景。この光景は今まで何度見たことがあるが何度見ても驚きの光景だ。
ISコアの数に限りがあるため、新型機体を建造する場合は既存の機体を解体し、コアを初期化しなくてはいけないが、同じ機体同士ならばコアを移し替えることが出来る。出撃可能状態の機体さえ用意していれば、コアを移し替えるだけで調整後すぐ出撃できる。
ただしこの場合、初期化・最適化、それに類する機能をオフにしなければならならない。
またコアと機体には相性があり、たまに入れ替えが上手くできず、他の機体を用意しなければならなったりする。
「システムオールクリア! 問題なし! いつでも出撃可能です!」
「こちらでも異常は認められず! 出撃どうぞ!」
「了解! 2番機出ます!」
コアの入れ替え、それから調整とチェックは上手くいったようだ。
2番機と呼ばれた機体はピットから出撃していった。
この一連の作業、何だかF1のタイヤ交換作業を彷彿とさせられる。
「ここに居ましたか。デュノアさん。お迎えが来られました」
「すみません。ありがとうございます」
最後にいいものも見れた。
いい訓練期間だった。
◇◆◇◆
それは軍での短期訓練を終えて一ヶ月ほど経った時のことだった。
「テオ、シャルロットちゃん! 皆で旅行に行くわよ!」
突然、母上がやってきたと思ったら、急なことを言い出す。
一緒にいたシャルロットは突然のことに声を失うほど驚いている。
「どうしたんたですか、母上。急に旅行だなんて」
「最近、一緒の時間過ごせてないな~と思って。テオ、この間まで軍隊なんかに行っちゃってたし、帰って来てからも学校とお稽古とお仕事ばっかりでしょ」
そんな拗ねたような顔をされても。
まあ、母上が言ってることは当たらずとも遠からずだ。短期訓練に行く前と帰って来てくる前では母上と過ごす時間が減った気はする。
「でも、相変わらずシャルロットちゃんにお熱だものお母さん寂しい」
「えっ……あの、その……」
「気にするなシャシャ。母上流の軽いジョークだ。まあ、いいでしょう。特に大事な用はありませんし……皆っていうのは父上とかも?」
「いいえ。誘ったのだけどサンソンは忙しいみたいだから無理みたいね……皆って言うのはテオ、シャルロットちゃん、私、イリス。それからロゼンダよ」
「えっ……?」
シャルロットと同じセリフが重なる。
まさかの叔母殿。
このメンツの中に叔母殿って……母上に考えあってのことだとは思うが。
「何故、叔母殿を」
「いつまでも冷戦状態って訳にもいかないじゃない? 長い付き合いにもなるわけだし、荒療治ではあるけど普段の生活を忘れて旅行でもすれば少しは何かあるんじゃないかと思って。ちなみにイリスもロゼンダも一緒に旅行行くの納得してくれたわ」
「マジですか……」
流石は母上。というべきなんだろうか、これは。
決まりってことか。
「でも、現地での警護とかはどのように……」
「心配無用よ。テオが心配してる諸々のことは私の知人がその道のプロだから大丈夫」
ならひとまず安心か。
「で……旅先は?」
「日本よ!」
機体名:ラファール・ダガー
【武装】
アサルトライフル
近接戦用伸縮式ロッド
シールド
ランドローラー
【機体解説】
国連製EOSの流れを汲むデュノア社製EOS。見た目はストライクダガー。
国連製EOSを見直し、欠点を全て克服したパワードスーツ。
今はまだ陸上用なため単独では飛べず、今一つ拡張性が乏しい。
費用対効果は絶大だが高くつくのが課題の一つ。