皆に愛され 覇道をゆく天才の物語   作:水戸野幸義

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STORY6 覇者と更識姉妹

「日本か……」

 

 宿泊するホテルの一室から見える外の景色。

 俺が前いたのはこの世界ではないのに、不思議と懐かしさを呼び起こされる日本の街並み。

 まさかこんな早く日本に来るなんて思ってもなかった。早くても日本で開催されるだろう第二回モンド・グロッソの頃だと考えていた。

 予定よりも早く来ることになってしまったが、まあいいだろう。予定が早まったのなら、それ相応の動きをするまでだ。

 それに今日は――。

 

「テオ」

 

「ン……シャシャか」

 

 景色を眺めているとシャルロットがやってきた。

 最近、よく着ている屋敷のメイド服やよく見る私服ではなく、初めて見る外行きの洋服。

 

「可愛いな。似合っているぞ」

 

「あ、ありがとうっ……じゃ、じゃなくてっ」

 

「分かっている。母上達の準備が出来たのだろう? 行こうか」

 

「うんっ」

 

 部屋を後にして、母上達と合流し、用意された車へと乗る。

 向かうは宿泊するホテルとその警備を手配してくれた者達の家。挨拶をしに行く。

 家の名は更識。あの更識だ。調査済みだから間違いない。

 

「母上、更識家とはどういった関係で……?」

 

「お友達なの。櫛奈(くしな)、更識の奥様とは。私、学生時代に日本へ留学したことがあって、その時知り合って友達になってからの付き合いなの」

 

「なるほど」

 

 学生時代に母上が日本へ留学したというのは知っている。

 日本のことよく聞かされていた。だからこその今回の旅行先なのだろう。

 こんなところで更識と繋がりがあったなんて……何があるのか分からんし、母上の交流には驚かされる。

 

「そう言えば、櫛奈の子供がテオとシャルロットちゃんと同い年ぐらいのようね」

 

「へ、へぇー……」

 

 とシャルロットが隣で相槌を打つ。

 更識の子供……そういうことなんだろう。

 早い出会いにはなったが、その分楽しみは増す。待ち遠しい。

 

「……っ」

 

 ふと相槌を打ったシャルロットに目をやると両肩を竦めて気まずそうにしている。

 傍らにはイリスさんと叔母殿の姿が。二人も一緒に挨拶をしに行く。

 シャルロットは二人の仲や様子を気にしているが、心配するほどではない。

 思ったよりも仲良くやっているようだし、いつまでも冷戦状態ではいられないとお互い理解はしている様子。

 何より、母上とイリスさんと叔母殿の三人は同じ部屋。今よりも仲が悪くなるようなことはそうだろう。

 

「……着いたようね」

 

 叔母殿の言葉と共に後部座席の扉が開いた。

 降りてみると見えたのは大きな洋風の屋敷。

 そして、出迎える更識の使用人達。

 

「お待ちしておりました、デュノア様。さあどうぞ、中へ」

 

 案内され屋敷の中へと踏み入れる。

 すると中では外よりも多くの使用人が出迎えてくれ、その中央では……。

 

「ようこそ! いらっしゃい、マリー! 久しぶり!」

 

「久しぶり! 櫛奈!」

 

 顔を合わせるなり、ハグをし合う母上達。

 仲の良さが伺える。

 そして、すぐ傍には二人の女の子が。

 

「お部屋へ案内するわ。積もる話は腰を落ち着けてからゆっくりとねっ」

 

「ええっ、そうね」

 

 

◇◆◇◆

 

 

 客間に通されるとまずは自己紹介。

 先に大人同士の自己紹介が終わると次は子供、俺達の番。

 まずは俺から自己紹介をした。

 

「お世話になりますテオドール・デュノアです。よろしくお願いします」

 

 会釈するように軽く頭を下げ、自己紹介をした。

 本来ならもっとそれ相応の紹介の仕方があるが、今はそういう感じでもない。簡単なものでいいだろう。

 

「シャルロット、次だ」

 

「うんっ。えと、お世話になりますシャルロット・ベルナールです。よろしくお願いします」

 

 俺の真似をしながら頭を下げ、シャルロットも自己紹介をした。

 上出来だろう。

 次は更識の番。

 

「初めまして更識楯無です。よろしくお願いします」

 

 目の前で彼女は柔和な笑みを浮かべて自己紹介した。

 楯無……この頃からもうその名前を名乗っていたのか。

 こうして原作キャラの幼い頃を見るがシャルロットと初めて会った時よりも印象のズレはパッと見感じない。

 このままあの楯無になったんだろうと想像が付く。それは妹の方もまた同じ。

 

「ほら、簪ちゃんも挨拶して。最後だけど頑張って!」

 

「うん……更識簪、です……よろしく、お願いします……」

 

 ゆっくりと自己紹介をした。

 暗い表情。自分の自信がないのが伺える。

 この頃からもうこんな感じだったのか……それに眼鏡。あの頃は眼鏡型のディスプレイだったからおそらくこれは伊達眼鏡か。黒縁の眼鏡をかけている。

 

「ふふふっ」

 

 楯無はこちらを見つめ、ニコニコと笑っている。

 一見するとまるで会えたことを喜んでいるかのよう。しかし、その実品定めされているかのような気分だ。

 デュノアの名を知らないわけではないだろうし、更識の家は暗部、対暗部の家だからこう見られるのは仕方ない。

 見られて減るものではない。存分に見るといい、このテオドール・デュノアを!

 むしろ、こちらから見返してやるまで。

 

「ふふふっ」

 

「はははっ」

 

「あら、もう仲良くなったわね」

 

 楯無と笑みの応酬を交わしていると母上がそんなことを言ってきた。

 仲良く……笑いあっていたらそうも見えるか。

 

「はい。何だか気が合うみたいで……私、もっと彼と仲良くなりたいです。ですのでお母様方、別室のほうで私達子供だけにしてもらえませんか?」

 

「それもそうね。マリーもいいかしら?」

 

「もちろんよ。テオ、二人と仲良くね」

 

「はい」

 

「じゃあ、別室の用意をお願い」

 

「はい、かしこまりました奥様。ご案内します、こちらへ」

 

 楯無の母親が使用人に指示し、使用人に連れられ別室に行くことになった。

 まあ、いいだろう。

 楯無の言葉に含みを感じなくはないが、ここで更識家と俺個人としても仲良くなるのはやぶさかではない。

 俺個人として将来的には勿論のこと、デュノア家としても損にはならないだろう。

 

「お嬢様、お茶とお菓子お持ちしました」

 

「お待ちしました~」

 

 別室である和室に案内されると入れ替わりで別の使用人が入って来た。

 大人の使用人ではなく、同い年と思わしき幼い女の子の使用人が二人。

 一人はお茶とお菓子が乗ったお盆を持った大人びた印象の眼鏡をかけた女の子。もう一人はその彼女の後ろをついていく、のんびりとした印象の女の子。

 もしかしなくてももしかして、あの二人か。

 

「気になるの? 紹介するわね、この子は私の専属従者の布仏虚ちゃんよ」

 

「初めまして布仏虚です。よろしくお願いします、デュノア様。そしてこちらが」

 

「妹の布仏本音です~私は簪お嬢様専属の従者やってますっ! よろしくお願いします~」

 

 二人も印象は変わってない。

 姿こそは幼いが知っている印象のままなのは楯無達同様ある意味では安心する。

 

「はい、よろしくお願いします。テオドール・デュノアです」

 

「ふふっ、会えて嬉しいわ。ね、簪ちゃん」

 

「……うん……」

 

 嬉しそうな顔をしている更識と渋々といった感じで頷く簪。

 対照的だな。

 

「貴方の話はとてもよく耳にしてるわ。とてもね、天才テオドール・デュノア」

 

「それは光栄なことです」

 

 詳しいことまで知っていると言わんばかりの口ぶり。

 知られて困るようなことは何一つない。むしろ、それだけ更識家に注目されているというのは光栄だ。

 でなければ、こんな言い方はしないだろうし、そもそもこのような場を設けはしないだろう。

 

「歳近いんだから敬語はいらないわ。それにお友達になりたいってのは本当よ」

 

「ならお言葉に甘えよう。俺としても日本人の友人が出来るのは歓迎だ。ぜひとも友人に……俺のことはテオでいい。親しい者はそう呼んでる」

 

「じゃあ、テオと呼ばせてもらうわ。私のことは楯無と呼んでね」

 

「ああ、よろしく。楯無」

 

 変な駆け引きじみたことはここまで。

 ここからは友人として話していくか。

 

「そうだ、日本のオススメスポットがあれば教えてくれないか?」

 

「オススメスポット? そうね……」

 

 まずは手近な話題を出して、そこから話を広げていく。

 オススメスポットから食べ物の話、好きな食べ物や好きなこと、趣味の話などたくさん広がった。

 

「それって恋愛小説でしょう? テオって見かけによらずそういう趣味があったのね」

 

「含みのある言い方をするな。シャシャ、シャルロットが勧めてくれたから読んだまでのことだ。むしろ、楯無が知っていたことのほうが驚きだ」

 

「もう、失礼しちゃうわ。私だって花の乙女ですもの。恋愛小説ぐらい嗜むわ。それにそのお話は世界的に有名だからね。シャルロットちゃん、恋愛小説が好きな感じだけど他にオススメのとかある?」

 

「は、はいっ。えとっ……」

 

 といった感じでシャルロットを交えながら楯無と話す。

 もっぱら話しているのは俺と楯無でそこにシャルロットが頑張って入って話すといった状況。

 従者の二人は従者に徹しているからか聞き役で楯無の妹、簪は話に入ってこない。話を振られれば答えるが返事がいつも短い。ただじっとしている。話に入る気は更々ないのだろう。

 まあ、俺は簪の性格は知っているし、楯無は楯無で気にはかけているみたいだが咎めることはなく話を続けてくれる。

 

「ふふっ、楽しいわね」

 

 更識がふいに楽しそうに微笑む。

 

「それは何よりだ。こちらとしても日本人から日本のオススメスポットやオススメ料理を聞けて良かった。てんぷらの話が一番面白かった」

 

「そうだね。楯無さんが教えてくれたお店のてんぷら、食べてみたい」

 

「ぜひ食べてみて。友達がいないわけじゃないけど、こうやって遠慮なく話せるのはいいわね。何より、テオ……貴方とってもおもしろい。好きになっちゃいそう」

 

「えっ!?」

 

 楯無が俺を見つめながら言うものだから、シャルロットが真に受けてるではないか。

 

「落ち着け、シャシャ。質の悪いただの冗談だ」

 

「え……?」

 

「あら、つれない。好きなのは本当よ? もちろん、お友達として。シャルロットちゃんのことも好きよ、ふふふっ」

 

「う、うん……」

 

 人を喰ったように笑う楽し気な笑み。

 いい性格してるな、まったく。

 

「あ、そうそう。忘れるところだった。友情の証として連絡先、交換しましょう。テオとシャルロットちゃんとは長い付き合いになりそうなわけだし。簪ちゃんも一緒に」

 

「え、わ、私は……」

 

「折角だからね」

 

「……はい」

 

 渋々といった様子だがまあ仕方ない。

 更識姉妹と知り合えて友達にもなれ、こうして連絡先も交換することが出来た。

 早々に実りある来日となったな。


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